失われた夏 5 彼女の愛
十月に入って、最後の土曜日の午後。秋晴れの爽やかな日だった。
秋風が快適に吹いてくる。並木道の、風に揺れる木の葉の音が聴こえてくる。
午後の日差しは、穏やかで快適だった。
阿木貴子が、並木道沿いにあるオープンテラスのカフェにいた。
カフェの外にあるテラスで、オレンジアイスティーを飲んでいる。
彼女の身につけている白いブロードのシャツは、仕立ての良いシンプルなデザインだ。第二ボタンまで外し首元にシルクのスカーフを巻いている。
今日の彼女は、いつも以上に華やかに引き立って見える。
それを、引き締めるような黒いタイトスカートと、黒いスエードの華奢なハイヒールが、凛とした印象を受ける。
彼女は、アンテークの腕時計で時間を見ると、小さいショルダーバッグを肩にかけてテラス席から立ち上がった。
カフェを後にして、土曜日の午後の港街を歩き出した。
石畳みに、ヒールの音が優雅に響いた。
爽やかな秋風に、彼女のシャツが揺れる。
彼女は、シックな港街の並みを歩いていく。時折、ショーウィンドウを眺めながら…。落ち着いた足取りで、優雅に歩いていく。
彼女の凛とした華やかさに、行き交う男性の視線が釘付けになる。
彼女は、その視線を避けるかのように歩いていく。
彼女は、南側に硝子張りのショーウィンドウのあるブティックのドアを開けて中に入った。
展示してある洋服を、触らずに一通り見ると、アクセサリーを展示してあるコーナーへ歩いた。
彼女は、時間をかけてシンプルで華奢なホワイトゴールドのネックレスを選び購入した。
プレゼント用の包装をしてもらい手に持ってブティックから出てきた。そして、ゆっくりと港街を歩いていく。
ビルの壁をオレンジの夕陽が染める。
もう、夜はもうすぐそこまできている。
黄昏の港街を、ゆっくり歩いた。
港街の駅の南側に、彼女は歩いていく。黄昏の港街の雑踏を、縫うように優雅に歩いていく。
しばらく歩くと、彼女は、モダンな高層ホテルの建物の中へ入った。
ロビーの中央のエレベーターに乗ると、上昇するエレベーターの中で、黄昏の港街の風景をみた。
空は、夕陽が沈んでオレンジからコバルトブルーに変化していく。
港街は、夜景に変貌しっつある時間になっている。
彼女は、12階で降りた。
長い廊下を優雅に歩いていく。そして、1207号室のドアの前で立ち止まった。
ブザーを押した後に、ドアを二回ノックした。
しばらくすると、ドアが開いた。
部屋の中から、森下彩が出て来た。
彼女は、ホテルの白いパイル地のバスローブを身につけていた。
「遅くなっちゃった。ごめんね」
「いいのよ。眠くて昼寝してたのよ」
森下彩は、彼女を部屋に入れた後にドアを閉めて鍵をかけた。
貴子は、クローゼットを開けてショルダーバッグを入れて、部屋を見渡した。
テーブルの上に、シャンパーニュが冷やして置いてある。
彩が、シャンパングラスを持って来てシャンパーニュをシャンパングラスに入れた。
貴子はプレゼント用に包装されていたネックレスを持って彩の背後へ歩いた。
「お誕生日おめでとう」
彩が振り返ると、貴子は包装を差し出した。
彩は、可愛い笑顔になった。
「ありがとう。開けてもいいの」
「どうぞ。選ぶのに時間かかったのよ」
彩は包装を丁寧に外してテーブルに置いて、ネックレスを取り出した。
「いいわ。華奢なのに華やかで素敵」
「つけてあげる」
彩からネックレスをもらって、彼女の前に立った。
ネックレスを彼女の首元に持っていき後ろでとめると、そのまま彼女の腰を引き寄せて抱きしめた。
「綺麗よ。よく似合うわ」
「ありがとう。貴子」
二人は見つめ合うと、長い口づけをした。貴子は、彼女の背中を撫ぜる様に滑らしていきウエストで結んでいる紐を外した。
バスローブの前身頃が、開くと彼女の綺麗な白い肌が見えた。
再び二人は、抱き合った。
「愛してるわ」
貴子は、彼女の耳元に囁いた。
失われた夏 5 彼女の愛