ホラーストーリーエレベーター

エレベーター

「あーちょっとまって!!」
私は閉まりかかったエレベーターに飛び乗った。
私は有名な幽霊スポットに旅行に来ていた。
要所めぐりを終え、こわがりの夫はさきにホテルに帰った。
私もこうして後から戻ってきた。
部屋へ戻ろうとロビーを歩いていたら、このエレベーターが閉まりかかったのが見えたのだ。

この地域は有名で、怖いもの見たさに大勢の観光客が集まっている。
エレベーターにはすでに4人の先客が乗っていた。

今は真夏の8月で、皆それぞれ半袖である。
二人の男女はカップルらしく、しっかりと手を握り合っていた。
心なしか顔色が青い。どうやら幽霊スポットにビビって帰ってきたようだ。

一人は70近くのおばあさん。小さいので顔は見えないが、一人でいるところを見ると、まだまだ達者な方なのだろう。この人は幽霊を見に来たのではないかも知れない。老人会でもあるのだろうか。

最後の一人は痩せていておたくっぽい青年だ。オカルトマニアかなにかだろう。彼の背負ったリュックサックはチャックが半開きになっていて、中にUFO特集がくまれた雑誌が入っているのがのぞき見えた。

エレベーターのドアはチン、としまった。4人は静かで無表情で、私が飛び乗ってきても一切反応しなかった。迷惑そうにするわけでもなく、どうぞ、と親切に迎え入れるわけでもなく、ただ彼らはじっと階数表示を眺めているのだった。

私も彼らに見習って、無言で自分の階を押した。29階。すでに押されている階は、5階、17階、26階だ。

エレベーターは動きだした。

私はすぐに、異変に気付いた。

上昇速度が物凄く、遅いのだ。

5階につくどころか、2分過ぎても2階にも着かない。階数表示のランプは1のところに点滅したままで、動いているらしきゴオーーーという機械音だけが、静かな空間に響いていた。

カップルが、おかしいよね、と言い始めた。
「進んでないよ、故障かな?」女の子の方が、泣きそうになっていた。「ねえ、わたし、お墓から戻ってきてからずっと肩が重い気がするの。」「気のせいだよ」という男の声にも覇気がない。二人は手をより一層固く握りしめあった。「大丈夫、大丈夫」という男。しかし彼の足も小刻みに震えている。

そのとき二人の前にいたおばあちゃんがおかしな息遣いをし始めた。
すーーーひーーーすーーーひーーー
まるで酸素が薄い場所のように、苦しそうに呼吸している。私は思わず声を掛けそうになったが、なんとなくやめてしまった。おばあちゃんは顔をゆがませて、胸を抑えた。

オタク青年はいらいらし始めた。エレベーターが遅いことにも、おばあちゃんの呼吸音にも気がめいったようだった。彼はたったままで貧乏ゆすりをした。リュックの中の雑誌も揺れた。気味の悪い宇宙人の剛性イラストが、リュックの外からも丸見えになった。

階数表示はやっと2に変わった。およそ5分が経過していた。私がそろそろ緊急呼び出しボタンを押そうと思い始めたタイミングだった。なんだ、一応動いてるのね。一旦そこでほっとした。もともとこんなに遅いエレベーターなのか?もしかして観光用の演出なのか?緊急ボタンを押したら、「おそまつさまでしたー」なんていうネタばらしがあったりして・・・ね?

カップルも、少し明るい気持ちを取り戻したようだった。「ほら、大丈夫って言ったじゃん」「ほんと、よかった」「こ―いうエレベーターなんだって。肩の重いのも治っただろ?」「そうみたいね。でも、肩はもうずっと重いのよ。気のせいかなあ、それか体調が悪いのかな」

私もとてもホッとした。でもこのペースなら、階段で登った方が早いかな。しんどいけど、もう11時よ。旦那がしびれを切らして待ってるわ。そう思った私は、3階で降りるために3のボタンをプッシュした。

エレベーターの機械音はずっと鳴っていた。おばあちゃんの息遣いも治らなかった。
次の5分が経過した。階数表示は2のままで、3階に到着する様子はまったくなかった。
「ほらあーやっぱりおかしいよーー」とうとう女が泣きだした。すんっすんっとすすりあげ、人目を気にせず彼氏にしがみつきだした。男の方も青ざめて、どういうことだ、と呟いている。オタク青年のイライラはピークに達し、彼は体全体をゆすり始めた。

私は緊急ボタンを押す決心をした。悪い冗談だ。こんな風にずっと閉じ込められるなんて、なんてホテルに泊まってしまったんだろう。私は保護カバーを上げて、赤いボタンを強く推した。ビ----っという音が響き渡った。それから、警備室につながるであろう電話の音。プルルルッ プルルルップルルルップルルル・・・

ホラーストーリーエレベーター

ホラーストーリーエレベーター

私は、気味の悪いエレベーターに閉じ込められてしまった どうしよう!と不安をあおるストーリーです

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-09

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