スコットとアムンゼン

私と彼の関係


私が北極に行くといえば、彼はハワイを目指すだろう。
私がハワイを目指すといえば、彼は南極を目指すだろう。

それはいつの間にか作られたルールである。

彼を見つけたのは、商店街のペットショップ。
体の大きな彼が所在なさげにしているのが哀れで、声をかけて連れ帰った。
私には生来の人間愛が無限に詰まってるとは、母に言われた言葉だ。

彼はよく食べた。
そして断りもなくぐーすか寝こけて、次に起きたら「朝ご飯は?」だ。
彼に服を買った。
医者にも連れて行った。
しかし彼の気持ちは私とは反対に動き、私をかしづく家来のように見下ろすようになってきたが、私がいないと決してどこへも出かけようとしなかった。

「とろお」
とは、私が付けた名前だ。なんだかあいつはとろくさい。
「何?眠いんだけど」という顔でじっとこちらを見てくる。その瞳がきれいなところだけが彼の長点だろう。

「散歩にでも行こうか」

家を出た。とろおは少し後を着いてくる。
近所の花や盆栽を見ながら、のんびりと日を浴びる。
考えてみれば、彼が来るまで私はこんなに外を出歩いたりしなかった。
その点では感謝すべきだ。こうして健康に近づけたのだから。

「見て」
とろおがその場所を指し示す。
「猫の集会」
原っぱに猫が集まっている。
こいつは犬にはてんで駄目だが、猫にはどういう訳か近づきたがる。
今日も行きたそうにしていたが、しゃーっと威嚇され、あっけなく帰ってきた。
尻尾が垂れているようだ。

「しょうがないよ、お前犬だもん」
「え、僕犬だったの?」
何度言い聞かしても、自分が人間だと思い込む。
この癖は一生治りそうにない。

今日も雑種のとろおを連れて、私は街に出る。
なるべく日を浴びて、脳のセロトニンを作ろうと頑張る。
とろおが長生きしてくれればいいなと思っている。

スコットとアムンゼン

スコットとアムンゼン

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-18

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