同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語

同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語

lumis

=== 5 学校の日々2 ===
自身の高校と鎮守府を提携させ、艦娘部を設立するためにもまずは鎮守府を見学してもらおうと、那珂は高校の生徒会メンバーを連れて鎮守府へと向かう。

見学当日

見学当日

 土曜日、午前の授業が終わり生徒会室に集まった那美恵たち4人は、生徒会備品のタブレット端末やデジカメ等を持ち早速鎮守府へ向けて学校を後にした。

 学校のある町の駅から電車に乗り、ゆられること数分、となり町の駅で降りる4人。駅で降りて改札を抜けると、見覚えのある顔が向かいのコンビニの前にいた。それは駆逐艦時雨担当の御城時雨(ごじょうしぐれ)だ。

「あ、時雨ちゃーん!」
「那珂さん、こんにちは。あ、そちらは……」
 那美恵は駆けて行って時雨の手を掴みブンブンと振りの大きい握手をする。時雨はその握手に少し戸惑いの表情を見せたがすぐに笑顔になり挨拶を返す。そして駆けて行った那美恵のあとから来た3人に気づいた。

「うちの学校の生徒会のみんなだよ。今日は鎮守府を見学させたくてね。連れてきたの。」
「あ、さみに話してたのはそのことだったんですか。」
「うん。ところで時雨ちゃんはここでどうしたの?人待ち?」
「はい。ゆうが買い物してるので。」
 時雨は視線を背後にあるコンビニの入り口に向けながら言った。その直後自動ドアが開き、夕立こと夕音が外に出てきた。
「あ゛ー、一番くじ外したっぽい~。ぬいぐるみ欲しいのに~……あ!那珂さん……と誰?」
 コンビニから出てきた夕音はブチブチ文句を垂れている。前半の愚痴らしきセリフは無視し、那美恵は改めて生徒会メンバーを紹介することにした。

「せっかくだし二人には先に簡単に紹介しておくね。こっちはあたしの高校の生徒会のメンバー。」
「副会長の中村三千花(なかむらみちか)です。」
「書記を担当しています、毛内和子(もうないわこ)です。」
「同じく書記の三戸っす。よろしくっす。」
 三千花たちは目の前の中学生二人に挨拶と自己紹介をした。それを受けて時雨たちも、先輩にあたる人たちなので丁寧に自己紹介で返した。
「僕は御城時雨といいます。○○中学校の2年生です。鎮守府Aの駆逐艦時雨を担当しています。」
「あたしは立川夕音(たちかわゆうね)っていいます。同じく○○中学校の2年で、駆逐艦夕立を担当だよー!」

 落ち着いた佇まいで会釈をして自己紹介すると時雨と、元気よく片手を前に出して無邪気に自己紹介する夕立。二人の中学生艦娘の紹介を受けて、三千花たちも改めて挨拶をする。
「うおおぉ!!生艦娘!中学生!ボクっ子!最高~!」
 なお唯一の男である三戸は二人の紹介を受けて(小声で) 興奮していた。そんな傍から見たら恥ずかしい態度を取る三戸を見て呆れるを通り越して逆に心配をし始めた和子が彼をなだめる。
「三戸君落ち着いて。傍から見るとただ単に中学生に興奮してる男子高校生でしかないから。結構危ない人に思われますよ?」

 那美恵の少し後ろでそんなやりとりが行われている様を見た時雨と夕音は気にはなったがどう反応していいかわからず、とりあえず那美恵のほうだけを見ることにした。那美恵も三戸の反応にすぐに気づいたので一応断っておいた。
「あ~、後ろは気にしないで。初めて見る艦娘に少し興奮してるだけなの。」

 そして気を取り直すようにコホンと咳払いをして続ける。
「二人もこれから鎮守府行くんでしょ?その前にみんなでお昼食べていかない?」
「はい。僕達もちょうどどこかで食べていこうと思っていたところなんです。」
「わーい!いこ~いこ~!」
 時雨と夕音は都合が悪いわけでもないので賛成した。

「みっちゃんたちもいいでしょ?」
「うん。いいわよ。」
「生艦娘と合コ……」
「はい。……三戸君はいいかげん落ち着きましょうか(怒)。私達年上ですよ?」
 三千花たちも賛成した。まだ興奮しているクドイ三戸を見て和子が少し声を静かに荒げて叱った。

 4人+2人が入ったのは近くのファミリーレストラン。そこでは艦娘の証明カードを見せれば、艦娘本人と5名の同行者までが半額になる優待を受けられる。そのレストランは鎮守府個別ではなく、防衛省の艦娘統括部と提携しているためすべての鎮守府の艦娘が優待を受けられるようになっている。
 食事中はお互いの学校のことや、時雨たちからは艦娘の活動について彼女らから話せる範囲で語られた。そして6人は食事が終わり、改めて鎮守府へと歩みを進め始めた。


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 歩きながら那美恵は時雨に他の娘のことを尋ねた。
「そういえば五月雨ちゃんや村雨ちゃんは?」
「あの二人は同じクラスなんですけど、何かクラスの用事が残っているとかで僕らだけ先に来たんです。それまでは秘書艦お願いって言われてるので、やれることがあれば僕が代わりにやります。」
「そ、りょーかい。」

「ねぇ御城さん?その秘書艦っていうの大変?」
 三千花が時雨のほうをチラリと見て尋ねた。
「えぇと……僕はさみ、五月雨からたまに引き継いで代わりに秘書艦するんですけど、意外とやることあって面倒な内容だったりと、覚えることやることいっぱいでホント大変です。どうもさみと提督の頭のなかでは大抵のことは固まっていてわかっているみたいであの二人はスラスラやってますけど……。まぁ、さみは成績良いし頭いいのは知ってるんですが、のんびり屋で時々おっちょこちょいなのによくやれるなぁと思いますよ。」

 その愚痴に那美恵はウンウンと頷く。
「わかる。わかるよ~。頭の中で自分なりの手順や流れがしっかり描けてるんだろうね。だから性格云々は関係なしにスラスラやれちゃう。そういう人ってたまにいるよね~。」
「まるっとあんたじゃないのなみえ。その五月雨って娘、あんたと似てるの?」
 三千花が聞くと、代わりに時雨がその質問に答えた。
「アハハ。那珂さんとは違いますね。那珂さんみたいにおどけたり底抜けに明るくはっちゃけるさみなんて想像つきませんよ~。」

 なんとなく皮肉とも自分を馬鹿にされてるようにも思えた那美恵は全く本気でない軽い怒り方で三千花と時雨に反論する。
「ちょっと~なんかまた私馬鹿にされてない~?みっちゃんは仕方ないけど、時雨ちゃんに言われるのはちょっとびっくり~」
 口をつぼませて拗ねる仕草をする那美恵。それを見て時雨はやや焦りを見せて弁解する。
「あ……すみません、悪い意味じゃなくて……」
「うぅん!時雨ちゃん可愛いから許しちゃう~。あとみっちゃん!五月雨ちゃんにしつれーだよ!本人に会ったらその可憐さに萌えて土下座するがいいわ~」
 もちろん本気で怒ったわけではないので那美恵は時雨をすぐに許しつつ、親友の三千花には辛辣な言葉を浴びせた。
「何よそれw でもあんたが言うくらいだから相当可愛い娘なんでしょうね。期待するわよ。」

 那美恵たちがそんなやりとりをする一方、ふと三戸や和子の方を見ると、二人は夕音と仲良さそうに話している。主に三戸と夕音がウマが合った様子でほぼ同じノリで会話している。和子は二人が(主に三戸が)暴走して変に騒いで町中で他人(や夕音)に迷惑をかけないかどうか、キモを冷やしながら二人の間に入ってツッコミ役を担当していた。そんな光景がそこにあった。

見学(序)

見学(序)

 鎮守府の表門に到着した一行。ところどころ工事中のため、土曜日にもかかわらず建設会社の社員や大工らが作業をしている。那美恵と時雨、夕音は挨拶をして工事現場の間を通り抜けて、通用口を通って三千花らを本館へと案内した。

 那美恵と時雨、夕音は本館の玄関に沿い、三千花らと向かい合うように立った。
「「「ようこそ、鎮守府Aへ!」」」

 出迎えされた形になった三千花らは様々な反応を示した。
「へぇ。ここが鎮守府ってところなのね。思ったより大きそう。」
「おぉ!ここが艦娘たちがたくさんいる基地!楽しみっすね~」
 三戸は落ち着いたのか、普通に見るのが楽しみそうな反応をしている。
 和子は先の二人の同意のため相槌を打ち、タブレット端末に向かってメモを書いている。

「まだ工事中のところがあるのでお見苦しいとは思いますけど、ゆっくりしていってください。那珂さん、僕たちは先に更衣室行って準備してますので。」
 そう言って時雨は会釈をして、夕音とともに本館の中に入っていった。

「なみえは行かなくていいの?」
「ん~? でもみっちゃんたちいるし今日は一緒にいようかなぁと。」
「会長、気にせずに艦娘の制服に着替えてきて下さい。会長の行動も報告書の大事な記録になりますので。」と和子。
「俺たちここで待ってますよ。」と三戸。

 3人から促されたので、那美恵は着替えてくる間3人にロビーで待っているよう案内した後、時雨たちを追いかけて更衣室に向かった。


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 数分後、三千花らの前に那美恵たちが姿を現した。
「おまたせ~。今からあたしは軽巡洋艦那珂なので、気軽に那珂ちゃんとでも呼んでね~」
 華やかな制服になって姿を表した那珂とは異なり、学校の制服のままで登場した時雨と夕立を見て、三千花は自然と疑問を口にする。
「あれ?二人は艦娘の制服じゃないのね。」

「はい。白露型の艦娘は、五月雨以前の姉妹艦の担当者には決まった制服がないんです。だから普段も出撃の時も服装自由なんです。」
 時雨がそう説明した。
「立川さんもそうなの?」と三戸。
「ここでは夕立って呼んでくれてもいいっぽい~。そうでーす。あたしも時雨と同じく服自由なの。今度ね、学校と違うオシャレしようと思ってるの。」
 服装についての話が一角で続いている間、那珂は見学を開始する旨伝えにその集団から抜け、提督のいる執務室に向かった。
 しばらくして那珂が一人の男性を連れてきた。ロビーにいる三千花らの前に立つと、自己紹介をしてきた。
「ようこそ、○○高校生徒会のみなさん。俺が鎮守府Aの総責任者、通称提督を勤めております、西脇と申します。よろしくお願いします。」

 三千花らは大人が出てきたので改まって自己紹介する。
「私は○○高校生徒会副会長、中村三千花と申します。この度は鎮守府Aの見学をさせていただくことになりまして、お忙しい中本当にありがとうございます。」
 代表的な挨拶は副会長の三千花がし、書記の二人は普通に自己紹介するのみにした。

 お互い挨拶と自己紹介交わした後、提督は時雨に五月雨の様子を伺う。
「五月雨は間に合ってない?」
「すみません提督。まだ学校の用事が……」
「そうか。じゃあ仕方ない。来るまでは時雨、君が秘書艦として○○高校の皆さんを案内に付き合ってくれないか。」
「はい提督。でも僕と夕立は○時から護衛任務で行かなくちゃいけないからあまり長い時間は……」

 提督と時雨が話し合っている中に那珂は割り込んで提案した。
「ねぇ提督。時雨ちゃんたちの任務の時間がもうすぐなら、あたし案内全部受け持つよ?どうせうちの生徒に案内してあげるつもりだったし。」
「……いや、せっかく同じ学校のお仲間が来てるんだし、那珂は今日は学校側の立場で参加してくれ。どのみち五月雨が来れば任せる予定だったから、それまではそうだな……じゃあ俺が全部、直接見学の案内するよ。時雨たちは任務の時間までは自由だから好きにしてくれていい。」
「「はい、わかりました。」」
 時雨と夕立は返事をして、那珂たちに会釈をして別れ、階段を登っていった。


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 提督を先頭にして、鎮守府内の案内と見学が始まった。なお、動画による撮影は、工廠の一部以外ならOKの回答をもらっていたため、那珂は書記の二人に動画での撮影もするよう指示した。

 三千花らの見学コースは次のように進む。
1,本館内部
2,本館周辺敷地と施設
3,工廠・出撃用水路・訓練施設
4,艦娘らによる出撃の様子や演習の再現
5,説明(今後の鎮守府の展望)
6,質疑応答

見学(本館)

見学(本館)

 まずは本館の見学ということで、提督は今全員がいるロビーから開始してすぐに2階へ三千花たちを案内した。各部屋を案内してその役割を解説する。いくつか部屋が紹介される間、書記の二人は解説をメモしたりデジカメで撮影している。副会長の三千花は那珂と会話をはさんで各部屋を熱心に見ている。

 一般的に雑誌等で紹介される、艦娘と彼女らの勤務する華やかな鎮守府と称される基地はかなり目立つ大きなところである。それに比べて鎮守府Aはぱっと見それなりの広さなのだが、全国・全世界の鎮守府(基地)としてみると小規模だ。人数に見合ったといえば聞こえはいいが、それでも不釣り合いな感じは否めない。三千花らの第一印象は意外と"しょぼい"だった。本館自体は工事中の部分が多く、使える部屋が少ない。が、それでも使える部屋の中でも空き部屋が多いことに気づいた三千花は提督に尋ねてみた。

「あの、ずいぶん空き部屋がありますね。」
「そうですね。まだ人も少ないから使い切れていないのが現状なんです。用途は考えているので、もっと艦娘や職員が増えたら活用できるんだけどね。」
 提督は三千花からの質問に現状を自ら笑ってけなすような口調で説明し、展望を述べた。


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 2階を案内したら次は3階へ。3階は提督が執務をする執務室と、隣接する部屋、そしていくつかの部屋がある。そのうち一つは艦娘たちの待機部屋、座席のある部屋だ。そこにはさきほど別れた時雨と夕立が出撃前に一息ついていた。提督と那珂の一行に気づく時雨と夕立は座りながら手を振ったりお辞儀をした。
 提督が入り口付近でその部屋の紹介をしていると、夕立がスクっと立ち上がり、提督の側に駆け寄ってきて補足説明をした。

「あたし達の学校は艦娘部の部室がないから、実質ここが部室みたいなもんなんだよ!広々~っと使えるっぽいし、お気に入り~!」
「こら、夕。僕らの学校以外の子も一応いるんだから恥ずかしくないようにしてよね。」
 はしゃぐ夕立を時雨が注意する。その様子を見て提督はハハッと笑い、三千花らに冗談めかして一言付け足した。
「まあ、このように自由に使ってもらっています。学校の延長線上と捉えてもらっていいかもしれません。」

「学生以外の艦娘はいらっしゃるんですか?」
 三千花が質問をした。
「あぁ。あとで紹介するけど工廠というところに一人、それから今日は来てないけどもう一人。その人は近所に住むご婦人でね、俺や五月雨・時雨たちが不在の時によく代わってもらっているんです。」
 来てない人のことを細かく言う気はない提督はそれ以上の紹介はせず、艦娘の待機室の案内を終えて次へと促した。


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 ある部屋の前を通る一行。三千花がここは何の部屋か提督に尋ねた。その部屋は那珂は覚えがあった。
「あぁ、ここは会議し
「あー!ここって、着任前にあたしが身体検査されたところだよね~。……提督に!」
 ふざけてとんでもないことを知り合いの前で言い放つ那珂。彼女が言った瞬間、書記の2人は頭に!?を付けたような表情で提督の方を見る。
 提督は慌てて弁解、というよりも那珂を叱りつけるように声を荒らげた。

「コラコラ!そういう冗談はやめないか!誤解されたらどうするんだ!?」
 驚いた表情になっている書記の二人とは異なり、三千花は落ち着いているが半笑いになっている。
「あの、西脇提督。私はわかってますから。なみえはこーいうこと平然と言ってのけることたまにあるんで。なみえのお守り、大変でしょ?」
 提督は那美恵のことをよくわかっている生徒がいることに安堵し、少しオーバーなリアクションでホッと胸をなでおろした。

「えぇと、中村さんだっけ?あなたは那珂……光主さんとはお友達かな?」
「はい、昔からなみえのこと知ってるんで大抵のことはわかりますよ。私がいるんで何かおかしなこと言われても安心して下さい。ちゃんとツッコミますんで。」
 それは頼もしいな、と微笑しながら提督は口にした。三千花もそれに釣られてニコッと笑う。その提督と友人の掛け合いを見た那珂は、二人が少しだけ仲良さそうにしている様子に少しだけイラッと感じるものがあったが、それがどちらに対してかまでは意識していなかった。


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「ここが艦娘たちの更衣室です。仮で使ってもらっているだけだけど、電気も水回りも来てるのでね。人が増えたら壁ぶちぬいて広くすることも考えています。」
「ね、提督。中も紹介しよーよ?」
「いや、俺は入れないぞ? というかもし人がいたら俺捕まるぞ。」
「人少ないんだからいないって。さ、はいろ?」
「……あとでお前が案内しなさい、那珂。」

 さすがの提督も那珂の冗談・小悪魔の囁きを未然に防ぐことができた。三千花が提督に向かって小声で呼びかけて同情の意味を込めてグーサインをすると、提督は三千花に苦笑で返した。

 もちろん那珂も本気ではなかったので、提督が言い終わったあとはえへへと笑うだけで反論やさらなる茶化しはしなかった。


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 ひと通り提督による案内が終わり、本館のロビーに戻ってきた一行。
「……と、ここまでが鎮守府の本館の紹介です。隣には現在拡張工事中の区画もあるので、最終的には約3倍の広さになる予定です。」
「その頃までには艦娘もせめて3倍に増えるといいね~」
 那珂は期待を込めて提督の言葉にツッコミをした。

「おいおい他人ごとじゃないぞ。人増やすためにも、光主さんの学校と提携結んで一人でも多く採用したいんだから。君のがんばりにもよるんだぞ?」
「は~いがんばりま~す。」
 気の抜けた返事を提督に返す那珂。

「さて、退屈な本館の紹介はここまで。ここからがきっと学生のきみたちも見て楽しい、参考になる場所が多いと思うから、期待してください!」
 口には出さなかったが、三千花も書記の二人も本館の内部はそれほど興味が持てなかった。あまりにも空き部屋がありすぎる。活用しきれてないというのがよく分かる状態なのだ。書記の和子がメモした文章でも、本当に当たり障りのない紹介に対する文章やフレーズが羅列されるだけだったのだ。三人とも提督の言葉にグッと期待を持ち始めた。

見学(倉庫群~グラウンド)

見学(倉庫群~グラウンド)

 本館の外に出た那珂たちは、提督の案内にしたがって本館の周辺を回り始めた。鎮守府Aは北向きに本館の玄関が向き、その他の施設が本館の背後に来るように設置されている。本館の正面は表門があり、表門に向かって歩いた場合の左側、つまり本館の左側では大規模な工事が2箇所で行われている。反対側は植林された木々のある、自然のスペースとなっている。木々の間にはテーブルやベンチが置かれており、憩いの場としても活用される。
 工事区画のある方は、提督の話にでてきた本館の拡張工事の区画及び別館目的の棟と、もうひとつは倉庫目的の施設だ。倉庫目的のほうは本館とは敷地内を通る道路(4輪車禁止)を挟んだ先にあり、奥に向かって細長い工事区画になっている。その先には海がある。

 いずれも防衛省の鎮守府統括部の発注の元、必要な施設をあらかじめ建ててもらっている形となる。提督は発注元たる防衛省の代理の責任者となり、現場での実際の管理を一任される。他の新設鎮守府・小規模鎮守府よりも破格の対応を受けているように思える鎮守府Aだが、実際は市や国と共用の施設が大半であるため、艦娘制度用の設備としては本館と工廠内の出撃用水路、そして訓練施設のみである。

 提督は本館の拡張工事区画の脇を通って案内し、倉庫目的の工事の場所に那珂たちを連れてきた。
「ここはいずれ倉庫になるところです。国や市と共用なんですけど、自由に使えるスペースを割り当てられているので、俺はここに資料館も作るつもりです。提督になってまだ日が浅いから、俺もまだまだ知らないことが多いからね。俺自身がまず知って、それから一般の人にも気軽に俺たちのことを知ってもらえるようにしたいんだ。」

 手を両腰に当てて、提督は真面目に語りだした。
「世界中の海に化物が現れて制海権が失われつつあって久しいのにほとんどの人は無関心なのはどうにもね……。やつらと戦えるのが、艤装という機械に選ばれた艦娘という数少ない人間ということももっと知ってほしい。自分たちの安全を守るために、必死に戦っている人がいるんだということを、一般市民にもっときちんと知ってもらいたいんだ。一介の会社員である俺ができるのは、今の立場を利用したこれくらいだからね。それから……」

 これから建設される建物とその役割について、自分の素性のことも交えて熱く語る提督。その語り口調からは、パッとしない容貌からは想像できないほどの熱意・秘めた思いが垣間見える。
 そうやって熱く語る提督を那珂は特に熱いまなざしでじっと見て、語られる言葉を自身の胸に響かせていた。その親友の普段とは違う様子に気づいたのは、その場では三千花だけであった。


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 倉庫付近を道路に沿って歩いて進み、一行は海岸沿いへ来た。
 海沿いには、人工の海岸と、物資運搬用の小さな港湾施設がある。その港湾施設は倉庫群や本館とはやや離れたところにあるため、提督は海岸に沿って伸びる遊歩道の途中まで進んで紹介した。その港湾施設は鎮守府・艦娘だけでなく、民間船舶にも開放されているが、基本的には防衛省や企業が使うことを念頭に置いて作られている。さすがにタンカーとまではいかないが小規模の護衛艦なら2隻同時に停まっても航行に余裕があるくらいには整っている。60~80年前には北寄りにあったが現在では鎮守府に近い位置に移設され、大幅に拡張されていた。
「ここは港湾施設になっています。わかりやすくいうと、うちだけでなく防衛省や提携企業も使える港です。実際にはうちの所有ではなく、管理を委託されている形になっています。」
 そう説明した提督の指さした先の港は、今は何も停泊していない状態だが、那珂や三千花らにとっては十分広すぎてどこまでが鎮守府の敷地なのか分かりづらかった。

 鎮守府のある一帯は、大昔(60~80年前)には海浜公園が隣接された人口の海岸と、民間の船舶業者が所有する敷地などがあった。付近には少し離れて隣の駅との境目あたりに大型のショッピングモールや別の公園、そして病院などがある。途中は住宅街、そしてこの時代にはすでに存在しないが、鎮守府Aの目の前の区画にはかつて県立高校があった。今その広い区画には小さなショッピングセンター街ができていた。地域活性化のために海岸沿いの区画には長い年月の間に様々な施設が建てられたものの採算がとれずに最終的には売却され大半が国に戻っていた。21世紀も終盤となった現在では、その広いエリア一帯はいくつかに分割され、それぞれ別々の目的に使われている。その内の一つに鎮守府Aが開設された。

 やっとそれらしい説明の施設の見学ができているためか、三千花や書記の二人は積極的に質問をし、提督から丁寧な回答を受けている。一方の那珂はというと、自身の時とは見学のルートが異なっていたため途中の倉庫や港湾施設は初めてだったが、グラウンドの先の海岸沿いは二度目でありすでに馴染みがある。
 再び見る景色に思いを馳せる。
 海を眺めると、ワクワク心踊る気持ちになったり、心穏やかに休める気持ちにもなる。海はすべての生物の生まれ故郷とも言え、本来はもっと近しい存在のはずなのに、そこを荒らしている異形の存在のために海からあらゆる生物が遠ざけられてしまっている。やつらのために、人は海に触れにくくなり、いつしか自然と興味を失って、今では一般人は海に近づくことを忘れてしまっていた。このままではいけないはず。
 提督の考えには賛成だ。あの人がそういうふうにするならば、自分は艦娘として、他の艦娘にはできないことを行なって、人々に海を思い出してもらい、楽しく過ごしてもらえるようにしたい。
 三千花らが提督に話す一方で沈黙を保っていた那珂はそのように思いを巡らせていた。

「じゃあ、次行こうか。次は……おーい那珂。なにポケッとしてるんだ?」
「へ? あ!はーい! いきましょいきましょ~」
 思いをはせる時間が少し長かったためか、提督の掛け声に一瞬気づくのに遅れた那珂は珍しく素で慌てて、提督らのもとに駆け寄っていった。


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 一行は海岸沿いを倉庫のあったほうとは逆の方向に進む。そこは昔から存在する人口の海岸だ。海水浴に適した水質ではないため、泳ぐことはできないが環境保全と景観保持のために70~80年以上前の形が保たれている。
 そして港・倉庫群、本館の中間には多目的に使えるグラウンドがある。ここでは艦娘たちの訓練のほか、地域住民や企業・団体に貸し出す目的に設置されている。(ただし海に非常に近いため、災害時の避難場所としては不向きとしてその目的からは除外されている)

 海岸を背に、那珂たちはグラウンドの端に立って提督からの説明を聞いている。
「グラウンドもせっかく大本営に用意してもらったのに、今は完全に遊ばせている状態でね……。ときどき五十鈴という艦娘や夕立たちが運動するのに使うくらいかな。」
 閑散としたグラウンドの様子を見て、三千花は提督に提案も兼ねて質問をした。
「あの、西脇提督。もしですよ?うちの高校と提携できた場合、このグラウンドをうちの高校の生徒が使ってもいいのでしょうか?」
「その辺の運用はまだしっかりとは考えていないんだ。だから提携してる学校に対してはある程度自由に使ってもいいよと開放してもいいね。その辺は責任者である俺次第だから、アイデアがあればどんどん言ってくれたら助かります。」
 提督をどうにかすれば、どうやら自由に使えそうだと三千花や書記の二人らは湧き立った。

「ねぇ提督。五月雨ちゃんたちの中学校にはここ使わせてないの?」
 那珂は気になって聞いてみた。
「一応自由に使ってもいいよと言っているんだけど、彼女らはここの使い道までは頭が回らないみたいなんだ。」
「そりゃあ、4人じゃ広すぎるもんね……。あと提督。対外的に言えるくらいに運用固まっていないと、五月雨ちゃんたちの学校も使わせてって言い出しづらいと思うよ。そこは文書化なりまとめておいたほうがいいと思うな。」
「う……たしかに。」

 那珂の指摘に提督は図星を付かれた様子を見せる。さらに那珂が畳み掛けるように指摘をする。
「五月雨ちゃんも提督と似たとこあるみたいだけどさ~、二人とも頭の中だけで残しておかないで、私や時雨ちゃんだけでもやれるように知ってること手順書みたいにもっと書き残しておいてね。」
 もはや那珂に頭が上がらない状態になってしまった提督は那珂のいうことにはい、はい、と答えるだけになった。

 その様子を見た三千花は、那美恵にやりこめられる大人も可哀想だなと思った。と同時に、西脇という人は那美恵から認められているとも思った。それは、ちゃらけている普段の仕草や振る舞いとは裏腹に、何事もそつなくこなせる、本気で物事に取り組むときの彼女の観察力や行動力を一番良く知っている親友の三千花だからこそ傍から見て感じとれることであった。
 取り組むとなったら全力で、一人でもやれる那美恵だが、興味のない、できないと判断した物に関してはあっさりと手放して他人にすべて任せる。それ以外は一人でやろうとする那美恵だが、提督に対する態度が普段他人に見せるそれと違うと三千花はなんとなく気づき始めた。甘えてるというか、尽くそうとしている。親友があそこまで他人(しかも学生ではない大人の男性)に何かを促すのが珍しいと感じていた。
 提督と那美恵の付き合いがどのくらいの深さなのかそこまでは知らない三千花だが、着任してから2ヶ月程度と言っていた那美恵と提督のわずかな掛け合いを見て、お互いある程度信頼を得合っているのだなと捉えた。

見学(工廠)

見学(工廠)

 グラウンドを横切り東門から出ると、道路を挟んだ向かいに工廠や訓練場、出撃用水路のある、艦娘にとっては必須となる施設が揃う区画になっている。

 門をくぐり入るやいなや、提督が三千花らに一言注意する。
「ここからは俺が指示した場所でのみ、撮影をお願いします。あなた方も勉強されてきておわかりでしょうが、国家機密・防衛上の機密になる部分が少なからずあるので、くれぐれも注意して下さい。まあぶっちゃけ俺もよくわかっていないんだけど、どれがまずいかは一応聞いておいたから、君たちも気をつけてくれよ。」

 機密、という言葉と先ほどとは空気の違う注意をしてきた提督のセリフにより三千花らはゴクリとつばを飲んで気を引き締める。しかし提督が普段のくだけたしゃべりになったことにより、一瞬硬直しかけた雰囲気も砕かれ、三千花らは気が楽になった。

 まず提督が案内し始めたのは工廠。
 鎮守府Aの工廠では艤装の開発・製造は行われておらず、最大でも艤装で使う装備の開発だ。普段は各機器のメンテナンスがメインである。その他、新装備の研究開発が限定的ではあるが行われる。
 そんな工廠の長として紹介されたのは、造船所を持つある製造業の会社の女性社員である。彼女もまた艦娘として採用されていた。その会社は大本営自体と提携してるため、各鎮守府に専属の技師兼艦娘として配属される。ただし戦闘には参加しない、非戦闘員型の艦娘である。

「お、明石さん。ご苦労様。」
「あ、西脇提督!お疲れ様です。」

 提督から明石と呼ばれた女性がつなぎ風の作業着の格好のままで工廠の入り口に来て、挨拶を交わす。
「こちら、鎮守府Aの工廠長で、○○株式会社からの派遣で工作艦の艦娘である、明石です。」
「初めまして。ただいまご紹介にあずかりました、工作艦明石です。本名は明石奈緒(あかいしなお)といいます。25歳で女真っ盛りです。」
「……まぁ、なんだ。彼女は本名も明石といって、読み方は違うが同じ漢字なんです。うちの艦娘たちの艤装のメンテは彼女が面倒みてくれているんだ。那珂はもう何度かお世話になってるからいいよな?」
「明石さん、いつもありがとー!」
「いえいえ。どういたしまして。」

 明石と一緒に、その会社からは実際の技師が数名派遣されている。その日は2人ほど来ているため、彼らも挨拶をしてくる。提督以外に出てきた大人たちに挨拶をし返しつつ、書記の三戸が提督に質問ともつかぬ感想を口にした。
「艦娘以外の人も普通にいるんすね。俺てっきり艦娘しかいないのかと思ってました。」
「工廠とか一部の施設ではね。国から預かってる設備では国が提携している団体や企業から派遣されてくる人が職員として担当しているんだ。それ以外の場所では、おおよそ学校と似たようなものと思ってくれていい。学校だって生徒と教師がメインだろ? それが鎮守府では俺、提督と那珂たち艦娘なんだ。」
 提督の追加の説明に合点がいった三戸はすぐにメモに書き留める。

「工廠のことは明石さんのほうが詳しいから、彼女にバトンタッチ。明石さん、よろしくお願いします。」
「はい、任されました。」
 提督は明石に向かって任せたという意味を込めてハイタッチするような仕草をした。
 工廠のことを語る明石の説明は、那珂や三千花らにとっては専門用語が飛び交うちんぷんかんぷんな内容だった。始まって数分で書き留めるのに追いつけなくなった書記の二人はメモを書くのを諦め、動画と音声による録画に切り替えている。

「ねぇ……ねぇ、なみえ。あの人の言っていることわかるの?」
 眉間に若干シワを寄せて悩み顔の三千花が小声で那珂に尋ねた。密やかに聞かれた那珂は、三千花に向かってニンマリと笑顔であたまを横に振って返した。
「だったらあの明石って人にもっとわかりやすい説明にしてってお願いしてよ……。これじゃ報告書で工廠のことうまく書けないよ。」
 近くにいた書記の二人は三千花のその不満に激しく同意したようで那珂と三千花の方をむいて無言で首を縦に振る。

「大体の役割がわかればいいわけで、別にすべてわかって書く必要もないと思うけどなぁ。まーでもさすがにこんだけわからないとちょっとね~。」
 そう言って那珂が明石に向かって文句を言おうとすると、先に提督が口を挟んだ。

「ちょいちょい、明石さん。話が専門的な内容になってきてるぞ。相手は学生さんなんだからわかりやすい説明で頼むよ。」
「え?あぁ……失礼しました。つい熱が入ってしまいまして。……もしかして提督もご理解が?」
「俺はIT関係だもん。近い技術職だからってくくらないでください。製造業の内情なんて知らないよ。」
「わかりました!じゃあ提督とは今夜コレしながら、技術談義に花を咲かせまsh」
「それはいいから!今はお客様の前だろ……。」
 くいっとお猪口で酒を飲む仕草をして提督をさり気なく誘う明石、それに真面目に提督は突っ込んだ。

 何やらただならぬ発言を聞いた気がするが、脱線して見学の時間を長引かせたくなく、また提督と明石さんを変に困らせるつもりもなかったので、那珂はその場では二人の様子をじっと見てるだけにした。



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「コホン! それでは説明を噛み砕いてさせていただきます。」
 そう言って明石が改めて始めた説明は先程よりも幾分わかりやすく、書記の二人もその場でのメモが少し捗ってきた。
 工廠の役割について聞いた三千花ら3人。三戸がこんな質問を投げかけた。
「あの、明石さん。この工廠で、艦娘の装備とか以外のものも作ったりするんすか?」
「え?どういうことかな?」
 三戸の質問の意図が見えず明石は聞き返す。
「あーえぇと。艦娘の艤装以外の機械も作れるなら、周りの会社や市民の役に立てるんじゃないかな~って思っただけなんっす。あまり深い意味はないっす。」
 自分でもパッと思いつきで言ったことだったらしいが、そのアイデアは明石と提督に響いた。

「なるほど。例えば機材の修理を請け負うとかそういうこともできれば、この工廠を変に遊ばせておかずに済むな。明石さんの会社というか、明石さんたちって、艤装以外のものも取り扱いはできる?」
「えぇ。私は艦娘の艤装専門ですけど、会社に言ってその分野の技師を集めて担当させることならできるかと。実際ここに来てる私以外の技師って、彼らの専門って別の機器だったりするんですよ。
 ですから彼らの専門的な機材の取り扱いができるなら、私達のモチベあがりますし、実地研修にもなって会社にも話を取り付けやすいかもしれませんね。」

 思わぬアイデアに乗り気な提督と明石。明石は三戸に感謝を伝えた。
「ありがとうね、君。さすが男の子だね! こういう機械いじりとか、コッチ方面もしかして好き?」
「あ……はい! わりといろいろと好きです!」
 那珂・三千花・和子の3人は、そう言う三戸の視線が明石の首から下の体のボリュームのある部位を泳いでいるであろうことが容易に想像できたので、左右後ろから鋭い視線を送りつけておいた。が、三戸はそんな視線なぞ気にしていない。大人の女性がいたので少々舞い上がり気味なのだ。

 明石はゆったりした作業着にもかかわらず膨らみを隠し切れていない自身の胸が、目の前の青年に対する武器になっていることなぞ微塵も意識していなかった。色気よりも食い気(技術や機械)。そのたぐいに興味がありそうな人には純粋に迫ろうとするのが、鎮守府Aの明石担当、明石奈緒であった。
「そっか! 就職するときはぜひうちの会社に……」
「コラコラ。こんなところで無関係な青年を勧誘しないでくれ。」

 提督は説明が脱線している明石を諌めて元に戻させた。三戸がニヤケ顔で那珂や三千花らのほうに戻ると、やっとこの段階で鋭い視線が激しく突き刺さってきて気まずさを感じ取った。
「提案したところまではよかったんだけどね……」
「三戸君はああいう大人の女性が好きなのか~そうかそうか~」
 鋭い視線のあとに続いたのは、三千花と那珂からの嫌味混じりの言葉だった。

見学(出撃デモ)

見学(出撃デモ)

「……ということで、工廠の案内を終わりたいと思います。○○高校の皆さん、お疲れ様でした。服や頭は入り口でさっとホコリを払って行ってくださいね。そのままだと汚れちゃいますよ。」
 明石からの工廠の説明が終わった。このあとはどこへ行くのか三千花らが楽しみにして待っていると、提督は明石と何かを話し始めた。二人は時々視線を那珂のほうへ向けている。那珂はその視線に気づくと?を頭に浮かべた。那珂本人にも何が始まるのかわかっていない。
 明石と話し終わった提督が口を開いた。
「さて、次は訓練施設と出撃用水路を見ていただきます。まずは出撃用水路から行こうか。」
 そう言い終わると、提督は那珂に向かって言葉を続ける。


「じゃあ那珂。出撃してくれ。」



「……へっ!? 今!?」
「そう。今。」
 口を開けてポカーンとする那珂。提督は一言で肯定し、そんな那珂の表情を気にも留めない。
「き、聞いてないよー!!」
「そりゃ、君には話してなかったし。」
「うう~ずるい~! ひどいよ提督ぅ~!」

 事前に教えてもらっていなかった突然の出撃の指示に不満ブーブー垂れてぐずる那珂。その不満を見透かしていたのか、提督は那珂をうまく言いくるめる。
「何言ってんだ。今後はもしかしたら緊急の出撃だってありうるかもしれないんだぞ?その時のための練習練習。あと学校のみんなにかっこいい出撃を見せるいい機会じゃないか。」
 ニヤニヤしながら指を指して言う提督の説得にノって、三千花や書記の二人も追い打ちをかける。

「そうよなみえ。あなたの出撃見せてよ。」
「そうっすよ!会長のかっこいい出撃みたいっす!」
「会長、これもちゃんと録画しておきますので、頑張ってください!」
 そんな三人と提督をジト目で睨む那珂。提督と明石は学校の三人に輪をかけてニヤニヤしている。こいつら図りやがってゆるせね~という心中な那珂だったが、出撃シーンは確かにいい報告材料になるだろうと考えて無理やり自分を納得させることにした。

「わかった~わかりました!やりますよやればいいんでしょ~。」
「じゃ、那珂ちゃん。こっち来て艤装つけましょ~。あ、学校の皆さん、艤装身に付けるところも撮影しておいたほうがいいですよ。」
 明石は那珂を工廠へ再び入るよう促し、那珂はそれについて行った。


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 工廠の一角で那珂が艤装をつけ始めた。その様子を書記の三戸と和子はタブレットとデジカメでそれぞれ撮影をする。
「うぅ~……。なんか見られたらいけない部分撮られてるみたいで恥ずかしいなぁ~。アイドルの裏っかわって撮られるもんじゃないっておばあちゃんも言ってたぞ~」
「頑張れ、未来の艦隊のアイドルさん。」
 以前那珂が言っていた艦隊アイドルにわざと触れて提督がからかうと、那珂はプリプリ怒って恥ずかしがる。

 珍しく素で恥ずかしがっている親友の様子を目の当たりにした三千花は提督のそばに行って提督に打ち明ける。
「なみえの本気で恥ずかしがるところ、久々に見ましたよ。西脇提督、あの娘の今の様子結構貴重ですよ~。」
「ははっ。そうなのか。じゃあ俺はじっくりネットリと眺めておこうかな?」
「提督さんも好きですね~」
 肘で提督の腕をつっついてお互い笑い合う提督と三千花。そんな二人の様子に気づいた那珂はグッと睨みつけたが、二人はそんな視線は気にも留めない。那珂は諦めて本気でため息をつきつつ、艤装の装着を続ける。

 数分後、那珂は艤装の装着が完了した。艤装を身につけた那珂に三千花が質問する。
「ねぇ、艤装って重くないの?」
「ううん。そんなに重くないよ。那珂の艤装は制服以外で外側で身に付ける物少ないからね~。」
 装着した本人に続き、明石が補足説明をする。 
「艤装はね、担当の艦によって形も大きさもまちまちなの。那珂ちゃんの艤装は、軽巡洋艦の艦娘の艤装の中でも、とにかく身軽さ・細かい作業ができるよう行動力重視で作られているのよ。その分防御が弱いけどバリアを出力する受信チップは多めだし、今のところうちの那珂ちゃんならそれを補って余りある性能発揮して活躍できてるし、ベストフィットしてると思いますよ。」

 那珂の艤装は見るからに重量ありそうな白露型(五月雨以前)と違い、その制服も艤装の一部とされているため、外部ユニットたる機器が少ない。そのためいざというときに身代わりにできる外装が少なくベースの防御性能が低い。その分装着者の身体能力をフルサポートして自由に動いて活動しやすく設計されている。奇抜な動きをすることのある那珂にとってはふさわしい艤装と制服なのだ。

「へぇ~そうなんだ。普段と何が違うの?」
 と三千花が那珂の肩や腕に触れる。それに続いて和子も那珂の腕や腰、腰に付いている魚雷発射管に触る。(三戸はさすがに触れるのをためらった)
「今は同調してないから普段のあたしそのままだよ。だけど同調始めると、あたしはスーパーガールになるのだ~」
 両腕でガッツポーズをする那珂。那珂と三千花がふざけあっていると、ここでもやはり明石が補足説明をする。
「3人とも。那珂ちゃんが同調始めたら彼女にうかつに触れちゃダメです。那珂ちゃんや川内っていう姉妹艦の制服含めた艤装はね、ほぼ全身電磁バリアで身を固めるから、素肌以外のところ触ったらダメ。本人が意図的に機能をオフにしてくれないかぎりは本当に危ないからね。あと、装着者本人の腕力や脚力も大幅にアップするから、同調し始めたら周囲に気を配るよう、注意しています。」

 明石の言葉には真剣味がある。本当に危ないのだと、三千花らはその空気だけでも艤装の取り扱いの注意具合を感じられた。
「とはいえ今日はデモンストレーションなので、電磁バリア関係はこちらで機能をオフにしちゃいます。だから安心して那珂ちゃんにペタペタ触ってもいいですよ。」
 明石の一言にホッとする三千花ら。

「じゃ、那珂ちゃん。出撃行ってみようか。今日はどうする?屋内からやる?それとも外からする?」
「撮影してもらいたいので、今日は外の水路から行ってみま~す。」

 出撃用水路は2段式になっている。艤装が運び出せるくらいの重さなら自力で運び、外の出撃用水路の脇で艤装を身につけ同調開始して水路から海へと出て行く。それ以外の大きさやその他条件によっては、工廠の中にある屋内の出撃用水路から出られるようになっている。艤装を外まで運び出さずともクレーンで運ばれてくる艤装を一人ひとり順番に身につけていくことにより流れ作業で連続してスムーズな出撃に臨める。ただ、厳密な条件分けではなく、あくまでも目安である。
 水路は全部で3つ。屋内と屋外は別々というわけではなく、すべてつながっている。そして3つの水路は小さな湾へと流れ出て、さらには川へと出て、最終的には海へと流れていく。

 一行は工廠の最南の扉から出て外の出撃用水路に向かう。
「結構軽やかに歩くのね。」
 三千花は那珂が思ったより軽やかに歩く様を見て感想を述べた。
「あたしはね。けどさっき会った時雨ちゃんや夕立ちゃん、もう一人村雨っていう娘は、駆逐艦っていって、あたしとは種類が違うんだ。その娘たちの艤装はかなり大きいの。だから時雨ちゃんたちは同調して周りに気をつけて歩いて外の水路に行くか、屋内で艤装装備させてもらって出撃するの。そのままでも歩けないこともないみたいだけど、中学生の力じゃ同調してないと相当つらいみたい。」
 那珂は艦娘たちの出撃時の苦労を語る。三千花はそれを聞いてふぅんと、艦娘になる人たちって大変なのねとさらなる感想を口にした。


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 外の出撃用水路に着いた那珂は水路の脇のスロープから降りていく。スロープの先には水路、小型の湾へとすぐに流れ出る。スロープから足を出す前に那珂は同調を始めた。三千花らは一体いつ同調するのかワクワクしながら待っていた。傍から見ると、艦娘が同調し始めたかどうかはわからないので三千花らは全く気づいていない。
 那珂は三千花らがきっとわからないだろうと察して、足を水路に浮かべる直前に上に向かって手を振って叫んだ。

「みっちゃーん、みんな~! もう同調し始めたから、水に足をつけまーす! スロープ途中まで降りてきていいから、ちゃんと撮影してねー!」
「え?もう同調してるの? ……全然わからなかったわよ!」
 少しだけ文句を言いながら、三千花ら3人はスロープを降りて途中まで進んだ。那珂とは1m弱離れている。

 近くのスピーカーから明石の声が発せられた。
「第一水路、艤装装着者、ゲート、オールグリーン。軽巡洋艦那珂、それでは発進して下さい。」
 そのあと、提督の声も響いてきた。
「軽巡那珂、暁の水平線に勝利を。」
 那珂も真面目にその言葉を反芻する。
「暁の水平線に勝利を。」
 それは、鎮守府Aでは出撃時にたまに言われる、いわば旅の安全を祈る行為と同様のものである。掛け声をかけるのは何も提督に限ったことではなく、気になる人がいればその都度誰かがする流れである。

 那珂の足元に、波紋が立ち始める。ボートなどでモーターのあたりでよく見る波紋だ。波紋がある程度湧き上がったあと、それらはすべて静かに消え去った。すると那珂は水面をまるでアイススケートをするかのようにスイ~っと進み始めた。三千花らにとって(一般人や艦娘自体も)その仕組みはわからないが、その艤装が人間を船なしで海上を自在に移動させる素晴らしい機械なのだと改めて思い知った瞬間だった。

「もっとすごい出撃かと思ったけど、これはこれで不思議な感じで感動だ……」
 三戸は目を輝かせて、そのすべてをデジカメで撮影し続ける。
「会長、スケート選手みたいで素敵です。」
 和子は頬を少し赤らめて羨望の眼差しで那珂を見ている。
 やがてスロープのところからは那珂が見えなくなったので三千花は見える場所に行こうと二人を促して駆け出す。3人はスロープを上がりきると、工廠のほうとは逆の海に向かって水路沿いを走っていき、工廠の敷地を出て那珂が見える位置にたどり着いた。

「お~い!みっちゃーん!」
 水路を出て海岸線から少し離れたところで那珂は三千花たちに手を振った直後、思い切りしゃがんで力を溜めるような仕草をして、そして掛け声とともに飛び上がった。

「う~~~てりゃーーー!!」

 艤装との同調により脚力も向上していた彼女は常人よりも、しかも常識で考えれば人間がジャンプすることなどありえない海面からジャンプした。その跳躍力と高さに、三千花たちはみな那珂のいる空中に向けて首を引いて見上げる。

「は、ははは……会長すげぇや。なんだあれ。」
「あんなに高くジャンプするなんて……普通の人間では考えられませんね……。」
「ちょっとなみえったら、いくら艦娘になってるからってはしゃぎ過ぎのレベルを超えてるわよ……。」
 三戸、和子、そして三千花は目の前で行われた艦娘らしいアクションその2を見て、呆れと感心が混じった感情を持って感想を口にしあった。
 そして那珂はゆっくり、そして少しずつ加速して海面に勢い良く着水した。

「あ、会長パンツ丸見えだわ~~」
 何気なく三戸がつぶやいたその一言に素早く反応した三千花と和子はギロリと睨みつけた。
「っと思ったけど見てません見てませんー」
 三千花ははぁ……と溜息を一つつき、那珂に向かって大声で注意した。
「ちょっとーーーー!!なみえーーー!!あんたの見えてるわよーーーー!ここからだとーーー!」
 あえて何が、というのは友人の名誉のためにも三千花は言うのをやめておいた。着水して方向転換した那珂は三千花の言うことがわからなかったのでそのままサラリと流すことにした。そのため那珂の本日の下着は、三千花・和子・三戸など、極々一部の秘密となった。

 三千花らが工廠とは逆の海沿いの道路脇に姿を表したのを確認し、那珂はスィ~と小船かサーフィンように近寄り三千花らに手を振った。お返しにと三千花、三戸、和子の3人も手を振り返し、三戸と和子は手に持っていたデジカメやタブレットを掲げて撮影しているという意思表示をする。
 3人のうしろにはいつの間にか提督と明石も来ていた。
「さ、存分に撮影してくれ。彼女が艦娘の正しい知識を普及するための礎になるなら俺にとっても、彼女にとっても願ってもないことのはずだ。」
 そう言って提督が指さした先にいる少女の水上移動とその立ち居振る舞いはそのすべてが優雅で美しく、その場にいた全員にとってその少女が夢見たアイドルそのもの、注目を浴びるにふさわしい存在に見えた。
 


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 その後、三千花らは那珂にポーズをとらせたり、ある程度の距離を移動してもらいその様を撮影した。

「いや~艦娘ってすごいわ。知ってる人がやってるだけに感動も倍増っすわ。」
 三戸が素直な感想を口にする。それに和子と三千花も頷く。
 提督が3人の真後ろまできて、自身の感想を述べた。
「そうだろ。俺もさ、五月雨っていう艦娘の初めての出撃の様子や深海凄艦との戦いの様子を見た時感動したよ。ただそれと同時に、あんな化け物と戦うことになる人達を自分が果たしてまとめ上げることができるのか、不安も感じたね。」

 言葉の途中で表情を暗くする提督。三千花らは、身近な大人がふと漏らした不安を耳にして、その方向を振り向く。
「俺にとってはさ、艦娘っていうのは特別な存在じゃなくて、ともに過ごす・戦う仲間として考えたいんだ。もし他の鎮守府のように本当の軍よろしく俺が上官で、艦娘をただ戦わせるだけの部下というふうに捉えたらきっと俺は何もできなくなってしまうと思う。もちろん戦うのに統率力は必要だ。けど俺にはまだまだ力も理解も足りない。正直、俺は本業の会社で別にリーダーやったこともなく平々凡々に過ごしてきた会社員でさ。人をまとめ上げるというのがわからないし、組織を運用することの実感がないんだ。33のいい年こいたおっさんだけど、まだまだ学ばないといけないことだらけさ。」
 三千花らは黙って提督の言葉に耳を傾け続けた。

「ところで君たち、江戸時代にあった、○○○って組知ってるかな?」
 唐突に関係ないことを聞かれて三千花らは?と思ったが、とりあえず提督の質問に答えた。
「はい。日本史の授業で習ったことあります。」

 三千花らが知っていることを確認すると提督は続けた。
「身分に関係なく、志ある者は誰でも同志として扱う。その分それ相応の覚悟を決めなければいけなくて内情は賛否両論あったらしいけど、統率が取れてて当時かなり実用的な組織だったそうだ。俺はそういうのに憧れてね。光主さんを含め、五月雨や時雨たち、明石さんや他の艦娘ら、そしてこれから入ってくる人たちを、志あれば等しく共に戦っていく仲間として迎え入れたい。ただ年齢差や経験はどうしようもないから、時には娘みたいに、時には友人、時には妹や姉、そして人生の師のように、その人との関係性をなるべく大事にして接していきながら、この大事業をともに乗り切りたい。けれどもその人の生活があるから、まずは普段の生活を第一に大切にさせる。その上で海や世界を守りたいという志ある人なら、少なくともうちの鎮守府では誰でも運用に携われるようにしたい。みんなでこの鎮守府を運用して戦っていきたいんだ。」

「「「提督……」」」
「このこと、那珂や他の艦娘たちには内緒で頼むよ。」
 またしても熱く語ってしまった事に気づき、提督は恥ずかしそうにもこめかみ辺りを掻くのだった。

 提督から思いを聞かされた三千花は、自身が今まで見知った艦娘の世界のことを思い出しつつ、その内容と提督からの話を頭の中で照らしあわせていた。

 雑誌で紹介されている艦娘たちはみな華やかで多くの人の目に留まりやすい。未だ侵攻続く世界の海を荒らす化け物を倒すために戦う艦娘たちは強くて可愛いあるいは美しい存在として興味惹かれている。ただ大多数の一般人にとってみれば、自分たちには関係ない世界での話・テレビに映るアイドルや俳優のような手の届かない存在だという扱いに近いのが現実である。しかも芸能人などのように一般的に考えて怪我や死亡事故のような危険性が低い現場ではない。表向きに知られる憧れだけでその思いを終始させる人がほとんどなのだ。結局のところ、現実味がないという一言で片付く存在なのだ。
 しかしその裏では、こうした大人たちが彼女たちのために環境を整え、見えない部分を必死になって支えている。裏を知ると途端に見方が変化するのは艦娘界隈でも同じである。

 戦っているのは艦娘だけではなかったのだと、三千花らはそれらを少し理解できてきた。

 世の常で、中にはふんぞり返って堕落した末に艦娘たちに手を出す提督、ブラック企業のような運用をして艦娘をこき使うをする提督もいる。しかしこの提督はきっと違うと三千花は感じた。初めて会って間もないにもかかわらず、心の中を三千花たちにさらすほどの馬鹿正直な誠実さを持つ人、西脇提督。普通の人達が艦娘になるように、彼もまたいきなり提督になった普通の人だった。

 三千花らは、この大人も自分たちと同じく悩んで試行錯誤して日々を過ごしているのだなと、身近に感じ始めていた。特に三千花は、あの出来る親友の琴線に触れる何かがこの大人の男性にある。だからこそ、親友はこの西脇提督という人を助けて尽くそうという気持ちになっているのだろう、きっと目の前の男性には那美恵が必要で、那美恵にも西脇提督が必要なのだと想像した。
 生徒会の面々も、その度合は違えど少なからず近い気持ちを抱き始めていた。

 しかし三千花には不安もあった。
 現実的に考えて、ただの高校生である自分たちがこの大事業に本当に貢献できるのか。また、貢献するだけの価値や将来性はあるのか。西脇提督に、親友を本当に託してもいいのか。
 三千花の心にあるのは、友人那美恵のために何かをすること。祖母が偉大だった那美恵は昔からとにかく無茶をした。偉大な祖母と父親に鍛えられたおかげで、那美恵はその無茶をそのたびに切り抜け、新たな世界を築き上げてきた。そして側には必ず三千花がついていた。だから三千花は那美恵の能力も無茶も限界も把握していた。

 三千花が自分の立場としてできるのは、学校から艦娘を提供できる環境を作るよう学校に働きかけること、それに協力することだ。自分が艦娘になろうという思いもないわけではないが、那美恵が艦娘部の存在を生徒会メンバーと切り離して作ることを考えていることは明白だった。その先に続くのは、新たなつながりなのだ。
 それゆえ三千花ら自身が艦娘本人になるわけにはいかない。親友を支える立場に徹する。結果的に艦娘と深海棲艦の戦いという大事業に貢献することができれば十分なのだ。三千花はそう思った。
 すべては親友である那美恵のため、というのが大前提であった。

((私にできるのは、どのような形になったとしても、なみえを信じて協力するだけ))


「おーいみっちゃーん!みんな~! そろそろ上がっていーい?」
「えぇ!いいわよ~! ありがとー!色々堪能したわ~!」
「えへへ~」
 左手で頭の後ろを掻いてにこやかに笑った後、那珂は元来た水路に入った。明石は彼女の艤装解除を手伝うために駆けて行って工廠に戻った。上がるために外の水路ではなく、那珂はそのまま水路を進んで工廠の中に入っていった。それを歩きながら見届けた三千花らは少し歩幅を広く歩いて工廠の入り口へと急いだ。

五月雨と村雨、到着

五月雨と村雨、到着

 3人が工廠の前まで戻ってくると、そこには長い髪の少女がぽつんと立っていた。誰かを待っている様子が伺えた。お互いに気づいた当人たちは、特に言葉を発するわけでもなく軽く会釈をする。
 3人の後ろから来た提督に気づくと、その少女はまっしぐらに提督に駆け寄ってやっと声を出した。

「あの、提督! 遅くなってゴメンなさい!」
「あぁいやいや、大丈夫。それよりも自分の用事はもう大丈夫なのかい、五月雨?」
「はい!今日は私や真純ちゃんのクラスが体育館とかの掃除担当だったので……。でもちゃんと終わらせてきたので!」
「そうか。ご苦労様。」
 提督はそう言ってねぎらいの言葉をかけながら五月雨の頭を軽く撫でた。五月雨は知らない3人がいたので恥ずかしげにしながらもニンマリと喜びを顔に浮かばせる。

「紹介しよう。こちら、光主さんと同じ高校の生徒会の皆さんだ。さ、自己紹介を。」
 促された五月雨は改めて三千花らに向いて自己紹介をし始めた。
「あの! 五月雨っていいます。鎮守府Aの秘書艦です。」
「五月雨、自己紹介はもうちょっと詳しくしようか。」
「え?あ……はい。」
 提督から指示を受けた五月雨は三千花らの方に向き直して自己紹介を続けた。
「早川皐月っていいます。○○中学校の2年生です。実はですね、私この鎮守府の一番最初の艦娘なんです!それでですね!うちには私と同じ学校からなんと! 3人も艦娘になっていましてですね!それというのが……」
 ついでに仲間の紹介をしようとしたが、その前に三千花が正解を言ってしまった。
「あ、知ってるよ。時雨ちゃんと夕音ちゃんでしょ?」
「俺達、来る途中に会って一緒にきたんすよ。」

「え……そうだったんですかぁー。」
 自慢気に友人を紹介しようとしたがすでに知られていたため顔を赤らめたのち、シュンと凹む五月雨であった。
 三千花らと五月雨が自己紹介しあっているうちに工廠から那珂と明石が出てきた。五月雨が出勤してきているのに気づいた那珂は時雨のときと同様に駆けて行って彼女の手を掴んでブンブン大きく振って挨拶をする。
「あのぅ、那珂さん。もしかして……見学ほとんど終わっちゃいました?」
 五月雨はおそるおそる今の状況を那珂に尋ねた。
「大体ねー。まーでもここからは五月雨ちゃんも一緒にいこ?」
 下手に包み隠さず正直に言ってしまうと五月雨が凹むと思い、続きがあることを匂わせつつのフォローをした。那珂の気づかいを理解しているのかいないのか五月雨は普段どおり元気よく返した。
「はい!よろしくお願いします!私、頑張っちゃいますから!」
 
 那珂と五月雨の掛け合いを見ていた三千花は、清純そうな容姿にぽわ~っとした雰囲気、そして挙動にいちいちドジっ子臭のするその様に、来る前に那美恵が言っていた言葉を思い出していた。
 友人のあの様子を見ると、女同士だけどあれは惚れる。いや、惚れるというよりも母性本能というか姉ごころ、言い換えれば妹萌えのような感情を掻き立てられるそんな娘だわ。あとで那美恵に土下座なりして謝りたい。
 そんなことが三千花の頭の片隅に浮かんだ。

 那珂や三千花らが様々な反応を見せつつ小休止がてらおしゃべりしている中、提督は再び明石と何かを話し始めた。五月雨はそれに気がついて、提督のそばにチョコンと立って静かに話を聴き始めた。
 その後、五月雨からえー!?という間の抜けた悲鳴が飛び出して那珂たちの耳に飛び込んできた。何事かと聞き耳を立てる那珂。あと残すは訓練施設だけなので、そこに関することだろうと思っていたところ、それは正解だった。
 提督から発せられた言葉は那珂と五月雨をまたも驚かす。

「見学の最後として、ちょうどここに艦娘が二人揃ったことだし、○○高校のみなさんにはぜひとも艦娘たちの演習試合を見ていただこうと思います。」
 そういう提督のそばでは若干涙目になっている五月雨が那珂に視線を送った。那珂は五月雨の視線を見て?を頭に浮かべ続けている。そんな五月雨をよそに提督は言葉を続ける。
「本当なら団体戦でやったほうが見応えがあるんだけど、なかなかどうして、五月雨も意外と根性ある娘でね、那珂と五月雨ならきっと皆さんの参考になる試合になると思います。」
「あの……提督。せめてますm…村雨ちゃんも連れてきていいですか? 私一人で那珂さんとは……。」
 提督は不安がる五月雨の提案を聞き入れることにし、本館にいる村雨を呼び出した。


--

 数分後、工廠に村雨が姿を現した。
「ねぇ提督さぁん。本館に時雨たちの姿が見えないんですけど?」
「ん?あぁ。俺たちがほかを見学してる間に出撃したんだろう。」
「そうですかぁ。あと本館今誰もいないんですけどまずくないですかぁ? 今日は妙高さんも出勤してきてないようですし。」
 そう村雨が言った妙高は、鎮守府Aの唯一の重巡洋艦の艦娘である。那珂は偶然にも会うタイミングがなかったのでどういう人なのかわからずじまいでこの2ヶ月経っていた。

「あ!そうか。そりゃまずいな。」
 村雨から本館の様子を聞いた提督は顔を明石のほうに向ける。
「明石さん。このあとの演習試合の段取りとかお願いできるかな? 俺本館に戻ってなきゃいけないからさ。」
「はい。任されました。こっちは私が仕切っておきますからお戻りになられて結構ですよ。」
「ありがとう。……それじゃあみなさん。演習試合が終わったら本館に戻ってきて下さい。それで俺から最後の説明と質疑応答で、見学を終わりたいと思います。」
「「「「はい。」」」」

 挨拶もほとほどに、提督は人が誰も居ない状態の本館に駆け足で戻っていった。その様子を那珂ら7人は眺めていた。

「で、私なんで呼ばれたんですかぁ?」
 当然の質問を誰へともなしに投げかける村雨。それに五月雨が答えた。
「あのね真純ちゃん。これから那珂さんと演習することになったの。私と組んでくれないかなぁ?」
「え゛、 今から!?  また急ねぇ……。いいわよ。協力したげる。」
 驚いたが、さすがに五月雨一人で那珂と戦わせるのも酷だと思い、村雨はニコッと笑ってOKを出した。友達が快く承諾してくれたので五月雨は胸元に手を当ててホッと一安心する。その様子を見て明石が音頭を取り始めた。

「村雨ちゃんも了承したということで、じゃあ3人とも。艤装付けて演習場に行って下さい。」
「「「はい。」」」
 明石を先頭に那珂・五月雨・村雨は工廠に入っていった。それに続いて三千花らもついていった。

見学(演習)

見学(演習)

 訓練施設はおもに演習用のプールが大半を占めており、開閉する可動型の壁で仕切られた隣には空母艦娘用の艦載機の発射練習場がある。この2つはすべての鎮守府に設置が義務付けられており、鎮守府Aでも所属人数や本館の大きさに似合わぬしっかりとした設備が用意されている。
 ……が、艦載機の発射練習場は工事中である。また、鎮守府Aでは通常の演習用プールと空母艦娘用の施設は共用であり、壁を外せば一つの巨大なプールとなる。最優先に建設されたのは通常の演習用プール側だ。
 演習用プールは出撃用水路と同様に、工廠あるいは外から演習用水路が用意されている。演習する者はその水路から発進してプールへと入る。これは義務ではなく、あくまで出撃時と同様の雰囲気を味わうための設備であって、艤装が持ち運べる艦娘であれば、直接に演習用プールに行ってもかまわないことになっている。

 再び工廠に入って再び艤装を装着する那珂と、その日初めて艤装を装着する五月雨と村雨。那珂は一度外した艤装をまた装着しなければいけないその段取りの悪さにやや不満を抱いていた。
「またつけなきゃいけないのかぁ~。ねぇ明石さん。どうせ艤装つけなきゃいけないならさっき艤装外す前に言ってよ~。」
「ゴメンねー。提督とも演習しようねって前に話してたんだけど、相手をどうするかまでは決めてなくてね。とりあえず五月雨ちゃんにとしたんだけど。まぁその場で決めたからちょっと段取り悪くなっちゃったわね。」
 正直に言って謝る明石。
「私達こそゴメンなさい……。ホントならもっと早く来て提督と打ち合わせできてればよかったんですけど学校の用事があったので。それに私も本当にやるとは思ってなくて気が抜けてました~。」
 別に五月雨のせいだとは誰も思っていなかったが、五月雨が謝ってきたことで全員苦笑するしかなかった。
「ま、いいよいいよ。」
 艤装の装着がいち早く終わった那珂は五月雨を慰め代わりの一言をかけた。そしてこれから始める演習に対して五月雨たちに発破をかけた。
「さぁ、やるからにはうちの学校の人たちにちゃんと見せられる演習にしないとね。本気であたしにかかってきていいからね。」
 続いて艤装の装着が終わった五月雨・村雨も意気込みを見せた。
「はい!よろしくお願いします!」
「はい!負けませんよぉ~」



--

 那珂たちは演習用プールに向かって専用レーンの水路から発進した。それを見届けたあと、明石と三千花ら4人は訓練施設に正規の入り口から入り、観客席のような感じになっているプールの脇のスペースへと入った。そことプールとの間には少し高めの仕切りがあり、明確にエリアが分けられている。プールは本格的な戦闘訓練にも対応可能にするため、一般的な50mプールには届かないが近い広さで作られている。(ただし鎮守府Aの演習用プールは空母艦娘用の訓練設備と共用のため単独では25mプールほどしかない)

 プールに浮かぶ3人が端にいる三千花ら3人を確認する。明石はそのスペースからプールサイドへと上がり、那珂たちに向かって合図をした。

「じゃあ3人とも。準備はいいかな?」
「「「はい。」」」
「今回はわかりやすくするために特別ルールです。少しでもペイントがついたらその人は轟沈ね。小破判定も、中破判定も一切なしだから、艤装の健康状態の表示は無視してね。」

 明石が今回の演習についてルール説明をした。通常の演習はペイント弾の付き具合によって小破・中破・大破を判定する。ペイント弾の特殊な染料により、艤装の健康状態が擬似的に変化するような電磁バリア代わりのチップを衣類に取り付けることになっている。
 那珂たちはその特別なチップを今回もつけてはいるが、素人の見学者にわかりやすくするため、また通常の演習だと平気で20~30分経ってしまうため長々とやらずにすませるために、明石は特別ルールをその場で決めた。

 その説明を聞いて那珂・五月雨・村雨はそれぞれ異なる思いを述べる。
「一撃必殺ってことかぁ~明石さんまーたすんごいルール決めるなぁ~。まーでも面白いからいっか。」
 後頭部をポリポリ掻きながら那珂。
「ふぇ~ん!あたし絶対すぐに当たっちゃうよ~。真純ちゃん、先に負けたらゴメンね~。」
始まる前からすでに負ける気マンマンの弱気な五月雨。そんな友人を鼓舞するように村雨はフォローする。
「まだ始まってないのにやめてよー。きっと意外に勝てたりするわよ。なんとかなるから頑張りましょ?」

 3人とも異なるタイミングで深呼吸をした。開始前のおしゃべりが終わって一拍過ぎたことを確認し、明石は振り上げた手を、叫びながら下ろした。


「それでは始め!!」


 合図をしたあと、明石はすぐさまプールサイドから降りてプール脇のスペースに戻って三千花らに解説をし始めた。

「あのぅ、明石さん。この演習って本当に弾撃つんですか?危なくないんですか?」
 初めて見る者ならば抱く当然の質問を三千花がした。それに対して明石は首を横に振って答えて三千花らを安心させる。
「いいえ。演習で使うのは専用のペイント弾なの。実弾ではないから安心してくださいね。でも実際の砲雷撃の影響範囲がわかるように、ペイント弾の中のペイントは飛び散る範囲をシミュレーションして設計されているの。だから万が一こっちに飛んできちゃっても最悪服が汚れるだけで、怪我はしません。」

 明石の説明をメモに取る書記の二人をよそに三千花はさらに質問をした。それは親友を心配した言葉だった。
「2対1なんてなみえは勝てるんでしょうか?」
「どうかな? 一瞬で勝つかもしれないし、負けちゃうかもしれません。今回は特別ルールで、少しでもペイントがついたら負けというようにしていますから、あなた達から見たらもしかすると拍子抜けするかもしれませんね。ただ実際の深海凄艦との戦いって、いろんな条件によるから、こういったルールをたまに設けてやったりするんです。」
 明石の談で、勝負はおそらく一瞬で決まると聞いた三千花ら。そう聞いたので一切目を離すことなく、那珂となっている親友を見続けることにした。少し遠いので表情はわかりづらいが、真剣な顔になっていることが容易に想像できた。


--

 那珂はゆっくりと片手を水平に上げて腕に取り付けられている連装砲を五月雨たちのほうに向けた。まだ撃つ気はない。五月雨たちも手で持っている単装砲を那珂の方に向ける。対峙した状態でそのまま撃てば、両者ともペイントが付く未来が容易に想像されるが、3人共そんな安易な演習を展開する気はない。
 那珂はゆっくりと右手に進む。視線と腕は五月雨と村雨の方に向けたまま。それに追随して五月雨と村雨も那珂のほうに単装砲を向けたまま方向転換し始める。一番離れている村雨は五月雨と横並びになるように少し長めに移動した。

((さーて、どうしようかなぁ。とりあえず連装砲同時に撃って二人の次の動きを見るかなぁ?五月雨ちゃんにはあたしの戦略や考え方を前々から少し教えてるから、対処されちゃうかな?))

 一方の五月雨は次のように考えていた。
((那珂さんのことだから、きっと突飛なことをしてくるはず! 普通に考えてたらきっとすぐ負けちゃうなぁ。どーしよ……))

 五月雨は小声で村雨に動きの指示を出す。
「村雨ちゃん、全速力で横にうんと離れて。違う方向からそれぞれ撃てば、那珂さんだって同時に対処できないはず。」
「……わかったわ。」
「じゃあ……いこ!」

 那珂がとりあえずの砲撃をするより前に五月雨と村雨は動き出した。五月雨の合図とともにそれぞれ違う方向に進み、村雨は大きく那珂の背後に回るかのように速力を上げて水上を進む。五月雨はほんの少し動いたあとに単装砲で那珂を狙って撃った。


ドゥ!!


 那珂は村雨の方を見ながら、二人の間にできた大きなスペースに向かって姿勢を低くし五月雨の砲撃をすんでのところで交わしながら急速にダッシュしはじめた。その際、両腕を五月雨と村雨それぞれの方向に伸ばし、各腕についている連装砲と単装砲を同時に別々の方向めがけて砲撃をしていた。

ドン!ドン!
ドパン!!

 自身が撃ったあとに那珂の腕の動きをまったく予想していなかった五月雨は、かわさなければと頭が働いて体を動かそうとしたが、その前にすぐにペイント弾が当たって、制服にベットリと付着していた。身体が仮にすぐに動けたとしても、五月雨の性格では那珂のトリッキーな動きは到底対処できなかった。

 川内型の艤装による攻撃はその他の艦娘にとって対処しづらい。それは那珂が装備する連装砲、単装砲は制服の腕部分、グローブカバーに直接取り付けるタイプで、手に持つわけではないからだ。トリガーはグローブカバーの手のひらに存在する。実際に装着者が撃つときは手のひらにある任意の指を曲げてトリガーたるスイッチを押し、最後に親指の付け根にあるメインスイッチを押せばグローブに取り付けられた装砲が火を噴く。
 明らかに狙う行為が見える一般的な銃や艦娘の連装砲・単装砲とは違い、腕を動かすだけで狙う方向を自由に決められ、なおかつ引き金を引く仕草がわかりづらい。装着者にトリッキーな動きをされると、相手としては撃たれるタイミングがまったくわからなくなる。川内型の装備も、五月雨の判断を狂わせる材料だった。

 五月雨、轟沈。


「ごめーん!真純ちゃん!私もうやられちゃった~!」
 胸元をペイントで汚した五月雨がそう叫ぶと、離れたところから那珂を狙おうとしていた村雨は那珂からの砲撃を交わしながら呆れて返事をした。
「えぇ~!?さみ早すぎるわよ~!!」


 単装砲は那珂の方に向き、頭と首は五月雨のほうに向けて見ている村雨だったが、那珂の叫び声で視線を那珂のほうに戻した。
「村雨ちゃん!敵は目の前なんだよ!!」

 異常な速度で村雨に迫っていた那珂は村雨から2~3mのところまですでに迫っていた。左腕を体に沿うように前に突き出し、連装砲の砲筒を前に向け、右手はくの字にに折って体の側面にくっつけながらの接近である。
「ひっ!」
 ほとんど目の前に迫られて頭が真っ白になる村雨だったが、かろうじて単装砲の引き金だけは引くのを忘れなかった。

ドン!


 これなら当たる!そう村雨は確信した。


 が、みてもらうための演習とはいえ那珂は本気だった。速度があったので右足で海面を真横に蹴り上半身を少し左に傾けただけですぐに1m以上も左に避けることができた。その際前に出していた左腕は左に振り出し、村雨を狙うのはくの字に折った状態のまま前に付きだした右腕の単装砲に切り替わっていた。

ドゥ!!!


 那珂は村雨ら駆逐艦娘たちが撃った直後によくする硬直の間を狙った。狙われた本人たちはそんなことに全く気づいていなかったのである。そのため村雨の砲撃を避けながら那珂が撃った単装砲の砲撃は綺麗に村雨の胸元に当たり、村雨の学校の制服をペイントでベットリと汚していた。

 村雨も轟沈である。


 なお、那珂は避ける途中その行動が側転のようになっており、海面ギリギリで一回転する形になっていたため、水面に足から着水することができず思い切り右肩からプールに体を突っ込んでしまった。艦娘たちの艤装で浮力が効くのは足につけた艤装(一部は別の部位の艤装も)なので、それ以外の部分から水に入ると普通に沈む。
 水中に潜ってしまったあと、慌てて足を水底に向けて浮力を使って水面に飛び出して立つことができた。

 五月雨と村雨の体にペイントがついていることを確認した明石は合図を出して演習を終了させた。
「はい!それまで!」


--

 三千花らはあっけにとられていた。どういう戦いが繰り広げられるか楽しみにしていた。が、なんか気づいたらもう終わってた、という感覚である。

「あ、あの……明石さん?何が起こったのか私達全然わからなかったんですけど……?」と三千花。
「あー、早すぎてわからなかったですか? 私もさすがにここまで早く終わるとは思ってなかったです。那珂ちゃんほんっと強いな~。」
 さすがに早すぎて焦った明石は、プールサイドに出て那珂たちにルール変更を伝えた。
「ゴメーン、三人とも~! さすがに終わるの早すぎるー。ルールちょっと変更します。もうちょっと弾当たってもOKにします!」

 終わろうと明石達の近くのプールサイドに移動しかけていた那珂たちは顔を見合わせた後、それぞれ片手でOKサインを出してプールの中央に戻っていく。
「よかった~。私なんか宣言どおり真っ先にやられちゃいましたからね……。」
「でも実際私達リアルな戦闘だったら結構マジな致命傷よね~。それにさみはいいけど、私は学校の制服よごれちゃったわ!」
「あはは……あとで工廠で洗って乾燥機借りよ? 夕方までには乾くよ。」
「チャンス到来だね~二人とも。今度こそあたしをぜひとも撃破してね~。」
 中学生二人のやりとりを遮って那珂は挑発する。決して好戦的な性格の二人ではないが、余裕かましている那珂に対し少しイラッときてやる気を見せ始めた。
「さみ、こうなったら作戦なんてなしよ。那珂さんを絶対見返すんだから!」
「うん。もう何がなんでも当てよう!」


--

 その後展開された那珂vs五月雨・村雨の演習は、明石が決めたもう2~3発当たったらアウトのルールも早々に形骸化した、ほとんど通常の演習モードになっていた。つまり、ひたすらガンガン当たり、当てられの乱戦状態である。艤装の健康状態が、那珂たちのつけたスマートウェアの通知にガンガン伝わる。小破・中破と変化し、弾薬やエネルギー率も変化を見せるが戦っている当の本人たちはいちいち表示を見ていられない状況であった。繰り広げられていた演習は、三千花ら傍から見ても砲雷撃による戦いが繰り広げているということがわかりやすい展開だった。言い換えると、戦略なしの単純な押し合いだ。

 書記の二人はプールサイドに出て、デジカメとタブレットで撮影を再開した。わかりやすく面白い戦いになっていたので、近寄って全編録らないともったいないと感じていたのだ。
 一方で三千花は、最初こそかわしまくっていたが次第に色とりどりのペイントがついていく親友の姿を見て、心配の気持ちなぞどこかに捨て去っており、ケラケラ笑いながら楽しんで応援しながら見るようになっていた。
 明石は最初から変にルール決めずにやっておけばよかったなと、提督から任されて意気込んで演習を仕切ってはみたが、至らぬ部分があったのを反省していた。そして頃合いを見計らい、すでに勝敗がわからなくなった演習を止めることにした。

「はい!それまでー!それまでそれまでー! ストーップ!」

 やや興奮気味になって周りの声が聞こえなくなっていた那珂ら3人は、明石の叫びの最後の方でやっと気づいて動きを止めた。その時の姿は、顔から膝の辺りまで至るところペイントでベットリの状態である。
 ハァハァと息を荒くしている3人は、誰ともなしにクスクス、アハハと笑い始めた。そして明石や三千花らの待つプールサイドへと移動していった。
 すさまじい姿になっている3人を見て、明石は演習の終わりを仕切った。
「3人ともお疲れ様です。結局普通の演習になっちゃったね。段取り悪くてゴメンなさいね。」
「ううん!むしろこの方が楽しかったから問題な~し!」
そういう那珂の顔は口のあたりにペイントがついていて、若干しゃべりづらそうにしていた。

「お疲れ、なみえ。それに五月雨ちゃんに村雨ちゃん。」
三千花もねぎらいの言葉をかける。
「なんかスポーツやってみるみたいっすね。」
 三戸が素直な感想を述べる。すると和子も頷いて同意した。
「関係ない人から見ればそう見えるかもしれませんが、実際の深海凄艦との戦いはいろんなケースがありますから、こういう乱戦もたまにはアリなんです。……正直私の段取り悪かったですね。ゴメンなさい。」
 言い訳をしてはみたが、段取りの悪さはごまかせそうにない。そう悟った明石は正直に謝った。
「いえ、明石さん。そんなことないっすよ。明石さんが俺たちのために演習を再開してくれて参考になりましたし、結果オーライっす。」
「ありがとう~三戸君。そう言ってもらえると助かるわ。」
 謝る明石に対し、三戸は励ましの言葉をかけてフォローをする。そんな彼の心の中は、大人の女性を励ます俺カッコいい!だった。


--

 演習は終了した。再戦したために三千花ら生徒会メンバーにとって良い記録ができたのは確かで、三戸と和子が再生した画像や動画を全員で確認したところ、激しい砲撃音や艦娘たちの掛け声もしっかり録音されており、リアルな映像になっていた。那珂たち演習した3人はもちろんのこと、三千花ら生徒会メンバーとしても大満足の映像資料となった。

「じゃあ戻ろっか、五月雨ちゃん、村雨ちゃん。」
「「はい。」」
 演習用プールから水路に入り、一足先に工廠に戻る那珂ら3人。一方の三千花らは訓練施設の正規の出入り口から出て、別ルートで工廠の入り口まで戻ってきた。
 明石は艦娘たちの艤装解除を手伝いに工廠へと入る。しばらくして工廠の中から4人が姿を表した。その姿はすでに工廠内で洗浄した後であり、服こそまだ乾ききっていないが、ペイントは大半がすっかり落ちてそれなりに綺麗な容貌に戻っていた。

「ふー、さっぱり!」
「なんだか疲れちゃいました。ちょっと休みたいですね~。」
「考えたら私とさみは学校の掃除もやってきてるから疲れ倍増よぉ。」
 綺麗な格好になって工廠から出てきた3人を三千花らは出迎えた。
「おつかれ、なみえ。二人とも。」
「みっちゃーん!ありがとー」
「ちゃんと綺麗になってきたわね。さっきのままで出てきたらどうしようと思ったわよ。」
 まゆをさげて困り笑いをしながら那珂は返事をする。
「さすがにあのままだとねー。まだちょっと服が生乾きで気持ち悪いから早く着替えたいよ。」

 わざとらしく服を引っ張り、臭いを嗅ぐ仕草をする那珂。三千花や書記の二人はそれを見てクスクスと笑う。
「良い映像録れましたし、もう着替えてきていいのでは?」
 和子がそう提案すると、明石もそれに賛成した。
「あとは本館戻って提督のお話聞くだけですし、今日のお仕事なければいいと思いますよ。それから私はここでお別れです。皆さんお疲れ様でした!」


「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」

 一行は見学の最後の工程をこなすため、本館へと戻ることにした。なお明石は自社の仲間とともに通常業務に戻っていった。

幕間:見学(更衣室)

幕間:見学(更衣室)

 本館へと戻ってきた6人。那珂・五月雨・村雨は提督のところに行く前に着替えることにした。

「じゃあ私達着替えてきます。」
 五月雨と村雨は三千花らに会釈をして更衣室に向かっていった。
「そんなに急がないからのんびり着替えてきていいよ。」
 三千花がそう言うと、ふと那珂が言い出した。
「そーだみっちゃん。更衣室一緒に来ない?中を案内するよ?」
「いや、見てもいいけど、更衣室なんてどこも変わらないでしょ?」
「気分の問題だよ!それに新しい建物だから更衣室綺麗で使いやすいんだよ~。あ、和子ちゃんもどう?」

「いえ私は遠慮しておきます。私はメモや写真を整理しておきますので。」
「そ。」

 和子と那珂のやりとりを見た三戸はポツリと呟いた。
「会長、俺には聞いてくれないんすか?」
 その瞬間三戸以外の3人はジト目になって三戸を睨みつける。
「捕まってもいいならどーぞ~。」
 いつものちゃらけたノリで那珂は三戸に促すが、その言葉が軽いなんてもんじゃない鋭く突き刺さる刃物のように三戸には感じられたため、ブルブルッと頭を左右に振った。冗談でもそういうことをいうものじゃないと思い知った彼だった。
 那珂は三千花を連れて、更衣室へと本館の廊下を進んでいった。


--

 更衣室は2階の端にある。2階のフロアに上がると少し離れたところに五月雨と村雨がいたので、早足で進んで那珂と三千花は彼女らに合流した。

「あ、中村さん。どうされたんですか?」
「うん。なみえがどうしてもっていうし、せっかくだから代表で見学しにきたの。」

 ほどなくして更衣室についたので五月雨が開け、他の3人を先に入らせて最後に自らが入ってドアを締める。

 更衣室は12畳ほどの広さで、左右合わせて10人分のロッカーがまばらに並べられている。広さとロッカーの数は合っておらず、余白のほうが目立っている。入り口近くの一角にはリビングで使うようなテーブルと椅子がいくつか設置されている。メイクなど身の回りのことするための鏡もある。内装はおとなしめだが女性受けしそうなデザインである。

「ささ、みっちゃん、じっくり見学していってね。」
「って言われてもねぇ。とりあえずあんたたちが着替えるまで座って待ってるよ。」
 そう言って端にある椅子に三千花は座った。那珂・五月雨・村雨は三千花から離れて自分たちのそれぞれのロッカーのところに行き、制服を脱ぎ始める。
「じゃああたしも着替えちゃいますかね~」と那珂。


 三千花は更衣室全体をサッと眺めて、誰に聞くわけでもなく質問をした。
「この更衣室ってさ、廊下や他の部屋とは壁紙とか違うけど、誰が作ったの?」
 那珂は知らないので黙っていると、五月雨が口を開いてそれに答えた。
「私です。」
「五月雨ちゃんが?」
「はい。あ、でも私が作ったんじゃなくて考えてお願いしただけなんですけど。まだ提督と私しかいない頃、いくつかの部屋の内装のレイアウトを任されたんです。でも私だけじゃセンスとか物の配置とかわからなかったので、時雨ちゃんや真純ちゃんたちに相談してですけど。その頃からそれとなく鎮守府のことを教えてました。」
「中学生に部屋のレイアウト任せるなんて、提督も太っ腹というか思い切ったことするね~。」
 感心する那珂。
「ここって中高生にとっては学校以上に良い経験の場になるんじゃないの?もっと人ややること増えたら結構良いと思う。」
 三千花は五月雨らの経験を聞いて、鎮守府が興味深いところであることを再認識して感心する。

 そののち2~3言葉を交わしあうと話が途切れたので、三千花は那珂の着替えをジーっと見ることにした。那珂はベルトを外し、橙色の服を脱いだ。それはその下のスカートをところどころカバーするように長く、ワンピースに近い形状になっている。その下は学校の制服のものとはデザインの異なるシャツと厚手のインナー、そして茶色のスカートだ。さらにその下は那美恵私物の下着である。たまに(偶然)みかける薄い黄色地のものが那美恵のものだったなと印象に残っている三千花だが、今日は白なんだなとボケ~っと眺めつつ思った。
 その視線に気づいた那珂は少し恥ずかしげに振り向く。

「みっちゃ~ん。ずっと見られてると、さすがのあたしもはずいよ~。」
 私物の下着だけになった那珂が文句を言う。
「あぁゴメン。どういう構造の服になってるのかな~と思ってさ。なるほどそうなってるのね。」
「あたしよりも五月雨ちゃんの制服のほうがみて楽しいと思うけどな。不思議な構造してるよ~。」
「へぇ~」

 と、三千花の視線の矛先を五月雨に向けさせる。標的になりかけている五月雨はビクッとして思わず那珂と三千花のほうを振り向いた。さっきまで那珂をジーっと見ていた三千花の視線となぜか那珂の視線までが自分に向いているのに気づいてしまった。
「うぅ~なんで私に振るんですか~見ないでください~」
 そういう五月雨は上着はすでに脱ぎ、胸当てを脱ぎ終わるころであった。あとはその下のノースリーブワンピースを脱げばその下は……という状態である。

「いいじゃない~、まだワンピース着てるんだし。それよりも五月雨ちゃんの服の構造説明してよ。初めて会った時からそれ気になってたの~。」
 おいでおいでをしながら那珂は、気になってしょうがない五月雨の制服をどうにかしていじくろうという魂胆で顔をにやけさせていた。
 この約2ヶ月、頼れる先輩那珂と仲良くなって安心しきっていた五月雨だが、普段の調子づく様+たまに悪乗りするところがある人なのだと、改めて思い知ったのだった。

「中村さ~ん。黙って見てないでこの人どうにかしてくださいよぉ~。」
 ゆっくりと近づいてきている那珂に対して身構えつつ、那珂の友人である三千花に助けを求める五月雨。さすがの三千花も他校の中学生相手に友人が暴走するのを黙ってみているつもりはなく、よっこらしょっと席を立って那珂に近づき、彼女のおでこをペシリとはたいて注意を促した。
「あいたぁ!」
「ホラホラ。五月雨ちゃん嫌がってるでしょ。それに早く着替えなさいよ。毛内さんたち待たせてるんだからね。二人も今のうちにさっさと着替えちゃってね。」

「はい。ありがとうございます。」
「私はもう着替え終わりましたー。」村雨はバンザイして着替え完了を3人に知らせた。
 そんな村雨は五月雨が那珂と着替えの攻防をしている間にせっせと着替えを進めていたのだ。
「あえ!? もう終わったの?」
「さみが那珂さんとふざけてのんびりしてるからよ。」
 五月雨にツッコミを入れる村雨の格好は、中学校の指定のジャージ姿だった。彼女は学校の制服で演習したため、今まで着ていた服がまだ乾ききっていないので仕方なくジャージを着たのだ。

「私、工廠行って制服もっと乾かしてもらってくるから。」
「うん。わかった。またあとでねー。」
「えぇ。時雨たち戻ってきたらみんなでスーパー銭湯寄って帰りましょ~。」
 五月雨と簡単に約束を交わし、村雨はそう言って更衣室からいち早く出て行った。

「……そんじゃまあ、私達も着替え、早く済ませちゃいますか。」
「そうですね……。」
 那珂は高校の制服に、五月雨は中学校の制服にそれぞれ着替えて更衣室を後にし、和子たちの待つロビーへと戻った。

見学(最終)

 着替えが終わった那美恵たちはロビーに戻ってきた。五月雨は更衣室を出たところで那美恵たちと一旦別れて、提督を呼びに執務室へと向かっていた。
 ロビーでは、メモや写真の整理が終わって退屈そうにしている和子と三戸の姿があった。二人ともロビーのおしゃれなソファーで少しだらけて座っていたが、那美恵と三千花が来たのに気づいて和子は立ち上がる。

「あ、会長、副会長。」
「わこちゃんおまたせー」那美恵は右手を上げて和子に返事をした。
 四人揃い、ソファーのあたりに集まった。

「副会長、更衣室はいかがでした?」
 和子は三千花に尋ねてみた。
「よかったわ。内装のデザインは五月雨ちゃんに任されていたみたいで、カワイイデザインになってた。ちょっと興味深い話も聞けたから、あとでメモ書いておくから整理しておいてくれる?」
「はい、わかりました。」

「あー、更衣室見学したかったな~」
「三戸くん、ほんっとにいいかげんにしましょうか。」
 目を細めて冷たい視線をぶつけて静かに怒りを伝える和子。冷ややかなツッコミすぎて三戸はビクッと引いてしまった。
 和子の怒りをなんとかやりすごすべく、三戸は話題を振る。
「そ、そういえばあの五月雨って娘はどっか行ったんですか?」
「うん。提督呼びに行ったよ。」さくっと那美恵は答える。

「しっかしあの西脇提督も羨ましいっすよね~。身近に時雨ちゃんや夕音ちゃんみたいな可愛い中学生を4人もはべらせて。男なら夢の職業っしょ!?」
 煩悩丸出しで三戸はこの鎮守府の、総責任者である西脇提督を引き合いに出してうらやましがる。話題を変えてやり過ごしたつもりが、かえって火に油を注いでしまった。今度は那美恵も和子に加わる。

「あーのね……提督と一緒に仕事したからわかるけど、あれだけ歳の差ある人間を仕事で使うのって相当大変なんだと思うよ。提督の思いなんて聞いたことないしわかんないけどさ、提督はやましいこと考えないってあたし信じてるし、そんな暇ないと思う。あたしは提督のそういう誠実っぽいところ、s……」
頭をブルブルっと振ってその続きを発した。
「信頼してるんだからね。」

 那美恵が普段のおちゃらけなしで真剣に三戸に反論する。親友が珍しく怒気をまとっていることに少々驚いた三千花は那美恵をなだめつつ、三戸に釘をさした。
「まぁまぁなみえ落ち着いてよ。三戸くんはここ来てから舞い上がってるだけよね? なみえも毛内さんもそこ分かってリアクションしないと、疲れるだけよ。あと三戸くんはホントに反省なさい。」
「は、はい……。」

 3人を注意しつつ、三千花はさきほど親友が那珂として出撃デモしていたときに、提督から聞いた胸の内の言葉を思い出していた。

 人を使うのが苦手だと弱音を吐いた西脇提督。艦娘を娘や姉妹、友人のように接したいと言っていた提督。三戸が言い含めたように、提督も男なのだから少しはそういうことを考えることもあるだろう。けれどそこは大人なのだから、三戸とは違い言動にすら分をわきまえているはず。
 三千花はそう捉えていた。そして彼女は素の那美恵と違い、男は少しは下心もないと信頼できないと考えている。適度な、分をわきまえた付き合い。あまりに過ぎるのは三千花とて嫌いだ。
 さて素のところは純情な親友が果たしてこの先提督とどう関係進展するのか、三千花はなんとなく気になっていた。


--

 4人で話していると、提督と五月雨がさきほど那美恵たちが降りてきた階段とは別の階段から降りてきた。階段のふもとで五月雨と何か話し、そのまま反対方向へ行きある部屋に入っていった。一方の五月雨は那美恵達のいる場所に近づいてきて、4人を案内し始めた。
 案内されて那美恵たちが入ったのはロビーにほど近い会議室である。提督は入ってロビーに近い方の横のテーブル側に立ち、三千花を反対側に座るよう促す。那珂はあえて提督の横、五月雨の隣に座ることにした。
 全員座ったところで見学最後の工程を始めた。

「さて、ひと通り見ていただきましたが、いかがでしょうか?」
 感想を求められて三千花がそれに答えた。
「はい。今回は大変参考になりました。貴重なお時間を割いて頂いてありがとうございました。」
「それでは最後の内容として、これまで歩きながら話した鎮守府や艦娘制度の内容についてまとめてお話します。」
 そうして提督から、見学中に話された内容のまとめや、艦娘制度の具体的な内容と実情が語られた。三千花や書記の二人はそれを熱心に聞き、メモにまとめる。

「そうそう。これは最初に話しておくべきことなんでしょうが、鎮守府というのは正式名称ではないんですよ。」
「えっ?」
 提督が思い出したように言ったその一言に、三千花だけでなく三戸と和子も似たような一声をあげた。
「正式名称はもっと長いものなんです。"深海凄艦対策局および艤装装着者管理署"と言います。国の公式文書でもっぱら使われる正式な略称は、深海棲艦対策局○○支部というものです。」

「そうなんっすか!?それじゃあ鎮守府っていうのは?」
と三戸は何か感じるところがあるのかすぐに質問する。
「あぁ。国や公式文書ではそれらを使わないといけないのだけど、行政と実際の現場によくある齟齬みたいなものでね、それが本制度にもあるっていうことなんだ。もうすでに御存知の通り、現場である私や艦娘たち担当者は"鎮守府"という150年前にあった旧帝国海軍の基地の名称を使ったりします。」
「はは……正式名称言ってたら長いですしねぇ~。でもその鎮守府っていう言い方で国とかで通じるんすか?」
「あぁ。普通に通じるよ。もうお役人さんも慣れてるみたいだしね。」

 三戸に続いて和子が質問をする。
「あの……それでは艦娘というのは?」
「はい。それも現場での略称です。正式な略称は艤装装着者。もっとちゃんとした名称もあるのですが、我々現場の管理者には艤装装着者という名称でよいと教えられてます。で、もっと略して艦娘。これもまぁその、国の人に対して使っても普通に通じます。艦娘という言い方の由来は俺は知らないけれど、他の鎮守府の管理者も皆そういう言い方をしていたので、俺も倣っているんです。」

「それじゃあ提督というのも……?」三千花が恐る恐る尋ねる。
「そうです。管理者である俺は、正式には深海棲艦対策局支局長、あるいは管理署○○支部の支部長という肩書です。これも現場では鎮守府という言葉のつながりに倣って提督、とか司令官などと自由に呼ばれているらしいから、これも俺は他の鎮守府に倣っています。」

 提督の説明が終わると、なぜか那美恵がドヤ顔で三千花らに言った。
「艦娘の世界の言い方おっもしろいでしょ~?国の正式名称センスないんだなぁって思うよね。だって使ってないんだもん。鎮守府と艦娘って言い方最初に編み出した人に拍手だよ~。」
 言い終わるやいなや空打ちで拍手をする。
 向かい側でおどけている親友(先輩)を見て苦笑いする三千花ら3人。代表して三千花がツッコんだ。
「なんでなみえがそんなに得意げなのよ。」
 親友のツッコミに那美恵はエヘヘと笑うのみだった。

 提督自身、制度にかかわる組織や役職の呼び方は教わったことだけでありこの時説明した以上のことは知らないのだった。深く突っ込まれても困るため学生たちが深く突っ込んでこないか心の中で身構えていたが、当の本人たちは関係ない方面で話を展開させていた。
 手を軽くパンパンと叩いて注目を引き、話を再開した。
「本当なら見学の最初にお話するべきことなんでしょうけど、まず皆さんには鎮守府の実際の設備や様子を見てもらいたかったのでね。見てもらいつつ、その都度その場に合った内容をお話したほうが記憶に残してもらいやすいかと思ったのです。」

 提督は自身も学生の頃は大人の長々とした話を黙って聞かされるのが嫌で、そういった思いを今の子供たちにしてほしくないという思いからそうしたのだと、三千花らは聞かされた。
「さて、他に質問等あればお答えします。何かありますか?」
 いくつか気になることがあったので三千花たちは質問し、提督から回答をもらった。


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 そこでふと、那美恵は聞きたかったことを思い出した。
「そうだ!提督。聞きたいことあったんだ。あたしからもいーい?」
「あぁいいよ。」
 提督は横にいる那珂のほうを向いて返事をした。
 那美恵が尋ねたのは、自身の学校で同調のチェックをさせてもらえないかいう内容であった。発案者は三戸だったので那美恵は彼にまずは言わせ、それに補足する形で口を挟んだ。

「なるほど。学校に機材を運んで、学校で同調のチェックをさせたいと。」
「そうなの。あたし含めて、艦娘になりたいって人は、普通は工廠で艤装を試着して同調をチェックするでしょ?でもそれだと、多くの人に鎮守府に足を運んでもらわないといけないし、フィーリングが合うのはその中でも一握りだとするとさ、学生艦娘を目指すんだったらかなり無駄が多いと思うの。もし艤装を鎮守府外に運び出せて、試験の時と同じように外でも同調チェックができるなら、学校にいながらより多くの人に適性がある・フィーリングが合うかどうかを手軽に試してもらえるでしょ?」

 那美恵の説明を聞いたのち、腕を組んで考えこむ提督。
「うーん。そのあたりの規程は大本営から特に言われてない点だなぁ。普通に考えたら艤装はモロに軍事機密に触れそうな物だろうし、持ち出しは出来ない気がするが……。すまん。今それに回答することはできないな。あとで大本営に聞いてから回答するよ。那珂に連絡すればいいかな?」
「あたしとみっちゃんに教えて。」

 提督から艤装持ち出しについて大本営に聞いてもらうことにした。那珂は三千花に目配せし、連絡先を提督と秘書艦の五月雨に伝えた。


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 そして見学は全工程が終わり、提督から締めの言葉が出された。
「それでは○○高校のみなさん、お疲れ様でした。これで見学会を終わりたいと思います。小さい敷地とはいえ、設備もそれなりにあるのでお疲れでしょう。これは俺からの気持ちです。飲み物を買っておいたので、よろしければ持って行って下さい。」
 そう言って提督は数本の缶やペットボトルの飲み物を袋から出して見せた。那美恵たち4人分には多すぎる本数だ。

「あの、提督。多くありませんか?」
 五月雨がそう尋ねると提督は答えた。
「五月雨、君たちの分もだよ。あとは……時雨と夕立が帰ってくれば渡せるんだけど、まだ護衛任務はかかりそうだし、あとで渡しておいてくれるかな?」
「提督……!ありがとうございます!わかりました。」

「提督ぅ~良い人だなぁ~惚れてまうやろー!」
「今頃気づいたか!?もっと褒めてくれてもいいぞ~」
 普段のノリで那美恵が冗談めかして提督を立てつつ言うと、提督もそのノリにノッて返してきた。その掛け合いをみて隣にいた五月雨はクスッと笑う。三千花らも釣られて微笑んで反応し、その場は和やかな雰囲気に包まれ、見学会の最後を彩った。


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 時間にして午後4時すぎ。三千花らは帰ることにした。ロビーまで全員で歩きつつ会話をしあう。
「なみえ、あなた今日は艦娘の仕事はないの?」
「んー?出撃もないはずだし、みんなといっしょに帰れるよ。」

 那美恵のごく簡単な説明に、提督が付け足す。
「那珂には出撃も頼みたいことも特にないから、本当に帰ってもいいぞ。せっかく学校のみんなと来てるんだからね。もし頼みたいことあってもここにいる五月雨にガツンと頼んじゃうから、どのみち安心して帰ってもらえるよ。」
 提督は言葉の途中で五月雨の肩に手を置いて彼女に少しだけ意地悪なことを言った。
「提督~それじゃ私がもっと忙しくなるんですけど~!?」
 またしても不意に標的になった五月雨は少し半泣きになりつつ、提督の腕を押して愚痴もぶつけた。

 結局那美恵も三千花らと一緒に帰ることにした。その日その時間、鎮守府には提督と五月雨、村雨が残り、時雨と夕立の帰還を待つことになった。那美恵は艦娘の制服をきちんと洗うために一旦更衣室に戻って制服を取り出し、再び三千花らと合流して鎮守府を後にした。

高校生は思う

高校生は思う

 鎮守府からの帰り道、那美恵たちは駅前の全国チェーン店のコーヒーショップに入り、一息つきはじめる。

「さて、今日は半日使って鎮守府を見てもらったわけだけど、どうだった?率直な意見を聞かせて。」
 那美恵が他の3人に感想を求めた。すると最初に三千花が口を開いた。
「興味深いしなみえ含めて応援したいとは思うけれど、ちょっと先行き不安ね。」
「え?何が?」
「運用がってこと。うちの学校と提携できたとして、少し増えたからといってあそこの鎮守府を良くするのに貢献できるとはとても思えないわ。まぁ、鎮守府の運用とかそのあたりまで私達が気にするところではないんだろうけど。それに私達学生をバックアップしてくれる先として学校を説得できるほど頼れるとは思えない。」
 三千花が辛辣な意見を口にする。それは、那美恵もうすうす感づいていることだった。

「まぁ、今日のことは毛内さんと三戸くんが撮ってくれた写真や動画とメモを元に報告書作るわ。でもそれでも校長たちを説得できるかどうか……。」
「みっちゃん厳しいなぁ~。タハハ……」
 信じていた親友に厳しい言葉を浴びせられ、不安を耳にしてさすがの那美恵も表情を暗くする。

「あと大人が西脇提督だけというのもやっぱり無理があると思う。」
「明石さんとかいるじゃないっすか?」
「えぇと。そうだけどそうことじゃなくて。鎮守府の顔として対外的に交渉する人、管理する立場の人がってこと。なみえ、あなた以前も西脇提督と一緒に校長を説得したって言ってたわよね?」
「うん。」
 三戸の指摘をそれはそうと受けつつ流して、三千花は那美恵に尋ねた。
「私達から見れば誠実で良い人だとしてもさ、大人同士で交渉してもらうんだとしたらあの人一人だと厳しいんじゃないの?」

 那美恵は目を細めて表情をやや暗くして説明し始める。
「うーん。でもあのときはあたしもまだ正式に艦娘に着任前だったし、今回みたいに説得材料集めきれなかったからだと思うの。けど今回は違う。あたし一人ではできなかったことをみっちゃんたちが協力してくれる。きっと説得させられるよ!」
 最後に明るさを取り戻して希望を述べると、それでも不安なのか三千花が食い下がる。
「そりゃ私も協力はするけどさ、なんか精神論的でなみえらしくないよ。なにか自信の持てる確証があるなら別だけど。」
「うん。実はね。あのとき校長の昔の思い出の一言で提携の話が立ち消えになったけど、あの時あたしと提督、あと提督が準備してきたっていうなんか国からの資料だけで、結構いい線イケたんだよ。まだ経験ほとんどないあのときでさえイケそうだったんだから、今回はきっともっとうまくいけるってあたしは確信してるの。」
「イケるって言われてもねぇ……。」
 三千花はよろしくない反応を示す。

 最初に説得した当時の話を思い出しながら那美恵はさらに続ける。
「それにね、校長が言う戦いの思い出。あたしは心当たりがあるの。多分、うちのおばあちゃんが経験した昔の戦いのこと。おばあちゃんはその当事者の一人だったから。校長とうちのおばあちゃんは歳が結構離れてるから、校長は本当は昔のその小学校で起きた戦いや騒動に、巻き込まれていないんじゃないかって思ってる。年代が違いすぎるんだよ。多分、校長はうちのおばあちゃんと同じ世代か、近い世代の人たちから伝え聞いたことをただ単に言っているだけだと思う。実感のない戦いの思い出だけで、てきとーに拒否してきたんだと思う。あたしはそれがどうしても頭の中にひっかかってたんだよね。」

「……そこまで知ってるんならその時適当に言いくるめればよかったじゃないの。」
 三千花は校長の弱点かもしれないそのポイントを、狡猾なところがある親友が狙わなかったことを不思議に思った。三千花の意見に那美恵は至極穏やかに言い返す。

「あたしたちにとってはウソとしか思えなくてもさ、校長にとってはきっと大切な、記憶だったり思い出なんだろうって思うの。そういうの汚したらいけないじゃん?」
「うーん、まぁね。」三千花が相槌を打った。
「例えるなら、あたしや五月雨ちゃんたちがこうして深海凄艦と戦った記憶と思い出だって、みっちゃんたちからすれば実際に経験してなくても、知り合いが経験してきたことだから自分たちもそうだったんだ、少なからず関わったことがあるんだと誇れるくらいには将来本物の思い出になるかもしれないでしょ?もし数十年経って、三千花おばあちゃんのいうことはウソじゃん!何もやってなかったじゃん!とか孫とか周りの人に悪く言われたらどう思う?」

 三千花は眉をひそめ、那美恵を睨むような視線で言い返す。
「……そんな先のことなんてわからないわよ。」
「あたしだったらショック受けるかも。光主那美恵65歳、孫からやり込められてショックでひきこもる。的な。」
「はぁ……なによそれ。」
 那美恵の言い出した妙なナレーション風味のセリフに、三千花は素早くツッコミを入れた。

「まぁあの時は突くことができなかったその点、今回は狙ってみよっかなぁと思ってる。」
 一息ふぅ、とついたのち、那美恵は考えを述べた。
「……狙うだけの何か確信があるのね?」
「いやまぁ、ホントに狙うか狙わないかは別として、校長と接する上で大事なポイントなんだろうなって気はする。そこまでわかっただけでも前回のは得るものがあったかなぁって。」
「……あんたもしかして、最初から探るために?」
口元だけニンマリさせて那美恵は三千花が想像したことを含めた言い方をした。
「あたしね、やれるって確信が持てないときはやらないんだ。みっちゃんわかってるくせに。」

 三千花はため息をついて、カフェオレを一口含み、口を潤した後言った。
「はぁ。結局私達はあなたがイケるって確信を掴めるようになるために利用されてるってわけね。私はもうそういうの慣れてるからいいけどさ、毛内さんと三戸くんは全然ついてこれてないみたいよ?どうすんのさ。」
「そんな言い方はひどいよぉ~。あたしはみんなに協力してもらってるって意識だよ。利用してるなんてひどい。」
「はいはい。ひどくないひどくない。」


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 それぞれ飲み物を飲んで、口の中を潤したのちに議論を再開した。口火を切ったのは那美恵だ。
「あのね。今回の報告書なんだけどさ、マイナスに関わりそうな要素はあえて書かないでほしいの。」
 驚いて三千花は那美恵に詰め寄る。
「ちょっと!それじゃ事実隠蔽じゃないの?それはダメよ!」
 頭を横に振って那美恵は三千花にその真意を語りだした。
「うん。だけどあたしの考えではそうは思わないんだ。必要悪っていうのかな? 致命的じゃない限りは、校長先生たちが"今"知る必要のないことは書かない・教えないべきだと思うの。その逆で、今だからこそ知るべきこともあるだろうからそこはきちんと伝える。物事を有利に進める上での駆け引きはするべき。きっと提督はバカ正直に言っちゃうかもしれないけど、そこはあたしが提督にも言い含めておくから、みっちゃんたちもお願い。」

 三千花は親友の目と表情が本気であることにすぐに気づいた。こうなると三千花の意見も効かなくなる。たまに見る那美恵の狡さ。三千花は心臓がきゅっと詰まる感覚を覚える。
 一方で三戸と和子は真面目に会長と副会長が議論しているので、まったく口を挟めないでいた。ただ空気を読んで黙って二人の議論を見ていることしかできなかった。

「ええと、結局俺達はどうすれば……。」
 そう言ってあたふたする三戸とは異なり、和子は至って冷静に那美恵たちに反応を示した。
「会長たちの思いがどうであれ、私はお二人のおっしゃることを信じて従うだけです。鎮守府との提携が学校を良くするって会長が確信しているのであれば、私も学校を良くしたいと思ってますし。私個人としては意外と面白そうだと思ってますから会長に全力で協力するまでです。だから、なんでもおっしゃってください。」
「わお!わこちゃんクールデレ~!」
 両手をピストルのように構えて和子を指さして突っ込む那美恵。その仕草に和子は頬を引くつかせたがすぐに表情を戻して呆れ顔で那美恵にツッコミ返した。
「んもぅ……。クールデレとかやめてください。大昔の白骨化した死語ですよ。それ。」

 雰囲気が少し柔らかくなってきたのを見計らって三戸も口を挟み始めた。
「んで俺達は一体どうすればいいんっすかぁ~?もっと明るくサクッと行きましょうよ!艦娘とか鎮守府って賑やかで和気あいあいとしてそうだからノリ良くいきたいんっすよ。」
「うん。そうだね。明るくいこー!あたしに続く生徒たちが明るく気持ちよく参加できるようにしないとね。三戸くんはわこちゃんと一緒に報告書をしっかり作ってね。期待してるよ!」
 那美恵は三戸に向かってウインクして鼓舞し、気持ちと空気を切り替えさせた。
「は、はい!」
「はい。わかりました。」
 三戸と和子の返事を聞いた那美恵と三千花は議論を締めた。

 それぞれ、飲みかけの飲み物を飲み干し、コーヒーショップを後にした。
 帰り道、三千花は改めて那美恵に言った。
「一度協力するって言った以上は協力しつづけるけどさ。鎮守府の現状をしっかり見なよ。西脇提督にもちゃんと言っておいてよ? なんだかんだ対策したとしても、私達は最終的には西脇提督の交渉術に頼るしかないんだから。」

「はいはーい。」
 返事をする那美恵はいつものちゃらけた明るさの人物に戻っていた。

同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語

世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing
今回より舞台設定用としてこちらも載せました。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53702745

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing

挿絵原画。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53906929
Googleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1O0HNLvGEGPSH5zB6e6x8vHW5eYZRmmObBn-nmJW6Si8/edit?usp=sharing
好きな形式でダウンロードしていただけます。(すべての挿絵付きです。)

同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語

それは、艦娘となる人間たちの物語。 那珂がうちの鎮守府(仮名:鎮守府Aとしています)に着任した頃の話。 普通の艦娘として採用されたがゆえに出撃時の学校へのフォロー・ケアが危うくなる那珂。正式に鎮守府と自身の高校と提携してもらい、艦娘部を設立するためにもまずは自身の高校生徒会メンバーに、鎮守府を見学して艦娘制度の実情を肌で感じてもらうことにした。 艦これ・艦隊これくしょんの二次創作です。なお、鎮守府Aの物語の世界観では、今より60~70年後の未来に本当に艦娘の艤装が開発・実用化され、艦娘に選ばれた少女たちがいたとしたら・・・という想像のもと、話を展開しています。

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-19

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 見学当日
  2. 見学(序)
  3. 見学(本館)
  4. 見学(倉庫群~グラウンド)
  5. 見学(工廠)
  6. 見学(出撃デモ)
  7. 五月雨と村雨、到着
  8. 見学(演習)
  9. 幕間:見学(更衣室)
  10. 見学(最終)
  11. 高校生は思う