手と手を

初めて手を繋いだ事は憶えていない。

それはきっと、小さい頃からずっと一緒だったからで。

物覚えが悪い俺は、もちろんそんな時の記憶なんて持ち合わせていなかった。

そして今、最後に手を繋いだ事を思い出している。

それはきっと、今いる場所がまさにそうだったからで。

ただの買い物の帰り道。

なんとなく遠回りして。

なんとなく砂浜まで降りて。

なんとなく俺のほうから手をとって。


会話の内容までは思い出せない。
いつもどおりのどうでもいい感じだったのだろう。
少なくとも俺だけは。

その時はまだ、何も知らなかったのだから。


名残惜しさを感じつつ、俺のほうから手を離した。


あの時、ずっと繋ぎとめていれば、何かが変わったのだろうか。

変わったとしても、果たしてそれが正解だったのだろうか。

考えるだけ無駄だ。

過去は思い出すためだけに存在しているのだから。
 
 
 
 
 
初めて手を繋いだ事は憶えていない。

最後に手を離した事は、きっとまた忘れるだろう。

最後にさよならと言われた事、それだけは、どうか。

手と手を

繋がれている手と手を見るのが好きです。

inspired song:
木下美紗都 「手と手」

手と手を

掌編です。 以前pixivに投稿したものを転載。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-20

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