君への気持ち

一久一茶です。今回もまた恋愛ものです。読んで頂けたら幸いです

ふと寂しくなる瞬間は、この季節だから仕方ないのかな。
君とサヨナラしたあの日から、私はずっとひとりぼっちだ。もちろん、学校に行けば友達もいるし、家に帰れば家族だっている。けど、何をしてても心はいつも孤独。突然、寂しさに押し潰されそうになって、何度も泣いた。ただ単に、誰でもいいから一緒に居たいとか、そんなのじゃない。今の私に足りないのは、君・・・君と一緒に居たい。君と笑っていたい。君と、同じ時間を過ごしたい。私がいくらそう願っても、それは叶わないこと。君はもう、遠くに行ってしまったんだ。仕方ないの一言で、何度も諦めようと思ったけれど、やっぱり私は君がいないとダメみたい。
川の流れを眺めながら、そう物思いに耽る日々は、寒くなっても変わらなかった。冬の川には、心を寂しくさせる何かがある。ここ最近はずっと君のことしか考えてない。頭に君しか浮かばないんだ。
でも、今の私にすることなんてない。何もやる気が出ない。暗くなったら家に帰ろう。それまでは、少しくらい泣いてたっていいよね。

今日もまた、いつもの河川敷に来た。けれど今日はいつもとは違う。背中には、ギターケース。いつもはエレキを弾くのが好きだけど、今日は気分的にアコースティックギターを持ってきた。ピックで弦を弾くと、寂しげな音が響く。
「君、ここ最近ずっと来てるよね。ギターやってたんだー」
しばらく弾いていると、男の人が声をかけてきた。そういやこの人の顔見たことある。いつものこの近くでギターを弾いてる人だ。
「はい。いつもはエレキなんですけどね」
「ほぉー。知ってると思うけど僕もギターやってるんだ」
ポンポン、とギターケースを叩きながら、ニコッと笑ったその人は、私の隣に腰掛けて、ギターを取り出しながら言った。
「失恋中?」
「え・・・あ、はい・・・」
バレてたんだ。そんなに暗い顔してたんだ。
「やっぱりねー。見ててわかるもんな」
「そう、ですか・・・」
「あ、ごめんねいきなり話しかけて。僕は音市って言います。ギター持ってたからつい仲間意識出てしまって・・・」
音市さんは暗い顔をした。想像するに、ギター仲間だと思って話しかけたけど、私が暗い顔してるから機嫌を損ねられたのかと申し訳なく思っているみたい。
「いいんですよ。私もひとりでギターより、誰かと一緒に弾いてる方が気も紛れるんで」
私がそう言うと音市さんは笑顔になり「それじゃあ」と呟くと、私の隣でギターを弾き始めた。その旋律は、寂しげで、でもどこか明るさを孕んだ心地いいものだった。
しばらく聞いていると、音市さんは私に向き直った。
「君も音楽をやってる人間だろ?」
「ええ、まぁそんな感じですけど・・・」
「なら、君のその寂しさを音楽にぶつけてみなよ。こういう時って心は厳しいだろうけど、同時にいい音楽を生み出すものだよ」
さぁ、と音市さんは私の番だと言わんばかりに視線を送った。私は、思いつくままに自分の旋律をかき鳴らした。その音色は、私の心を優しく洗ってくれている気がした。そして同時に、私の頭の中に浮かんだのは、想いの詰まった言葉たち・・・
『冬の空はどんよりと、僕の心を映すよう
頬を撫でる風たちは、君のもとへも届くかな
君の笑顔の温もりも、君へと夢見た恋心も
僕の中の温もりを、どうか君へ届けてくれ
僕は寒くたっていい、ただ君が幸せなら』

「いい曲だね、それ」
「つい歌ってました」
「いいじゃん。てか、作詞作曲普段からするの?」
「いえ、まったくですけど」
「へぇーすごいじゃん。ちょっと歌詞が男の子目線なのが不思議だけど、すごいよ。これ一曲作っちゃおうぜ! 絶対いい歌になるよ!」
音市さんは私をべた褒めしてくれた。そして自然と、私たちは夕暮れまでギターを夢中に弾いたのだった。



あの日歌ったあの曲は、あの後も音市さんと突き詰めた末に形になった。そして今日、私と音市さんは学園祭のステージの上にいた。
「いよいよだね」
「はい、頑張りましょう!」

『はい、続いてはこちらのグループから一曲いただきましょう! 曲は【暖かな恋】です。よろしくお願いしまーす!』
ステージには、私たちを見るたくさんの人が。この中に、君が居れば是非聞いてほしいな・・・
一緒にセッションするベーシスト、ドラマーにアイコンタクトをとり、そして私はマイクに向き直った。音市さんの優しいアコギの音色が会場に響くと、観客は拍手を止め、それが音市さんの音色を更に引き立てた。そこに、私の奏でるエレキの音色が重なると、私は心に溢れるものを感じた。

『 冬の空はどんよりと、僕の心を映すよう

頬を撫でる風たちは、君のもとへも届くかな

君の笑顔の温もりも、君へ夢見た恋心も

僕の中の温もりを、どうか君へ届けてくれ

僕は寒くたっていい、ただ君が幸せなら

その幸せな笑顔で、また誰かを幸せして

僕のことは忘れてただ、ずっと笑顔で生きてて欲しい』

あの日、口をついて出たフレーズ。それは私の本心ではなかった。まだ君のことが大好きだったし、君の笑顔を、温もりを近くで感じていたかった。君の幸せの側に私もいたかった。だけど、いつしかあの日歌ったフレーズは、私が前へ進む力を、自分を歌う勇気を与えてくれたのだ。
溢れ出る君への想い。それは愛し合ったあの時とは少し違う気持ち。その寂しくも暖かな想いを歌う私は、河川敷にひとりたたずむんでいた頃の私とは違う。私には歌がある。もう、寂しくても泣きやしない。

ただ私は、歌い続ける。拍手を受けながら、そう誓いを立て私はステージを降りた。

君への気持ち

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君への気持ち

君を失った私は、ただ途方に暮れる毎日だった

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-14

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