回想

なくさ

思い出す

 何? 一体何がダメだったっていうの?
 私がダメだったの? 私が全部悪かった? どこをどうしたらよかったかなんて、今になってもわからないしもうどうでもいい。私は心を入れ替えて、全部忘れたふりして進む覚悟でいたのに。あんなになってしまったのは何が? だってそれしか道はなかった。やりたいことを、あそっこから脱出する道を探った結果。大嫌いだよ、あんな場所。本当に嫌いだった。
 あの場所で過ごしたすべての時間を返してほしい。そう思うほどの憎しみしか残っていない。それはあの場所を離れた途端襲ってきた憎しみ。
 きっとずっとあそこで過ごしていたら私はきっと戦争を望んだ。全部壊していってくれればいいのにって。全部なくなってしまえって。
 全部、全部、燃え尽きてしまえ。崩壊してしまえ。
 よく想像した。町が一瞬で焼き尽くされる様を。
 家にいる女が嫌いだった。どんくさくてバカで常に不幸そうな顔をしている。あいつといると頭がおかしくなりそうだった。あの場所で私は自分を殺してた。あまりにも価値観が違った。そしてあの人たちは私の価値観を否定した。
 私にとって大切なものをあいつらは否定した。自分だけが正しいって顔をして。踏み潰して押し付けて。自身をなくさせておまえには出来ない、無理なんだって呪文みたいに。
 吐き気がしそうだ。あの人はまだ自分のコンプレックスをひきづっているのだ。そしてそれを私にも押し付けてくる。自分がうまくいかないのは社会のせい。自分が不幸なのも社会のせい。自分が辛いのも周りのせい。
 悪いのは常に周り。だって自分はこんなにやっている。だって自分がこんなに正しい。だって自分は何も悪いことなんてしてない。
 本当に? 本当にそうなの?
 あなたに傷つけられてきた人、いると思いよ。あなたに踏みつけられた人、いると思う。
 ガキのまま大人になった哀れな人。自分を見て、自分を見て、自分を見て。
 だって僕はこんなに頑張っている。
 こんなに頑張っているのに。
 あの人は幸せのなんたるかを知らない。心が満たされていることの美しさを知らない。大切なのは自分の虚栄心が満たされること。自分が認められ、賞賛されること。
 自分が正しいと思うこと以外は決して認めない。それがあの人。他人の精神を踏みにじって、それで平気でいられる。それがあの人。
 わからない、なんて言わせない。知らなかった、なんて言わせない。
 今まで何年生きてきたの?
 今までずっとそんな感じで生きてきたの?
 他人の顔色をうかがい、何かを怖がり、でも自分が何を望んでいるかさえもわからないで。
 そんな人から何を学べと? どこを尊重しろと?
 私があそこで充実した毎日を送っていたと思った?
 私は愛を知った。しかしそれはあなた方によってではない。あの場所から広がっている遥か外の世界で私はそれを知った。
 こんなに楽しいのだと、こんなに満たされるのだと、こんなに感動できるのだと知った。
 なんで嫌いなのにやるのか?
 自分が心底信じることが出来ることをやればいいのだ。
 それが一番自分のためにも他人のためにもなることなのに。
 なのにそれに気が付かない。まったくいいご身分だ。
 古い価値観に振り回せれるのはごめんだ。あなたたちと生きていくくらいなら一人で自滅した方がまし。不安を口実に出来るんだ。
 本当に、自分の事しか考えていない。なんでやらせてくれないの?
 なんで私を信じてくれないの?
 揚げ足取りばっかり。傷つけて、それで何を得られるの?
 私は前に進むよ。それは全部なかったことにして、知らなかったことにして、何事もなかったように、進んでいくよ。
 時々思い出して、ああ、懐かしいわって思うような、そんな感じ。
 だってもう関係ないもの。
 お金ならそういってくれればいい。
 無駄に恰好つけないで、とりあえずお金だ、それだけだって。そういえよ。
 口先だけの道徳心なんて信じない。そういうのは透けて見えてくるんだから。わかるんだから。嫌悪で眠れないほど、嫌悪感で号泣できるほど。
 私は知っている。わかる。
 そしてこの罪悪感。劣等感。押し付けられたしるしのような。それは自分で自分のことをそう思い込んでいるんじゃなくて、ある特定の人から一方的に押し付けられた捺印のようだ。
 どうやって償うつもりだ? どうやって責任を取ってくれる?
 そうか、そもそも悪いのは私だ。自分の一番から逃げたから。自分が本当に欲しいものは、あきらめた途端手に入った。
 もういいや、もう無理だって思ったときにふと天から降ってきて。昔はあんなに欲しかったのに。
 きっと自分だけじゃない。こうやってなにかを渇望しながら生きていくんだ。自分だけじゃないのに。まるで自分だけが苦しい、みたいに。まるで自分だけが頑張ってきた、みたいに。
 自分しかみていない。自分の世界しかみていない。それで口をついて出てくるのは誰かほかの人の押し売り。
 私はあああはなりたくない。
 なりたくない。関わりたくない。
 自分のためになることは他人のためにもなることだ。
 自分が好きなものはきっとほかの人も好きになってくれるはず。
 そして物事はすべてがいい方向へと向かっていくはずなんだ。
 自分がたいして望んでもいない、好きでもないものへの執着。
 周りにこれがいいものなんだと押し付けられて植えつけられたものへの執着。
 これがないとダメなんじゃないかっていう恐怖。世界はもっと広いはずなのに。もっといろいろあるはずなのに。
 自分が望まないものへの執着を捨てよう。
 嫌悪をしか感じない過去への執着も。
 全部捨ててしまえ。
 いらねえだろ。
 捨ててしまえよ。だって邪魔だもの。あってもいいことないもの。
 全部なかったよ。
 なかった。
 ほら、前をみてごらんよ。
 広い世界が広がっている。
 きっと私を満足させてくれるはずの世界が。

回想

回想

私小説的な短編

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-16

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