春風に押されて
桜は満開の時期を超えて半分桃色、半分緑に色づいている。
陽は高くきれいに燃え上がり、緑の共演して美しい色彩を奏でている。
ひとつ、心地よい風が後ろから通り抜けた
春風に押されて、ボクは落ちて行った
思い出すのは
中学一年生、入学式の日
ボクはオレに出会った。
受験に失敗したボクは
元から知ってる顔もいたが、初めて見る顔立ちの前で嘘をついた、
自分は本当は明るくなんかない、根暗で、地味で、ダメな奴だ
7歳の時に父親が死んでから、他人がボクを見る目は好奇の目だった、
話しかける優しい言葉は、マニュアル通りの言葉だった、
「父親がいないなんて気持ちが悪い、でも気を使わなければいけない」
そういう考えだったんだろう。
とにかく、初日からボクは無理に笑った
本当は何もしたくなかった、こんな学ランなんてものを着ている予定じゃなかった
でも仕方がない、やっぱりボクは落ちこぼれだったから、
どんなに周りが協力しても、ボクは一番大事な時には結果を出せない
公立校にはいってきた奴らはやっぱり馬鹿そうな奴ばっかりだ
どうせ喧嘩の度にまた、「父親がいないくせに」と言われるんだろう
もうなれた言葉だ、「父親がいない」
これはなんてことがない、将来大きくなった時に亡くすはずだった父親が
自分が幼い時に亡くなっただけだ。
でも、社会の風当たりは強い、辛い、泣きたくなる、
特にボクの父親は、誰にでも慕われるような良い性格をしていて、
写真で見ただけで「カッコいいね」言われるような顔立ちで、
仕事場でもエリートで、
趣味でやってるグライダーという小さい飛行機のクラブでも
他の年配の人たちを退けて、「時期会長はあの人だろう」と、
そういわれるような、いわゆる完璧な人だった。
だけど、父親は死んだ、
「あれほどの操縦技術を持った人が、誤って墜落するわけがない」
仲間の人たちはみんなそう言う、たしかにボクもそう思う、
じゃあ、なにか理由があったのかな?
時間を戻して、
入学した次の日、ボクは「誰もが惚れる」と噂の女の子に目をつけていた
確かに顔立ちはスゴイ綺麗だけど、そんなに良いとは思わない
今までいろんな人たちの濁った眼を見てきたからわかる
あの目は、人を下に見下ろしてる
「性根の悪い人間の眼」だ
もちろんただの思い過ごしかもしれない
ただ、ボクはそう感じた
とにかくバカみたいに明るく馬鹿らしく振舞った、
そうすればうわっぺらだけの友達も増える、
女子にからかわれることも少ないだろう、
そうおもってたから
入学から1週間ほどたっただろうか
前の学校から知り合っている、女子に話しかけに行った、
根が正直でまっすぐだから、話しかけやすい
よくふざけて弄って遊んでいる
いつも通りふざけ弄りをしにいこうとしたとき、
ふと、なにか心が囚われる感覚がした、
なんだろう、
もう一度した、
匂いだ
なんだか甘い匂いがする、体の力が全部抜ける、
心ががっちりとつかまれる、
振り返ると、匂いの主は地味な感じのする髪の長い眼鏡をした女子だった
少し知的なイメージがしているけど、近寄りがたい感じはなかった
多分、この瞬間に好きになった
「なにお前、匂いきつっww」
自分にとって精一杯の相手にこっちを向かせる努力だった
「うっさいな、どうもすいませんでした」
怒ってるところがなんだか可愛く感じた
「まぁ、別に嫌な臭いじゃないけどさ」
「じゃあ言わなきゃいいじゃん」
それもそうだ、だめだ、緊張して何も考えられない
人生で初めての体験だった
でも、
「お前何?うざい、あっちいって」
あ、終わった
そう心の中で思った
「いみわかんねーw」
自分がいみわかんねーだ
その日はそれで終わった
これが、全部の幸せと不幸の始まりだった
春風に押されて