手と手を
初めて手を繋いだ事は憶えていない。
それはきっと、小さい頃からずっと一緒だったからで。
物覚えが悪い俺は、もちろんそんな時の記憶なんて持ち合わせていなかった。
そして今、最後に手を繋いだ事を思い出している。
それはきっと、今いる場所がまさにそうだったからで。
ただの買い物の帰り道。
なんとなく遠回りして。
なんとなく砂浜まで降りて。
なんとなく俺のほうから手をとって。
会話の内容までは思い出せない。
いつもどおりのどうでもいい感じだったのだろう。
少なくとも俺だけは。
その時はまだ、何も知らなかったのだから。
名残惜しさを感じつつ、俺のほうから手を離した。
あの時、ずっと繋ぎとめていれば、何かが変わったのだろうか。
変わったとしても、果たしてそれが正解だったのだろうか。
考えるだけ無駄だ。
過去は思い出すためだけに存在しているのだから。
初めて手を繋いだ事は憶えていない。
最後に手を離した事は、きっとまた忘れるだろう。
最後にさよならと言われた事、それだけは、どうか。
手と手を
繋がれている手と手を見るのが好きです。
inspired song:
木下美紗都 「手と手」