椿の花


 母に手を引かれ買い物をしていた俺は、空から振ってくる鉄筋によって死ぬ事になるはずだった。しかしそんなことはなく、お兄ちゃんによって俺は助けられた。
 力強く母によって抱きしめられた俺はただ目の前に佇んでいるお兄ちゃんに釘付けだった。
 すると誰かが叫んだ。
 そのとたん、周りは悲鳴をあげ、逃げ出したのだ。
 俺はどうしてみんながそうするのか分からなかった。
 そして目の前にいたお兄ちゃんはその場で倒れて、動かなくなってしまった。



        ******



「オオバコは天ぷらにして食べられるって知ってた?」

 女の子は俺に聞いてくる。

「いや、知らない。」
「他にはね、ヨモギでしょ、タンポポにツクシ、全部春にしか生えてないけどここはずっと春だから毎日食べられるんだよ」

 得意そうに言ってくる女の子に俺はどきどきしていた。

「沢山とれたから君にもあげる。」
「いらない。君が食べなよ。だって今日のおかずなんだろ?」
「そうだけど美味しいからおすすめ」


     
        ******



「ようこそ、アラセへ。歓迎するよ」

「おーい、転校生!大丈夫?なーんか呼び出しされてたけど・・・」

「・・・好き」


 これは俺の話。


 
 俺は転校するべく、そのことを友達に告げた。
 友達は元気でいろよ、という言葉と、即席でもらったお菓子を持って車に乗った。友達が渡してきたお菓子は強い力で握っていたのだろうか、包装紙をあけなくても分かるぐらいの、お菓子の一部がこなごなになっていることが伺えた。これは気をつけて食べなければならない。車の中で食べる事は無理なことがわかった。
 俺が車に乗ると同時に車は動き、俺は窓を開け友達に向かって手を振る。友達の表情はどこか悲しそうだった。それでも俺がちゃんと新たな場所へと出発できるようにとなのか、笑顔で俺にこたえるように手を振った。
 窓から見える景色は、だんだん小さくなり、自分の知っているものから、時間が経つにつれ見知らぬものになっていった。自分はここから離れ一人になるのだ。一人で生き新しい自分にならなければいけない。ふと頭のなかでその言葉がよぎった。

「ご友人とは随分仲がよろしかったんですね」

 車を走らせてから時間が経った頃、突然運転手から話しかけてきた。黒いスーツを着た老人はミラーごしに俺に問いかけてくる。自分の緊張をほぐそうとかそういったことでの質問ではなさそうだった。老人の声質は固く無機質だった。ただのさしあたりのない会話の一部かもしれない。

「はい。俺が小学1年生の時からの友達なんです。」
「それならさぞかし別れを言うのが辛かったでしょう」
「ええ、まぁ」

 本音を言うとそれほど辛くは無かった。
 何も感じなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。でも学校ではあいつとよく一緒にいたし、学校の外でもよく遊んだ。お互い馬鹿いいあえるほどの仲だったし親友だった。


「俺、なんで転校しないといけなかったのでしょうか」

 無意識に俺は言葉を運転手に紡いでいた。
 ・・・なに言っているんだ俺は。転校しないといけないって・・・。あのときそう決まっていたじゃないか。自分には決定権がないと、転校が決められていたと。

「学校からは、あなた様が自ら決められたと存じております」

 そうだったけな?
 うっすらと、そしてぼんやりと、かすかにある記憶が、そうだったのかもしれないと根拠無く感じた。
 そうだった。俺はもう既に転校すると決めていたじゃないか。

「・・・そろそろお昼の時間ですね。ここの道路は昼時になると混んでくるんですよ」

 運転手の言葉に、俺は視線を腕時計にやった。見るとちょうど時計の針が12時を過ぎていたところだった。
 もう昼だと感じると、急に空腹を感じ、そんな自分に苦笑してしまった。
 俺は意外と単純なのかもしれない。

「この近くに美味しいうどん屋さんがあるんですよ」

 運転手は言った。
 ほら、あそこ・・・と運転手が差す先には、ガソリンスタンドがあり、となりにひっそりと佇む看板があった。
 車は駐車場に入るとエンジンを止め、「少しお待ちください」と言って先に降り、俺が座っている後頭部座席のところまで来てドアを開けた。
 なんか、お金持ちになった気分だな。
 くすぐったい気持ちと申し訳ない気持ちになった。

「あの、俺、そういうことされるような人間じゃないので、別に気をつかなくてもいいですよ?」

 正直なれていないし、車から降りるたびにこうされるのでないのか?まさか乗る時もドア開けられるのか?

「いえ、これも私の仕事ですから」

 運転手はやさしく微笑みながらそう言った。

「さぁ、あそこのお店です。あそこで昼食にしましょう。」

 うどん屋と書かれている暖簾のほうに視線をむける。

「何かアレルギーとかはありますか?」
「そういうのは無いので大丈夫です。俺、そういうの全く無くって・・・」
「ならよかった。ここのうどんはとても美味しいんですよ。」

 本当に美味しいんだろうな。
 運転手の顔をみれば、素直にそう感じられた。


******
 

 店の中はいたって普通だった。何をもって普通と言うべきかは分からないが。
 ただ、俺と運転手以外の姿にお客は見当たらず、がらんとした空間がひろがっていた。
 明らかに儲かっていなさそうだった。ところどころ壁紙がはがれているのがなんとも寂しい。
 先を歩いていた運転手は券売機の方をちらっとみながら俺の方を振り向く。

「好きなところに座ってもかまいません。私は注文してきます。なにが食べたいですか?」
「きつねうどんをお願いします」

 俺が答えると運転手はカウンターにいる、お姉さんのところに行った。
 ここの店にはどんな種類があるのか気になったが学校は寮なので二度くることはあやしかった。それが理由になるかどうかはさだかだか、実のところあの運転手が言うほど美味しいのか疑問に感じる。本当に美味しいのならばこんなにさびれているはずがない。
 そんなことを考えながら、俺はテレビが見えやすいところを席に選んだ。
 その場所は結構、お店全体を見渡せる席で、壁もそうだったが目で見ると店の備品含めて店全体がボロボロだった。
 お昼時なのに、俺たち以外お客いないな・・・
 お店の立地を感じるあたりここは首都に向かう主要な道のひとつである。昼時でもあるし、平日だが運送をしている大人とかいてもおかしくないのだ。ここ以外の飲食店ほとんど見かけない。
 


『ーー今日のゲストは今話題の歌姫!!リーザちゃんです!!いやぁ〜。可愛いですねぇ。』


 ふと、テレビから流れてくる女性キャスターの声がやけに耳に入った。
 テレビでは、俺と同じくらいの少女が大人達に囲まれていて、一生懸命自己紹介や、宣伝、受け答えをしていた。時には司会者からのいじりにけなげに反応して笑いがとれるように答える。
 見た目がゴスロリなのに、礼儀正しいギャップに好感が持てた。


『ーーリーザさんは、2年前にデビューしてから常に曲を出す度にオリコンチャート1位!!すごいですよね!!』
『ありがとうございます。こうして私が歌えるのも、ファンである人達のお陰です!!』
『今14歳なんだよね。今時大人でもそんなにしっかりしてないよー』

 
 14歳・・・俺と同じ歳なのか・・・
 ぶつっという音と共に、突然テレビ画面は老いた老人と若い男性が政治について討論している場面になった。
 後ろを振り返ると、マグカップを持った白衣をきた男が立っていた。

「あぁ、もしかして見ていたか?」
「え、まぁ・・・はい。見てました」
「それはすまなかった」

 だが男はチャンネルをもどす気配はない。
 なんか感じが悪いな。
 じっと見ているのも失礼なので俺はテレビを見る事にした。テレビの内容は年金やら少子化、地球温暖化とどのようなテーマで討論しているのか分かりにくかった。なんで年金の話から地球温暖化のかわるんだ?
 しばらく見ていると、老人と青年の討論は過激になり生放送、なのだろうか・・・電波で放送されてるだろうにお互い殴り合う形になっていった。収集がつかないのか出演者同士がとめるもおさまらず、画面外からスタッフが出て止めていた。そしてテレビはどっかの花畑が映った静止画へと変わった。一体なんだったのだろう。

『緊急ニュースです。先ほど国立大学が花によるテロに、建物が一部崩壊。政府がーーーーーー』


 
「これは大宮さん。珍しいですね」

 この場にちょうどよく、うどんを持ってきた運転手が来た。
 男に対しての会話からどうやら、知り合いらしい。

「なんだ。もしかしてこの子供、転校生か?」
「ええそうですよ。こちらは、学校の事務員の大宮さんです」

 運転手は俺にそう告げた。
 事務員?そのわりには白衣を着ているに・・・

「大宮だ。なにか困ったことがあれば、事務員の出来ることなら相談にのる」

 大宮と名乗った男は、俺には興味なさそうだった。
 そっけないあいさつに、ちょっとだけがっかりした。
 一応俺は生徒になるんだし・・・まぁ媚うるほどの家柄でもないのだしいいか。ニュースでたまに生徒に無関心な職員の存在に意義をとなえてたのを思い出した。

「大宮さんは学校の人達に対してみんなこうですから気にしないでください」

 俺の心を読んだのか、苦笑しながら運転手は言う。どうやらあれが普通らしい。

「意外と普通なんだな。話に聞いていたのと違うな。」
「話・・・?」
「手に負えない糞ガキと聞いていた。でも話とは真反対だから、先生方の話もあてにならないんだな」

 結構失礼な人だ。
 俺の事、どんな感じで伝わっているんだ?それなりに友達もいたし、成績もよかったし、不良ってわけじゃないのに。
 むっと俺は顔をしかめる。


「・・・折角ですし、大宮さんも一緒にうどん、どうですか?」
 運転手が大宮さんに話をふる。
「いや、ここのうどんはまずいから遠慮しておく」

 そう言うと、大宮と名乗った男は店から出て行った。

「さぁ、食べましょうか」
「・・・はい」

 出されたうどんは、昆布と鰹の出汁がよくきいていて、うどんもちょうど良いコシの強さと柔らかさだった。揚げもよく見かけるものとは違って肉厚だった。どちらかというとガンモに近い。
 ・・・おいしい。

「今日はとても美味しいですね。はじめてここに来て美味しいのに当たるなんて、あなたは運がいいですねぇ。もしかしたらここでの学校生活はいいものになるかもしれませんよ?」

 その運転手の言葉に、素直に喜んでいいものかどうか、俺はちょっとだけ迷った。



 ******



 うどんを食べ終われば、時間はもう1時を過ぎていた。
 カウンターにいたお姉さんはいなくなっていた。

「そろそろ学校のほうに行きましょうか。大宮さんが、あなたがもうじき来るということを伝えているかもしれません」

 運転手は俺が食べ終わったどんぶりを持って、返却口のところにおいた。
 俺は店を出て、車のところまで行くと、運転手も後から店から出て来た。
 また、運転手は俺が座る後頭部座席のドアを開け、俺に座るように促す。

「・・・ありがとうございます」


 車のエンジンの音と共に、車は動く。
 さっきまでいたうどん屋も、しだいに小さくなり、景色は森のなかをくぐっていくものになっていった。


 あそこからかなりの時間がたった。
 腕時計はとっくの16時を過ぎており、都会からかなり離れた、田舎というべき閑散とした風景がずっと続いていた。それもなくなる。風景は林道を走るものへと移った。

「・・・どれくらいで学校につくんですか?」

 車はどんどん森の奥へ進んで行き、民家も消えた。行く先は先の見えない森の中に、俺は不安になった。

「もうすぐですよ。森を抜けた所が学校です。この先に住宅地があるんですよ。学校に来る人皆、驚かれるんですよ?さっきまで田舎ですし、森の中を走るし。私も最初は困惑しましたよ。学校はあまりにも、さっきまでとはギャップが激しいですからね」

 運転手はタンタンと話すも、俺の不安はぬぐいきれなかった。
 ギャップが激しい?
 森の中を走っているせいか、外はやけに暗い。もうじき夏が始まろうとする時期に、ここはまだ冬のようなものを感じさせるようなものだったからだ。じめじめとした木々独特のものが夏だとわかるだけだった。

「実はですね」

 運転手が急に口を開く。

「・・・実は、この先にバス停があるんですよ。本当は、そこで学校に転校する人は一旦降りて一人でバスに乗って学校まで行ってもらうのがルールなのですが、外はもう暗いですし、なにより危険なので直接学校に行きましょう」

 初耳である。
 こんな不気味なところに一人で放り出されるのか?そんなのたまったもんじゃない。

「少し出発が遅れたのもありますが・・・渋滞に巻き込まれたのも原因ですかね」

 バックミラー越しに、運転手の眉間にしわがよせているのが見えた。俺が出発にもたついていたことを遠回しに責めていることがわかった。
 だが、そのおかげで俺は回避できたのだが。


 森の中で似合わない人工物が目に入った。
 あれがバス停なのだろう。
 その隣に人らしい影が見えた。
 人影はどんどん近づき、一瞬だが目があった。

 眼鏡をかけた女の子。多分、俺よりも年下。


「あのっ!バス停に女の子が!」
「あぁ、多分あなた様と同じ転校生ですよ。今月、転校してくるのは二人だと聞いていたので」

 運転手は興味なさそうに返答した。

「戻ってください。一緒に乗せてったほうがいいんじゃ・・・」
「大丈夫ですよ。バス停まで来れたということは、誰かがそこまで送ったということです」

 だとしても、時間も時間なのだ。さっき、この人は言っていたじゃないか。危険だと。

「ああ、見えてきましたよ。あれです」

 運転手の視線の先には、森は切り開かれていた。遠くの山間にさっきまでの田舎とは似つかわない色合いがパステルな建物がひしめぎあっていた。それは少しずつ大きくなり、徐々に全貌がはっきりしていくにつれそれはなにか分かっていく。
 新興住宅だ。
 自然豊かな場所に、似合わない建物。そのアンバランスな風景に何故か、不快感を感じた。

「アンバランスでしょう?こんな立派な自然に何故あんな俗な建物が建っているのかと」

 俺と運転手はどうやら同じ心境だったに違いない。
 住宅地が近づくにつれ電信柱の数も増えていく。その光景に、これから見知らぬ土地へ移り住むという心躍る気持ちは薄れていった。
 だが人々があそこしか住んでいないという事に俺は気づくことになる。
 今見える住宅地以外に、家はないのだ。そう、あそこだけしか人々と関わることが出来なくて、森を抜けて街に行こうにもかなりの時間がかかる。
 あそこだけが孤独な場所なのだ。
 そのことに俺は魅了されていた。まるでこれから非日常なことが起こるかもしれないという高鳴りが体を襲う。
 昔、冒険というものに憧れたことがあった。それが今おきようとしている。
 冒険。
 その冒険の入り口に俺は立っている。
 地図は持ったか?コンパスは?

 口元が上がるのを俺は自覚した。


 ******


 蛇のようにぐねぐねと曲がった坂道をあがると、遠目で見た新興住宅は意外にも寂れていることがわかった。ここは思っていたよりも前から存在していたらしい。
 壁にはひびが入っているし、きれいだと思っていたパステルカラーの色合いもくすんでいる。

 ぼんやりとその風景を見ていたら、車の速度は落ちていった。運転手の方の窓を見ると大きな建物…学校であろうというものが建っていた。
 印象はどこにでもある普通の学校。木造ではない。
 期待していたものとは違ったのが自分のなかではショックだったようだ。
 先ほどの高揚感はとうに消え失せてしまった。

「さぁつきましたよ。ここがあなた様・・・緑川周様が通うことになる学校になります」

 運転手は淡々とした口調で告げた。
 車はもう動かない。
 運転手はうどん屋のようにドアの開閉をしようとはしなかった。
 これは俺が降りたらいいのだろうか・・・?
 いや当たり前のことだ。俺は金持ちや権力のある存在ではない。こうして誰かにいろいろしてもらうことがまずおかしいのだ。というか、さっきの事が当たり前だということに何故認識してしまった。
 恥ずかしい・・・。

「送ってくださりありがとうございました」
「いえ、それが私の仕事ですから」

 運転手はさっきまでとは打って変わってあっさりとした態度になった。こうも急に変わられると人にたいして不振になってしまう。
 自分でドアを開け、閉める。森とはちがい人口でつくられた道を踏みしめる。

「まずは校長のところに行ってください。そこにいけばあとはわかるでしょう」

 運転手はつげる。

「ありがとうございます」

 俺は礼を言った。
 運転手は車のエンジンを入れると走り去っていった。
 あの先にはなにがあるんだろうか。ここは森の奥だ。ふと疑問が浮かんだ。
 きっとここは全てに閉鎖された孤独な場所なのだ。
 もしかしたらあの先には自分がわくわくするようなものがあるのかもしれない・・・ないのかもしれない。
 自分でも何を考えているのか分からなかった。とにかく、分かる事といえば何も知らない所に一人でいてとても寂しさを感じているということ。
 その寂しさを紛らわすために、自分は変な妄想をしていることだけだった。
 いい加減にしろ周、妄想はもっと自分をおかしくさせるのだ!冷静になれ!
 自分で自分を叱咤し、冷静になるよう努力する。
 それでもここから進んでいないことにはかわりはなかった。ここに立ち止まっているからこんなことになるのだ。
 運転手が言っていたじゃないか。校長に会えばあとは分かると。

 俺はしまっている重量感のある校門をスライドさせた。
 ガラガラと静寂なこの場には大きく響いた。まるで日曜日の学校に忍び込んでいるような感じだ。実際にはしていないのにそう錯覚してしまう。
 そのときだった。視界のはしにちらちらと、白のシャツをきた女の子が目に入ってきた。
 女の子は俺のほうに向かってくる。

「あなたが今日くる転校生?」

 女の子は俺にたずねてきたのだ。

「そう、だけど…君は…」
「自己紹介はあと、校長が待っているわ。みんなあなたがくることを楽しみにしているのよ…あなた一人なのかしら?先生の話だと、もう一人女の子が転校してくるって聞いたのだけれども、まぁきっとバスが遅れているのね。でもこの時間に学校についているだなんて…だとしたらあなたはバスじゃなかったの?そういえばマリーがさっき車を見たって言っていたわ。きっとあなたは仮名さんの車にのってきたのね?そうでしょう?あぁ!早く行きましょう!校長が待っているわ!」

 女の子は俺の話を聞く気はないようだった。銃弾のように言葉をあびせてくる彼女は俺に返事を求めているようにもみえない。
 ただ一方てきに話しかけてくるだけ…これは浴びせてきてるといったほうがいいのかもしれない。

 彼女との初対面での出会いを衝撃的と俺の脳はとらえたとか、しばらく頭のなかは何かを考えることを放棄してしまったみたいだ。

「なにぼーっとしてるの?早くいきましょうよ。もしかして、あなた、どこか行くたびにいままで誰かと手をつないでいたくち?なら手をつないであげるわ。だって私優しいもの」

 彼女は俺の手を握った。

「だ、大丈夫だよ。俺は子供じゃないんだ!」

 女の子を手を握り合うだなんて恥ずかしい。

「いいのよ無理しなくたって。あなたみたいな人はここじゃ珍しくないもの。ユウだって昨日もお化けがこわくて一緒にトイレにつれてって、って言ってきたのよ」

 彼女のいうそれと俺の思っていることは違うと叫びたかった。いや、叫ぼうとした。
 しかし彼女は俺の手を握ったまま急に走り出したのだ。
 舌を噛みそうになるをさけ、俺は口をとじだまった。

「さぁ行きましょう!」

彼女は笑う。





椿の花

椿の花

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-19

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