ずいぶんと昔の話 2
僕が高校生の頃の話。
当時すごく好きだった後輩の女の子と一緒に帰ったときの話。
思い出話。
と言っても、まだそういう気持ちをもってなかった。そんな頃の話。
「ゴールデンウィークはどこか行くの?」
偶然駅のホームで一緒になった僕は彼女に聞いた。
「先輩、先輩はあれ何だと思いますか?」
彼女は空を指差す。いい天気だ。
「雲?」
「はい、そうです。あれは雲です」
僕は小さく頷いた。
「あれは雲であって、他の何でも無いんですよ。わたあめに見えたとしても、断じてわたあめなんかじゃないし、もちろん魚なんかではないんです」
確かに魚のような形に見えなくも無い。
「つまりですね、明日からの10連休は、ただの大型連休であって、ゴールデンなんかじゃないんですよ」
えっと、それは、つまり
「何の予定も無いわけだ?」
「そういう事です」彼女はため息と一緒に吐き出す。
「じゃ、どっか遊びに行く?」
特に意味も無く、言ってみた。もちろん下心なんて無くって。
「先輩も何の予定も無いんですか?」
「無いよ。ま、でも部活が無いのはうれしいし、シルバーウィークくらいかな」
僕の言葉に彼女は笑う。「シルバーウィークですか。なんか年寄りみたいですね。オペラか寄席でも見に行きますか?」
どっちも、なんかなー。とか思っちゃったんだ。
急行電車が到着します。とのアナウンス。
「先輩は駅どこですか?」
僕は答える。彼女も答える。「私は各駅待たないと行けないので、さよならですね」
「だね」
「先輩の大型連休に幸あれ」と彼女は笑った。かわいかった。
「寄席なら行ってみたい」とは言えなかった。
言ったら下心が出てしまいそうで言えなかった。
ずいぶんと昔の話 2
昔書いた三題噺です。
お題は「大型連休」「オペラ」「雲」でした。
シリーズ的な感じです。