黒白の魔導士たち −Dear “ F ”−
前々作「黒白の魔導士たち」
前作「黒白の魔導士たち〜神々のオラトリオ〜」
の続編となり、完結編となります。
面白い話にする様頑張るのでご指導ご鞭撻、ご愛読のほど宜しくお願い致します。
再臨する悲劇。平和と化した世界の真ん中で。黒の意思は生き続けている。三位一体、空は愛を描くー。
第1話 「10年後の世界と潜めた影たち」
世界は錯綜している
平和を求め 愛を求め 何もかもを失い
悪を除き 完成を謳い 希望を培った
言葉では見つからない
「永遠とは何か」
そんな答え 誰も持ってはいなかった。
本当に平和とは一体なんなのだろうか。
平和の定義があやふやで…
人はだがそれでも日常に溺れ…
車で出かけた 帰り道
人は誰もが無事に帰れると信じているからだ
「天狼の脅威」
から11年。
「黒白時代の開始から終結」
までおよそ8700年。
「海枯れの戦い」
から11年。
「王都戦争」
から10年。
「太陽化身の降臨」
から10年。
この約10年脅威と呼ばれる存在はなく…
今生まれる子供たちは戦争を知らず育つ世代となる。
そしてその時代を治める者。
それが…
「王よ、こちらがキングタウンの今月の王都の予算案となっております」
「ああ、ありがとう。レイン」
ー真王 ジェイク・ハザ・ダスト(31) ♂ー
「いえ、僕の…じゃなくて私の仕事ですから!」
ー副王 レイン (33)♂ー
世界を襲った震撼の脅威、悪意の権化「海原の天女」や神々の王「“D”uke'vampire」、そして何億年も昔から太陽に住み着き世界を支配しようとした太陽の化身「ヴィーナス=コスモ=セレスティア」さえも凌ぎ3度に渡り世界を護った。
その者の名がジェイク。
現在の真王にて人々に尊敬され称えられ、「黒白」の魔法を操るとの事から「黒白の魔導士」と呼ばれている。
かつてジェイクは「黒白時代」と呼ばれた時代を生きていた。
いや、それこそが彼らの奔走した時代背景だろう。
人々に「ジェイクとは?」と尋ねれば皆がこう答えるだろう。
「ジェイクとは世界を何度も救った英雄」
と。
だがジェイクを古くから知る者に聞けばこう答えるだろう。
「努力家」
と。
黒という人種に生まれ。
白という人種に差別をされ。
辛い時代を生き、だがそれでも彼は仲間とともに戦った。
その結果が 人達の頂点「真王」の頂だ。
「レイン、これバラン帝国の予算少なくないかな?
これでやりくりできるのかな?」
「どうなんだろ、、どうなんでしょうね、でも帝国の帝王が志願して国家予算を少なくするって話ですからね…
彼は元々経営者でしたから、国の予算の回し方が上手くて余りが出たから王都で使ってくれっていう心遣いですからね」
「そっか、ならこの希望額からほんの少しだけ多くして送ろう。
決まりだね」
「ええ」(今は…
“戦えない人間”が王になれる時代…
時代は変わってしまったんだ…よね…
戦える者が、強い男が王になる時代は…)
ー王都 オズ 王宮 屋根上ー
「……」
シュタッ
「此処に居たんだね、何してるの?」
「………此処は……世界が…よく見える…の
狭い世界…… つまらない…最近は退屈……
カッコよかった…男たちの……矜持の駆け引き…は…もう見られない…かも…ね?」
「それは平和になったって事じゃないかな…。
でも夜空も大戦後8700年間月に一人で居たんでしょ?
こんな10年の平和なんてまだまだでしょ?」
「………あの時は……全てが孤独だったから…
今は…愛する人も…仲間もいる…
ワクワクしてるの……ァハッ♪」
「ふふ…一人じゃなくなった夜の神は…
戦を求めているんだね」
「虐殺は…ヤダ…適度な体…動かして…戦う」
「なら私が相手になってあげよっか?」
「ニィ …月にいこ?」
「望むところ!」
ー王室ー
「王サマー、夜空 村雨2名の魔力が察知出来なくなりました〜」
「フー、またか……あの二人はホント戦うのが好きで困る…
レイン、少しこの仕事頼めるかい?」
「うん、いいよ …はは、大変だ…ですね…」クスッ
「はは、慣れたさ
…さて…“始神融合” 宿れ「死王」!!!」
そこに呼び出したのは死の世界の概念と伝えられてきた伝説の神・死王リッチーロードだった!
「ふぉっほっほ。 またかいの?」
「ああ、すまないリッチー。
止めてきてくれないか?」
「良いぞ。 …久しぶりにまた血が騒ぐわい…
夜の巫女姫と海の天女が相手じゃろう、楽しめるわい…
じゃが月までは頼むぞよ」
「ああ、ありがとう!
“夜刻創造” 月天送々!」
「うむ、行ってくるぞ」
「ふう。 …夜空…君は…」
父と母を目の前で失ったんだ。
だが二人は死ぬ直前に夜空にこう伝えた。
「愛している」と。
…今まで愛など知らず
…ただ孤独に何千年も一人で過ごした夜の神…
最近の夜空の戦い好きは孤独を紛らわせた「愛」が良く分からず不安定な状態だからこそなのだろう。
戦って疑問を紛らわせているんだな…
「僕じゃ力になれない…
今の僕には業務があるんだ
ごめんね夜空…村雨もリッチーも、ごめんよ…」
もう杖を振り 剣を取り
圧政に怯え 斡旋に怯え
脅威に恐れ 神々に畏怖する時代は終わったんだ…
「変わらなきゃな…僕も…」
ーージェイク 自宅ーー
「ただいま、今帰ったよ」
「あ!おかえり、ジェイクっ!」タタタ ダキッ
「うわわ、ハル、飛びついちゃ危ないよ」フフ
「だってだって寂しかったんだよジェイク!」
ーハル (25) ♀ー
10年前。
ジェイクの父であるジグの元研究所に父のクローンが広い、育てていた生立不明の少女がハルだった。
彼女は名前も忘れ、覚えているのは「母らしき人物」の横顔だけだったと話している。
ジェイクに「ハル」というジェイクの母「ハルジオン・ロザリオ」から取った名前を貰い、ジェイクに惹かれていった。
今はジェイクと婚約を果たし、正式な妻である。
「そっか、遅くなってゴメンね」
「ううん!ジェイクは…お仕事頑張ってくれたんだもん… 私待てるもん」
「えらいなぁ」なでなで
「え、えへへー///」
「母ちゃん、子供の見てる前でやめろよなー」
「おとーさんおかえりなさーーい!」タタタ バギッ
「ぬぉっ! み、みぞおちに…ゴフッ…
強くなったじゃないか…セレス…」
「えへへー!せれすえらいでしょーっ!」
「こ、こらセレス!
父ちゃんが死にかけたじゃないか気をつけろよ!」
ー ホワイト・リオ・ダスト(9)♂ー
ーセレス・ソラ・ダスト(5)♀ー
ーーそう。
ジェイクとハルの間に生まれた二人の子供である!
この世界の人間たちは産まれながら魔力が多かれ少なかれ宿っている。
その為、成人は15歳にはもうなっているのだ。
生長が早い、のである。
息子であるホワイト・リオ・ダストはハルの白の魔力が宿った。
名前はホワイト。
いつか白の魔力を操り世界を救う「ダスト」家の英雄になりますようにと願いを込めて付けた名前だ。
娘であるセレス・ソラ・ダストは夜空の母、セレスティアから取ったものだ。
ジェイクは夜空を宿した。特別な存在。
恋愛とは違う 尊敬の感情。
夜空に頼み、「セレス」の名を頂いたのだ。
いつか…コスモの様に。強く優しく愛に溢れた人間になる様に。
そんな願いが込められている。
「えへへー!」ニコニコ
「はは…」(日に日に強くなっていく…)
セレスは…そう。金凰奏々を受け継いでいた!
ジェイクに金凰奏々が宿ったのだ。
しばらく金凰奏々は宿らないと誰もが思った。
だがセレスの体の根底に、ジェイクは確かに金凰奏々の魔力を感じていた。
普段の生活には問題はない。
だが、感情が高まると本人は気付かないうちに魔力を体に魔力装填し、5歳児とは思えない力になってしまう。
魔法幼児学園に通わせていたがセレスの気付かぬ内に3人もの友達に怪我を負わせてしまった。
セレスは遊んでいたつもりなのだろう。
だが周りはただの子供。
金凰奏々の魔力を宿した子供の遊び相手など同年代には務まるわけがない。
ジェイクもオズマも金凰奏々が発現したのは16歳より上の時だった。
だがセレスはまだ5歳。
これはセレスが「圧倒的魔法の天才」だという事を示しているのだ。
村雨の再来。
セレスもまた、本当の天才の資質を秘めている。
今ではセレスは「魔法考学校 特別枠」として飛び級している。
本来14以上の者が通える場所だがセレスの能力を伸ばすには幼児学園ではもはや意味がなかった。
「おとーさん! きょうね、がくえんでこんなのおしえてもらったんだ!
みててね!
えーっと、こうやってー こう!」
ボォォォ!!!!!
「きゃっ!」
「うわっ!」
「ハル、ホワイト!
なんと…火球時雨…
炎魔法の基礎だが僕でも覚えたのは9つの時だ…
しかもその時の僕の魔力と比べ物にはならない、大人レベル…
す、凄いじゃないかセレス!
せ、セレス。その技は家の中で出してはダメなんだ。
だからしまいなさい?」
「え、どうやっておかたづけするの?」
「じ、ジェイク…どーしよ…セレスが指を下ろしたら家燃えちゃうよ…」
「と、父ちゃん!」
「…白檄変化…!!!」ギュオオオッ
「ジェイク!?」
「父ちゃんが白檄変化になった!?」
「無動不重力!」
「あれれ、おとーさん、からだうごかなくなったよ、こわいよ…おかーさん…ぐすっ」
「大丈夫だ、セレス。
少しじっとしておきなさい
「切替」黒色王土!」
「黒白の矛=漆」
ジェイクは魔法を無効化する技でセレスの火魔法を消し去る。
「ふう、これで大丈夫だ。
セレス。お片づけのやり方が分かるまでそれはしてはいけない。
お父さんとの約束、守れるな?」
「うん!ありがとおとーさん!」
「すげぇ…」(父ちゃんかっけぇ…)
「ジェイク…///」(やばいかっこいい…)
コンコン
「あ、誰かな」パタパタ
ハルは扉を開ける。
「ああ、ハル。よォ、元気かよ
ジェイク居るか?」
「あ、ジオ! えへへ、元気だよ!」
「おうっ …ん! おおジェイク」
「やあジオ、どうしたんだい?こんな時間に」
「どうしたもこうしたもねーよ、お前の魔力感じたら俺は来るんだよ」
「あ…そうだったね…」
「まあお前のことだから何が起きても基本的に大丈夫だろうけどよ…
“神法魔導士第5席”としてもしお前が窮地なら駆けつけなきゃなんねーからな」
ージオ・シレネード(30)♂ー
破壊神ブリケトを宿したことにより体内に大きな魔力が生まれた。
その事によりジオは第5席へと認定されたのだ。
「そうか、ごめんね…」
「何事もねーんならいいんだよ、んじゃ、邪魔したな」
「待ってくれジオ!
…少し飲んでいかないか?」
「いいのか?」
「ああ!歓迎だ!」
ー自室ー
「お待たせジオ。子供達寝かしつけて来たよ」
「おう、お疲れさん!
ほら、ハルが出してくれた酒だ
呑もうぜ」
「僕が買ったやつじゃないか」ハハ
「はは、わりぃこれうめぇな」
「だろう?僕が現地に行って買ってきたんだよ」
トクトク
「よし、乾杯だジェイク」
「ああ、乾杯」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ヒック…それでさ…ジオ…」
「おい、大丈夫かよジェイク」(まだ二杯しか…)
「みんなさ…変わってしまったんだよ…」
「…!」
「僕は…王になんてヒック…なりたくなかったんだよ…
レインも…ルージュさんも……ジオとハル以外は僕を様付けで呼ぶんだ…ヒック」
「ジェイク…」
「もうないんだな…
土に倒れて…草を踏んで…駆け巡った日々なんて…」
「……変わんなきゃなんねーんだよ
…………俺らが望んで作った平和だろーが
お前も俺もレインたちも…
その象徴なんだよ、判るだろ…
でもよォ…俺だけは変わらずお前を幼馴染として接する
俺はお前の「相棒」だとそう伝えたはずだぜジェイク
それまで忘れなんよ、お前には仲間がいんだからよ」
「…ありがとう…ジオ……zzz」
「ふ…ハル、俺そろそろお邪魔するぜ」
「あ、うん! ジオ、ありがと
ジェイクを…いつも」
「…おう さーて、俺も愛する嫁が居る家に帰るかな」
「あ!ジオ!この野菜、ルレンに!」
「お!トラリオキャベツじゃねーか!
確かミドル(ジェイク出生国)で取れるやつだろ!
俺好きなんだよな、サンキュー!」
「ううん、いつもジェイクのことお世話になってるから、妻として…当然のこと」//
「はは、照れながら言うんじゃねーよ。
じゃ、もう夜も遅いしお前も早く寝ろよ?
また今度ルレン連れてくるからよ!」
「うん!」
汝 ー永劫を翳すー
汝 ー潜永の疑念を宿すー
汝 ー確変と死を生成すー
汝 ー結納と絶滅の忙殺ー
「記憶処理・消去」
ドンッ!!
「がっ!!」
「じ、ジオ!?」
「ハル…っ! 家に入れ!!」
「ジェイク呼んでくるっ…!!」タタタ
「なんだ…この女…」
(俺の頭を殴り飛ばした…
酒が入ってるとは言え気配すら感じなかった
それに…一瞬考えてることが「消えた」…)
ジオの前に現れたのは…
長い髪を携え
宙に浮く
若き女性だった。
「灯れレファ!」
ジオは聖剣レファを構える。
「ジェイクに手出しはさせねーぜ!!」
(まずは黒剣雷剣で間合いを取って…
様子を見て「魔力装填」で叩き斬る!!)
「……汝…愚かな…」
「行くぜ…!!」
「記憶処理・消去」
「ー! あれ…俺何をしようと…っ!ぐぁっ!!」バギッ
ズザザザ…
吹き飛ぶジオ。
「か、考えてた事を消す能力…っ!
マズイぞ…動く直前でやる事を忘れたら動けねぇ…
だが1瞬したら思い出す…確かに俺は黒剣雷剣で斬ろうとした…」
「汝では…我…倒せぬ…」
「うるせぇ! ジェイクの元へはいかせねーぞ!」
ジオは剣を構える。
魔力を剣に込める。
(奴は宙を舞ってる…
魔力的に見ても奴は圧倒的に魔力の使い方に差異がある…
だからまずは手早い剣戟で奴の魔力を吸収する…!)
「“慈愛”! 灯れ炎魔法!!」
ジオの体にジェイクの炎魔法が宿る!
「行くぜ、黒白の矛=漆!!!」
だが…
「記憶処理・消去」
「あ… っ!? ぐぁっ!」
ジオは蹴り飛ばされる。
「バカな… やはり奴の能力…
1瞬前の記憶を消去出来る技…
確かに吸い取ろうとしたのに、行動に移せなかった…!?」
「汝と戯れる刻は無に帰し叩頭の奔走である…
我が前より死により絶せよ…」
「この魔力…もしかしてこいつ、神ーーー」
「待て!!」
そこに現れたのは 現真王であるジェイクである!
「ジェイク!
おま…なんでここに!」
「人の王…」ニヤ
「ジオ、無事かい?
慈愛 の発動を確認した、僕は君のシグナルを見失いはしないよ…!」
ジェイクは敵を睨みつける。
「…ジオ、彼女は誰だい
浮気現場…?」
「ンなわけねーだろ!
お前の家を襲ったんだよ!」
「嘘々、知ってるよ
ハルから聞いてる。
…さて …僕も王である前に君の友人だ
友人を傷付けた彼女はとりあえず許せないかな…」コォ…
「“夜刻創造…” 宿れ夜空」
「…………やっ…と ……戦い…の時…?」
そこに現れたのはジェイクに融合する夜空だった!
「新月の巫女! おいジェイク、いきなりこいつ使うのかよ!」
「君をそこまでにした相手。
気は抜けないよ、夜空も戦いたがってたし!」
「人の王よ 我が前に飛び立て」
「ああ…」スー
浮遊魔法で夜空を宿したジェイクは女の前に飛び立つ。
「我が名はジザベル…天地を淘汰する悪霊なり」
「あ、悪霊!?
まさか…お前…」
「我は悪意より生まれし「海原の天女」の残響だ…」
「やはり…
村雨が生んだ…って言ったら語弊になるけど、悪意が霧散する時に勝手に生まれた悪霊だ…」
「さて… 人の王… お前の肉体を貰う…!!」
「目的が俺の体…か…!
捕らえるぞ、行くぞ夜空!」
「ええ…捕縛…!!」
「霊魂召喚・敷衍の魔=宵の姫!!」
「! ジェイク…気をつけて…!
悪霊の召喚……彼女は宵の姫……
人の魂を…縛る…悪霊…!」
「ハァァァーっ!!」
「ぐ!体にまとわりつく!?
ならば…
炎殺砲波!」
ジェイクは両手の掌から炎を放射する!
「ぎゃぁんっ! あ、熱い…っ!」
宵の姫はジェイクの体を離れ、遠のく。
だがジェイクはそこを逃さない。
「夜空!!」
「ええ…!! 」
夜空は片手に魔力を込める…!
「沈め…! 新月・御影落!!」
「な、なにこれぇっ!
か、体が… 体が変な空間に…!」
「その技は私が…張る…夜空の彼方へと…接続されてる…ぁは…ぁはは…♩
もうすでに…体…はんぶんこ…フフフ…」
「あ、脚が…、ジ、ジザベルちゃん!!
た…たすけーー」
「やはり…その程度の下級霊では不可能か…」
「か…下級霊…?」
宵の姫の体は宵闇空間へと消えていく。
「ならば…我が右腕を此処に呼び戻す…
霊魂召喚…敷衍のーーー」ガッ!!!
「ぐぁっ…な、なんだ…!?」
「遅かったな、レイン!」
そこに現れたのはオズの副王にて…
“神法魔導士 第1席”
レインであった!
「ジェイク!無事か!!」
「!レイン…」
(立場を重んじて最近は俺に敬語で接して名前も「王」と呼んでいたのに…)
「あっ、王…いや、いいか!
正直ね、慣れないし呼びにくいしで飽き飽きだったんだ
僕と君はどんな立場になろうと“友達”だ。
友達が友達と話す時に…そこに壁なんて必要ない!」
「レイン… フフ…よし、やるぞ…!」
「ジェイク、レイン!」
「ジオ!」
「ん、何やってんの馬鹿剣士。
自分が仕える王を戦わせてどーすんだよ」
「うるせぇお前こそ1席のクセに来るのおせーんだよ!
ボケ老人」
「なっ! まだ33だ!
そんな君こそ老けて見えるぞ!」
「んだとォ!?
てめぇ最近副王になったからってジェイクに改まって接しやがって、ジェイク傷付いてたんだぞ!」
「えっ…そうだったの? ジェイク、ごめんよ」
「えっ!?い、いやジオ、ほらそれは…(恥)」
「そんなつもりじゃなくてさ、ほら一応民への示しと言うかさ…」
「いーけないんだいけないんだ 真王様にいってやろー♪」
「だまれ馬鹿剣士! 真王様はそこに居るじゃないか!」
「待って僕は大丈夫だから恥ずかしいやめてやめて」
ワーワーワーワーワー
ジェイクは変化魔法すら解けてレインとジオと楽しそうにふざけあっている。
彼は真王になり、「日常」を失ったのだ。
まるで子供の様に…。
ジザベル「…」プルプル
ジザベル「ウォォォォおおおおお!!!!!!!」
3人「!?!?」
「我の存在を無視し…談笑に耽るとは…
命要らぬとはいえ 貴様たち…我を虚仮にしてくれるな…」
「あ''? 誰が命要らねーだ…
うぜぇぞ…屍」
「全くその通りだ…
僕らは今楽しく「おしゃべり」なるものをしてるんだ…
邪魔すんなよ… 殺すよ…?」
「あ、ごめん普通に忘れてた」
「ジェイク……あなた…それはかわいそ…うよ…クスッ…」
「…虚仮にするのも好い加減にしろ…
貴様等の肉体は我が主人「ウィゴール」の為に持ち帰る…」
「夜刻創造…! レイン、ウィゴールの名に聞き覚えは?」
「金凰奏々!! …いや、無いね…」
「来い…エヴァレータ!! なんでもいいじゃねーか。
まずアイツを斬り落とし、殺す直前で吐かせる!」
「殺すのはダメだ。 …まだあいつはそこまでのことはしてないだろ?
だから倒して魔力空間で服役させる。
…レイン!ジオ!俺が決める、奴を怯ませろ!」
「「了解!!」」
「悪陣!」
ジザベルは体の周りに防御魔法を展開する!
「ジオ!あれ、割れる?」ビュォォッ
「当たり前だろーが! 任せろ!」ビュォォッ
二人は浮遊魔法でジザベルに近付く!
「エヴァレータ… 俺の魔力と引き換えにクトゥルフの剣技を俺に貸せ!
一点淘汰・阿闍!」
矛先に魔力を集中させた一点突きだ!
「ウォラァア!!!!」
ガキーーーーーン!!
「その程度で悪陣は割れぬ!!」
「まだだぜ…始神融合、ブリケト!!」
「承知した…!」
「今の阿闍でヒビが入ったその魔法壁…
そこにこれを流し込めばどうなる?」
「…まさかそいつ…破壊の神…ー!!」
「絶対分解!」
バリィィィン!!
「クソ! 魔法壁が粉々にーーっ!」
飛び退くジザベル。
だがその後ろには。
「行くよ。
神法魔導士第一席の力を見せてやる…!
始神融合・“海原の天女”」
「よーし。 …やろっか、アナタ♪」
「!!!???まさかやつは村雨!?!?
馬鹿な…人の魔導士如きにあの村雨が宿るなど…」
「宿るだけじゃないよ。
今村雨は、僕の嫁だ」
「し…信じられん…」
「いや俺の方が信じらんねーよ
レインが村雨と結婚するとか誰が思うんだよ。
しかも戦いの時は嫁を体の中に宿すとか、夫の体内に宿る嫁とかどんな嫁だよ 突っ込みどころ多すぎんだろ」
ジオが早口で言い終わる頃にはジザベルは遥か天空へと吹き飛んでいた。
村雨を宿したレインの地出雨だ。
地面から雨を出し、下から攻撃する技だ。
その後、神速移動で速度を上げた蹴りで空へと蹴り飛ばした。
そして天空にはー。
ーーー天空ーーー
ギュォォォーーーッ
「ぐぅぅぅ…!!」
(なんて蹴りだ…吹き飛ぶ速度が落ちん、止まれん!)
「よう。 って言っても聞こえないね。
さて…沈んで貰う…!
行くぞ夜空!」
「ええ…最大出力…!」
「! く…そ! そんなもの…避けれるわけないだろう…
ウィゴール…こいつらは…こいつらは…!
“中級霊”の私では到底倒せない…!!!!」
下から吹き飛んでくるジザベル。
それを上空にて待つのはジェイク。
そしてジェイクの手には…
高魔力の熱球。
「夜刻創造“前奏”
炎球奈落!!!!!!!!!!」
「グァァァァァァ!!!!ぅぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ボゴゥッ…ズドドド…!
王都へと落ちていく炎球はレインが水で消し、中で燃えていたジザベルはジオが拘束した。
民たちはルージュたちにより保護されていたが、ジェイクたちの勝利報道により家へと帰った。
そう。レインが遅れた理由はここにある。
レインはルージュやルレン、ジャッジ、王都兵と言った者たちにジェイクの家周辺の住民を逃して護るように指示していたのだ。
おかげでジェイク、ジオ、レインはジザベルと心置きなく戦えて勝利したのだ。
「ふぅ。」スタッ。
夜刻創造を解き、地面へと降り立つジェイク。
「おうジェイク。おつかれ」
「ああ、ジオも頑張ったね」
「だろ?さすが俺だよな!
知ってる。俺も凄いの知ってる」
「あ、あはは…」
「…………自意識過剰…」ボソッ
「お?新月の巫女、なんだって?」
「なにも…?クスッ。 ジェイク……体の中に…戻るね」
「ああ、ありがとう!」
「ジェイク、自白魔法でジザベルに吐かせてきた。
ジザベルを作ったのは
悪霊研究科学者の「ウィゴール・ノーザン」という者だってさ。
30年ほど前に、小さな町の病院の院長をしてたらしいよ。
ウィゴールは僕やジェイク、君の中の「金の魔力」を狙ったらしい。
30年ほど前からずっと金の魔力の研究をしていて、君の父と同じ「強制」を編み出して「強制金凰奏々」を作ったそうだ。
僕の金凰奏々と同じ物を少量、ね。
それで悪霊(機械)を作って純粋な金凰奏々の魔力を奪おうとしたらしい」
「院長…金の魔力を狙う者…30年前…
なんか引っかかるね…
聞いたことある様な…
まあそこはいいや、後で調べよう。
それよりもジザベル。彼は…」
「うん、自然発生の悪霊なんかじゃなかった。
“悪霊ジザベル”のヒューマノイド。
つまり、機械だったってわけだ」
「ジザベルと名乗ってただけのウィゴールが作った人造人間…
本当だ、焼けた肌の下から金属が見えてるね。
僕が狙いか…」
「オイオイ、そんなことさせねーぞ?
すぐにでも対策会議ひらこーぜ。
ルージュ達もその辺にいる事だしよ。
他の神法魔導士も集めてそのウィなんたらが捕まるまでジェイクを徹底的に守護すんだ」
「ジオ、僕は大丈夫だよ?」
「ジェイク。お前は真王なんだ。
お前がもしやられれば民達はどうなる?
…もう昔とは違うんだ。
お前自ら戦ってばかりではダメなんだぜ」
「ジオ…」
「だが、よ」
「…え?」
「まあ俺とレインの野郎は少なくとも
昔と同じさ、なにも変わらねーよ。
だからお前と話す時もこうやってタメ口だ。
一個上?真王?そんなの知るかよ
俺とお前はなんだ? お前と俺はなんだ?
忘れんなよ、“相棒”」
ジオ…
君は…地下時代からずっと僕の側にいてくれた…
君が離れることはないんだね…
レインも同じ気持ちだろう。
…なんたって親友だから…
僕は…少し皆に距離を取られた気がして不安になっていたのか。
情けない。真王失格だね。
真王とは少し孤独なものだね。
シベリア老も。
ミッドナイトも。
ジャッジ王も。
…皆こうだったのかな。
ミッドナイトは違うね、あいつは違うや…フフ…
「…すまないジオ、レイン。
少し僕はどうかしてた。
だけどもう大丈夫。
君たちが君たちで居てくれる限り…
僕は「王」で居られる。
…ありがとう」
「フ、おう!」
「ああ!」
「よし、対策会議を開く!
必要な人間を招集せよ!」
「「はっ!」」
「見ていてくれ皆…
僕は今世界でまた起きようとしている何かを食い止めてみせる!」
10年経った世界。
そこは平和ボケした世界。
だけど人々は思い出す。
10年11年前の戦争達を。
だから人々は信じられる。
その全てを守った「黒白の魔導士」を。
ジェイク達の戦いが、また始まろうとしていた!
第二話へ続く
雨が降る。 時には永遠を甘くみている人々へ死を忘れぬ様、教える為にー。
第2話「雨の魔導士・レイン」
ー王都 オズ 会議室ー
「皆、集まった?」
◯真王ジェイク
「うん、全員だと思うよ」
◯副王&神法魔導士 第一席レイン
「さて…」
◯神法魔導士 第二席 ルージュ
「資料みんなもらったー?」
◯神法魔導士 第三席 ルレン
「…」
◯神法魔導士 第四席 メル
「よォ〜し。 やってやっか!」
◯神法魔導士 第六席 ジオ
「ワシらも頑張りますかいのう!」
◯元真王 ジャッジ
「そうですな、ジャッジ王よ」
◯バラン帝国 帝王リドリビオ
「ええ、若王として尽力致しましょう」
◯ミドル国王 ガスタ
「私たちも力の限りサポートいたします」
◯キングタウン国王 ノイァフ
「ええ、我が主人の友たちの為に…」
◯リベータ王の妻 王妃ヘル
会議の主な内容は10時間前、ジェイクを襲った人造人間「ジザベル」に対してだ。
ジザベルが使ってきた魔法
「記憶処理・消去」
について。
考えてることが1瞬、消える。
その為隙ができて相手の攻撃をかわせないのだ。
ジザベルが人造人間であること。
「悪霊」と自分を指したジザベルは機械であった。
だが人造人間ジザベルは本物の悪霊・宵の姫を召喚した。
つまり
本物のジザベルがどこかにいるのだ。
そして最後にジザベルが残した言葉。
恐らくジザベルを作り、ジェイクを襲わせた張本人。
「ウィゴール」が誰かを探し出すこと…。
だが、結局ウィゴールが誰なのか。
会議ではハッキリしなかった。
王たちはそれぞれの国へと帰り、真王のこれからの対応指令を待つこととなる。
ー真王室 夜ー
「……ダメだ」
ジェイクはひたすら書物を読み漁り調べているがウィゴールのことは書いていない。
どんなちっぽけな博士であろうと、それが研究者である限り書物のどこかには名前があるのだ。
「ジェイク、コーヒーだよ
少し休まない?」
「ありがとうレイン…
手伝わせてごめんね?」
「副王として、友達として。
お手伝いなんて当然さ」
「フフ、ありがとうレイン」ズズ
ジェイクはコーヒーをすする。
レインもコーヒーをすする。
せわしない時間に訪れたゆっくりとした時間。
「なんか今日は疲れたな…
それに少し眠くなってきた…
……ああ、いけない…頑張らなきゃ」
「ジェイク、寝ててもいいよ?
僕が代わりにしておく。
君は今日ジザベルと戦ったり、10時間も会議の準備したり何時間も会議したり何時間も書物から名前探したり。
…だから僕が代わりに調べておくよ?」
「だめ…だよ……レインにそんな…レインだってが…んばっ…て………zzz」
「ふふ。ゆっくり寝てね。
金の魔力…!」
レインの肉体が変形していく…
「甘い男だ…魔力を良く探せば私がレインでないことなどすぐ分かった筈なのに…な」
◯夢魔・インクブス(悪霊 本体) 下級霊
レインの姿をしてジェイクに近付き、睡魔アルパをコーヒーに忍び込ませ、ジェイクの睡眠を誘った。
ジェイクはこれで1時間は起きない。
本物のレインは、会議室で仮眠を取っていた…。
「さて…こいつを持ち帰れば私の任務は終わり、か。
……村雨を倒し太陽の神を倒した男で真王と聞いていたからな……
返り討ちに合い殺されてもと覚悟を決めていたのだが…
拍子抜けだな、間抜けな顔で寝てやがる」
疲れ切り、油断していたとはいえジェイクに気付けない悪霊。
夜の王都に残った夜兵(城に夜勤め、守る兵士 昼は家で休んでいる。)ごときでは察知など不可能…
それにはたから見ればレインが疲れて寝たジェイクを家に送ろうとしている様にしか見えない。
ジオやルージュといった名だたる魔導士達はそれぞれの仕事(ジェイクの命により、会議に来た王達を警護しながら国へ送り返す。王様達は今、戦える者達ではないからだ。)
「…?レイン様? 真王様を担いでどうなされたのですか?」
「ああ、ジェイクね。
疲れて寝ちゃったからさ。
家に送るよ」
「そうでしたか! 付き添いが必要でしょうか?」
「いや、大丈夫さ。 自分の任をしっかり果たしてね」
「はっ!」
(ククク…まあこんなもんさ…)
ーオズ 北門ー
「……んん…!? これはレイン殿ではありませんか」
門兵がレインへと話しかける。
「ああ、通してもらえるかい?」
「はっ!…にしてもこんな夜遅くにどこへ行かれるのですか?
その背中の荷物は一体…」
レイン(インクブス)は黒い布にジェイクを包んでいた。
城では背負っていても不思議ではないが街へ出ると目撃者が出るからである。
「これ? これはミドルの王が忘れた荷物だよ。
代わりに届けに行くのさ」
「そうでしたか!
…アレ? ミドルの国王様がこちらを通った時そんなもの持って…」
「ねぇ君。 ……うるさいよ?」
「ひ…で、出過ぎた真似を…」
「うん。じゃあ行ってくるね」
「は、はっ!お気を付けて!」
「あんな…あんな恐ろしい顔をする方じゃない…
何かがおかしい、あの荷物…微弱だが魔力を感じた…
まさかとは思う、違うなら私が怒られればいいだけの話だ
王都へ問い合わせないと…!」
ー王都ー
プルルル プルルル
「こちら王都。
どうなされた?」
『こちら北門 詰所です
そちらに真王様とレイン様はまだおりますでしょうか?」
「ああ、お二方ならジェイク様が睡眠なされたということで既に帰宅をーーー」
「誰が帰ったって?」
「!?」
『なっ!?』
そこに居たのは…
帰ったはずのレインだった!
そう、このレインは目を覚ました本物である。
「どういうこと?
ねぇ、ちょっと電話変わって貰ってい?」
「は、はい…」
「もしもーし。…どーゆーこと?」
『その声…本当にそこにいらっしゃるのですね…
先ほど私が警備しております北門へレイン殿が現れ、私を少し脅して出て行かれました…
背中には黒い布に包まれた荷物が…』
「!? …僕はそんなことしてないよ?」
『分かっております!
不思議に思ったので王都へと問い合わせてみれば…
これではレイン殿が2人いることに…
あと荷物が魔力を帯びてて…」
「そ、そういえば私の前を通った帰ったはずのレイン様はジェイク様を、背負っておりました!」
「…マズい…!
君、今から真王室に行ってジェイクが居るか確認してきて!
僕は北門へ行く!!」
「は、はい!」
ーーーー北門ーーーー
「浮遊魔法!!」スタッ
「れ、レイン殿!」
「ここに来るまでに連絡でジェイクがいない事が分かった。
ここを出た僕の偽物の背中にジェイクがいたんだろう、負けたのか不意をつかれたのか…
分からないけどジェイクが誘拐された…
…君、電話の声と違う」
「は、私は2人居る門兵の1人です。
ギロウさんは私にレイン様への案内を任せた後1人で後を追って…」
「!!なにをしてる…ジェイクがさらわれる様な輩だ、危険だ!
それで、どっちへ!?」
「あ、あちらに…」
「間に合え…浮遊魔法!!」
ーーー王都オズより1キロの地点ーーー
「!!! ギロウ!!!」
そこには血まみれで剣を持ち、防具は壊れ、倒れる門兵ギロウがいた。
「しっかりしろ!大丈夫かい!?」
「レ…イン……どの…もう…しわけ…ない……
真王…さま…を……助ける事が…私には…かなわず………
しんりゃく…しゃを…みすみす…のがして…ゴフッ…」
「く…君、責任感を感じたんだろう…?
門番なのに護るべき王を眼の前で逃してしまって…」
「わた…しのせい…なのです…」
「そんなことないよ。
ジェイクが気付かない敵を発見できないだけで誰も君を責めたりしない。
…大儀だったよ。 カッコいいじゃん」
「…あり……がたき…おことば………
ど…………うか…お………きを…つけ………」
ギロウは絶命した。
「……後で必ず弔うからね…
……ギロウ、君は優秀な兵士だよ。
ちゃんと魔力発信装置を偽物の僕に付けたんだね
おかげでたどれる…君の死を無駄にはしない!」
そして。
「待て!!!」
「…? …!?レイン…」
「さあ。返してもらうよジェイクを…
なんのつもりでジェイクをさらったんだ…
吐いてもらう…!」
「これはこれは…本物が来るなんてね…
ならもうこの姿で居ることに意味はないか。
…これが私の本来の姿だ!!」
インクブスは本来の姿を見せる。
翼の生えた人型の悪霊。
「お前が…ジェイクを…」
「この男…随分とお前を信用しているのだな。
疲れていたとは言え…飲み物に仕込んだ睡魔にすら気付かないのだからな」
「ク…返してもらうよ
あと。…ギロウの仇も取りたいし、君は殺す」
「出来るのか?
所詮副王ごときに…
真王が捕まった相手を…倒せるのか?」
(これはハッタリだ…私ではこいつに勝てない
だが…)
「出来るも何も…
僕を甘く見ないことだね…金凰奏々!!」
「グッ!」
(なんて魔力…)
「始神融合!宿れネプチューン!!!」
(村雨は今家だ…
だがネプチューンと僕なら…やれる!)
「行くぞ…!
雨粒ーーー」
ドスッ!!
「がっ!?」(足を刺され…後ろ!?)
なんとそこにいたのは…。
「ぎ、ギロウ!?」
死んだはずの門兵、ギロウであった!
「やれやれレイン殿。
貴方は偽物でしょう?」
「ぎ、ギロウ…僕は本物だ、あっちだ!」
「はて?なにを言って居るのでしょう…か…ぎゅ…ギャァ…ね…ぇ…?」ゴュッ
ギロウの体は変形していき、インクブスと同じ形になる。
「まさ…か…」
そう。
今晩、王都に居た人間のジェイクとレイン以外の夜兵32名。
北門に居る兵2名。
この34名全てがインクブスの分身体であったのだ!
「つまり…さっきのは僕をここに呼び込むための演技と罠…
昼兵と夜兵が交代する時を狙って全員が化けて侵入してたのか…っ
夜兵は家でそれぞれ殺されでもしたかい…クソ…」
「ふはは。その通りだ。
状況を把握する能力はあるようだな」
「だが疲れているとは言え我が兵や魔導士達が全員分からないなんて…」
「それはそうさ。
私の能力は分身体を増やす
そして対象とほぼ同じ魔力に変化するものだ。
…それに、この私を作った上級霊、怨霊様だからな…
怨霊様の霊力はお前達などが見分けられるほど甘い魔法にはならないのさ。
怨霊様の霊力で作った分身と
怨霊様の霊力で作った変化魔法。
…さて、お前を葬るのは…35名の私と…
怨霊様だ!!」
インクブスが言い終わると次元に穴が開く。
そこから出てきたのは…
圧倒的魔力。
いや、彼らの言い方をするなら霊力。
ジェイクに勝るとも劣らない程の魔力だ。
「我が名は怨霊。
ウィゴールが封を解いた「怨み」の悪霊である。」
悪霊。
悪霊とは。
物体や物質、「何か」に宿る神のことである。
神とはいえど、もちろん悪神である。
オズマとの大戦時は戦争に参加していない。
ジザベルは「人間」の悪霊。
宵の姫は「毒」の悪霊。
インクブスは「睡眠」の悪霊。
睡魔は「夢の世界」の悪霊。
怨霊は「怨み」の悪霊。
こういう言葉がある。
残留思念(ざんりゅうしねん)。
それは物に宿った意思や思想のことである。
それが「悪霊」である。
睡眠へ寄生した悪霊がインクブス。
怨みという感情に寄生した悪霊が怨霊。
この様に悪霊達は様々なものに宿っているのだ。
「さて…狩れ、インクブス」
「「「ウォォォー!!!!」」」
「!!ぐっ!雨粒一線!!」
だがレインの攻撃はインクブスに届かず怨霊に弾かれる。
「ぐあっ!ぐあぁっ!!」
ドスッ!ズバァッ!!
「「イャーッハッハーー!!!」」
インクブス達は1メートルもある爪を操りレインを切り裂く。
刺し、切り、また刺し、切る。
何度も何度も。
レインも抵抗はする。
だが防御魔法も攻撃も全て怨霊がガードする。
「死せよ魔導士!!!」
怨霊が空へと飛び上がる!
「霊絶魔法…!」
悪霊の奥義である!!
「黒々霊死霧槍!!!!」
空間に精製した黒い槍。
霊力(魔力の悪霊たちの呼び方)の宿った槍がレインへと襲いかかる!
途中に居たインクブスの分身体を何体か貫き、レインに当たる…
(かわせない…くそ…前が見えない…血で視界が…
魔力が漏れる…血が流れる…
ジオ…ジャッジさん…ジェイク…村雨…!!)
そのときーーー
奇跡は起きなかった。
ドスッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ーーーっ!!!!」
「…死せり」ニヤリ
レインーー絶命ーー
ジェイクと共に海原の天女に立ち向かい…
ジオ、ジェイクらとコスモと戦い。
神法魔導士として。
副王として。
ジェイクと共に戦い続けたレイン。
だが悪霊達の罠へとハマり…
四肢を引き裂かれ 体に風穴を開けられ…
脳を槍で貫かれ。
その魔導士は凄惨な死を遂げた。
享年33歳。
レインはここに没した。
ジェイクはなにを思うのか。
ジオは、村雨は、仲間達は。
連れ去られたジェイクは?
ウィゴールとは何者か。
そしてなにが目的か。
世界がまた大きく揺れ動き始めていた。
雨の魔導士の命を帯びて
大地は1輪の花を咲かせようとしていた。
第3話へ続く
発覚する真実。 その時、海の巫女は浜辺に腰掛け歌を唄っていた。それは儚いラヴソング…。
第3話「顕現の女神 “破壊と憎悪へ”」
ーー翌日ーー
王都、オズ。
ー会議室ー
「……報告…」
ルージュが紙を持ち報告を始める。
「我らが真王…ジェイクが連れ去られた……
してそれを…取り戻そうと…っ…
後を追ったレインが死体で発見された………」
空気は重く 誰も口を開かない。
皆、銘々とした行動を取っていた。、
「……レイン…」
ジオは剣を握りしめる。
「っ…! 赦さねぇ……
全員ぶっ殺す!!!!
やったのは誰なんだ!ルージュ!!!」
「落ち着けジオ…。
今、王都の研究員達や鑑識達が現場を検証している…
敵の何かが見つかるかも知れない、報告待ちだ…」
「…のうルージュよ… 村雨はどうしたんじゃ?」
「ジャッジ王……村雨はレインの死を聞いて…
どこかへ…」
「そうか…」
「レイン…ジェイク…」グスッ
「泣かないでハルちゃん…
う…っぐすっ…泣いても…戻ってこないよ…っ」グスッ
ルレンもハルも悲しみのあまり言葉が出ない。
「ルレン…今日はハルとジェイクんとこの息子娘を俺らの家に泊めるんだ…
神法魔導士としてハル達を護ってくれ」
「ジオくんは…どうするの…?」
「王を盗られ…友を殺されて…
黙ってられると思うか…?
……俺は俺のやり方で犯人をブチ殺す…!!」
「…うん、私の分も…かたきとってきて…!」
ーーー死の崖ーーー
王都よりかなり北に行った場所にある断崖絶壁だ。
「……………あーあ。
死んじゃった。
やっと見つけた私の居場所…。
やっと…出逢えた最愛の人…。
居なくなっちゃった。
私の前から居なくなっちゃった。
ずっと一緒に居てくれるって誓ったのに
あんなに楽しく言い合ったのに
居なくなっちゃった。
居な
く
ナ
ッチャ
た
」
ドクンッ
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
村雨の体が青く包まれる。
そして村雨は…海原の天女となった…。
ー王都ー
兵「ほ、報告!
死の崖より海原の天女を観測しましたッ!!」
「なに…っ!? ジオ!」
「分かってる! 行くぞルージュ!!」
「ワシらは此処で女子供を守るぞい、ジェイクの子供達とハルを守るのじゃ!」
兵「はっ!!」
ー死の崖ー
浮遊魔法でルージュとジオは死の崖へと駆けつける!
「あれは…本当に海原の天女…っ」
「顕現している… 止めるんだ!」
「ど……こ……わだ…しの…最愛の…人…」
5メートルもある海原の天女は崖から今にも飛び降りそうだ!!
「待て!村雨ェ!!!」
「落ち着くんだ、元に戻るんだ!」
ルージュとジオの声は一切、海原の天女には届かない。
「クソ…こうなれば少し攻撃してこちらを向かせる!
宿れブリケトォ!!!
始神融合!!」
「グォォッ!!」
ギュォォッ…と音を立てジオにブリケトが宿る。
「行くぜ… 魔力装填・天雷!!」
雷をまとった聖剣レファで海原の天女へと斬りかかる!
「ハァァッ!」
キィィーーーンッ!!
「なにっ!?」
だが剣は、海原の天女のおよそ1メートルも手前で空中で止まる。
「ジオ!海原の天女は自分を中心に防御魔法を張っている!
割らなくては入れんぞ!」
「なんだと…!? …っ!なら…
こうする!!
ブリケト、行くぞ…!
絶対分解!!」
パリィィィン!
大きな音を立て防御魔法は粉々に砕ける。
「ここだ、ルージュ!」
「よし…宿れ間限!!」
ルージュの始神、間限。又の名を妖王サイクロンが宿る。
「幽霊敷衍の陣・魔手!」
ルージュの背中から透明に近い色の手が2本出現し、海原の天女を掴む。
「よし!! 後は俺が痺れさせてつかまえる!
黒剣雷剣!」
だが。
「…じゃ…ま''っ!!!」
ゴッ!!!
「か…っ…はっ…!!」
ドガァァァァァァン!!!
ジオは振り向いた海原の天女の魔力の込められた右手により殴り飛ばされ、そのまま地面へと落下し岩に叩きつけられる!
「ジオーっ!!」
ガラガラと崩れる岩。
地面に埋まるジオ。
「が…あ……まさ…か…」
ジオもルージュも油断していた。
海原の天女化してるとは言え、村雨であることに変わりはないと思って居たからだ。
だが本当の所、これは海原の天女化ではない。
「顕現(けんげん)」。
村雨は内に圧倒的な魔力を秘めている。
それは10年前のVsヴァンパイア戦でも分かっていた。
4体の始神をたった1人で5分以内に倒した天才。
それだけじゃなくただの19歳の小娘が「雨々」の悪意の始神にする禁術「魔導封印の術」すらも受けて生きることができた。
そして9000年間生き続け、羅刹の攻撃も片腕で止める強さ。
その魔力と天才加減は誰にでも一目瞭然であろう。
その魔力が100%「自分の意思」で解放させ、顕現させた状態が「覚醒」、海原の天女化である。
村雨はもう魔導封印の術を受けていない為、本来なら海原の天女にはなれない。
だが天才故に一度なった肉体。
魔力を100%解放することで海原の天女になることが出来た。
だがその時も自我を保ち、仲間として戦っていた。
だが今は。
レインを失ったあまりにも大きな悲しみと精神的不安。
それらが村雨の内に眠る魔力を「無理矢理」100%に解放したのだ。
その結果、顕現した海原の天女により村雨の自我は飲まれ…
暴走をする結果になってしまったのだ!!
「アレはもう村雨じゃない…
早く正気を取り戻させなければ…
だがかつて11年前、ジェイクやレインが倒した海原の天女は8700年間の眠りから覚めたばかりの状態で完全では無かった…
だが今のこいつは100%中の100%。
眠りから覚めて11年。
つまり、8700年前の大戦時、オズマや新月の巫女と戦った状態より更に強くなった海原の天女…
私1人でどうすれば…」
「レイ''ン…!
あな''たは''…この''さきに''…」
今にも村雨は飛び降りそうだ…。
「クソ…こうなれば…
奥義をーーー」
?「龍化神法・一神!!!」
「!!な、なんだあれは!!??」
飛び降りようとする村雨(海原の天女)。
そしてそれを止めようと奥義を出すべく剣を握り居合いの体制を取っていたルージュ。
地面からなんとか立ち上がり、ボロボロになっても尚、剣を取り村雨を助けようとしているジオ。
彼ら全てが「それ」を一目見た。
村雨を遥かに超える…
そこに居たのは、おおよそ15メートルの巨大な空を舞う龍であった!
「ば、バカな…これは龍…なのか!?
こんな時に敵なのか…っ!」
「何だよあれ…痛っ…ブリケト、アレはなんだよ!」
「分からぬ、だが感じたことのある魔力だ…」
「あなた''も…じゃま…するの…ね'''!!」
村雨こと海原の天女(以下、村雨で統一)
は魔力を手に込め、龍へと殴りかかる。
15メートルの巨龍と5メートルの巨神の戦い。
ルージュはジオを抱えその場を少し離れる。
普段なら魔法を使う村雨だが、暴走状態の今は手足に魔力を込めて殴る蹴るしか出来ないのである。
「グォォ…!!」
32本もある尾をドラゴンは操り、村雨の体を縛る。
「動け…な…''」
「村雨ェ…グォォ…少し…頭を冷やせ…!」
ドラゴンは重く太い声でそう話すと、尾で村雨を縛った状態で少し飛び、海の近くに行くと尾を振り回し村雨を海へと叩き落とす。
大きな水しぶきと音を立て、村雨は海へと落下した。
しばらくして、浮かんできた村雨はもう「海原の天女」ではなく、160センチほどしかない19歳の人の姿であった。
空を見上げ浮かぶ村雨。
その姿を見たドラゴンの体が光る。
「ジオ…やはりあれは…」
「ああ、ベイリオンだ!」
ドラゴンの輝きは収まり、1人の人間の姿になる。
そう。
かつて共にジェイク達と戦った戦士の1人。
“龍神の民”にて
“龍の谷”の王「龍騎王」
ベイリオム・ドラ・コン(35)
であった!
人は彼を親しみを込めてこう呼ぶ。
ベイリオン、と。
「遅くなってすまなかったな、ルージュ、ジオ!」
「ベイリオン!あンのクソでけぇ龍はお前だったのかよ!」
「久しぶりだなベイリオン…
10年見ないうちにあんな龍になれるようになったのか?」
「はは。ご先祖様は本物の龍だからな。
我々にもその血が流れている。
つまり、さっきの龍の姿が私の本当の、本来の姿なんだよ。
この今の人の姿が、まあ言うなれば偽物ってわけだな。
昔はこの人の形を少しだけ大きくして耳と尾と爪を伸ばした姿にしかなれなかったが鍛錬の末、ドラゴンへと昇華した!」
「はっきり言ってむちゃくちゃ強かったぜ…」
「ははは。 まあ、昔。
10年前の太陽決戦の時。
私は自分の無力さを呪ったもんだ
友であるルージュやジオ、ジェイクやレインたちは傷付きながらも敵と対峙して居たのに私は王都に攻めてきた血の神・ブラディオスごときに敗れ戦闘不能…。
そんな情けない自分を変えたくてな、少しは努力したんだ
やっとお前たちに顔を見せれてよかった。
…もっと幸せな時に見せるべきだったな、何もこんな時じゃなくても。」
ザパァン…
波が村雨を砂浜に運ぶ。
「村雨!!」
「無事か…!」
「手荒になってすまない…」
3人は砂浜に流れ着いた村雨の元へと駆け寄る。
村雨は未だ、空を見上げ微動だにしない。
「…」(無理もない…レインを…)
「ねぇ………ジオ…」
「!…どうした、村雨」
「レインは…死んだの?」
「…っ……ちげぇよ…殺されたんだよ…」
「……誰に」
「知るかよ…ジェイクをさらった奴らだ…っ」
「……もう…会えないの?」
「……ああ…っ 会えねーんだよ…
死んだ奴には…もう会えないんだよ!!
ジェイクは…たまたま…よみがえれた。
だが…あんな奇跡…二度起きないから奇跡なんだ!!」
「泣いても……海原の天女としての…威厳……
そこねないかな…?」
「うるせーんだよさっきから…
早く泣けよバカヤロー!!!」ポロポロ
「……うん……っ…ひっ……ひっ……な…く…よ…」
そこにはー。
かつての破壊の女神とは思えないほど。
天才の面影は一つも見れないほど。
一途に、無垢に、一つに。
村雨は泣いていた。
誰の目もはばかる事もなく。
子供のように…。
ジオも泣いた。
瞳から雫がこぼれ落ちていく。
ルージュも隠れて泣いた。
声を殺して肩ですすり泣く。
ベイリオンも涙を流す。
それは友を失った神龍の咆哮。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
ー
ー王都 オズー
「これが、レインの戦闘跡から発見された魔力のカケラ?」
学者「はい、村雨様。そしてこちらがレイン様の物と思われます杖でございます。
…あの現場からかなり離れた場所で腕ごと見つかりました。蹴り飛ばされたとみなします、腕に蹴り跡が付いていまして…」
「うん、そっか。
ならそれも貸してくれる?」
学者「は、はい」
「ありがと。 ん。これは?」
学者「こちらはレイン様の物では…」
「なに?これ」フォォン
学者「ひ、ひっ…」
「なにもする気はないよ。 ただ隠し事は…
神様きらいだな?」
学者「も、申し訳ありません…ジオ様から硬く口止めされてまして…お見せすることは…」
「ちょっとだけ我慢して。
痛くしない。」
学者「む…らさ…」ドサッ
「少しだけ寝ててね。
手荒なことしてゴメンなさい。
……硬い箱。鍵は…
めんどくさいな。 えいっ」バギャァァァッ
ありえないほどのチョップである。
もうチョップではなく斬撃に近いものであった。
「……ジェイクの……ダイイングメッセージ…
ジェイクはきっと薬を盛られたんだね。
弱った状態でも意識だけをしっかり保って…
レインが駆けつけてその「悪霊」と戦ってる時にきっとジェイクは地面にでも寝転がらせられていたんだね。
そこに魔法で暗号の文字を残した。
で、この資料によると今日の今から2時間後にこれを解読するキングタウンの学者が来る…か。
私に内緒にしたのは私がこれを知ればそこに行くから…
ありがとねジオ。
でもあなたもルレンを殺されたらどうする?
その犯人を生かしておく?
殺す、もしくは必ず仇を取る、よね。
でもどうして?
それをして何が変わるの?
1動物が1動物に殺されただけの自然界のごく普通な光景。
相手を殺してもルレンは生き返らない。
でもあなたはきっとルレンがやられたらそのやった相手を殺しに行く。
殺さずとも破壊する。
ジェイクもルージュもベイリオンもみんなそうだよね。
それが人間の感情。
神だって原型は人間だよ。
「感情」があるんだ。
感情のせいで私たちは無駄なことをしちゃう。
殺した相手を殺しても 殺された大切な人は生き返らないのに。
それを知ってるのに、行動しちゃう。
無理でもキツくても辛くても不可能でも
それを可能にし戦い、また人を殺し呪いの連鎖を止めようとしない。
止める方法は誰でも知ってる。
「殺した相手を許す」こと。
誰かがしなきゃ終わらない
だけどそれが「自分」で在る理由はない
そうやって理由をくっつけて
人は自分の満足のいくことをしてしまう。
殺せば殺した相手の大切な人が悲しむのを知っているのに。
復讐したいのは殺した奴、ただ1人だけなのに。
関係ない関係が絡まって
1つの復讐が枝分かれして。
そうやって憎しみは連鎖していく
結局もう止まることはない
私がレインの敵討ちをしなくても
ジェイクやジオがするだろう
ならそこに私の堪える理由は消失する
ならば私は全てを捨て去る
全てをかけ愛した者を
地の果て 祈りの果て
更には地獄の果てまで愛する為
「死」が終わりと思ったことはない
私は悪意の総称だった神だ。
そんな概念 人の怒りや憎しみの感情は嫌という程受け取って力に変えてきた
今力に振るうのは私自身の悪意だ
それはみにくく、儚い 致死性の毒花であろう
私は聖人君主ではない
私は神様だけど…もう神じゃない。
神は神でも全てを失った悲壮の戦士
ならば私は今一度「悪意の女神」にもどろう。
幸せになると決めた。
だけどそれは叶わなかった。
私の幸せはレイン。あなたの隣だった。
ならば私に出来るのは最後の約束を破る事。
9000年前…雨々に連れ去られる前に。
お父様が私に施してくださった「魔死封印」を
解き
私は戻らなくてはならない
本来の女神に
我は“顕現の巫女”。
破壊を司る 根絶の女神
自我の疎き 最期は修羅となりて
娶られ佇んだ場所守りの者の災禍を“海”へと誘い
呪われた人骨 飼い慣らされた悪意と憎悪
それらを偏み 永遠を死に具現させ
悲観を創造へ 魔の炎を破瓜へと注ぎ込み
縷々しく揺れる灯火を
傍観 綺想曲と夜空の反映よ
我が妖を
盈に賭し
毀れる事無き 永劫を 永劫を
永劫を
永劫をーー 」
ーーー顕現をーーー
村雨の体が怪しく光る。
もうそこに居たのは
レインの妻となった者 流零 村雨ではない。
魔力の弱い、オズマもその一族である一族 ゼロ一族
「初代 真王 天穹」
そう、初代 真王として歴史書物に名前が残っている人物。
それは記憶を力とともに父・流零 村正に封印された村雨の事だった!!!
姿形が変わり。
声も顔も雰囲気も。
魔力も仕草も…。その記憶以外すべてが変わった。
いや、戻った。
天穹。
それが村雨こと海原の天女の「正体」であったのだ…!
「……もう…戻ることも無いと…思っていた……
我が名…もはや語るに時が遅すぎた…
私は村雨でも海原の天女でもない…
愛する者の仇を討つ この世界の最初の王だ」
村雨…改め天穹はそう言うと暗号の書かれた紙を持ちその場から消えた。
その後、異変を嗅ぎつけ駆けつけたジオたちは村雨が暗号の存在を知り、持ち去ったことを知り絶望する。
初代 真王。
それはこの世界を治めることになった最初の王。
それは強く、圧倒的に支持を誇っていた。
それは次のお話。
次回、村雨の真実、解放。
「村雨は…オリュンポスの……だ…」
第4話へ続く
本当の言葉。本当のリーズン。 世界のシークエンス ありったけの祈りと共に…。
第4話「村雨の真実! 天穹vs悪霊」
「…此処か……
鋼鉄で出来た扉…非力なモノだ」
「天翔…!」
天穹は右腕に羽根を生やす。
天使の羽根だ。
「海・兆・天殺・天翔!!!
……行く…わ…!!」
天穹は腰を深く落とし右手を突き出す!!
「凪海!!!」
拳の先より打ち出された白い魔力砲が扉ごと「悪霊」たちの住処を打ち抜く!!!!
山の中腹部に存在する悪霊達の基地は吹き飛び、山に穴が開く!!!
爆発が爆発を繰り返し、山が一つ崩れていく…
「私が本当の姿を取り戻した…。
山の一つに穴を開けるくらい…
呼吸と同じこと…
天翔!」
天穹は腕の羽根を仕舞い、背中から二つ羽根を生やす。
そしてその羽根を羽ばたかせ開けた穴へと入っていく。
崩れる途中の山の中腹には倒れて動けない、死した悪霊たちが転がっていた…。
そして中央部。
「これは…私の凪雨でも破壊できない硬質物質…
黒い四角の部屋…
内部に多くの魔力反応…
此処ね…レインを殺した悪霊が居るのは…。
…殺戮する
これを壊して…?」
四角の部屋から何かが出てくる。
「貴様か…我々の住処を破壊したのは…」
「…貴方?…レインを殺したのは…」
「レイン? あの魔導士か!
はっはっは…弱さに弱さをかけたような脆弱さであったな…」
「そう。…名前は?」
「我が名 怨霊。
恨みの悪霊である!!!
貴様が誰かは知らんが殺してーー」
「そう。……“死”って…
ご存知?」
「何を言っーーー」
そこまで言った怨霊は周りに気付く。
自分がいたのは山の崩れかけた中腹だったはず。
だが今自分が漂ってるのは…
「宇宙…空間…ぐっ!」
痛みが後から襲ってくる。
蹴り上げられたのだ!
痛みが追いつく暇もないほどの速度で…。
そして目の前に翼を生やした“何か”がいる…
「お…お前は…ゴフッ…いった…い…」
「………凪雨」
トクン
「ウラァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
天穹は怨霊を殴りつける。
殴って殴って、殴って殴って殴って殴って、殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って。
気付けば地球は見えない。
銀河の果てまで殴り飛ばしていた。
天穹ならばその気になれば帰れる。
天穹とはそれほどの存在なのだ。
もはやチリとなり、原型の残らない死骸。
怨霊の骸を太陽へと投げつけ、天穹は地球へとワープする。
ー山の上空ー
「…後は……」
天穹は下と山へと向けて両手合わせ手のひらを向ける。
「…天翔」
両手に羽根が開く。
「…崩壊へと…逝け」
「天翔・天殺・支離・天切!!!!」
山を包み込む魔導砲。
山どころか山の地下。
大地を穿ち、何もかもが消滅し大穴が出来る。
「……虚空……
残ったモノは…これほど虚しいとは…
もう村雨にも戻れない……
この強大過ぎる力をどうすれば…
…アレは…!?
壊れない…のか…」
大穴の一番底には傷一つないであろう四角い部屋がまだ存在していた。
「天切でも殺せない…
ならば…!」ドンッ!!
浮遊魔法で部屋へと降下する。
そして近づく。その距離、0距離。
「一点集中で破壊する。
天翔!」
右手に翼が現れる。
「村雨時代の海の魔力も…混ぜるか…」
ギュォォッ…
「海縅!!」
ピュォォォーーーン…
高い音がなり、部屋は拳が貫通する。
「…開いたな。
ならばこの穴に凪海を…」
開いた穴は手のひらが入る程度の大きさだ。
だが、中を蹂躙するには充分な穴であった。
「…凪海」
開いた穴へ手のひらをいれ、その手のひらより魔導砲を発射する!!
耐久度から言って、部屋は破壊されないが部屋の内部で大爆発が起きる!
そして天穹が穴から手を抜くと、煙が立ち込めていた…。
「……終了……レイン…」
天穹は後ろを振り返り歩き出す。
その時。
「「夜刻創造“前奏”
炎龍・射出!!」」
穴から2匹の炎龍。
天穹を襲うが…。
天穹の体に張られた「防御魔法」で敢えなく弾かれる。
そしてその穴から出てきたのは…。
「誰だ!!お前は!!」
「私は“天穹”…無事で何より、ジェイク…」
「俺を知っている!?
グ…」ガクッ
ジェイクは右肩が血まみれだ。
「?なぜ怪我をしている…
私はあの部屋の中に貴方がいたことを感知していた…
貴方には当てないように撃ったつもり…」
「中にいた悪霊が…俺を盾にした…
だが周りの悪霊たちは皆、余波で消滅した…
あんな強い悪霊達を技の余波だけで消滅させる魔力…
どんな敵でも…俺が…!!」
「私は村雨。否…本当の姿」
「村雨だと!?…確かに魔力がかすかに残ってる…
俺を助ける動機もわかる…だが…ぐっ…」フォンッ
ジェイクの夜刻創造は解除される。
「ぐ…」(まずい、伝えなくては…っ
この部屋はいつの間にか大穴の底にある…
多分山ごと山の大地は破壊されて大穴が出来たんだ、村雨なら山と大地一つ消すのなんて簡単だ…
だが…違うんだ…まだ「下」なんだ
やつらの地下室はまだ下なんだ!
これより深い位置…部屋が邪魔で入口は中に入らなきゃ分からない…っ」
「連れて帰る…皆が心配している…」
「ぁ…あ…」(声が出ない…!?
はっ…しまった…村雨が僕の体を心配し…て…睡眠魔法を……だ…めだ…まだ地下に…イル……ラ………が…)
天穹はジェイクを持つと、この場を離脱した。
この日。地図から山が一つ消え、崖が生まれた。
ー王都オズー
フォンッ
「すぐにでも捜索隊をーーー!?」
「うむ、それーーー!!」
話し合いをしているオズの戦士達の真ん中に天穹が現れる。
…ジェイクを連れて!
「ジェイク!おのれ悪霊ァ!!」
ジオが剣を抜く!
「…ジェイクを返せ!」
ルージュも剣杖を構える!
「…ん?待て二人とも、こいつは海原の天女だ!」
「「なにっ!?」」
「さすが龍神の民…ジェイクを取り返してきた…」
天穹はジェイクをその場に置く。
「ジェイク!!このやろう心配かけやがって!
ジェイク!…ジェイク!?おい、村雨これは…」
「傷を負い 傷んでいた。
眠らせている。1時間もすれば目が覚める。
それともう一つ…悪霊達は全滅させた。
当面の危機は去った
レインの仇敵は…宙のチリへとなった。」
「バカな…ジェイクをもさらう程の知恵と工夫を持ち…レインを倒すほどの強さを持ってる相手だぞ…!?」
「…では私は行く…やらなくてはならない事がある」
「っ!お、おい待「待ってくれ!」て…!?」
「!!…クスッ…いつだって貴方は予想を超える…」
なんと、天穹が1時間後に目覚めると言ったジェイクは、ものの5分で目を覚ます!!
「村雨…まだあの地下に悪霊が居るんだ…
夜空を僕は剥奪されて、夜空が今人質になってる…」
「!!」(気付けない…か…特殊な魔力結界…
まさか…)
「ああ…最上級の結界魔法…
“遮断結界”」
「遮断結界…それは白姫だけの技だとばかり…」
「白姫…?」
「…。気にしないで。
なら分かった、最後まで責任を持つ…
この世界を守るのもまた私の務めであるから…」
「待って…どういう事なんだ、説明してくれ…」
「何を…」
「全てだ」
「……夜空には…最後の魔法がある…
・・・・・・
私と同じ様に…。なら、大丈夫…」
「分かった。全て話す
何もかも全部…私のコトを…」
「彼ら」はおよそ20億年前
遠い遠い空間で生まれ
この星へとたどり着いた。
一人はオリュンポス。
創世の始神として伝説に語り継がれてはいるが…
彼は本当に存在した。
そして一人は雨々。
こちらも創世の始神と呼ばれてはいる。
ほんの一部に…だが…。
オリュンポスと雨々は戦い…
1億年にも及ぶ激しい戦いは両者を疲弊させた…。
そしてオリュンポスが勝ち…雨々は消えてなくなりかけた。
オリュンポスは疲れ果てていた。
何億年も眠るほどの力を使わされて。
だが彼は自分たちが全力を出しても壊れないこの星、今の地球を「ザフ」と名付けた。
オリュンポスはザフの繁栄を祈り。
沢山の生命体を生み出した。
人々の誕生だ。もちろん、沢山の神も生み出された。
そして彼はとある星に向かい、眠りについた。
そこから18億年後…
世界に「悪」が生まれる。
雨々の復活だ。今から2億年前の出来事…
オリュンポスが眠ってるのをいい事に、雨々は次々と悪霊や悪神達を生み出した。
オリュンポスが生んだ始神の子孫達は悪神たちと絶えず戦っていた。
そんな時。
産み落とされた
私が…
ややこしくなる。
でもこれが真実だ。
私の本当の名は
“ルクシア”
今より 2億年前。
私は雨々により生み出された悪神。
「命」の始神、ルクシアだった。
だが私はとある神に敗れる。
それは月を作った神王・ヴァンパイアであった。
そして私は悟った。
「この世界が好きなんだな」、と…。
その日から私は悪神である運命を捻じ曲げ、自分の中に秘められた悪の心を抑えながら、始神たちとともに世界と戦った。
そして雨々の生み出した全ての始神たちを、みんなと力を合わせ葬った。
その時既に夜空も生まれてはいたがまだ5000歳。
私なんか1歳だったけれど…。
神に歳など関係なかった。
生み出されて一年目
と言うだけで肉体年齢は既に1000歳を超える神だった。
そして…私は平和へと向かう世界を。
種族を、神を、争いごとをまとめる為に。
それぞれの種族の長たちが集まり…決められた。
初代 真王となった。
その時に名乗った名前が
「天穹」
と言う名前だ。
「初代真王…村雨が…!?」
「ええ」
「でもおかしいぞ!?
ならなんで世界を守るお前が海原の天女になって世界を襲ったんだよ!」
「…次はそこを説明する」
そしてそれから1億年間。私は世界を守り続けた。
時には種族間で戦争も起きた。
だが私と私の部下たちで制止してきた。
…あの日までは。
今から9000年前…オリュンポスが私の目の前に現れたんだ…
勿論彼は力をまだ使い果たしている…
意識体だけだ。
ーーーーーーーーーーー
「お前は誰だ…私に何の用だ…」
ー天穹ー
「真王様には指一本触れさせんぞ!!」
ー色彩神 コントラストー
「それ以上近づくな!!」
ー暗黒神 ディアディスー
「天穹…否、ルクシア…
ルクシア・スカーレット…」
ー創世神 オリュンポスー
「!!我が名を…貴様は誰ぞ…」
「我が名はオリュンポス…
創世神だ… 少し…争いに来た」
「!!者共さがれ!
…私が相手をする…!」
だが私は敗れた。
圧倒的だった。
あの頃はまだ今よりは弱かった、が。
それでも今のジェイク並みの力は持っていた。
意識体などに敗れた。
そしてオリュンポスは私に近付いてこう言った…。
「すまないルクシア。
…お前は強すぎる
一つのあまりにも強大な力は今は安泰をしていても後に争いの火種になる…
強すぎるというのはそれだけで罪なのだ…」
実際。
あの時代、私の敵は居なかった。
全ての神が一致団結しても私には勝てないだろう。
だから人々は「天穹真王がいれば大丈夫」
とだらけきり、戦争が起きても非難しないなどの行動が見られた。
私はワープが出来る。どんな場所でもすぐ駆けつけられる。
人々は私に依存したんだ…
その現状を良くないと認識したオリュンポスは私を襲い…
私を胎児にしてしまった…
そして私はゼロ一族の私の母・流零 凪雨
の子宮へと魔法で宿された…!!
「そんな…オリュンポスは、頑張ってきた村雨を赤ちゃんへと戻して…ゼロ一族の女性の体内へ子供として宿させたのか!?」
「ええ…本来、私の父である存在・村正と母、凪雨の間には別の者が生まれる予定だった。
だが私の強靭な力を激減させるには「身ごもった魔力が弱いゼロ一族の夫婦」が必要で、、
そこまで条件の揃った二人は、私の今の親しかいなかった。」
私は記憶を消されなかった。
1年間は暇だった。
胎児として胎内で生きる日々。
そしてようやく私は生まれ落ちた。
3度目の転生になる。
私はすぐにでもオリュンポスの元へと行こうとした。
だがどうだ?
立てない。喋れない。歩けない、飛べない。
記憶はある。
頭の中で難しい計算も可能だ。
だが言葉にできない 文字にできない…
赤子の体の不便さを知った…。
私は言語が話せるレベルになるまで二人の子として生きた。
二人は私を溺愛した。
そこで私は初めて愛を知る。
気持ちのいいものだった。
そして私が14になる頃…
私は自分が何者かを少し忘れていたが思い出す。
父と母に私の存在をすべて話した。
だがすべての民の記憶から「天穹」は死んだとされていた様だ。
書物に書いてある「初代真王は襲ってきた始神に殺される。
二代目真王は…がなった」
と書いてあるが…
死んだなんてものじゃない。
生まれ変わってしまったのだ。
父も母は困惑こそしていたが信じてくれた。
だが父も母も意見は同じだった。
「それでも村雨、お前は私たちの娘だ」
その言葉を聞いた時。
私は、私を捨てた世界より目先の二人を選んだ。
父の妖術で私の記憶は「言葉」と共に封印された。
私が「記憶」を思い出す原因とその解除方法。
原因は「深い愛を失ったとき」
解除方法の言葉は私が本来の姿に戻るときに暗唱した言葉。
レインを失ったわたしが海原の天女になり暴走したよね?
あれは私の内に眠る強すぎる魔力が溢れてたの。
私は天才。
その理由は初代真王だから。
そしてルクシア、天穹時代の記憶を完全に封印した私はしばらくして何も知らない雨々にさらわれ、海原の天女になり世界を襲わさせられるのだが…
そこからは皆も知ってる通りの道だ。
今日、本来の姿になるまで
私は村雨として生きた。
これが真実の全てだ。
あと一つ。
レインの本名だ。
これは結婚してる時に聞いた。
私はその時こそなんとも思わなかったが今なら分かる。
レイン=スカーレット。
レインは最後のスカーレットの血を継ぐ私の子孫だった…。
「自分の子孫…つまり、簡単に言えばレインは自分のひいひいひいひい…おばあちゃんと結婚してたのか…」
「そうなる…私も孫と結婚したってこと…
だがレインと結婚した私の名前は村雨。
流零 村雨。…だから大丈夫」
「そ、壮大すぎる…理解が追いつかねぇ…」
ジオは頭を抱える。
「……村…いや天穹? ルクシア…?」
「何でも構わない…。好きに呼べばいい」
「なら天穹…あと一つだけ質問がある」
「うん、何?」
「夜空の“最後の魔法”とはなんだ」
「!!」
「!ジェイク、なんだよそれ?」
「さっき僕が夜空が地下で人質になっていると伝えたら天穹は「最後の魔法があるから大丈夫」と言った…。
それを聞かせて欲しい…。
もし僕がそれをあの状況を返せるような魔法じゃないと判断したらすぐにでも助けに行く
僕の始神だ…助けるのも僕の役目だ…!」
「……“顕現”」
「顕現…なんだい、それは?」
「始神には…一応区別がある。
最上位と上位。 タルタロスやサイクロンは上位始神。
私や夜空、“D”uke'vampireたちは最上位始神と言うの…。
最上位始神は皆 殆ど“顕現”を持っている。
本来の姿を皆持っているのだ
私 村雨が「天穹」で「ルクシア」だった様に。
最上位たちは皆 なんらかの事情や理由で自分の姿を隠している場合がある。
“D”uke'vampireなどはジェイク、貴方が戦ったあの姿が既に本来の姿だった。
コスモスや貴方が昔戦った「ディアディス」は…まあ元々私の部下だったのに村雨時代は忘れていた…。
彼も既に顕現後の姿だった
貴方が知る始神で顕現していない始神は私と夜空くらい…
だから大丈夫」
「いや…でも待ってくれ天穹…
天穹が村雨時代、自分がルクシアだったことは忘れていたんだろ?
顕現を夜空は覚えているのか!?」
「大丈夫…。 夜空の顕現の条件
それは…オズマが知っている
夜空は昔言ってたでしょ?
「私の全盛期ならディアディスなどすぐ倒せる」
と。
私(村雨)含む87体の悪神と戦った神だよ…?
今の強さではそんなこと出来ない。
顕現後の夜空は私を超える」
「なら…オズマを呼べばいいのか…!?」
「オズマ…。今の貴方が会えるかしら」
「?なにを…今までも何度か会って…」
「アレはオズマの分身体…
本体は…“光の世界”の中で自分を人柱に 世界の魔力を支えている…」
「本体じゃなかったのか!?
いや…でも確かに…
かつて世界を守り…世界に魔力を送り続けていながら悪神の封印を抑え続けているオズマが僕が勝ったヴァンパイアに負けたのはおかしい…
そうか…ヒントは今までに沢山あったんだ…。
目に見えるモノだけを信じていたら…
何にも気付かなかった…」
「…立てる?現真王。
…行こう 光の世界へ」
「……よし…ジオ、君はオズの戦士達をオズへ集めておいてくれ!
戻ったら悪霊達の巣窟へ襲撃をかける!」
「分かった!気を付けろよ!」バッ!
浮遊魔法で飛んでいくジオ。
それについて行くルージュやベイリオン。
「……天穹」
「…なに?」
「……すまなかった」
「…何を謝ってーー!なるほど…。
そっか。いいよ。うん。」
「僕がさらわれなければ…」
「私の旦那は…自分の役目を果たして全うした。
貴方を守ることが…貴方に命を救われたレインの恩返しだった
あの日貴方がレインを生かさなければ私は愛にも出逢えなかった
村雨のまま…貴方も自分が助けたレインが居なければミッドナイトに殺されていた…。
そうなれば私も海原の天女のまま…
したくもない破壊を続けていた
貴方には感謝している…。
だから恩返しに…再び世界の為に本来の姿に戻る覚悟を決めたんだよ…」ニコッ
「…行こう…天穹…
オズマの世界へ…!!!!」
…ありがとう。 村雨…
見ていてくれ レイン!!
「権現・世界光」
輝きの中へジェイクと天穹は飛び込んだ。
第5話へ続く
才に溢れた姫君は悪を斬り祈りを断つ。 光の世界と影の世界。まごう事なき真実…。
第5話「剣姫」
「う…ここは…」
「大丈夫?…目が覚めた?」
ジェイクと天穹は光の世界へとワープした。
が。
その世界はオズマ本体が封印されているオズマの世界。
圧倒的な魔力で包み込まれていてオズマ以外の不純物が入るとその魔力で消滅するのだ。
ここはそうやって護られてきた。
オズマの肉体も。
そしてその強すぎる魔力に当てられ
ジェイクは天穹の作った結界の中で気を失っていたのだ。
「何時間…?」
「大丈夫。ものの5分だった」
「そっか…ゴメンね、結界張って貰って…」
「気にしないで…。
この魔力に人が耐えるのは不可能…
だからジェイク、君も顕現した方がいい」
「せめて変化魔法と言ってくれ…
夜刻創造!!」ゴウッ
「足りない…それではまた気を失う」
「夜刻創造では足りないのか!?」
「それは夜空の魔力を君が自分の魔力と合わせた変化魔法…。
夜空が中に居ない今、100パーセントの力を発揮は出来ない
君自身の魔力だけでなれる最高変化魔法は?」
「僕の黒の魔力と「白檄変化」で生み出す白の魔力を合わせる「黒白音覇」かな…」
「ならそれに成ってみて?」
「分かった、黒白音覇!!」
「…ダメ…」
「く… !そういえば…っ
“これ”は僕の魔力だった!
金凰奏々!!!!!!」
「金の魔力…! そうか、貴方の魔力…
うん、それなら今の夜刻創造よりは強いかな」
「よし…これならなんとか歩ける…」
「なら結界、解くよ?」
「ああ、頼む…!」
「解除」
ズンッ…と重く伸し掛かる魔力。
一瞬で身体中の魔力は逆らえなくなり目の前に黒いフィルターが掛かる。
「がっ! !あ…あ…」フラッ
倒れかけるジェイク。
だが。
「ーーーっ!!」ダンッ
足を前に出す。
なんとか踏み留まりジェイクは目を開ける。
「…どうする?此処で待っておく?」
「いいや…さあ、行こう…!」
「フフ…行こう」
「ぐ…」
「一々心配はしないからね
厳しいなら今言って?
ここに置いていく」
「大丈夫だ…気にしないでいいんだ」
「…そっか、分かったよ」
「ああ…ぐ…」(天穹なりの優しさ…ってやつだね…)
その時。
キュィィッ!!
「! しゃがんで…」
「!くっ!」ブンッ!!!
しゃがんだジェイクの頭の上を光の剣が通り抜ける。
天穹はそれを横から右手で受け止める。
つまり、ジェイクの真上で剣は止まる。
ジェイクはしゃがんだ態勢から横に転がり、剣を持つ襲ってきた「とある誰か」へと拳を向ける。
「ハッ!」
だがその拳は剣を持ってない手で掴み止められる。
「ぐっ! 誰だお前は…っ!」
「私はこの世界の主だ…
どうやって潜り込んだ…!!」
「主?おかしいな。
この世界の主はオズマの本体のハズだよ」
「!!…そうか、オズマを知って…」
「侵入者を排除する…
貴方がオズマの始神、光の神…」
○光の神(光 の始神)
「オズマの始神…っ!?」バッ!
ジェイクは掴まれた拳を無理矢理剥がし後ろへと下がる。
「天穹…どういうことだ!
オズマは神じゃなかったのか?」
「その認識から改めなきゃならないね…。
オズマは神なんかじゃない。
神の様に崇められている魔導士なだけ…
根幹は君たち黒白の魔導士と同じ…。」
「でもそれなら…オズマは夜空を…」
「うん。夜空がオズマの始神だね。
オズマはそれ以外でも夜空を愛してる。
だけどその記憶を分身体には植え付けられないんだ。
…この世界に入れるのは今の世界じゃ私くらいだから…
夜空が顕現すればきっと入れるけど…。
夜空以外にも、この世界の元々の住人をオズマは宿したんだ
それが光の神」
「だからオズマは夜空の魔力を封印したのか…
自分を追いかけて この何もない世界に来ないように…」
「貴様たちを主に合わせる理由がない
だから侵入者と位置づけ…ここで壊す!!」
「天穹、先に行け!」
「!? 私なしで…やるの?」
「お前は早くオズマを探せ!
この始神は悪神じゃない!!
オズマの為に戦う忠義ある良神だ!
だからオズマを見つけ出しこいつを止めさせてくれ!」
「私なら…殺してしまうから…?」
「…行け…これは真王である僕の役目だ…!」
「…。そ。分かった、ふふ。…カッコいいじゃん
さすがはレインの認めた…王だね」バッ!
天穹は後方へと走る。
「待て!行かせぬぞォ!!」
光の神は両手を上に上げる。
「光量守殺!!!!」
両手のひらから出た光を地面へと叩きつける!
光と光が反射し合い、何も見えなくなる。
「ぐぁっ! ま、眩しーーぐふっ…!」
その光の中、ジェイクはどこから来るかも分からない殴打に身を任せていた。
バギャッア! ドカッ! ドゴッ!
「ぐぁぁぁ…っ!」ズザザザ…
ジェイクは光の中でころげる。
「くそ…ゴフッ…何処にいるんだ!?
魔力さえも発しない…
まるで本当にただの光…っ!?
そうか! これは光を発してる訳じゃない…
光の神自体から光が出ているのか!
自らを発光させその光に紛れる技…」
(つまり…最も光量が多い場所…それが…っ!)
「金凰奏々! “前奏”!!
太陽・陽光弾!!」
右手より射出する僅か直径3ミリ程の高熱線!!
ピュォォォーーーン…
高い音を出し、その熱線は光の神を貫く。
光は緩み、光の神の姿が出てくる。
「ぐっ! な、なぜ分かった!?
そしてこの私の光を貫くなど…っ」
「この技は太陽の女神・コスモスが使っていた技だ…
全てを貫き 等しく墜とす…
僕に授けてくれたんだ、ほんの少し昔にね」
「コスモスの技…ぐぅ…ツクヨミの母の技というワケか…!
私の身体を貫くだけの理由はあるようだな…」
「これ以上戦う意思を見せるなら…ハァ、ハァ…
もう2.3カ所撃ち抜かせて貰う…」
「……星間移動」
ギュォォッ
「動ーーっ!!?」
(バカな!?
動いた直後もう真後ろにーー!!)バギッ!!
「ご…ふっ!」
「足の裏に光の速度を乗せ…
摩擦により速度を激減することによって…
コントロール可能な超高速になるのじゃ…
もう貴様に勝ち目はない…私の姿を捉えられないのではその自慢の技も当たりはしない…!」
「まだそんな…技を…」
ジェイクは首元を殴打されており、思うように動けない。
「金凰奏々…“間奏”
炎状!」
ジェイクを中心に炎の縄が現れ辺りを薙ぎはらう。
「…ぐ…」ガクッ
膝を落とす。
「これで寄せ付けないつもりか…?
私の星間移動ならばこんな炎の包囲網など…
軽くかわせる!」
ジェイクを中心にうねる炎の縄数本を軽く避け、ジェイクの懐へ飛び込む!!!!
「なん……だ…と……」
光の神は空中で止まり…そして落下する…。
ジェイクまで…拳は後1センチ…。
「な…なにをしたんだ…」
「……すまない光の神……
・・・・・・
手荒くなった」
ーーー白姫ーーー
ジェイクの体から白い魔力が漏れ出ている。
「“白姫”
…僕の最後の変化魔法だ…
金の魔力と…僕の黒白の波動を混ぜ込んだ。
始神が居なくても成れるんだ
僕は…夜空や空影…リッチーが居なくても…
大切な人を…場所を…物を…護れる様に…
全てを護ろうとした…レインの様に強く…!!」
「ふざ…ける…なぁァァ!!
オズマの元へは行かせんぞォォォ!
星間移動!最高速度ォォォ!!」
ギュァァァッ!!!
(もう摩擦は使わぬ…!コントロールを手放しただ奴へ直撃する!!!)
「光殺・風翔鳶!!!!!」
「真っ向から…受けて立つ…!」
ジェイクは右手を突き出す。
「……“遮断結界”」
キュォォォォォーーン…
ジェイクの右手より遮断結界が生まれる…!
光の神は遮断結界へと激突し墜落する。
「そんな…私の最高速度を見切る…だと…
しかも遮断結界を…この魔力供給の無い場所で一人でこのレベルの結界を……完敗だ…」ドサッ
「ふぅ…」フゥンッ
「白姫はかなりの魔力を使う…
そう何度も成れるモノではないな…」
「ジェイク…と言ったな…なぜ殺さぬ…」
「…?貴方は主人を護るために戦っただけで…。
悪神ではない、だから殺す“理由”もない
あっぱれです、光の神…いいえ、光神・リファクト」
「……先ほどの神が進んだ方向に主人は居ます…
お行きなさい、真王」
「!ああ、ありがとう!
金凰奏々!“前奏”!!
神速移動!」ギュァァァッ!!
「ほほ…もう止める理由もない…のう」ニコッ
ーー光の世界 一部ーー
「…」
「久しぶり…と言えばいいのかな…。
オズマ?」
「………海原の天女……」
「! 魔力も姿形も声も大きさも違うのに…。
貴方といいジェイクといい…
私は分かりやすいのかな…?」
「……予感がした…それだけだ…」
ーオズマ・ゼロ・レドニシア(本体)ー
「昔…私が海原の天女の時…
戦った以来だね
私のせいでこんな世界に閉じこもることになって…
ゴメンね」
「……リファクトから話は聞いている
外界の事を…だ。
…お前が記憶を封印していたのは聞いた。
仕方のないことだ…。
分身体からも聞いている…。
10年前…夜空の母が世界を襲った時
ジェイクと夜空に協力して世界を護る手助けをした様だな…
それで帳消しだ」
「…相変わらず優しいのね…。」
「8700年前…お前が80を超える悪神を引き連れ王都を攻めて来た時は…どうするものかと悩み 畏怖した
だがそれよりも驚いたのが私の二代前の真王・初代真王 ルクシアがお前だとはな…」
「二代目の 壱=零はどうなったの?
私が二代目に指名したけど…。
彼の最後を見ずに私は記憶をオリュンポスに封印され村雨として胎児にされたから…」
「私の…父だな…。
その名は久方振りに聞いたな…。
壱=零は私を3代目真王に指名した後…
病死した…」
「そう…残念ね」
「…だが我が父は世界統一の一番の貢献者だろう…
少なくとも私はそう信じている。
……役目半ばでこの世界の“記憶”からすら消えたお前とは違ってな、ルクシア。」
「…っ」
「それは仕方のない事だ…!
天穹はオリュンポスに立ち向かった…!
それはこの世界を考える神だからこそ出来たんだ!」
「「!!」」
「ジェイク…」
「…ほう…」
そこに現れたのは現真王、ジェイクだった!
「光の神を倒したんだね…
クスッ…やっぱり君は面白い」
「…我が始神をお前が…
成長したモノだな」
「貴方がオズマ…
本物に逢えるなんて…光栄です
貴方にあったら…どんな状況でも…何があっても必ずしたいことがありました、しても良いですか?」
「どんな状況でもするのだろう?
ならば行使するといい。
その高ぶった魔力と緩みきったニヤけ面を見ているのは……少々疼く」
「…行きます!!」ニヤッ
「金凰奏々! “前奏”!
神速移動!!」ギュォォッ!
「!?ジェイク!?」
ジェイクはオズマの背後に回る。
そして右手を構え、オズマの後頭部へと目掛け…!
「炎掌!!!」
ボゴァァァ!!
ジェイクは掌に宿した炎をぶつける!
だが、その炎は簡単に消され…
腕を掴まれ、地面へと叩きつけられる!
「ぐっ!!」
「…現世…最強の魔導師…」
(弱って尚このレベル…)
「やはり敵わないね…
オズマ、ありがとう」
ジェイクは炎を消し立ち上がる。
「男同士の…矜持ってモノ?
…私には到底理解できないな」
「さてルクシア…ここに来たと言うことは…」
「うん。“白き微笑みの稲光”が欲しい」
「天穹、それはなんだ?」
「夜空を顕現させる為に必要な魔力結晶体の呼称。
オズマがこの世界に入る際、夜空がオズマを追いかけて来ないように、と力の7割を封印したもの」
「これをしておかないと夜空はきっと私の後を追いかけこの何もない世界へと入っただろう。
…それはダメだと私は考えた。
安定を失った世界のバランスを保つ為にその時の真王である私が身を光の世界へ閉ざし、全世界へと魔力を供給しつつ悪神の神の祠を抑え続けるのは仕方ないとして。
夜空まで来る必要はない。
この世界に入ってしまえば基本的に役目を帯びた者はもう出れないからな。
私は永劫この世界からは出れない。
夜空もきっと私と同じ世界に永遠に居続ける道を選ぶだろう。
だが私の判断は正しかった。
夜空が世界に居なくしてはジェイク、お前は海原の天女となったルクシアを止められなかった」
「ええ…。それどころかコスモスにも勝てず、世界を救う事など出来なかった…。」
「もし私無き世で悪意が叩いても
必ず夜空を宿せる私の子孫が…
世界を護ってくれると信じていた
その為に私は愛する者と永劫の別れをする事を決めた。
だが今の夜空なら…
お前たちと関わり 心の空を広げた彼女ならば。
…もうここに来る事もないだろう
顕現すれば夜空は光の世界を思い出す。
私本体の事も思い出すだろう。
夜空が暴れればルクシアでも勝てるかどうか。
…そうなったら…その時はーー」
「夜空は大丈夫です!!」
「!…なぜそう言える?」
「僕の始神だからだ…!」
「ーー!」
(強い瞳…強い魔力…だがそれでいてどこか暖かい…。
…そして奥底に感じる金の魔力…。
私の子孫。強く育った…大きく育ったな…)
「…フ… ルクシア、これを」
「…確かに預かった。
夜空の証。“白き微笑みの稲光”
行こうジェイク。
会いに行こう、本当の夜の神に」
「ああ…待っててくれ、夜空!」
「夜空を…孤独な夜の神を助けてやってくれ。
もう動けない。老いた私に変わり…
我が子孫よ…我が末裔よ…我が魂の欠片よ…
私や夜空が愛したこの平和を
守るべき 尊ぶ世界を…っ
託した…!」
「…はい!!」
ー王都 オズー
「ジェイク、オズ全兵士 準備整ったぜ」
「よし…全軍、進撃だ!」
「「「「「「「ウォォォォ!!!!!!」」」」」」」
王都オズ 全兵。
その数、2万!
これは後に「悪霊戦線」
と呼ばれる出来事。
真王・ジェイクを筆頭に。
兵士長/第五席 ジオ・シレネード。
神法魔導師第三席 ルレン・オン。
神法魔導師第二席 ルージュ・ストレム。
神法魔導師第四席 メル・メルトリオ。
龍神の民 龍騎王 ベイリオン・ドラ・ゴン。
伝説の初代真王 ルクシア・スカーレット(天穹)
そして以下 オズ兵士2万人。
総力戦である!
「なあルージュ」
「なんだジオ。今は喋っている場合ではないだろう」
「いや、メルって誰なんだ?
かなり最近いきなり第四席になったろ?
俺より強いってことだよな?」
「ふむ。いや、単純な強さは関係ない。
神法魔導師とは、「この世界で真王を覗いて、もっとも魔法の扱いに長けた魔導師」というものだ。
腕力や剣技で戦うお前が第五席でも第一席だったレインと剣の決闘をすればお前が勝つだろう?」
「ああ、まあそうなるな」
「だから四席と言っても必ずしもお前より強いとは限らん。
だが少なくとも魔力はお前よりある、という事だ。
私も奴の事は詳しく知らんが真王であるジェイクが決めた者だ、悪いやつではないだろう」
「ああ、まあそうなんだが…
あいつほっとんど喋んねーし、声なんか聞いた事もねーよ。
男か女かも分かんねーし いつもフードしてっから素顔もあんま見た事ないしな。
そんな奴にいざって時背中任せられる気がしねぇ…」
「ふむ…。ならジェイクに直接聞くといい。
一番前を馬に乗ってる。
少し走れば我々も前列だから追いつくだろう」
「そーしたいんだが…。
やっぱ今はやめとくよ、わりぃな」
「ああ。なら戦いに向けて士気をあげよう」
「おう!」
「………女だし…」
ー深淵の大穴ー
ここは、元々悪霊達のアジトがあった山だ。
天穹の本気により山1つと地面が消し飛び、大穴ができた。
「全軍、浮遊魔法!
一軍、二軍と分かれて15分ごとに下降しろ!」
ジェイクの命令通り波状に降りていく。
ジェイク、ルクシア、ジオ、メルが仕切る1軍がまずは浮遊魔法で降りていく。
その15分後にルージュ、ベイリオンが仕切る2軍が下降する予定だ。
大穴はかなり深く、その底には黒い箱の様な部屋が一つある。
ジェイクが閉じ込められていた超硬質物質で作られた魔力の部屋だ。
天穹の一撃でも穴がちょっと開いた程度の硬さを誇る。
ジェイクはそれをタルタロスの技を使い宇宙の果てへと飛ばす。
すると、その下に穴がまだ空いていた。
ここが悪霊たちの本アジトだ。
「全軍!!突撃ーーー!!!」
「ウォォォォーーーっ!!」
1軍の1万を超える兵士が次々と穴へと飛び込んでいく!
ジェイクはそれを最後まで見届ける。
ジェイクは言わばボス。
ボス自ら率先して行っては部下に示しがつかない、という事で部下を未開の戦地へと送り出すしかないのである。
ジェイクが真王でなかったら、きっと真っ先に穴へと飛び込んでいただろう。
そして1万の兵全てが悪霊の本アジトへ突入し、1分。
あちこちで爆発の音が聞こえる。
このアジトは相当地下深くにあり、地下をかなり掘っていて相当の広さを誇っていた。
小さい悪霊達が沢山出てきて、王都の兵士たちと激戦を繰り広げる。
そしてその5分後、ルージュたち2軍が大穴の底へとたどり着く。
「よし、2軍突入!!!」
「ウォォォォ!!!!!!」
2軍の6000ほどの兵士たちも次々突入していく!
残りの3000ほどの兵は穴に降りて居ないり
地上で負傷兵を待つ、治療部隊だ。
ルレンが残っている。
地上ーーーールレン率いる治療部隊3000
大穴底ーーージェイク ルージュ ジオ メル ベイリオン 天穹
地下アジトーー17000の兵士たち
ー大穴底ー
ピッ ピピッ
無線機が鳴る。
「こちらジオ。どうした!」
「へ、兵士長!
地下入り口より右に進んだ地点の突き当たりで強い悪霊と遭遇!
悪霊は自分を「毒王」と名乗っています!
し、至急応援をッ!!わっ、我々では歯が立ちません!」
「…よし、分かった 直ぐに向かう
死ぬなよ!」
ピッ!
「ジェイク…」
「…ベイリオン!ルージュと共に毒王の討伐を命じる!
毒王を討伐したらその後は兵達と共に付近の悪霊を掃討して欲しい、頼めるかい?」
「うむ!」
「よし…」
バッ!
二人はアジトへと飛び込む。
「ジェイク!今度は入り口から入ってもっと深くの地点からだ!
「悪魔」と名乗る強大な悪霊の出現、20人は殺されてる!」
「くっ…ならそこは僕がーー」
「私いくよ」
「「!!?」」
「メル…」
「…第四席として… 真王として第四席の私に命令して。ジェイク。」
「…分かった、でもくれぐれも気を付けて」
「うん」バッ
「ジェイク、聞きたかったんだが…
あいつ誰なんだよ?」
(声初めて聞いた…女かよ…)
「彼女はメル…。
メル・メルトリオ。
…本当の名前はメル・ミッドナイト。
ミッドナイト真王の隠し子なんだ」
「!!な、なんだと!?」
「彼女はまだ19歳。
真王になって僕は王都の真王室に出入りするようになったよね?
ジャッジ王はあの部屋を「狭苦しい!」と言って1度も使わなかったけど、僕は使ってるよね。
引き出しの奥底に鍵があって。
その鍵で一番下の魔力の掛かった引き出しを開けたら…
メルの住処とミッドナイトの奥さん・リメイアの名前が書いてて。
僕は休日にその二人に会いに行ったんだ。
そしたらリメイアは病気で亡くなってて。
一人で泣きながらご飯を食べるメルがいた。
父親を殺した僕を見てメルはこう言った。
「父は私とお母さんを捨てた。必要のない存在」
と。
僕もミッドナイトは許せないよ。
でも、小さいうちからそんな悪意を持って欲しくなかった。
だから僕はあの子の面倒をみる事にしたんだ。みんなには内緒でね。ミッドナイトの子、ってだけで民には充分恨まれる理由になるだろう?」
「それでハルと一緒に育てたのか…」
「うん。彼女が15歳の時にね。3年間。
18になったメルは僕が決めた王都のルール通り18歳から神法魔導師になれる、って条例の年齢条件を満たしたからって僕はメルに育ての親としてじゃなくて上司として面倒を見て欲しいって頼まれてさ。
今に至るんだ」
「そうだったのかよ…」
「ミッドナイトの子ってのは内緒だよ。
彼はやっぱり憎まれてるからね。世界から。」
「そうだな。ミッドナイトは悪かったがその娘が迫害を受ける謂れはないもんな」
「うん、メルは真っ直ぐで良い子だ。
そして。何より…」
強いよ。
ーアジト 奥深くー
「ハァァッ!!!」 ズバァッ
「ぬぁあっ!」
兵「す、すげぇ…メル様って凄かったんだな…」
兵「あの悪魔を圧倒してる…なんだあの剣は…」
「がぁ…ぁ…貴様…そんな剣どこで…」
ー悪魔ー
最上位悪霊
「これは…“天世界の門”と呼ばれる神剣。
かの神王・ヴァンパイアの持ち物だ。
私はこれを真王様から授かった。
認めるのも癪だけど。
私の剣の才は父譲りらしいよ。
そして私はこの剣に魔力を注ぎ込む魔導騎士。
…神法魔導師 第四席として…キミを仕留める…!」
「女ァ…この悪魔をなめるなよ…
ウィゴールの元へは行かせんぞ!
寸・軋!!」
「んっ!?」
(腕が重い…!?)
「呪印だよォ! はっはっは!
これで貴様の腕は重くて暫くは上がらんだろうな!
そしてこれだ!
悪炎・浮遊霊!!」
悪魔の体から出た浮遊霊たちがメルを襲う!
「くっ!腕が…っ! ならばっ!!」
メルは睨んだ場所を発火させる炎魔法・視炎にて浮遊霊を燃やしていく。
「く…杖を通さず使う魔法は威力が…」
「周りにいる兵どもはもうほとんど死んだ!
強い反応もあるが遠い場所で毒王と戦っている!
加えてこのアジトは迷路のように掘ってある!
助けも期待できんな!はっはっは!!」
「これでは……っ!!」
「助けも」
「期待できん?」
「…? なんだあの岩…ヒビがはいってーーー」
ドガァァァァン!!!
「迷路?知ったことか。」
「全て壊して一直線に突き進めばいい。」
「岩避けに丁度いい毒王も居るしな。」
「餌の間違いだろう、ルージュ」
「な、なにーーッ!?!?」
「!ルージュ…ベイリオン…」
「うおっ、メルって女なのか」
「…メル、大丈夫か?」
そこにいたのは、離れた場所で戦っていたはずのルージュとベイリオンだった!
ついでにボッコボコにされて岩を突き進む時に下敷きにされてさらにボロボロの毒王も一緒だ。
「べ、毒王! 何をしている!」
「悪魔…すま…ねえ…強すぎる…」
「確かにこのアジトは入り組んだ作りをしているな」
「まあ。関係ないがな。
全てを破壊して一直線にお前の魔力目掛けて穴掘ったらここに来れた」
「で、でたらめなやつらめ…」
ベイリオンは広さの問題もあり、完全龍化まではしてないが、ある程度人の形をした龍の様な姿になっている。
ルージュは手製の武器、剣杖を構え、サイクロンを宿している。
「幽遠・解除陣」
「っ!」
メルの手の呪印が解ける。
「斬ってこい、メル」
「ルージュ…。うん。ありがと」ニコッ
「…ほう…笑うと…美しい」
「…ん… 何言ってんの。」バッ
メルは飛び上がる。
「天世界の門・一振り。
死と共に苛め!!!
神絶王刀!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
刀身1メートル半もある巨大な大剣・天世界の門より放たれた斬撃は毒王ごと悪魔を真っ二つに切り裂き、そのままアジトの岩を切り裂き地下へと突き進む!
そして大きな金属音と共に消える。
「私を…一撃で殺すなんて…」ドサッ
「強い…これが隠された第四席の力か…」
「メル…才に溢れている…」
「久しぶりに使ったな…技…。
ん…ルージュ、あれ」
メルが指差すのは斬撃で切り進んだ更に奥深く。
黒い箱が切り目から見える。
これは大穴の底にあった、ジェイクが宇宙空間に飛ばした箱と同じものだ!
「きっとあの中にウィゴールと夜空がいるのだろう。
ジオとジェイクを呼ぶんだ!全員で奇襲しよう!」
「うん、行こう」
「よし!」
オズマの本体。
顕現の夜空とは?
ミッドナイトの隠し子メルの実力。
そしてその背後にある想いとは!?
第6話へ続く。
白姫、天門、神龍。それぞれの瞳の先、映る景色と開戦の警鐘…。
第6話「それぞれの戦い、開幕!」
「遅くなった!みんな無事かい??」
「ジェイク。ここはもう制圧した。
兵もかなりやられてしまったみたいだが…」
「うん、分かった。
治療部隊を突入させよう
ピッ…聞こえるかいルレン!
治療部隊3000、突入だ!」
『おっけー!』
「ジオ…いいかい?」
「ああ、俺の妻はそんなに柔じゃねぇぜ」
「よし…混戦は必須だがこれで死傷者も減るだろう…
だが治療部隊の護衛を治療と兼任でルレン一人に任せるのはかなり苦しいだろう…
もし悪魔や毒王レベルの悪霊がまだ潜んでいたら勝ち目はない。
誰かをここに残そう」
「よし、その役はジオが良いと思う」
「ルージュ、どうしてそう思うんだ?」
「気になってしまってあの黒い部屋の中での戦いが疎かになっては元も子もない。」
「…いや、すまねぇが俺はジェイクと共に行かせてくれ」
「…何故だ?」
「レインの想いも…託されてるからだ
ジェイクは…どんな時も俺が側に居ないとダメなんだよ。
勿論、俺だってジェイクが側に居ないとダメだけどな。」
「…フ、そうだな。
なら私が残ろう
ルレンや治療部隊は私とサイクロンが死ぬ気で護る。
残党の殲滅もしておく」
「うん、任せたよ ルージュ!
ジオ、ありがとうね…いつも」ニコッ
「当たり前だバカ野郎
こっちこそサンキュな!!」
「うん! よし、ベイリオン、ジオ、メル、天穹。
行こう…!」
「「おう!!」」
「了解…!」
「やっと…暴れられる」
バッ
5人はメルが作った岩の裂け目から箱目掛けて飛び降りる。
更に深く、悪意へと近付いていく!
ー黒い部屋 入り口前ー
「…用心してね…ジオ、ベイリオン!」
「よし…」
「ああ…」
ジオとベイリオンが扉に張り付く。
扉を開けるのが役目だ。
「「せーの」」
バンッ
勢いよく扉を開け、ジオとベイリオンは部屋の中へと飛び込む!
そして次いでメルが駆け込み、ジェイク、ルクシアと順番に駆け込む。
「……何もいない…!?」
「バカな…確かに魔力は感じたが…」
「……ジェイク」
「メル、この部屋の中の黒い霧を払ってくれるかい?」
「了解…。
天世界の門 “一振り”
霧払い!!」」
ブンッ と長刀・天世界の門を振る。
すると部屋の中に立ち込めていた黒い霧が剣に吸い込まれていく。
「ジェイク、あの剣って…」
「ああ、僕がヴァンパイアと戦った時、彼から貰ったものだ。
メルの正体はまた教える、今は戦いに集中してくれるかい?」
「よし、分かったぜ」
黒い霧が晴れて。
部屋の奥がよく見えるようになった。
そこに居たのは…。
「ようこそ 悪霊の最奥部へ。
紹介しよう。私の名前はウィゴール・ノーザン。
そしてこいつが…悪霊王サタン!!!」
自らをウィゴールと名乗る老人の隣に居たのは…
身長は180センチ位だろうか。
人型で、今までに見た巨大な悪霊たちとは違い小柄だ。
魔力も大人しく、こんな最奥部で出逢わなければ間違いなく「雑魚」と判断するレベルのモノだった。
だがこの場にいたウィゴール以外の全員が等しく感じていた。
ー謎の恐怖ー
ー体の震えー
ー警告警鐘ー
ー畏怖危惧ー
ー恐怖ー
「……焉・終・界」
その刹那。
ジオは確かに見た。
目の前が暗くなり、別の世界に自分が飛ばされようとしてる時。
自分は一切反応出来なかったのに。
ジェイクとルクシアは既にサタン目掛けて駆けていた。
咄嗟にジオは、自分の相手はこいつではないと悟り覚悟を決める。
1秒後、ジオ、メル、ベイリオンの3名が別次元へと飛ばされた。
「金凰奏々 “前奏”
炎状!」
炎の縄が数本、サタンを襲う!
それらをサタンは左手で弾く。
「天翔…!
凪雨!!!!」
右手に魔力がこもった翼を生やし、その手でサタンを撃ち抜く!
サタンはガードをしたがガードの上から殴られ吹き飛び、天井へと激突し落下した。
「ぐっ…さすがは初代真王…
おいサタン!何してる、お前の求めていた獲物だぞ!」
「喚くなウィゴール…この程度…挨拶だ…」
立ち上がり、すぐに元の位置に戻るサタン。
「天穹、手応えは…?」
「天翔は攻撃するとき各部位に魔力の翼を生やす技。
つまり、普通に凪雨で殴るより天翔をつけてから殴った方が強いんだ。
…でもその天翔・凪雨をモロに受けて無傷。
かなり強いかもね、今迄の悪霊とは桁違いに…」
「ウィゴール!仲間をどうした!」
「君たちのお仲間には別次元の別空間で私の手足と呼ばれる悪霊たちと戦って貰ってるんだよ…はっは…
きっと殺されてるんじゃぁ無いのかなぁ?」ニヤァ
「フ、そうか、ならそろそろ出てくるな。
僕の仲間が、ね。」
「きっ…貴様…父親に似て鬱陶しいやつだ…」
「!?僕の父を知っているのか?」
「知っているも何も!
私はねぇ!ジェイク…君も知っているんだよ!
君が赤子の時…まだ生命になる前にねぇ…」
「どういう…っ」(サタンの殺気が大きくなっていく…
…来る…!)
「長い!!!!」
サタンは叫ぶと、魔力の弾をぶつけてくる!
ジェイクの前に飛んできたそれをルクシアが受け流す。
「サタン!まだ私が喋っているだろうが!!
そんなに暴れたいならルクシアをどこかへ吹き飛ばしてそれでやってこい!」
「良いのか?…私がいなくなってはそこの魔導師に呆気なく殺されるんじゃないのか?」
「大丈夫だ、私には「あいつ」がいる」
「どうなっても私は知らん
貴様とはもう手打ちだからな。
私の目的にこうして出逢えた、もう満足だ
私は私のやりたいようにやる、お前もお前のやりたいようにやれ
ルクシア…向こうで闘ろう」
「…ジェイク…」
「大丈夫。レインの真仇だよ、僕の代わりに取ってきて。」
「分かった…行ってくる…ね…!」
ルクシアとサタンは共に別空間へと消えていった。
「お前に二つ質問がある。
1つ。父と僕を知ってる理由。
2つ。悪霊たちとどうやって繋がったか、だ」
「ここまで来た褒美にでも聞かせてやろう
知って絶望するお前を見るのも復讐の一つだ。
まず私は…30年前、町で医者をしていた。
表向きはな。
本当の目的は、医者として金の魔力を宿した子供を孕む女を探していたんだ
まあ簡単に言えば、金の魔力を宿した胎児を見つけたら出産の時にでも母親を殺して、生まれたばかりの赤子の胎内から金の魔力を吸い出して私のモノにしよう、としていたんだよ」
「まさか…母さんをお前が…っ!」ゾワッ
「その顔を待ってたんだよ…30年もの間な…!はっは!
だが残念。君の母親は別件で死亡したよ。
っていうか私の思惑は全てが狂った。
私は君の父親の研究仲間とも協力して君の父と母がギクシャクする様に仕向けたんだ。
まあその辺は父親の日記でも漁るといい。
そして案の定君の母親はつわりで倒れて私の病院に担ぎ込まれた。
そしていざ。私は麻酔針を手に君の母親を眠らせ、君を奪おうとした。が。その時。
君の父親が駆け付けたんだよ、白い魔力を帯びてな」
「…強制白檄変化の注入薬を父は昔開発していた…」
「そうだ、それを自らに打ち込み 奴は私の長年の夢の金凰奏々を持った胎児とその母親を私から奪い逃げた。
私はすぐにでも追いかけようとしたが…
その時…今は滅びた国、グレイオンの王子が観光で私の町に来ていたのだ…名はミッドナイト!」
「…ミッドナイト…!?」
「私はミッドナイトにやろうとしていたことを見つかり激しく激怒され、何発も殴られて前歯を全て失ってな…
その後…貴様の父親が黒だってことがバレてミッドナイトが戦い、貴様の母親はその戦いで父親を庇い、戦死したらしいな。
それはどうでもいいがな」
「僕の母さんが…ミッドナイトとの戦いで…」
「私の…40年の夢を軽く打ち破ったジグ…
そして私のプライドと歯を全て叩き割ったミッドナイト…
私はやつらに復讐することを決めた!
だが記憶を失ったジグを殺したのは誰だ!?
そして真王となったミッドナイトを倒したのも誰だ!?
そう、全てお前なんだよ金の魔力保持者!!!!
ミッドナイトには隠し子がいることも調べは付いている…あのメルという少女であろう?
残念ながら死んだな、あの悪霊には勝てまい」
「…そこまで知って…」
「ああそうそう。私がどうやって悪霊と繋がったか、だったな。
悪霊たちの長・サタンと20年前私は接触した。
そしてそのサタンと2つの約束の元、協定を結んだ。
1つ。サタンの生涯の目的、今は亡き初代真王 ルクシアと戦うこと。
これは大変だったぞ。
雨々のスピレーションの術によりルクシアの記憶や記録は全て消えていたからなぁ。
だが多くの仮定を決め、「海原の天女」として突如世界を襲った「村雨」こそがルクシアの成れの果ての姿ではないか?と私は思ってな。
奴が顕現するには怒るしかない。
奴を怒らせるには…愛する者の死こそ最も楽な方法だった。
サタンの部下、怨霊を使い貴様をさらい、レインを殺させた。
作戦と違ったのは、捕まえたお前を殺す準備をしていたらルクシアが乗り込んできた事だな。
あれほど強いとは思っていなかった。
新月の巫女を抜き出しておいて正解だ。人質さえあれば自らここに戻ってくると思っていた。」
「そんなことの為にレインを…
村雨の怒りを利用して…っ!!!」
「クックック…そしてもう一つの約束は私の前にジェイク、貴様を用意する事。
これは悪霊たちが全霊を尽くし用意してくれた。
…後は私が貴様を殺し、金の魔力を奪い取るだけだ!
実に長かったぞ…だがやっと!
やっとこの時が来た!!
ミッドナイト、ジグ、そしてそれらを倒したジェイク。
復讐の時だ!!!!」
「お前ごときが…僕に勝てると思うのか…」ゾワッ
「来い!死魔導師!!!!」
バッ!!
誰かが飛び込んでくる!
「!くっ!」ガッ
ジェイクは咄嗟に杖で攻撃をガードする!
右、左と拳を繰り出してくる「何者」かの攻撃をかわしながらジェイクも反撃する。
蹴りを頭に叩き込み、何者かをジェイクは吹き飛ばす。
「火炎放射!!」
杖の先から火炎放射を出し、吹き飛んだ何者かに向けて放つ!
だが炎は剣で裂かれる。
「誰だ!」
「こちらも紹介しよう。
私が改良した…黒白の死導騎士…クロノスくんだ」
クロノス。
ジェイクが死んだあの日。
雨々に体を奪われ、雨々の身体にされてしまった黒白の魔導師だ。
ジェイクを殺された怒りで夜空が放った「夜奪」にて感情や記憶などを消し飛ばされ、ただ飯を食い息をする本能で動くおもちゃのようになってしまった。
フラフラと何も考えられない頭をぶら下げ歩いていたところ、悪霊に確保されウィゴールの手により改造手術をされる。
両手には黒い双剣・インディアを構える二刀流。
そしてその剣に魔力を流すメルと同じ魔導騎士だ。
これはミッドナイトへの皮肉だ。
そして。
「こいつの体には貴様の変化魔法と同じ、強制夜刻創造が施されているんだよ。
つまり、ジグの技術「強制」。
ミッドナイトの剣法「二刀流、魔導騎士」。
ジェイクの変化魔法「夜刻創造」。
私の忌み嫌う物これら全てを取り入れた…最悪の魔導師の完成だ…!
私の最高傑作でもあるのだよ!
良い具合に新月の巫女の手により感情や記憶の一切が消えているからな、脳に闘争本能を植え付けるだけでこうして命令を絶対に無視しない操り人形の完成というわけだ!」
「クロノス……くそ、ウィゴール!なんて非道な事を…っ!」
(もしあの強制が、父の開発していたものと同じ、、もしくはそれ以上だとしたら。
夜空を奪われ、リッチーも奪われている今の僕が自力でなれる変化魔法は金凰奏々。
夜刻創造には勝てない……)
「ハァ…ギィィ…」
クロノスは剣を構える。
「さあ!殺れ!!!!!」
「…やるしかないか…!
“白姫”!!!!」
ジェイクの体を白い光が包み込む!
「さあ、行くぞ…!」
「ギャァォ!!!!」
キィンッ!キィンッキィンッキィンッーッ!
激しい二刀流の剣戟を、ジェイクは杖で弾く。
「クロス…ソードバッド…!!」
剣をクロスさせ、そのまま斬りつける!
ジェイクはそれを杖で受け止め、杖の先から炎を出す!
クロノスは顔に火の玉を直撃させてしまう。
「ハッ!」
ジェイクはすぐさま足払いをし、クロノスは転ぶ。
「白姫ー絶対零度ー
炎掌!!!!」
そう、白姫は炎魔法しか使えないジェイクが氷魔法を使えるようになるのだ!
半分氷、半分炎で作る炎掌を転んだクロノスの腹に叩き込む!
右の腹部は燃え、左の腹部は凍りつく。
「グォォッ…! 水連!」
クロノスは剣に流し込んだ水魔法を自ら被り、顔と腹の炎を消す。
そして氷は拳で砕く。
「クロスカノン!!!」
X型に斬りつける斬撃をジェイクに飛ばす!
接近していたこともありジェイクはかわしきれず肩を少し切る。
「うっ!」
「ハァーーッ!!」
ドゴッ!!!
寝転んだ体勢からクロノスは前蹴りを繰り出し、ジェイクは天井へと吹き飛ぶ!
ドガァァァァン!!!
「は、ははっ!いいぞ死導騎士よ!
このパンドラの部屋の天井にジェイクの体が食い込むなんてな…!
凄まじい威力の蹴りだ!そのままやってしまえ!」
ジェイクは黒い部屋(パンドラの部屋)の天井に体が食い込む。
凄まじい威力で蹴られてしまった。
「がっ…はっ…」
(防御魔法が何の役にも立たなかった…
どれだけの魔力を脚に…っ)
クロノスは立ち上がると、痛む腹を抑えながら地面を踏み切り、天井へと飛び上がる!
剣を上に突き出して、だ。
このままだと二本の剣がジェイクの体を貫いてしまう。
「……っ! 遮断結界!!!!」
全てを弾く遮断結界。
白姫のジェイクは遮断結界を作り出せるのだ!
ガァァンッ!
と重く響く衝突音が鳴り響く。
クロノスの剣とジェイクを中心に張った遮断結界がぶつかった音だ。
クロノスは床へと着地する。
ジェイクも食い込んだ体を何とか抜く。
「……ぎ…ギィィ…」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
(“白姫”状態の僕をここまで…
光の世界から帰ってきて休みなしだから光の神・リファクトとの戦いから連戦とはいえ、だ…)
「……重力剣…!」
ブンッと剣をその場で振り下ろすクロノス。
すると…
「! 身体が軽く…!」
「ギィィッ!!」
ギュォォッ!!
「はやーー!ぐあっ!!」ズバァッ
ジェイクはクロノスに肩を斬られる。
「なぜ…!?身体が思ったように動かない…っ
何をしたんだ…!?」
「ギィィ!!」
感情も何もかもがないクロノスは言葉ももはや話せない。
口から漏れる「音」寄りの声を上げ突っ込んでくる。
その速度はさっきの速度の凡そ0.5倍。つまり…。
「重力を…この場の重力を半分に斬ったのか…!
1Gの半分…0.5G…今この場の重力は0.5Gしかかかってない、つまり慣れてないんだ。
だから動きにくい…痛っ…」
(肩の血が止まらない…
まさか…)
「ギィィ……」スッ
クロノスは居合斬りの構えを取る。
そして剣の先に魔力を込めている。
次で決めるつもりだ…。
「傷口に強い魔力を流し込まれた…
く、あの剣に斬られてはダメだったんだ
あの黒い双剣…まさかとは思っていたが今確信した…。
呪術双剣・ティルウィング…
斬った相手に呪印をかけて呪う災厄の剣…
呪神サガの持ち物、オズマが封印していたはず…!
ウィゴール貴様…っ」
「そうだ。死海の底にて発見したその剣を!
更に私が改造してそいつ専用にしたんだよ!
貴様など…ここで呪われて逝け!!!」
「居合・鎌鼬!!!!」
回転する斬撃!!!
「白姫…… “破軍”
炎王哀殺!!!!」
「そ……そんな馬鹿な……」
ウィゴールは床に手をつく。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…
倒せたか…ハァ…」フォンッ
ジェイクは白姫を解除する。
「何をしたんだ…ジェイク…」
「肩を斬られた時…
ティルウィングの刃先に時限式の魔力をくっつけたんだ。
炎王哀殺はその炎を遠隔操作で更に強く発火させる技…
クロノスが居合い斬りを構えた時、ティルウィングの刃先はどこに来る?」
「腰元…か…」
「そうだ。そこで、腰元から抜く瞬間に発火させた。
クロノスは腰から発火し、大量の炎に飲まれる
炎王哀殺は僕の技の中でも随一の火力を誇る…
1秒もしないうちに黒焦げだ…ハァ、ハァ、、ダメだもう僕も…」
フラッとよろめき、ジェイクは倒れる。
「あ……は、ハハ…今なら殺れる…
今なら殺れる!殺れる!!殺れる!!!!」
ウィゴールは駆け出し、燃え残ったティルウィングを手に取る!
「首にこいつを突き立てるくらい!!
ただの町医者であった私にも出来るんだよ!クソガキ!!!!
死ね!ジェイク!!!!!!!!」
ジェイクの真上でウィゴールはティルウィングを振り上げる!!!!
ーーーー果ての空間ーーーー
さかのぼる事少し前。
「ココは…」
メルはサタンの技により果ての空間に飛ばされた。
「…戻らなきゃ…。
でもどうやって…」
ビュォォ
「!風?…こんな何もない真っ白な空間に風?」
すると…。
メルの眼前に風が集まり、小さな竜巻きの様なモノが生まれる。
メルは1歩退き、剣を構える。
ビュォォ…ォォ…
風が凪ぐ。 そしてそこには…
「……誰」
「私か?…私の名はベルフェゴール。
サタンの配下だ」
「あっそ。…なら斬るだけだけど…
遺言とかあるなら聞く意思は見せてあげる」
「…ふむ。ならば遺言でもーーーフッ!」パシッ!!
「……やるじゃん」
メルはベルフェゴールの話の途中で斬りかかるが、刃先を片手で受け止められる。
「まあそう急くな少女。
…年端もいかない少女がこんな伝説の剣を持っているなんてな。
…これは見受ける所 あのデュークの持ち物・天世界の門か?」
「お前に答える義理なんてない
邪魔」
天世界の門は発光する。
「ほう。剣が光るのか。
さて少女よ。この剣を掴んでるままの私はどうなる?」
「……変な奴。
そのまま爆死」
ボガァァァァァァァァァン!!!!
剣先が爆発する!!
爆風から抜け出たメルは天世界の門の刃先を気にする。
だが全く傷付いてない。
メルは高熱の魔力を天世界の門の先に集中させ、爆発させた。
剣が壊れるかもしれないと危惧したが、杞憂に終わった。
「…早く帰る方法でも探そ」
「待ってくれ少女よ。
もう少し私の相手をしてくれても良いだろう?」
「! …やっぱり変な奴」
ベルフェゴールは相当の爆発だったにも関わらず、その場から一歩も動いては居なかった。
身体から爆発の黒風を出しながら話しかける。
「して少女よ…。
好きな数字はなんという数字だ?」
「……ふざけているの?
戦うなら早く闘ろう」
「ふざけてなんていないよ。
ただ戦う前にそれだけ聞いておきたくてね」
「……7」
「ほう、7か」
(ジェイクの誕生月だから、なんて言えない…//)
「ならその100倍でいいか」
フォォォォンッ!!!
ビュォォーーッ!!!!
旋風が吹き荒れる!
「! 天世界の門“一振り”
霧払い!」
だが風は吸い取れない。
「!これは魔力で作った風じゃないの?
…何が起きるの…?」
「そうだな、先程は教えて貰ったし今度は教えよう。
先程少女、お前は「7」が好きと答えたな。
そして私はお前を少女とは言え「戦いの相手」と認めている。
だからお前の好きな数字、希望の「7」と
尊敬の意を込めて「100倍の力」で相手をしようと思ってな。」
「なに…これ…」
メルは…軽く…絶望を覚える…。
「ざっと700体の私だ。
なぁに安心しろ。
…“全員本体”だ。ほんの全員な。」
700体のベルフェゴール。
メルの身長は154センチ。
ベルフェゴールは3メートルなので、自分の凡そ2倍はある悪霊×700体。
そして分身ではなく全員本体。
「さあ。少女。
無駄話をしてすまなかったな。
…やろうか」ニヤ
「………悪霊…め…っ!!」
「まずはほんの小手調べだ。
闇球時雨。
闇魔法のまあ初歩の技だな。
ただの闇魔力の塊を飛ばすだけの技だよ
…まあ700発あるけどな」
ズドドドドドドドドド!!!!!!
700発、闇球時雨がメルを目掛け放たれる!
「天門!!!!」
スパッ! スパッ!
メルは空間を2回斬る!!
すると、異次元の穴が空間に2つ生成される!
闇球時雨はその穴へと入っていく!
「…!ほう…次元に裂け目を作る技か…
あれはあの小娘の技なのか、天世界の門の力なのか…
何はともあれ500発ほど吸い込まれたな、だがあと200はどうする?」
「こうなったら…」
(かなり荒い戦い方だ。
ジェイクに教わった戦い方とは全然違うし…
きっとこんなやり方して相手の力量も知らないのに。
無駄で終わるかも。
でも…私ももう20になる。
大人になるんだ、頑張れ私)
「ジェイクに…合わせる顔を作るために…
神法魔導師第四席として!!!
星に仇なすお前たちを許すわけにもいかない!」
メルは飛び上がる!
闇球時雨もそれを追う!
「天世界の門 “一振り”
神月≠王球!!!」
メルは天世界の門を空高く構え、振り下ろす!
すると、再び次元に裂け目が生まれ、その裂け目がこの空間を飲み込んでいく!
「!!アレは!!
10年前、デュークがジェイク・ハザ・ダストとの戦いで使った技!
あの小娘、デュークの技まで使えるのか!?
確かあの技…小さな魔力の球が核で出来ていて、魔力を食べながら大きくなる技…
この空間は魔力で出来ているし闇球時雨もある…
この空間ごと飲み込んで私ごと自殺するつもりか!?」
「はぁぁぁ!!!」
(大きくなれ神月≠王球!
この空間の全てをむさぼり食い尽くせ!)
どんどん大きくなる魔力球。
それを食い止めようと掛かっていった100体ほどのベルフェゴールも強すぎる魔力に逆らえず飲み込まれていく。
「クソ…こうなれば600体の私が本気の技を叩き込めば核ごと壊せるだろう!
…悪魔の斧生成!」
ベルフェゴール600体の手にそれぞれ黒い斧が生成される。
ベルフェゴールの専用武器だ。
「悪意の斬撃を喰らえ!
鷲刺!!!」
全ベルフェゴールが上を見上げ斧を振り下ろした!
その時ーーー!
「……一死双剣 “千振り”
“三日月” 」
グルンっと体を回転させるメル。
「はぁぁぁ!!!」
ズバァッ!ズバァッ!ズバッズバッ!ズバッズバッ!!
ズバァッ!!スパッ!ドシュッ!!!ズバァッ!!!
ズバッズバッ!!!!!!!ズバァッ!!!!
「な、なんだ!?」
最初のベルフェゴールが音の鳴る方を見る。
すると…
まるでさっき話していた小娘、メルとは思えない…。
自分の出した残り600の自分の返り血を浴び、真っ赤になりながら次々と一振りずつ自分を確実に殺しながら突き進んでくるメルの姿。
それが目に飛び込んでくる。
もちろん600の自分もそれぞれ斧で攻撃しているがその全てを受け、かわし、そして斬っている。
まるで鬼神。
悪鬼羅刹など目ではない。
凄まじい身のこなし。
全く通らないこちらの攻撃。
しかも全ての自分が一撃で死んでいる。
100,200と減っていく。
「神月≠王球…あの“D”uke'vampireの最終奥義…
それさえも…オトリにして…
私たちに上を向かせてる間に私たち全員の場所を把握して…メインが自分の剣技…だと…
だ、だが神月≠王球は誰かが核を抑えてないと消えてしまうはず…!!!」
ベルフェゴールは再び上を見上げる。
600体のベルフェゴールの攻撃により神月≠王球は破壊できた。
だがその核の部分に浮いていたのは。
「天世界の門……だと…!?
な、なら今下で私を殺している剣は!?」
天世界の門は空中に浮いていた。
メルは神月≠王球の核を天世界の門にくっ付けていたのだ。
「ウァァァ!!! ウラァ!!!!」
ズバァッ!!!!ザグッ!ドスッ!ズバァッ!スパッッ!!
「た、ただの鉄の剣!?
そんな、悪霊である私の皮膚をあんなその辺にある兵士の剣で切り裂くだと!?!?!?!?
なんて早い剣技…そうか…
この小娘が強いのは天世界の門のお陰なんかじゃない…
その類い稀にみる…戦闘のセンス…」
(神月≠王球をオトリにするという発想…
天世界の門もオトリにする英断…
兵士の剣ごときで悪霊を殺せる技量…
そしてそれをしようと決める決断力…
それらを成し遂げる実力…
どれを取っても…私に勝ち目など無かった…)
あっという間に…残るは1人である。
「最後に…名前を聞かせてくれ
お前の口で…」
「……神法魔導師 第四席
ミッドナイト・メルリオン…
……名乗れ」
「…悪魔軍勢 サタンが配下
怠惰の魔王 ベルフェゴール…
小娘…いや、メルリオン……完敗だ」
「…ハァッ!!!」ズバァッッ!!!!
ドサッ
「ハァ、ハァ、ハァッ、ハァッ…」
早すぎて壊れる時を見失っていたかの様に鉄の剣はチリとなる。
天世界の門はゆっくりと降りてきて、メルの手の中に収まる。
ガッ!と天世界の門を地面に突き立て、剣を支えになんとか倒れる体を抑える。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…
………お風呂入りたい」
天童とも呼ばれることになるメルの実力。
ジェイク譲りの決断力にミッドナイト譲りの才能。
メルは700体の悪霊を僅か数分で斬り落とした。
ーー別空間ーー
「ぐうぅ…ここはどこだ…」
龍神の民の長、龍騎王ベイリオンも別空間へと飛ばされていた。
「待っていたよ客人
ああワシの名前はラビット。
…まあ、この世界の案内人だ」
「なんだ貴様は…早くここから出せ!」
「それは出来ない相談じゃなぁ。
サタンの小僧から遊んでいいと聞いてるし、ちょっくら相手になって貰わんとなぁ。」ビュオッ
「なーーグァァァッ!!」ボギッ
ベイリオンは両脚を折られ、倒れこむ。
「は…や…」
「ちょこまか動かれると面倒じゃからの、少々手荒じゃが両脚を砕かせて貰ったぞ。」
「強い…貴様何者…」
「ワシか?だからワシは…
ありゃ、、言うて無かったのう?
歳はとりたくないの。
言うたことと言うてない事が混ざるわ
ワシはラビット。
…元魔王じゃったモノじゃな。
今はサタンが勤めている悪霊の長っちゅうわけじゃ」
「!も、元魔王……ッ」
(くそ、そんなのを相手に両脚を折られた状態では…)
「まあ、ここに来るのがお主だとはサタンからちゃんと聞いておる。
用意は出来ておるのじゃよ。
両脚を砕いたのは…まあこのためじゃな」
ラビットは少し歩き、指を鳴らす。
すると空間に大きな椅子が生まれる。
「その椅子…なぜ貴様がこれを…」
「龍神の民の長…。
つまり“神死龍”の継承者じゃろ。
ワシは生きてる内に「7神」と呼ばれる者たちと戦いたいと思っておってな」
7神。
それは語り継がれているこの世界を代表する7体の神のことである。
1神 オリュンポス。
神名 創世神クリエイト。
本名 不明
2神 天穹
神名 緋神
本名 ルクシア・スカーレット
3神 ティアマト
神名 神死龍
本名 バハムート・ギザーレッガ
4神 デスガイア
神名 死王
本名 リッチーロード
5神 イラー
神名 太陽化身
本名 コスモス・ヴィーナス・セレスティア
6神 デューク
神名 “D”uke'vampire
本名 デューク・ヴァンパイア・ロード
7神 ツクヨミ
神名 新月の巫女
本名 夜空
「ワシは昔、死の世界に行ったことがあってのう。
何億年も昔の話じゃが。
そこでリッチーロードとは戦っておる。
奴の全盛期にな。負けたがのう…。
オリュンポスなど会ったことがあるのは雨々くらいじゃろ。
戦ってみたいとは思っているがな。
イラーは奴が太陽に行く前にヴァンパイアと共に暮らしていたところを襲撃したことがある。
引き分けで気絶してる間に逃げられたが…
ツクヨミはここに捕まえられているからのう。
三時間ほど前に拘束されてるツクヨミをボコボコにしたわい。楽しくは無かったな。
ルクシアはサタンと戦っておるのじゃろう今。
もしサタンが負けるような事があれば戦おう。
…して後はティアマト。
お前の中に宿っているのじゃろう?」
ティアマト。
別名バハムートは、龍神の民がずっと信仰し続けてきた神龍だ。
最近、ベイリオンが体に宿した。
だがバハムートはベイリオンをまだ完全には認めておらず、「龍の椅子」と呼ばれる椅子に座り、体を預ける事でしか融合できない。
融合と言うよりかは体の主導権をバハムートに任せる、というものだ。信頼されていないのだ。
「その椅子がここにあるって事は…
貴様…我が民たちを襲ったのか…」
「まあそうなるな。安心せい、死人は出しとらん。
どうでもいい争いは嫌いなのじゃ。
さっさとバハムートに体を預けるんじゃ。
貴様に用はない」ブンッ
「ぐあぁっ!」
ベイリオンは椅子へと投げ飛ばされ、椅子の上に落下する。
「あ、足が…ぐう…」
『ベイリオン』
「!その声はティアマト…」
ティアマトの声はベイリオンにしか聞こえない。
体の中から話しかけてくるのだが、ちゃんと信頼関係の元宿した始神は自分の意思で融合も解除も会話も出来る。
だが完全にティアマトに信頼されてないベイリオンは、この龍の椅子の上じゃないと会話も融合も出来ないし、解除は完全にティアマトの気分である。
『ワシに体をさっさと渡せ…
奴は魔神・ラビットと呼ばれたクソみてぇな魔王だ
とっととワシが嚙み殺す』
「……ティアマト…無理は承知だ…
だが頼む、私にやらせてくれ」
『あ?何を言い出すかと思えば…。
最近やっと完全龍化が出来るようになった程度のお前にワシが力を明け渡すと思うか?自惚れるな』
「…ぐ…確かに…。
完全龍化とは言え大きさもたった18メートル。
150メートルあるティアマトの足元にも及ばない…
だが…だからこそこんな弱い私に力を貸して欲しい…
私は、私の民たちを傷付けられておいて引き下がれない…」
『テメぇが弱いのが悪い。
うぜえ。とっとと体を渡せ
ワシなら5分あれば食い殺せる』
「バハムート…っ!」
『…!』(ワシを名前で…)
「頼む…!恥を忍んで頼む…
龍の誇りを……あんな老王に甘く見られたまま引き下がれない!!」
『お前ら龍神の民共はワシの眠りを妨げる害悪だった』
「!…」
『毎日毎日飽きもせずワシが宿った鏡に供物を捧げて頭を下げて。
鬱陶しくておちおち寝てもおれん。
ヴァンパイアの小僧にさらわれたりもしたな。
あの時はあの状況を楽しんでいたのに助けるなんて余計な事もしやがって。
ワシはティアマトと言う名は嫌いだ。
ワシの名はバハムートだ。人間が勝手に付けた名等要るものか』
「バハムート…」
『だがな。そんなワシも偏屈では無いつもりだ。
毎日毎日アホみたいに頭をさげるお前たち龍神の民を見て…鬱陶しいうるさい以外にも感情を持つようになった
……ま、腐ってもお前たちはワシの子孫だ』
「!!!!」
『ケッ。 ワシの力使って…負けたら喰い殺すぞクソガキ』
「…ああ、バハムート!
始神融合だ!!!」
『ギャォォォォォ!!!!』
ベイリオンの体が光る!
龍の椅子は粉々に砕け散った。
「!来るか…バハムート…」ニヤ
4メートルのラビットに対し。
光の中、現れたのは…
黒い体。
1本1本が魔力を帯びた牙。
禍々しい魔力。
1仰ぎで竜巻が発生する翼。
全長152メートル。
ー神死龍・バハムート 降臨ー。
『主導権はお前にやる!
だが龍化の時は人間の言葉は話せねえ!
ラビットとは会話できないからそのつもりでいろよ』
『ああ!分かっている!』
「グォォォォ!!!」
唸る声でラビットは吹き飛ぶ。
「ぬうっ!! 咆哮だけでこの魔力…
…ゾクゾクするわい…!」
魔王vs龍王、開戦!
第7話へ続く
黒白の魔導士たち −Dear “ F ”−
こういった少年漫画の様なストーリーや言い回し、展開が好きな方は読んでくださると嬉しいです。
そうでない方も見てみてください、頑張って面白くしようと心がけています。
前々作、前作を読んでから読んで頂くと話が面白くなると思います。
前々作、前作共に星空文庫さんへ載せています。