EVERYDAYEVERYNIGHTINEEDYOU!

気がついたら走っていた。





疲れをひきずったままだったから既に足が重かったりとか。
スカートの下スパッツのままでよかったとか。
バイト中押しかけても大丈夫なのだろうかとか。
今日の夕暮れはとてもキレイだったりとか。
頭に浮かんではすぐに消える。
正直、それどころではい。



女子100m走。
夏の地区大会の代表に、私は初めて選ばれたのだった。
自分の走りが遂に認められたのだ。



嬉しい。本当に嬉しい。
だから、いてもたってもいられずに走っている・・・というわけではない。
もちろんそれもあるんだろうけど。

最初に思い浮かんだのは彼の顔。
伝えなくちゃいけないと思った。
いや、伝えたいと思った。一刻も早く。
走ってるところがかっこいいと言ってくれた彼に。
走ってるところが好きだと言ってくれたアイツに。

体が軽くなる。自然と速度が上がる。
タイムさえ計っていれば、これは最高記録を叩き出せたのではないだろうか。
こんな走りを大会当日にできればいいな、と思っては、すぐに消える。
それどころではないのたった。
 
 
駅前。
さすがに人が多くなってきたので足を止める。
途端、一気に重力が増す。

足がガクガク。
全身汗だく。
息が荒い。
鼓動が早い。

こんなになるまで走ってたなんて・・・我ながら呆れる。
最近、彼の事になるといつもそう。抑えられない。

さすがにこんな姿じゃ会えない。落ち着かないと。
バイト先のコンビ二まで、後、大体100m。
いつもなら全速力で走る距離を、ゆっくり、ゆっくりと歩く。


呼吸が整い、だんだん心に余裕が生まれてきた。
歩きながら思うは、やっぱり彼のこと。

彼は喜んでくれるかな。
彼は応援してくれるかな。

本番にあまり強くない私は、彼がいる時といない時とで、
結果に差が出てくる事を自覚している。全く、情けない話だけれど。

夢の晴れ舞台。
最高の走りがしたいし、最高の走りを見せたい。
そのためにも、大会には絶対に来てほしい。そばで応援してほしい。
 
 
 
・・・いや、違う。
本当は、今すぐにでも会いに来てほしい。
いつだってどこでだって、そばにいてほしいのだ。
でなければ、どうにかなってしまいそうで。
それほどまでに、彼は私の中で大きな存在になっていた。

早く会いたい。
早く会って、伝えたい。
いますぐあわなきゃ。
いますぐあってつたえなきゃ。
 
 
あと数歩で、コンビニに着く。
あと少しで、ゴール。

疲れはとれている。はずなのに。
息がくるしい。くらくらする。

これじゃ、ダメ。落ち着かないと。

胸元に手を当て、目を閉じ、深呼吸。
 
 
 
落ち着け、私。
なんのためにここまで歩いてきたの。
こんな姿で行っても働いてる彼に迷惑がかかるだけ。
第一、こんなところ見られたら恥ずかしいのは自分でしょ。
彼はきっと喜んでくれる。きっと応援してくれる。
だって彼は、私が走ってるところを見て好きになってくれたんじゃない。
そんな彼を信じれなくてどうするのよ、全く。我ながら呆れるわ。
大丈夫。きっと大丈夫だから。
だから、落ち着け、私。
 
 
 
自分自身にひとしきり叱咤激励を浴びせかけ、ゆっくりと、目を開く。
 
 
 
ああ、ここから見える夕焼けもとてもキレイだ。
彼と一緒に見られないのが、ちょっと残念だけれど。

よし、大丈夫。いつも通りの自分だ。
まだドキドキするけれど、きっとうまくいく。
 
 
 
そういえば。
自分ではした事がないけれど、
告白する時って、こんな感じなのだろうか。
彼もあの時、こんな気持ちだったのだろうか。
 
 
 
こんなこと考えてしまうだなんて。
なんだかおかしくて笑ってしまう。
彼には申し訳ないけれど。

もうごちゃごちゃ考えてないで、
さっさと会いにいこう。
さっさと伝えにいこう。

随分と時間がかかっちゃったけど
早くゴールしなくちゃ。
 
 
 
こうして。
ようやく私は、彼の働いているコンビニへと、足を踏み出したのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
自動ドアが開く。
売り場に出ている彼を見た、瞬間。


気がついたら、抱きついてしまっていた。

EVERYDAYEVERYNIGHTINEEDYOU!

inspired song:
THE JERRY LEE PHANTOM 『EVERYDAYEVERYNIGHTINEEDYOU!』

EVERYDAYEVERYNIGHTINEEDYOU!

掌編です。女の子が走るお話。 以前pixivに掲載したものを転載。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-20

Copyrighted
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