忍者がバンバン
「ねえねえ、六平太、また忍術見せてよ」
そうせがんできたのは近所に住む御家人の長男坊、松之介だった。六平太は一瞬自尊心をくすぐられたが、思い直してかぶりを振った。
「だめだ、だめだ。忍術は見世物じゃない。それより剣術の稽古をつけてやろう」
「ふん。剣術なら師範代に教わってるよ。六平太のケチンボ!」
そう言い捨てて、松之介は走り去った。
六平太は肩を落とし、柄にもなく愚痴をこぼした。
「実際、おれの忍術なんぞ見世物程度だけどな。まあ、たとえ本当に凄い忍術が使えたとしても、今の時代、役に立てようもないさ」
六平太の家は代々忍術を継承している家柄だが、戦国乱世が終わって久しく、この泰平の世に忍者の需要などほとんどなくなっている。それでもほんの少数の精鋭には外様大名の動向を調査する任務が与えられるのだが、六平太のような部屋住みの三男坊には、そもそもその資格がない。今の状況から脱出しようと思うなら方法は二つしかない。跡継ぎのない家の養子に入るか、婿入りするか、である。
「どっちもイヤだな」
思わずそう呟いた、その時。
《おぬしの活躍できる場所があるぞ》
声が聞こえた刹那、六平太は物陰に身を潜めていた。だが、安心はできない。相手の気配が全く読めないのだ。
《恐れることはない。わたしは敵ではない》
「では、何者だ!」
そう問いかけつつ、六平太は素早く場所を移動していた。
《強いて言うなら、隠れた人材の発掘人、かな》
「口入れ屋(=就職斡旋業者)のたぐいか?」
さらに移動した。
《まあ、そのようなものだな。それより、どうだ、新天地でやってみる気はないか?》
「何をだ!」
《もちろん、おぬしの忍術を役立ててもらうのだ》
「うぬ。おれをおまえの私兵にする気か!」
《確かにそうかもしれん。だが、おぬしの技をこのまま埋もれさせるのは、いかにも惜しい。それに仲間もいるぞ》
「仲間?」
《そうとも。おぬしと似たような境遇の忍者たちさ。一緒にやってみないか?》
六平太は迷った。本来なら、一笑に付すべきことだ。しかし、今の生活には飽き飽きしていた。
「ものは試しだ。行くだけは行ってやろう。だが、少しでも納得できぬときは、すぐに帰るぞ」
《いいだろう。では、ほんの一瞬でいい、目をつむれ》
不安はあったが、不思議に恐怖は感じなかった。六平太は素直に目を閉じた。
「いいぞ。目を開け」
先ほどの男の声がすぐそばから聞こえた。
六平太が目あけると、そこは立派な武家屋敷の中のようだった。
「ここは、どこだ?」
「ここは控えの間さ」
そう答えた男は、見たことのない服を身にまとっていた。
「控えとは?」
「まあ、とりあえず見てもらう方が早いだろう。先輩たちの活躍ぶりを、ね」
男に連れられてその部屋を出ると、広い庭で忍者たちが闘っていた。だが、六平太には、それが擬闘であることはすぐにわかった。見物人も大勢おり、中には異国の者もいた。
「オオ、ワンダフル!ニッポンのニンジャムーラ、エクセレントね!」
(おわり)
忍者がバンバン