14代目の1年目

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中学2年の、ある夏の日のことだった。わたしは不思議な店を見つけた。
いつも通る帰り道なのに、今まで気がつかなかった。めまぐるしい毎日の中で、気にも留めなかっただけなのかもしれない。
その店の看板には「音屋」の文字。
わたしはなぜかその日に限ってその看板に何か違和感のようなものを強く感じ、その店に立ち入るのだ。

2

「なんだろう…このお店」それが音屋の第一印象だ。
決して新しくはなさそうな木の板に、少し丸みを帯びた書体で店の名前が書かれていた。
窓はあるが、カーテンが閉められていて中の様子は伺えない。入り口と思しきドアの取手にOPENと書かれた木の板がぶら下がっているが、営業中の店とはまるで思えない雰囲気。まるで森の中にポツンとたたずむ木の小屋のようだ。
わたしは少し考えた後、その店に入ることにした。いくら怪しいとは言え店なのだから、客として入る分には問題ないはずなのだ。そう思ってドアノブに手をかけ、くるりと回して、中を覗く。しかし誰もいない。誰もいないのは予想の範疇だが、誰もいないうえに何もない。外観通りの、木の小屋のような空間が広がっているだけで、ガランとしている。店の奥にはカウンターとカウンターの上にアンティーク風のレジらしきもの、そのさらに奥にはドアがあって、半開きになっているドアの向こうには階段が見えている。
「すみません」
私は少し大きな声で、店の奥にいるであろう店員に向かって呼びかけた。すると、天井から、ドスン、とすごい音がして鈴のようなものが一斉に転がり落ちたような音が聞こえてくる。
なんだなんだと上を見上げていると、今度はドンドンと階段を降りる足音がして、店の奥の階段から大きなダンボール箱が現れた。
「どうも。」
そのダンボール箱が床におろされ、後ろから男の子が顔を出す。小学校低学年くらいだろうか、その小さな身体が、ぺこりとお辞儀をした。そして私をジロジロと見て、不思議そうな顔をする。
「OPENって出したけど、まさか人が入って来るとは思わなかった。申し訳ないけど、今日はまだ売れる品物はないんだ。」
そうだろうなとは思っていた。
だってここには何もないのだから。
「あ、いえ、いいんです。」
「たぶん明日もそうだろうから、来てくれるなら明後日か、土日はやってないから、来週に。」
「それならどうして、OPENって…」
「今日が8月の第2水曜日だから。今日開店って、決まってるんだ。」
小さな身体が、ダンボール箱を開け始めた。
私は何もないなら仕方ないと、帰ることにした。
「じゃあ、帰ります。」
一声かけて、店を出る。
「はい。またどうぞ。」
ちいさな声が、閉まったドアの向こうから聞こえた。

14代目の1年目

14代目の1年目

「音屋」という不思議なお店 14代目店主の1年目 そんなお話

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-15

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