ハッピー・ティーカップ

瀬谷 翡

クッキーでも食べながら、短い短い、ナンセンスなセンテンスを。

ハッピー・ティーカップ

紅茶が好きだ。
あの、ティーバッグを取り出した瞬間の、お湯を注いだ瞬間の、甘いとも言えず、苦いわけでもない「紅茶の香り」としか言いようのない香り。
あの優しい、いや、美しい香りに包まれるだけで、それまで考えていた悩みだとか、不安だとか、疲れだとか、そんな類のものがいっぺんにどこかに消えていってしまう。
あまり詳しいわけではないから、茶葉の種類だとかどこの産地だとか、そういうことに興味はないけれど。
でも親戚のおばさんからアッサムの缶をもらったときには、いつも飲んでいるティーバッグとはやっぱり違っていて、何だかほんの少しだけ贅沢をしている気分になった。
そんな私は、この間素敵なものを見つけた。
素敵なもの、といっても値段が特別高いわけではない。
駅前の、ちょっと小洒落たお店の棚で、暖色のライトを浴びていたティーカップ。真っ白な陶器のカップに、金色の縁と、名前はよくわからないけれど、綺麗な花の絵が描いてある。
私はそのティーカップに一目惚れしてしまった。それで、学校の帰りに立ち寄って、とうとう買ってきてしまったのだ。
また無駄遣いをして、とお母さんは言うけれど、やっぱり私は無駄ではないと思う。
いつものティーバッグを、一つ摘んで真っ白なカップに入れる。ふわっと紅茶の香りがして、それだけでも幸せな気分になった。
電気ケトルで沸かしたお湯を、カップの上に持ってくる。無意識に、深呼吸をした。
行くぞ。
もうっと湯気が上がる。
ティーバッグの色が見る間に透けていって、真っ白なティーカップに、赤とも茶色ともつかない丸型が生まれて、どんどん広がっていく。
紅茶の香りを、胸いっぱいに吸い込んだ。
いつもと同じはずなのに、いつもよりずっと贅沢をしている気分だ。
こうして私は今日も、小さな、温かい幸せを作っている。

ハッピー・ティーカップ

ほっこりする文章を目指して。お楽しみいただけたら幸いです。

ハッピー・ティーカップ

寒い日には、紅茶が飲みたくなります。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-19

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