青空。キミを見つけた。
渇いたココロは、渇いたまま。
飢えたココロは、飢えたまま。
誰か、ココロを、満たして…。
もう鳥籠の中に閉じ込められているのは、嫌。
自由にナリタイ──…。
籠ノ鳥
「おはよう、グール」
私の朝は、ハリネズミへのモーニングコールから始まる。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう」
「御洋服と御髪を整えさせていただきますね」
「ありがとう」
メイドに服と髪を整えさせ、私はグールを掌で撫でる。
少し臆病なハリネズミに、この空間は非常に居心地が良いらしい。
あまり懐かないと言われているが、懐いてくれていると思う。
「お嬢様、お肌の調子がお悪いですね。昨夜は良く寝られましたか?」
「…ごめんなさい、勉強をしてたの」
「左様でございますか。でも、良くお眠りにならないと。夜更かしは肌荒れの原因ですよ?」
「そうですよ。お嬢様は可愛らしいんですから、お肌を大事になさらないと…」
「…そうね。ごめんなさい。これからは気をつけるわ」
面倒臭いから、私は思ってもない、この人達の望む応えを口にする。
「お嬢様、朝食の御用意が済んでいます」
執事がやってきて、朝食を促す。
「今行くわ」
広いお家。
広いお部屋。
何十人もいる執事とメイド。
それなのに、私の居場所は存在しない。
冷たい食事を、1人で食べる。
これもずっとだったから慣れていることだ。
「本日のお迎えは何時頃でしょうか?」
「え?」
「本日は部活がおありなんですよね?」
「あぁ…」
この人達の頭の中に、“歩いて帰らせる”という選択肢は無い。
「それじゃあ、18:30にお願いできる?」
「かしこまりました」
「ごちそうさま。支度してくるわ」
「玄関でお待ちしています」
「えぇ」
部屋に戻り、グールをゲージから取り出す。
「グール…」
傷付いた心を、グールだけは癒してくれる。
彼は、私の親友…家族…
到底言葉に表せない、それ以上の関係だった。
「行ってくるね」
そして彼に勇気を貰った私は、戦場へと足を踏み出す。
「ねぇ見て、李花様よ…」
「いつ見ても素敵~!」
「ほんと!長い髪の毛は亜麻色で、二重で彫りが深くて、お肌は真っ白で…」
「まるでフランス人形みたい!」
「ほんとね!」
ここは一応、どこかの社長令嬢等が多く通う、私立女子校のはずなのだが…
そんな者達が、私を見て騒いでいる。
それほどまでに、私…西園寺李花の美貌は凄まじいらしい。
「あっ…」
風が吹く。
目の前で、手に持っていたプリントを全て飛ばされている眼鏡の女の子。
一年生だろうか?
目の前に落ちてきたので、拾い集める。
「どうぞ」
「あっ、ご親切にありがとうございま…、り、李花さ…さ、西園寺様…!!?」
私の顔を見て、顔面蒼白になる彼女。
「も、申し訳ありませんっ!!西園寺様にこのような…っ!!」
「いいのよ、気にしないで。目の前に飛んできたから」
「ごめんなさいごめんなさいっ!!」
「これで最後?」
「はい…っ!本当にごめんなさい…!」
「気にしないでって言ったでしょう?気をつけてね」
「はいっ…!申し訳ありませんでした…!」
誰もが皆、同じ反応をする。
少し肩がぶつかっただけで、落とし物を拾い渡しただけで、隣の席になっただけで、
皆顔面蒼白になり、目には涙を溜めて「ごめんなさい」と繰り返す。
私の家は、世界に広く浸透している化粧品会社、西園寺グループ。
トップは私の母、西園寺杏華(きょうか)。
父はいない。
西園寺杏華の娘というだけで、私は周りの人達から特別扱い。
彼氏どころか、友達すらいない。
私は──…。
放課後。
私は袴に身を包み、矢と弓を握る。
弓道場に入ると、何だか、雑念が全て無くなる気がするから、弓道部に入った。
勿論、メイドや執事には止められたが…。
私のことに無関心な母は、結果さえ出せば何をしても大抵は許してくれる。
一礼し、構える。
良い音を響かせて射た矢は、見事に的の真ん中を捕らえていた。
部活と言っても、誰も私に関わらないから、私は自分勝手にやっている。
どこにも居場所なんか無いと、改めて自覚させられる瞬間の一つだ。
丁度、ランニングが終わった部員達が戻ってきた。
私はいつも先に一人で済ませてしまう。
「い、行きますか…?」という窺うような顔色が苦手だから。
とっとと弓道場に行き、射て、帰る。
充実してはいた。
しかし、やはり何か違うような気がして。
でも、誰にもこんなこと聞けない。
私は、独りだから。
「グールっ」
部屋に戻り声をかけると…いやそれよりも早く私の匂いを嗅ぎつけたグールは、キュウ、と鳴いて顔を出す。
「グール…私もうどうすればいいかわかんないや…」
グールをゲージから出し、優しく掌で撫でながら愚痴をこぼす。
「そろそろご飯の時間かな…」
独りで食卓に座り、独りで食べる。
もう、慣れっこのはずなのに。
「でもグール…」
どうすれば、普通の女の子と同じような幸せを得られる?
どうすれば、この苦しみから解放される?
どうすれば──…自由になれる?
どうすれば…。
「っと…わぁぁぁーーーー!!」
突然、外から叫び声が聞こえる。
あまりに大きい声だったからグールは驚き警戒して、針を立てる。
「誰かしら…聞いたこと無い声だったわ…」
グールをケージに戻し、上着を羽織って、部屋を飛び出した。
「お嬢様!?」
私が駆けつけた時には、既に執事やメイドがいた。
「何があったの?」
「お嬢様!こんな時間にお外に出られてはお身体に…」
「病気じゃないから大丈夫よ。それより、何があったのか聞いてるの」
肩をすくめるメイド達。
主君の命令には背けないのが下の者。
普段はあまりこういったことはしないが、どうしても何があったのか聞きたかった。
『胸が、ザワザワする…』
今までに感じたことのない、胸のざわめき。
『何…?どうして…』
「あっ、貴女が“李花お嬢様”ですか?」
──時が、止まったような気がした。
「こらっ、お嬢様に無礼な!!」
「そのような格好で…!お嬢様に近付くなど」
「いい、許す。…続けなさい」
「初めまして、李花お嬢様。庭師として今日から雇われました、江藤翼と申します。よろしくお願いします!」
笑顔が、印象的な人。
これが第一印象だった。
「…西園寺李花よ。私、庭が大好きなの」
「そうですか。それならなおさら頑張らないとなっ」
私と違って、キラキラ眩しい、自由な人。
ただそれだけ。
別に何も変わらない。
だって──
──私には、婚約者がいる。
想ウ鳥
翌朝。
昨夜の彼が気になって、庭に出てみる。
夏で日が昇るのが早いのもあり、6:00でももうだいぶ明るい。
『あ、そういえば庭師さんが倒れちゃったんだっけ…』
だから、あの庭師──江藤翼が代わりに来たのか。
『さすがにいないわよね』
思い切り伸びをして気付いた。
「…あら?」
『ここ、こんな形だったかしら…』
「そこ、昨日の夜に切ったんです」
「わっ…!え、江藤翼!?」
「お、覚えててくれてたんですか~?嬉しいなぁ」
「何でこんな時間に…」
「それはこっちのセリフです」
「わっ」
『上着…』
「夏と言っても、まだ朝は冷えますよ。汗臭いかもですけど、我慢して着てて下さい」
「…臭いわね」
「だからそう言ってるじゃないですか!」
「フフッ…冗談よ。ありがとう」
「…笑った顔、初めて見た」
「え」
「笑ってる方が可愛いですよ」
「なっ…!!」
高鳴るな、私の心臓。
「お嬢様?」
「…李花、でいいわよ」
──止まれ。
「えっ、さすがに呼び捨てはちょっと…」
「名前がいい」
────止まれ。
「じゃあ…李花様?」
「…えぇ」
でないと、私は……
「何だか照れるなぁ。そしたら、僕のことは“翼”でいいですよ」
「…翼…」
きっと、貴方に――…
「李花」
翼との会話に飲み込まれすぎていて、突然の来訪者に気付かなかった。
今一番、会いたくなかった人…。
「…麗、様」
「久しぶりだな。元気だったか?」
「はい。麗様もお元気そうで、何よりですわ」
「こんな時間に申し訳ない。仕事前に李花の顔をどうしても見たくなってな」
「あら、麗様にそんな風に言っていただけるなんて、光栄です」
「李花様、」
「──“李花様”?お前のような者が李花の名を口にするなど…」
「良いのです麗様、許して差し上げて?」
私がお願いしたのに偉そうでごめんなさい、と心の中で翼に謝る。
「…まぁいい。李花、俺の予定が空いてる時にまたどこかで食事でもしよう。今日はそれだけ伝えに来たんだ」
「はい、勿論ですわ」
早く帰って。
「すまない、用件だけで。とにかく、お前が元気そうで安心したよ」
「ありがとうございます」
それ以上言わないで。
「また近いうちに顔を出すよ。…愛しい婚約者の顔を見たい」
止めて──。
「それじゃあこれで」
『──っ』
いつものように、少し屈み、唇を重ねる。
「愛してるよ、李花」
「…ありがとうございます。さようなら」
あの人が帰った後も暫く、沈黙が続く。
「李花様、あの方は…」
ずっと気になっていたのであろう、その問いを私に投げかける。
「…東園寺麗(トウオンジレイ)。あの人も言ってたでしょう?私の、婚約者よ」
「…そうですか」
「ごめんなさい、貴方のことを悪く言ってしまって」
「全然いいんです!気にしないで下さい」
「…ありがとう」
「さっ、お部屋にお戻り下さい」
「え」
「庭師なんかと、本来ならこんなに一緒にいるべきではありません。李花様は婚約者の方もいらっしゃいますし…」
「もっと貴方と話していたい!」
出逢って、まだ1日も経っていない。
だけど、これが恋情なのかもわからないけれど、
確かに私は彼に少なからず惹かれていた。
「…だーめーでーす。さっ、早く」
『…そうよね』
「…ごめんなさい、わがまま言って」
部屋に戻ろうと、踵を返す。
「…貴女がきっと喜ぶ、そんな庭にします!」
「…っ」
私のことを気にかけてくれた人は、初めてだった。
「ありがとう…」
だからだと思う。
自然と涙が溢れてきた理由は。
いつものように、校門に向かっていた。
『忘れ物を取りに戻ったら遅くなっちゃった…。待たせてしまっているわよね』
もっと待たせてやろうか、とも思うが無駄なのでやめる。
『それにしても、今日はやけに暗いわね…』
どんより曇り空で、気味悪い。
『早く帰りたいわ』
「…あら?」
いつもはもういるはずの迎えの車が無い。
『こういう日に限って…』
仕方なく、校門の中で待つ。
ブロロロ…と、車の音が聞こえる。
『来たかしら』
いつもの車が、目の前に停まる。
後ろのドアを開け、乗り込む準備をする。
「遅かったじゃない、早く帰りましょ──」
気が競っていた。
いつもなら、ドアを開けようと素早く出てくる運転手が、今日は出てこなかった。
いつもは運転手だけの車の中に、男が三人いた。
「──っ!!」
「もう遅いぜ、お嬢ちゃん」
気がついたときにはもう、腕を掴まれている状態だった。
「やめてっ…!!」
精一杯抵抗するも、相手は男。三人がかり。しかも戦闘のプロだ。
適うわけもなく、乱暴に車に押し込まれる。
「嫌っ…!!」
「恨むんなら自分の産まれた家を恨みな。大丈夫、襲おうとしてるわけでも殺すわけでもない。“西園寺杏華の娘”というレッテルが欲しいだけだ」
『…どうして私は…』
生まれてきたの?
家のため?
実の母親に疎まれるため?
母を恨んでいる人が、“娘”をいいように利用するため?
それなら“私”は、一体何。
“西園寺杏華の娘”でしかないの?
私は──
“西園寺李花”にはなれないの?
「──や」
「李花様っ!!」
「うわぁぁぁっ…」
三人の男が、一気に吹っ飛ぶ。
「李花様っ!!大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
「…どうして…、翼が…」
「急に運転手頼まれまして」
「…そう…」
「えっ、り、李花様?」
「あ…」
気付かぬうちに涙が出ていたみたいだ。
「ごめんなさい、見苦しいものを…。何だか安心して…っ…」
「すみません、お屋敷の方がゴタゴタしてて遅れてしまって…」
キレイな、真っ白いハンカチを貸してくれる。
「間に合って良かったです。李花様が無事で、本当に良かった…」
存在していてもいいのだと、言ってくれた人。
“私”を見てくれる人。
嬉しくて余計、涙が出た。
「さっ、もう少ししたら他の執事さんが来てくれるみたいです。帰りましょう。お疲れでしょう?」
「──えぇ」
「李花様、今日の夜ご飯はハンバーグですよぉ~!美味しかったです」
「あらそうなの、私ハンバーグ大好きなの…って、何で翼が私より先にご飯食べてるのよっ!!」
「あっ、バレた」
「貴方が自分で言ったのよ!?」
この人といると、安心する。
これが“恋情”だと、思ってもいい?
わかってる、私には婚約者がいる。
いずれ結婚させられる。
身分の違いもわかってる。
この人が、私のことなんか好きにならないことも。
でも、想うだけなら――タダでしょう?
「──で、何で貴方が今日も運転席にいるの」
「いやぁ~、昨日のことで運転手任されまして。祝・昇格ですね!これから毎日送り迎えは僕がやりますよ!」
「そ、そう。まぁ、私を安全に送り届けなさい」
『なんで“ありがとう♡”とか“嬉しい♡”とかの言葉が出てこないの私…っ!!』
頭の中でシミュレーションしてみたが、あまりにも自分が気持ち悪かったのでやめた。
「そういえば…コレ」
「はい?」
「昨日、借りたハンカチ…。返す」
「あぁ!ありがとうございます」
「それから…」
「え?」
『言わなきゃ…っ』
「あっ…あり、がと…」
「…言い慣れてない感マックスですね」
「しょうがないじゃない!…初めてなんだもの…」
「…李花様、なんかその言い方は…」
「へ?」
「何でもありません〜」
「なっ、何よ!!」
「早く帰りましょ〜!」
「それは良いのですがお嬢様、どうしていきなり…」
「いいでしょ?あの部屋、何だか嫌になってきちゃったの。庭側のお部屋の方が、目覚めもいいし。これからの季節、お庭も綺麗でしょう?」
「かしこまりました、すぐにご用意致します」
『やった!』
部屋移動の本当の理由は、庭に面した部屋なら、庭師の翼と少しでも話せると思ったからという、不純な動機である。
そして案の定、そうしたのは正解だった。
「あっ、李花様〜!」
ベランダに出ている時、目が合えば先に微笑んで手を振ってくれる。
今までに感じたことの無い、穏やかで、幸せな日々だった。
日曜日。
部屋の中で勉強をしていた。
いつもはお昼ご飯と夕ご飯の時以外滅多に来ない執事が、慌てた様子で部屋に来た。
「お、お嬢様、失礼致します」
「何?どうかしたの?」
「お母様が帰られました!」
「…え」
母が家に帰ってくるのは、約1年ぶりだ。
「そう…。すぐに行くわ」
『急なことで、心の準備がまだ…』
母とは言っても、本当に1年に1度会うか会わないかの人。
“母”という感覚は無く、“どこかの社長さん”という感じだ。
「お待たせ致しました」
「李花、久しぶりね」
「お久しぶりです」
「どう?学校は」
「変わりありません」
「そう。なら良いわ」
「今日は一体、どうなさったんですか?」
「あら。今日は貴女の誕生日じゃない」
「あ…」
すっかり忘れていた。
『でも、私の16歳の誕生日に帰ってくるなんて、絶対に何かある…』
嫌な予感は、当たるもの。
昔からそう決まっている。
「16歳になったでしょう?だから、もう結婚できる歳なのよ。麗さんを婿養子に迎えます」
「――っ!!」
「これから忙しくなるわよ?いいわね、李花――」
「嫌!!」
気付いたら、口走っていた。
「…李花?」
「あ…」
『嫌よ…私は、翼のことが――』
言おうとしたが、口を紡ぐ。
『でも、あの人は私のことは好きにならない。ここでお母様に歯向かって、私に何が残るの…?何も残らない。失うだけ…』
それなら――。
「何でもありません、勉強のし過ぎで疲れてしまったのかしら。わかっていますわ、お母様」
――仕方がない。
「ウフフ、さすが私の娘ね!じゃあ、私は仕事があるから」
嬉しそうに、自分の部屋に戻りに行く。
母の背中が見えなくなった瞬間、私は庭に走った。
「李花様っ?どうかなさいましたか?」
「翼…っ!!」
「ひとまず落ち着いて。過呼吸になってしまいます」
「翼…翼…っ!!」
「僕はここにいますよ?」
その声だけで、安心する。
「ちょっとは落ち着きました?何があったんですか…?」
「…東園寺麗と…結婚させられちゃう…!!」
「…え?」
「16歳になったから…!!結婚できる歳だからって、お母様が…っ!!」
「…」
それを言って、何がしたかったのだろう。
ただ、“結婚なんてしないで下さい”と言って欲しかった。
「…おめでとうございます」
「…え…?」
私の望む応えなど、くれるはずがないことがわかっていたのに。
「李花様、…幸せになって下さいね」
「…っ!!」
心に深く突き刺さる。
違うの。
そんなことを言って欲しかったんじゃないの。
貴方が――
「…好き」
「…え?」
「翼のことが…好きなの」
「李花様…」
肩に添えられていた手が、離れていく。
『待って…』
壊したのは私。
本当に自分勝手だと、自分でも呆れる。
「…李花様は、ちゃんと身分のあった東園寺様と御結婚なさって下さい」
「…ごめんなさいっ」
「ねぇグール…恋ってこんなにツラいものなのね…」
翼に出逢って、初めて恋の楽しさを知った。
他の誰かを大切に想える気持ちも、毎日が充実している喜びも。
それと同時に、苦しみも知ってしまった。
『こんな苦しい思いをするなら――』
“恋”なんて感情、知らなければ良かった。
あの時、あの人の所へ行かなければ。
あの時、あの人が現れていなければ。
私が、存在しなければ――。
『そうだ…』
「私がこの世にいるからいけないんだわ…」
おもむろに立ち上がり、机に向かう。
机の中には、何回も使おうと思って使えなかった――カッターナイフが入っている。
「そうよ…私が産まれていなければ…、私が存在していなければ…!!」
もう、何も苦しむことがない。
もっと早く――翼と出逢う前に気付けば良かった。
「さようなら――…」
月光に冴える、一筋の血。
流れていく。
この血が、自分は自由なのだと錯覚させる。
もっと自由になりたい。
もっと――…
「李花様っ!!何やってるんですか…やめて下さい!!」
「うるさいっ!!もういいの…私がこの世に存在する意味なんかないんだもの!!私なんて早くいなくなっちゃった方がいいのよっ!!」
「李花!!」
「…え?」
『今、“李花”って…』
「…そんな悲しいこと、言わないで下さい」
「…っ、やめて…、放して、放っておいて…!!」
「放さない!!」
「…翼…?」
「…一目見て…危ないなって思ったんです。貴女と関わったら、きっと何か、間違いが起きてしまうって。だから、深く関わらないようにしようって決めていたのに…!!」
青空。キミを見つけた。