誰も知らない物語
これは、誰も知らない物語。
たった一人の少女が生きていく、ただ一つの物語。
そして、決して終わることのない、物語。
Episode 1 The Girl
「ここはどこ……?」
私はつぶやいた。
そこは、一面草花で覆われた大地だった。
「私は、誰……?」
自らの手を見る。白くて、すべすべな肌。
見上げると、怖くなるほどの青い空。
私は立ち上がり、自分の体を見る。
普通の人間の体だ。
「女の子の、体、だよね……?」
白いワンピースに緑のひもを腰に巻いていた。
ふわりと揺れる髪に触れてみる。
「銀色だ……」
しかも、毛先に行くほど、赤色が混ざっている。
「私は、なんなんだろう」
ぎゅっとこぶしを握り、歩き始める。
どうしていいかわからぬまま、あたりを見渡しながら歩く。
「だれか……だれかいませんか?」
少しだけ大きな声を出すが、それは地平線の彼方まで続く草原に、ただ響くだけ。
「どうすればいいんだろう」
私は立ち止まって、頭の中にある情報を探った。
「私は誰なんだろう。ここはどこなんだろう」
どうしても、疑問しか浮かばなかった。
『ああ、目覚めたのですね』
そういう女性的な声が聞こえた。
「誰? どこにいるの?」
『わたしは、ずっとあなたのそばにいますよ』
「ねぇ、私は誰なの?」
『それは、あなたが決めることです。何でもなれます』
「なんにでも……?」
『わたしには、あなたを直接的に支えることはできないのです。しかし、導くことはできます。
進みなさい。さすれば、道は開けることでしょう』
「あなたの名前は?」
『わたしは……ソラ、とでも名乗っておきましょうか』
「ソラ? ここはどこなの?」
『ここは、どこでもありません。あなたが決めるべき場所です』
「私が、すべて決めなければならないの?」
『ええ。ここは、そういう場所ですから』
「歩けば、私がなんなのか、ここはどこなのか、わかるのね」
『ええ』
ソラの声をきいて、彼女は歩き出した。
誰も知らない物語