「色紙」「未来」「アイスクリーム」
窓の外は真夏日だった。
日の光に照らされて輝いている風景と対比するかのように、その部屋の中は薄暗く冷たい空気によって支配されていた。そこに、同い年くらいの少年と少女が会話もなくたたずんでいる。
少女は、窓辺のベッドの上に座っていた。彼女の肌は病的なまでに白く、「儚い」という形容詞がよく似合っていた。もう昼過ぎだというのにパジャマ姿で、顔だけがほんのり赤く火照っている。出窓には水の注がれたコップと、病院の袋に入った薬がおいてあった。そして手には、透明な皿に乗ったアイスクリーム。それをほんの少しずつ口に運んでいる。もう溶けだしていて、すでに溶けた残骸が皿の底にたまっていた。
アイスクリームをじっと見つめる。
「・・・・・・はかないよね、人生って」
そう呟いた少女のベッドの脇に、少年が座っている。問いかけとも独り言ともとれる彼女の言葉に反応することなく、ただ黙って鶴を折っていた。傍らのテーブルには大量の色紙があり、完成した鶴の山とともに存在感を放っている。
「わたしの人生も、未来も、溶けてなくなっちゃうのかな――このアイスみたいに」
彼女はアイスの皿を持ち上げ、掲げた。まるで、天に捧げるように。
「わたし、怖いよ。――このまま病気治んなくて死んじゃったら・・・・・・どうしよう」
彼女の肩は震えていた。
すると少年が、大きな音を立てて立ち上がった。その反動で椅子が後ろに倒れる。手に持った折りかけの鶴を握りつぶし、その手をベッドへ叩きつけた。そして、彼女を見る。その目に含まれる感情は、まぎれもなく怒りだった。
「治らないわけないだろ! 何言ってるんだ」
「そんなのわからないじゃない! わたしにもわからないのに、なんで君にわかるの!」
少女は手を振って色紙の山を叩き落した。散った色紙が、花吹雪のように部屋を舞う。
少年は顔をしかめてから、さらに一言。
「だってお前・・・・・・ただの風邪じゃん」
沈黙の間、やけにセミの声が大きく聞こえた。色紙が床に落ちきって、カーペットを彩っている。
少女はすねたようにそっぽむく。
「・・・・・・風邪で死ぬ人だっているよ」
「いないことないけどさぁ、お前熱37度しかないんだろ? 微熱だから」
その言葉に、少女は驚いてベッドの上をはねた。
「え、なんで知ってるの! 電話で38度っていったのに」
「玄関でお前の母さんに聞きました」
少女の恨みの対象が母親へ移ったところで、少年は潰れた鶴を放り出した。そっと息をつく。
しかし、すぐに対象は少年に戻ってきた。
「夏休み最終日に熱だしちゃったわたしをもっと甘やかしてよ。甘やかせよ!」
「十分甘やかしてるだろ。お前が鶴折って重病人ごっこしたいっていうから色紙買ってきたんだよ? てか本当に重病の人に謝れよお前・・・あと俺の最終日返せよ・・・」
うなだれる少年を無視して、少女はアイスの皿を出窓においてからぐでっと横たわった。
「あーなんか熱上がった気がする。君のせいだからね」
「冤罪・・・。さっさと寝ろよ。明日から学校なんだから」
「げー、学校かぁ」
少年は床に散らばった色紙を片づけだした。作業をしながら、少女を励まそうとする。
「もうすぐ文化祭だし、どうせすぐ冬休みになるだろ。悪いことばっかでもないんじゃないか?」
「・・・・・・それもそうだね」
少女はそう呟いて目を閉じる。
次開くときには、楽しい未来にほんの少し近づいているはずだった。
「色紙」「未来」「アイスクリーム」