成沢探偵団
探偵に頼る人々の話です
少年
トイレへと駆け込んだ。でもこれも一時しのぎにしかならない。奴らはどこへでも追いかけてくるからだ。あいつらに目をつけられてしまったらもう逃げる場所なんてない。そんなものは存在しない。
ただ耐えるだけだ。耐えて耐えて耐え続けるだけ。
「おい、どこにいるんだ」
「あ、あそこが閉まっている、きっとあそこだ」
トイレの中で声がこだました。ほらみろ、やっぱり。あいつらはすぐにやってくるんだ。獲物を逃さないオオカミみたいに。
「ほら、出てこいよ」
戸をどんどん叩く。頭を抱えて座り込んだ。頼むから見逃してくれ。もう勘弁だ。もう、もういいだろ。
なのに戸をたたく音はどんどん大きくなる。どん、どん、どん、どん
「何、おまえら何してんの」
聞き慣れない声がした。
「入ってる人いるんだろ? 何してんだよ」
これは。そうだ、先生の声だ。湯秋先生の声だ。
「いや、なんでもないです」
奴らはトイレから退散していった。助かった。
「中にいるの、大丈夫か?」
「……大丈夫です」
情けないほど細い声が出た。
「ちょっと出たら話をしよう。気になるんだ」
トイレから出ると湯秋先生が心配そうな顔をして立っていた。
「ごめんな、ますますひどくなっているだろう。先生方の指導の仕方が悪いんだ。ごめんな」
先生方はいじめの事を知って、奴らに何度か指導をしてくれたようだ。だけど奴らはそんなことでは僕への攻撃をやめない。そんなことでやめるようなやつらじゃないんだ。
「先生、気になることってなんですか?」
「ああ、それな。実はいじめのことじゃなくてな、おまえの家のことなんだ」
「家?」
「さっき不審な電話があった。おまえの姉だと名乗っていた。おまえを殺すため、もうすぐで町に戻るって。そう伝えてくれって。これは、警察に届けたほうがいいのかな?」
姉?
姉だと?
「先生、僕の姉は……」
僕の姉は数年前に行方をくらました。ちょうど大学受験の年だった。
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