クウキノアナ

私は今、猛烈に暇だ。会社が休み、というのは家庭がある者にとっては幸福かもしれないが、私は結婚すらしていない。ゲームをすれば良いではないか、と考える人もいるかもしれない。だか、ゲーム機やパソコンなどは持っていない。金が無くて。
私は生活に困っている状態なのだ。
さて、かく言う私は今、屋外にいる。用事がある訳では無い。何度も言う様に、私は猛烈に暇なのだ。だから、散歩がてら歩いている。
そのとき、一人の女性が話しかけてきた。
「あの〜、すみません」
「はい?」
「『クウキノアナ』ってどこにあるか分かりますか?」
「はい?」
「『クウキノアナ』です」
「なんですか? それ」
「お店です。この辺りにあると聞いていたんですが」
「いや、知らないな」
「分かりました。有難うございます」
そう言って、女性は立ち去った。他の人に聞く様子だった。
女性がいなくなった後も、私は釈然としなかった。あの発音は間違いなく「空気の穴」だった。「食う、木の穴」はどうか、と思ったが発音的に違うだろう。万が一そうだとしても、そんな名前の店がある訳がない。
さあ、この疑問はどう解決するか。
どうせ暇だし、そこへ行ってみようか。私は思い立ったらすぐに行動するタイプだ。
だが、思い立ったは良いが、その店の場所を知らない。だから、先程の女性のように、人に聞く必要がある。私は一人の男性に話しかけた。
「あの〜、すみません」
「はい?」
「『クウキノアナ』ってどこにあるか分かりますか?」
「はい?」
「『クウキノアナ』です」
「なんですか? それ」
「お店です。この辺りにあると聞いていたんですが」
「いや、知らないな」
「分かりました。有難うございます」
そう言って私は立ち去った。

その後、何人かの情報を得て、その店に辿り着くことが出来た。
「クウキノアナ」というその店はなんとも不思議な店であったが、それ以上に不思議なことがあった。それは、最初に私に話しかけてきた女性を含め、私が話を聞いた全ての人が、その店に集まったことだ。

クウキノアナ

クウキノアナ

人の心理、世の中の風潮、不思議な店。物語が交錯する。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-08

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