リドルワンドロ 11/〜
11/7(遅刻) 「イメージソング」
《愛されない恋人》
時計が0時を回った頃。蒸し暑さ故か、目を覚ましてしまった。空調を入れようかと思ったが、寒がりなあの子を覚ましてしまうのも悪い。眠気がやってくるまでラジオでも聴いていよう。儂はベッドから出ると、机の前に腰を下ろした。
時代もののラジカセが、ノイズまみれの歌声を流す。しっとりとした曲だ。
『嗚呼、私は愛されない恋人 嗚呼、私は、愛されない恋人』
女性歌手の声が耳に心地良い。歌詞は後ろめたいが。
『喜びを授かれば、土に埋め。美しい花を添え、手を合わせ』
失恋か何かがテーマなのだろうか。
『暖かな太陽の光から遠ざけて』
暖かな太陽。ふと、あの人の笑顔が脳裏をよぎる。
『誰の目にも触れずに、涙を上げ続ける』
じわりと、目頭が滲むのを感じた。
『寂しさがいつからか、宿されて』
胸が痛い。苦しい。
『慈しみ生むまでは待ち続け』
駄目だ。声を上げては。
『微笑みの中には、翳りさえ無くなり』
駄目だ。嗚咽を零しては。
『見つめることとは、祈ることと悟る…嗚呼』
写真立てのセピアの中ではにかむ貴方と目が合った瞬間、熱い液体で目が潤びった。
『嗚呼、私は、愛されない恋人』
「…うぅ」
『嗚呼、私は、愛されない恋人…』
「うあぁっ」
『嗚呼、嗚呼…』
「…武雄、さん……」
「おい、どうした首藤」
突然、肩に温かいものが当たる。
「な、なんだ香子ちゃんか」儂は極力顔を見られないようにしながら、平気ぶって答える。
「…首藤?声が震えているぞ?」
「何でもない。大丈夫じゃ」
「そんなわけ無いだろっ」
ぐい、と肩に力がかかる。椅子が回り、真顔の香子ちゃんと目が合った。
「…仮にも同室の仲だ。困ったことなら聞かないこともない」
少し微笑むと、彼女はそう言った。その優しさで、また涙腺が緩む。
「…あぁ、今は香子ちゃんに甘えることにする。…儂の身の上話をしよう」
リドルワンドロ 11/〜