プレゼント

もうすぐクリスマスですね。
この季節にぴったりの作品を書きました。(果たして書けているかは不明ですが)
しかし、書いたつもりです。
どうぞお楽しみください。

白い吐息が漏れる季節。
ダニエルはおもちゃ屋さんのショウウィンドウを眺めていた。
ここへ来るのは学校が終わってからということもあり、少し薄暗い。
ひと月ほど前にそこに置かれた、キャプテン・アメリカのフィギュアは、クラス一のマドンナ、エリエルのように彼の心を射止めていた。
彼は学校で虐められている。
彼を助ける者はなく、彼が心底愛してやまないエリエルにすら軽蔑の眼差しを向けられる。
勉強はできるから頭は良いが、少しくらい馬鹿でも男らしいほうがモテるのだ。
まあ、虐めをするような人間を男らしいと見るかどうかは置いといて、とにかくそんな環境にいる。
さらには母子家庭で、父親の顔も知らない。
それでも決して諦めるようなことはない。なぜなら、彼の将来の夢はスーパーヒーローだからだ。
怒りのせいで我を忘れ、周囲の人たちを傷つけた罪悪感に苛まれながらも、世界を守るハルクだって、恋人との約束も果たせず、全てを失っても闘い続ける、彼が一番好きなヒーロー、キャプテン・アメリカだって、みんなそうだった。
誰も諦めなかった。
だから、彼も虐めに合おうが、父親の顔を知らなかろうが、弱音は吐かない。
キャプテンのフィギュアはとても買ってもらえそうにない値段だったが、それも仕方がない。
彼はこれがショウウィンドウに置かれたその日から、毎日その勇姿を眺めている。
父親のことを何度か母に尋ねたことはある。
その度に「遠くへいるのよ、もう寝なさい。」
「もういないの、あまり聞かないで。」
などと誤魔化されてきた。
そろそろ帰ろうかと思案に暮れていると、彼を虐めているクラスの暴君グリマーが雪玉をぶつけてきた。
「おい、いもむし野郎!そんなとこでなにしてんだ!また、おもちゃを見てるのか、このオカマが!ダニエルはオカマだぞー!」
こんなことを言いながら彼らは去っていった。
まったく懲りないやつだ。
そんなに弱いもの虐めが好きか。
彼は髪の毛についた雪を、頭を揺さぶって落とすと帰ろうとした。
「君は毎日ここへ来ているね。」
低い声がした。
振り向くと、そこには髭の生えた、ホームレスのような人が立っている。
「どれが君のお気に入りなんだい?」
「キャプテン・アメリカなんだ。将来はキャプテンみたいに強くなって、虐められてたりしてる弱い人達を助けてあげるんだ。」
彼は警戒しながらも、話をした。ダニエルは、何故こんなプライベートのことを見ず知らずのおじさんに話したのだろうと、少し後悔している。
「そうか、君は強い子だね。そうか、そうか。」
そんな感じのことをぶつぶつと呟きながら、おじさんは消えていった。
ダニエルは一瞬、タイムマシンに乗った将来の自分が話しかけてきたのかと思い、寒気がした。
その日は少し遅くなりながらも家に帰り、母と夕飯を共にした。
なんにも変わらない一日。
いつも通りの母だった。
しかし、彼女は次の日の朝、首を吊って自殺した。
ダニエルは、昨日のおじさんは死神なのかと考える。
母をあの世へ案内しに来たのかと。
不思議と涙は出なかった。とにかく、警察に電話をするしかない。
「なるべく急ぐけど、雪のせいで少し時間がかかる。」
どれほどの不幸が重なるのだろうか。
家でテレビを見ているだけで、電源がショートし、火事になるような気がする。
彼は、母のことをあれこれ考えながら、あのおもちゃ屋さんに向かった。
キャプテンを見ていると、力を分けてもらえる気がしたのかもしれない。
「ちょっと、君。」
いつものようにショウウィンドウの前にいると、今度は店の店主が話しかけてきた。
今度はいったいどんな悪いことが起こるのかと、身構えながらも店の中に入る。
「君に渡してくれって。」
中身は爆弾だろうか?少し大きめのラッピングされた箱を渡された。
いたずらっ子のグリマーがびっくり箱を渡してきたのか。
いずれにしても警戒したほうがいい。
「誰からのプレゼント?」
「髭面のおっさんだよ。昨日いつもショウウィンドウの前に立っている少年に渡してくれってさ。君のことだろう?それと、そのプレゼントを開ける前に、この手紙を読んでくれって。」
次は手紙を渡された。
封筒の厚みからして、中に虫が入ってるなんて事はなさそうだ。
封を開け、手紙を読んでみる。
~どんなことがあっても負けてはいけない。絶対に諦めない。弱い人を守るためには、まず自分が強くなければいけないよ。私にはこの程度のことしかできないが、君なら、きっと夢を叶えられると信じてる。本物のスーパーヒーローになってくれ。メリークリスマス。~
手紙を読み終え、高揚する気分を抑えながらも、ラッピングを剥がすと、箱の中で、キャプテンの盾が輝いていた。ブルーのコスチュームに身を包んだキャプテンは、とても凛々しい表情をしていて、今にも人々を助け出しそうだった。
彼の目は初めて涙で滲み、雫は頬を伝って落ちていく。
その涙は手紙の最後に書いてある~父より~の文字を濡らしていた。

プレゼント

どうも奇術道化師JIGSAWです。
今回は感動できる作品を書いてみました。
なんとも言えない気持ちになっていただけたら嬉しいです。
少年の憧れと現実。
どこにでもあるような問題についても、考えさせられるところがあると思います。
実際、強い気持ちを持つということは、言葉でいうより難しいことだと思いますが、そういう生き方をして、負けずに自分の正義を全うした人に救いがあるように。
そんな願いを込めて書いてみました。
セッションを見ていると、私の書いた作品を読んでくれている方が、前より増えて、とても嬉しいです。
最後になりますが、私の作品を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします。
では、また次回作でお会いしましょう。

プレゼント

数々の不幸に見舞われる少年ダニエル。 彼が夢見ていたのはスーパーヒーローだった。 どんなに辛い事があっても負けないと心に誓い、悲惨ともいえる人生を精一杯生きるダニエルに、一粒の希望の欠片が舞い降りる。 奇術道化師JIGSAWの感動短編物語。 お楽しみください。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-21

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