ティーチ

ティーチ

iBooksとKindleにて100円で販売開始致しましたティーチの前半を公開いたします。

ティーチ孤独の旅の末

ティーチ~孤独の旅の末~
第1話
0章・プロローグ
 国王の絶対的な支持と魔法の力で栄えた旧王国ホライズン。この国が滅ぶ姿を想像した者は当時1人としていなかったという。残された断片的な文献を集め、学者達はその事件の全貌を発表した。
事の発端は百と数十年前に起きた未曾有の大災害より始まる。国の半分が海に沈み、残された大地は腐臭と疫病に満ちていった。日に日に増える難民と国への不満は限界をむかえ、国王はとある決断を迫られていた。
~教育者狩り~
教育者の家系の属す者、その友好関係にある者には大災害の人為的な計画を行った疑いが有り、処罰、処刑の権利を万人に与える。
 
当時、王と支持を二分する敬意の対象とされた存在が彼ら教育者の家系の者達であった。

ホライズンにて一般に起用される魔法の類は概ね教育者なる集団から学ぶ事が常識となっていた。それというのも、魔法と各分野の学問には深い結びつきがあり、社会科学が得意なものには風を操る魔法、理化学には土の魔法という様に学問から適正をはかり、それぞれの分野の教育者から教えを請うのが当然の習慣であったからだ。

しかし、大災害によって国が力を失いつつある中、生活の安定の為、より強力な魔法を求める民が増えたことから教育者の支持はより力をつけていき、それに反比例する様にして国王の支持は日を追う毎に失われていった。そして、国と教育者の失われた力の拮抗は更なる悲劇を引き起こす。
教育者による政治の介入防止と国王の尊厳の維持・・・・・・そういった名目から国は偽りの情報をホライズン全土に報告した。これが教育者狩りの条例である。
偽りの情報は想定以上の速さで国に浸透した。災害後、実質的に支持を集めていた教育者達の状況が説得力を肥大させ、災害による不満の捌け口としての思想が情報の真否を問う思想を圧倒してしまったのだ。災厄より10年の後、教育者は国を追われ、その姿を見る事も無くなる。教育者の名を口にするものはなく、今だ教育者狩りの条例は撤廃されずにいる。それは復讐に恐怖した国民の総意でもあった。

文献を追っての歴史はここから酷く曖昧になる。しかし、私が集めた情報から推測するに恐らくホライズンの滅亡は以後数年の出来事であり、原因は以下のものと想像出来る。
原因1.災害による影響
原因2.教育者とともに魔法の力を失った事による生活苦
原因3.人を迫害した事により国民同士に起きた不信感、国政の悪化
「ふぅ・・・・・・書いていて気味のいい話ではないな。まぁ・・・・・・災害の傷も多くが癒えた今でも教育者に関するタブーはいくつも残っているんだから、ただの歴史として片付けられる事でもない・・・・・・かぁ」
男はペンを置くと自嘲気味に笑った。そして、もし教育者に生き残りがいたらと心境を考え、更に深いため息をついた。
「そりゃあ・・・・・・怨むよなぁ」
生きている・・・・・・その場合、恐らく問題は解決してはいないのだ。今となっては災害の影響もないとはいえ、差別だけは残っているのだから。
「迫害した者の恐れが新たな悲劇の扉を開いた・・・・・・か。不幸にもその被害者はどちらも彼ら教育者達だったという事だな」
 もっとも、多重の被害、迫害によって滅んだ民族やそれらの存在など今に始まった事ではない。新旧史実の中には更に凄惨な悲談も少なくは無い。男はもう一度笑みを作ろうとしたが、今度は作り笑いにもならなかった。


1章・出会い
 被災より百と数十年、春を迎えた今もまた、一切の変化を起さない荒野。その中心にある田舎町の暮らしは決して楽なものではなかった。作物は僅かしかとれず、通貨は失われた共生の世界がそこにはあった。今日、この町に密かに運びこまれた男性がいた。スラリとした長身を黒衣に包み、身の丈程の大鎌を背負ったこの男こそ教育者の家系の生存者ティーチである。

 次に彼が目覚めた時、彼のいた場所は仄暗く窓一つ無い建物の中だった。微かに香るワインの香りからして恐らく酒場の地下といった所だろう。そこまでの考察をすると同時に立てかけてある自分の鎌に手を伸ばした。その時―
「そんな物騒なもんで何をする気だい?」
方言なのか滑舌なのかやや風変わりなイントネーションの声へと振り向くとそこには15、16歳だろう幼さを残した顔立ちの男子が大ダルに腰を掛けていた。少年は活発な印象を与える逆立った髪と、その風貌からは不釣合いな大人びた青い宝石の入ったピアスを右耳につけられていた。少年は言葉を続けた。

「オイラの名前はパウロ。慌てなくてもアンタの事を知っているのはこの町じゃああんたを運んだ酒場の主人と町長だけだ。それより、アンタ、その右腕の紋って教印か?」
パウロの声はどこか喧嘩腰で言葉一つとっても尋常でない警戒心が伝わってくる。しかし、不思議と敵意は感じない。
「……そうだ。この紋は教育者狩りから逃れる為に代々受け継がれてきた紋。忌み嫌われる家系の証明だ」
少し考えてからティーチは正直に答えた。この教印こそ非難をうけた教育者達の生存を賭けた切り札であった。
「じゃ……じゃあアンタが【十字架の死神】なのか?」
 パウロは怖る怖る聞いたが、ティーチはきっぱりと首を横に振った。

「な、ならいいんだ。この辺りじゃ今、教育者の呪いの噂があってみんな敏感になってんだ。なんでも十字架の死神とか呼ばれてるソイツに関わった奴はみんな背中に十字の傷を負って殺されているそうだ。その時に生き残った奴も、十字の傷は交差部位の縫合が出来ずに、背中から腐って死ぬ。しかも、背後から襲われて正体も不明。呪いの噂もあって死神の正体は教育者の家系の者じゃないかって話しをどこへ行っても聞くよ。まぁ……」
 パウロはそういってチラリとティーチを見て悪戯っぽく笑った。
「その大きな鎌をみていると死神ってのはアンタのがお似合いかもしんないけどな」
 不安の解けた途端に元気が出てきたパウロは冗談をまじえる。それを機に今度はティーチがパウロに聞いた。
「教育者の家系であることは同じだ。お前は……俺を恐れないのか?」
それを聞くと、よくぞ!とばかりに立ち上がり、パウロは元気に、そして誇らしげに答えた。

「町長が言ったんだ。先代の罪で人を裁くのは変だってさ。それは教育者だって変わんないよ。オイラは町長に拾われたから今生きてられる。だから町長の言う事は何でも信じてるし、尊敬してるんだ」
 それを機にパウロの誇らしげな町長の話は次々に続き、それは夜遅くにまでおよんだが、ティーチはその無邪気な語りを最後まで聞いていた。
2章・山賊退治
 時計の針が十一時をまわった頃、話し疲れたパウロは樽を背もたれにした姿勢のまま寝いってしまった。そんなパウロにティーチは恐らく自分の為に用意されたのであろう一枚の毛布をかけてやった。丁度その時、地下の入り口から年老いた男と丸太の様に太い腕をした大柄な男が入ってきた。
「お初にお目にかかります。私はこの町をまとめているシルヴァと申します。こちらは酒場の主人をしている……」
「……ゴンスだ」
 小太りな男に急かされる様にして大柄な男が答える。
「おや?パウロは眠ってしまいましたか・・・・・・どうやらあなたの事を信用しきっている様ですな」
 シルヴァは礼儀正しく頭を下げた後、この顔を見ればあなたの事も信頼できるように思えるとパウロの寝顔を見ながら微笑んだ。
「・・・・・・ティーチだ。倒れているところを助けて頂いた事には感謝している。だが、これ以上俺がここに残れば貴方がたの立場も危なくなる。早朝には町を抜けさせていただく」
ティーチは教育者であり、迫害対象である自分を匿う危険を嫌と言う程知っていただから、それだけを告げると荷造りを始めた。しかし、その手を町長が止める。
「貴方はこれからも旅を続けるつもりですか?パウロの事もありますし、私は貴方を町のみんなに紹介したいと思っているのです。一つ、私の案に乗ってはいただけませんか?」
 ティーチは暫くの沈黙の後、パウロの顔を見て暫く考えるとシルヴァに言った。
「話しを聞こう」

 翌朝、シルヴァの案を受け入れたティーチは町の北にある廃村を目指していた。彼の話しはこうだった。今尚、差別として教育者への不信の目はあるが、この様な小さな町ならば町長の力添えと何らかの実績があれば町民に受け入れられる事は十分に可能だというのだ。そして現在、町は山賊の被害にさらされていた。ただでさえ実りの少ないこの町にとってこの被害は致命の問題といえるのだが、小さい町だけに力による対抗には勝算も無く、近隣の大国への要請もたかだか山賊の為に兵士を派遣する事は出来ないと拒否され、まさに八方塞りといってよい状況にあった。初めは拒もうとしたティーチだったが、今まで国を転々としてきたティーチには自ら手を差し伸べてくれた町に恩義を感じていた事、そして今向かっている廃村を根城とする山賊が自身に対等に話しかけてくれた数少ない好感の持てる人物、パウロの両親の仇と知り、重い腰を上げたのだった。
 廃村に侵入したティーチは物陰に潜みながら敵の戦力を把握した。人数は5人と少なく、武器を持っている様子はない。加えてリーダーと思われる人物が見当たらない事を確認するとティーチは敵地に飛び込んだ。

不意打ちで2人を倒し大鎌を構える。大鎌の巨大な刃がみるみる赤く染まり5人の山賊が息絶えていく……それはまさに一瞬といっていいほどに短時間の出来事であった。しかし次の瞬間、銃声が鳴り響く。咄嗟に体を傾けた事で頬へのかすり傷ですんだティーチが振り返ると十人の山賊と銃を持った親玉と思われる男が彼をとり囲んでいた。

「クク…驚いたか?今ではこうも手入れのされた銃はそうそうお目にできないからな。ま、お披露目はここまでだ。お前に使う弾はもうないぜ」

 鈍く輝く銃をなでながら山賊の親玉と思われる男はニタリ笑った。悪趣味に輝く服を着、左耳にはどこかで見覚えのある赤い宝石の入ったピアスをしている。小柄な男だが、先程の狙撃を見るに銃の扱いには手慣れている。彼が手を挙げると待っていたと言わんばかりにティーチを囲んでいた10人の山賊が刃物を手に襲いかかってきた。

ティーチはこれを前方に転がる事で意表をついて避けると、目の前にいた山賊の顔を殴り気絶させた。彼は気絶させた山賊の刃物を奪うと対角線にいた山賊の脚の腱を狙って投げた。足の腱に深々と刺さる刃物に山賊はもんどりうって倒れる。そして声にならない苦痛の表情を浮かべ嗚咽を漏らした。これをきっかけに数に優れる山賊の余裕は消えうせる。倒れてもがく仲間の姿とティーチの血塗られた大鎌に畏怖の念を抱きはじめた山賊は逃げる事も戦う事も忘れ、その場に呆然と立ち尽くしていた。しかし今だ8人の部下を残す親玉はその畏怖を感じる事もなく、部下達に激を飛ばした。
「てめぇら何してやがる?俺の的になりたいのか?」
山賊の親玉の言葉で山賊達は震えながらもティーチに戦意を向けた。
「く……くそぉぉ!」
自らを奮い立たせる様に大声をあげ、4人の山賊が同時にティーチを襲う。それに便乗し、二人の山賊が背後からも奇襲をかけた。しかし、ティーチはまるで背中にも目があるかの様に背後からの攻撃を避ける。すると的を失った山賊は仲間同士でぶつかり一瞬の隙が生じた。ティーチはすかさずこの6人の山賊達を大鎌でなぎ払った。その大量の血によって廃村の荒れ果てた地は赤く染まり、こうして出来た恐ろしい光景にいよいよ腰が抜けた残りの山賊はティーチに背を向けてその場から逃げだしていくが、親玉はこれを止める事が出来なかった。一瞬だが、自分たちに勝機がない事を感じてしまった彼は部下を留める力さえも失ったのだ。しかし、部下が家の角を曲がった所で彼らの悲鳴と鈍器の音、そして人の倒れる音が響いた。

恐らく山賊の物であろう血のついた木の棒を持って現れたのは町で出会った少年、パウロだった。
「分かるよ……お前が……オイラの仇だ」
パウロは瞳を涙に滲ませ、震えながらも毅然とした声で言った。無理もないだろう。まだ少年である彼にとって人と戦う事も、聞かされた真実もその全てが酷なものである。だが、戦いは終わってはいなかった。まだ、山賊には親玉が無傷のままで残っているのだ。親玉は考えていた。この場をどうすれば逃げきる事ができるのか・・・・・・残された武器は2つの弾が入った拳銃のみである。彼にとってパウロの出現でティーチの注意がそれている今は唯一無二のチャンスと見えた。

意を決してティーチに向けて玉を放つ。しかし、ティーチはこれを簡単に避けてしまう。
「そ……そんな馬鹿な……」
タイミング、距離、常人の反射速度の間に合う弾ではなかった。

「糞が!」
 咄嗟に親玉は狙いをパウロに変え、最後の銃弾を発射した。ティーチに勝てないと悟った親玉はパウロを傷つけた隙に逃げる事を考えたのだ。パウロの頭部にめがけて凶弾が迫る。震えるパウロはなす術も無くただただ瞳を大きく見開き、自らに迫る弾を見つめて立ち尽くした。親玉は少年の死を確信し、ティーチの出方を探ろうと向きを変える。しかし、

そこにはすでにティーチの姿はなかった。ティーチは銃弾がパウロに向けられるより早く彼に駆け寄り、銃弾がその頭を貫く寸前の所で体を自分に引き寄せた。銃弾はパウロを避け廃村の看板に当たり、看板を空しくキィキィと揺らしただけだった。パウロを助けたティーチが親玉を睨む。
「何故だ?何故お前がそこにいるんだ!!」
明らかに間に合わないはずだった。ティーチの距離から考えても、パウロに向けられた銃口をみて助けるのは不可能な距離があった。しかし、彼には分っていたのだ。親玉の思考が……次の動作が予測出来ていたのだ。そして、ティーチは言った。
「教印……この紋は王国時代の教育者が考案した異能を人に与える紋。俺の家系が願った事は決して争い、復讐の為の力ではない。欲っしたのは迫害され続けた生活で失った人を信頼する自信、その為に得た読心【リーディング】の力だ。撃つ場所が分かれば周り込む事など容易い」
ティーチは続けた。
「お前の銃とピアス……10年前にこの村を襲った時の物だな?パウロ……こいつがお前の本物のカタキだ……どうする?」
ティーチはパウロを試すようにそう言うと彼の顔を眺めた。パウロは親玉を睨む。完全に戦意を折られた親玉は少年にさえ脅え、声の一つもでない様子だった。

「オイラもうわかんないよ。だってこいつらは許せない!だけど・・・・・・さっきはじめて人を殴った。全然いいもんじゃなかった。こんな奴の為にもう……嫌な気持ちになんかなりたくも……ないよ……」
パウロはそういうとまた、潤んだ目を強く擦った。
「いい答えだ」
ティーチは短く、それでいて優しくそう言うとパウロの頭をなぜて後は任せろと小さく呟いた。そして親玉に向けて言った。

「お前はあの時、手に入れたその銃の力で周りを黙らせただけ・・・・・・その銃とピアスをパウロに返せ。そして……二度と顔を見せるな!」
ティーチが威圧的にそう言い放つと親玉は言われたとおり、その場に銃とピアスを投げ置き、情けない悲鳴をあげながら逃げて行った。

「もうあいつに悪事を行う余裕は残っていないだろう……お前がいつまでも心を痛める必要はない」
そう言いながらもティーチは目前に迫るパウロの本当の苦悩を見据え、必死に涙を堪えるパウロを見守っていた。
3章・感謝祭
町はいつになく賑わっていた。すでにティーチ達が山賊を退治したという噂が広がり、町長を中心に祭りの準備が始められていたのだ。
「遅いなぁ……グリーンさん。本当に彼らはあの山賊達を懲らしめてくれたのかい?」

グリーンと呼ばれた女性が答える。
「間違いないわ。彼とはちょっとした顔見知りなの……あの程度では怪我ひとつする様な男じゃないわよ。パウロ君も必ず無事に帰ってくるから心配せずに待ちましょう」
そういうと大きな伸びをしながら北の方角を眺めた。長く美しい金色の髪と明るい性格。グリーンはとても華奢な姿をしていたが、素性を知る人間からはSS【サイレント・ストーカー】の名で恐れられる暗殺、尾行の達人であるというもう一つの顔があった。

そんな姿を一切匂わせず住民にすっかり溶け込んだグリーンもまたティーチ達の帰りを待っていた。

ティーチ

ティーチの物語は全8話と外伝まで構想の他に主題歌やLINEスタンプ、漫画化、ゲーム化にも展開予定です。関心を持っていただけましたら幸いでございます。

ティーチ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-04

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