→OUT
少女が歩いている。
楽しそうに。
「今日はいいお天気ね」
明るい太陽に照らされたアスファルトは、きらきらと、暖かさを空中へと運んでいる。
道行く人々はこの少女を、不思議な目で、あるいは可哀想なものを見る目で見送っている。
何故も何も。
あなたにもわかるだろう。
一人で歩く女の子が、一人でニコニコと、楽しそうに。
この世界の人間たちはとてもではないが、一人で居ては周りの目を気にしてしまうのだ。
だが、少女は違う。
独りに慣れきっているのだ。
「空は青。あら、信号機も青だわ」
楽しくて仕方がない。
大きな天を見上げて、くるくると回る。
「今日は絶対、お散歩の日って決めてたんだもの!」
近所の公園、並木道、遊歩道…。
「ぜぇんぶ大好き!」
見上げた木の上では、小鳥がさえずっている。
少女は小さな手をワンピースのポケットへ突っ込んで、袋にも積めずそのまま入れてきたパンくずを、ふわふわと空へ投げる。
一斉に飛び立つ小鳥の群れ。
木の下で眠っていたホームレスのおじさんは少し迷惑そうな顔で微笑んでいる。
「いっぱい居たのね!気づかなかったわ…。ごめんなさい、もっと持ってくればよかったわ」
ポケットも少女にぴったりの小さめサイズで、ぎゅうぎゅうに押し込んでもパンくずはそうたくさん入らなかったのだ。
「上着を着ていればもっと持ってこられたのに。何故気づかなかったのかしら」
首をかしげる少女の瞳も、悲しげに潜められた眉も、見ず知らずのおじいさんが現れたことで一変した。
そのおじいさんは、袋にいっぱいにえさを積めて現れたのだ。
「お嬢ちゃんにも半分ね」
おじいさんは優しく微笑み、袋から自分の分を取り出し、残りを袋のまま少女に手渡す。
「ありがとう!私あなたのこと好きになっちゃうわ!」
笑顔でそう言い、少女はえさを撒く。
ひらひらと。
ひらひら。と。
えさを口に運んだ小鳥たちは、次々に地に伏せてゆく…。
けれど少女は、気づかず微笑む。
「さぁ、喧嘩しないで。いっぱいあるわ!」
→OUT
見てわからない人間の本性は、
きっと奥深くでゆがみ、
そして根っこをゆがませたまま、光の中へまっすぐと伸び行くのだろう。