西堂館廃墟化捜索計画

西堂館廃墟化捜索計画

0.プロローグ

「いつだっけ。」
「10月12日。」
「おい、マジで行くのかよ。」
「行くに決まってんだろ。」
一枚の地図を眺めながら一人、〔宗太〕が呟いた。確かに、普通は行かないな。
「死んだやつ何人もいんだぞ、それでもお前…」
「行けばわかる。そんなの嘘だし、そん中に奴がいんのは事実だから。」
信じられねぇ、何で行くんだなどとぶつぶつ言いながら、宗太はやっと一つだけ意見を出した。
「なぁ、死んでるってのがデマなら、奴がいるってのもデマじゃあないのか?」
そうかも。と思ってしまった。
が、ここで引き下がんのもどうかと思った。
「だから、俺らが証明しに行くんだろ。」
「・・・なるほどなぁ」
ここは宗太の家。
ここで宗太と一緒に、ある計画を練っていた。
けど、それはまだ素人の意見であり、何の役にも立たずに・・・


『10月12日。』
「はぁ・・・はぁ・・・!おい、宗太、どこにいんだ?」
(見ツカル、殺サレルゾ)
「どこか、隠れる場所とか・・・!」
(逃ゲテ、早ク外二出ナイト)
「ったく!出口どこなんだよ!」
(モウ近ク二イル)
「あ・・・足音?」
(ソレヨリモ近ク・・・)
「・・・?」
(スグ・・・後ロニ・・・)
「っ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
(消エタ。何モカモ。)

1.軽はずみ

チャイムが鳴った。
今日も学校が終わった。
いつもどおりだった。
でも今考えてみると、この日は・・・
普通じゃなかった。

俺は〔島田 健二〕、中学一年生だ。
趣味とかは無く、友達は・・・
「おぉす!早く帰ろぜ!」
この陽気な声で話しかけてきたのは、俺の友達(多分)の、〔宮木 宗太〕だ。
今は、夏休みも終わり、2学期に突入している。
もう暑いという陽気もなくなりかけ、体育着では寒いぐらいだ。
そろそろ2学期初めの中間テストがある。
細かい勉強の計画や、部活との両立面も考えていかなくてはならない時期だ。
だが俺と宗太は、そんなことよりも深刻であり且つ重大である計画を立てていた。


『ピーンポーン』
〔宮木〕と書いてある表札の隣にあるインターホンを押し、チャイムの音が家の中に響いたと思ったとき、ちょうど宗太がドアを開けた。
「なんだ、ちょっと早かったじゃンか。部屋、散らかってる。」
「いいよ、全然。」
どうぞ入ってと言われ、それにあわせてお邪魔しますと家の中に入っていった。
宗太の部屋は、あまり広くなく、ところどころに学校のプリントが散らばっている。
初めてこの家に入った時もそうだったが、その時俺は
(これで散らかってるだ?よく言うわ。)
と思ってしまった。
島田家の常識を覆す光景だった。
というか、常識に遅れていたのは島田家だったようだ。
「飲み物、持ってくんね。ちょっとまってて。」
そう言って、部屋から出て行った。
机の上には、『「西堂館廃墟化にあたり捜索の予定」』と書かれている2,3枚の紙が置いてある。
今回の案件はこれだ。
テストと部活の両立より大事とは言ったが、この案件は、軽い思い付きで始めたものだ。
たまたま自転車で20程度の『美土里町』近くのところに、俺の住んでいる地域では珍しい『廃墟』があったのだ。
珍しかったのもあり、周りにはビルのような都会の風景も見えなく、パッと見田舎と思えるほど自然に囲まれていた。
そしてそこに、入ってみようというのだ。
(廃墟言うと化けモンみたいなの出てくるし、なんか暗そうで危ないとか母さんに言われそうだな。)
そんなことを長々と考えていたら、宗太が部屋にコップをトレーに二つ乗せ、戻ってきた。
「わりぃ、遅くなった。お茶でいい?」
「うん、いいよ。」
そして二人座ったところで、専門家みたいに宗太が話し始めた。
「でさ、西堂館の件なんだけどさ、どうすンの?時間とか、持ち物とか。」
「どうしよう、やっぱり夜かなぁ。」
「夜…ねぇ。」
「しょうがないだろ、お化けは夜出んだから。」
そして、宗太はニヤリとしまた話し始めた。
「そうかもな、じゃあ9時か。」
「帰るまでの時間も考えろ。」
「そうだな、じゃあ・・・」
そうしているうちに、大まかなことは決まっていったが、唯一考えていないことがあった。
死んだらどうするか。
もちろん二人ともそんなこと考えていない。
計画や注意の欄のどこにも書いていない。
油断していた。
軽はずみな挑戦ばかりに。

2.行方不明

話し合いから少し経った日のことだった。
二人で意見を出し合い決めた予定の割には何か納得いかない、というような考えを持ち、モヤモヤしていた俺たちに、非常の事態が起こった。
いつもどおり学校に登校し、朝の掃除をし、1時間目を始めようとしたとき、先生が
「あれ?そういえば今日は勇太が休みだな。」といった。
〔清水 勇太〕。
これも俺の友達である。
普段はあまり会話しないのだが、班や係で同じになることが多々ある。
そんな勇太が、今日は学校を休んでいた。
でも、休みなんて、しょっちゅうあることだから、みんな「ふーん」で終わりにしてしまう。
その人の知名度や人気度は別として。
でも、この日はおかしかった。
いつもの空気ではない。
そんなとき、放送が入った。
[今日休みの、1-2の清水勇太君ですが、美土里町の廃墟と呼ばれる建物に行ったらしく、その後、行方が分かっていないそうで、建物の中にも入れないそうです。今、警察も手配し、捜索中なので、この件についてはもうしばらく待ってください。]
「は?」
思わず声が出た時には、やはり宗太も同じ気持ちだったのか、「え?」と言っていた。
『行方不明』、『廃墟』、『建物の中に入れない』。
この三つから、少なくとも一つはその後が想像できた。
瞬間にして恐怖が体中を駆け巡った。
でも同時に、頭の隅に、こんな考えも浮かんだ。
(だからこそ行ってやるんじゃねぇか・・・!)
多分ではあるが、宗太も、同じ考えだったろう。

帰りの会が終わった後、すぐに宗太が寄ってきた。
「どうすんだ、アレ、ヤベェぞ。」
「そうだよ、やべぇよ。だから行くんだろ。」
「だから行くって、お前・・・」
「そうだろ、行方不明があったから、行くんだ。」
そして、宗太はしばらくの間考えるように黙ってから
「ほんとに化けモンで死んだのかね・・・。」
「そうだろ。」
そして、とうとう宗太が言った。
想像もしていなかった非現実的な結末を。
「死んだらどうすんだ?」
「死んっ・・・!?」
「そうだよ。死んだら。化けモンだろ?アブないじゃん。」
それから黙ってしまった。
今までの勢いがどこへ行ってしまったのか。
勇太はどこに行った。

次の日、朝の会は急遽体育館で行うことになり、1年の先生全員と、校長先生が集まった。
もう、考えるまでもなかった。

勇太が死んでいた。

やっと建物に入れたと思ったら入り口付近で血を流し倒れているのが見つかったらしい。
だがこの事件を目の当たりにしても、俺たちの決意は変わらなかった。
行かないなんて選択肢はない。
でも、決意と恐怖は、未だ高まるばかりだった。
(死ヌノカ、俺タチ、死ヌノカ。
ソレモワカンナイ、コレ、行方不明ナノカ?)

3.覚悟

宮木家。
「いつだっけ。」
「10月12日。」
「おい、マジで行くのかよ。」
「行くに決まってんだろ。」
一枚の地図を眺めながら宗太が呟いた。確かに、普通は行かないな。
「死んだやつ何人もいんだぞ、それでもお前…」
「行けばわかる。そんなの嘘だし、そん中に奴がいんのは事実だから。」
信じられねぇ、何で行くんだなどとぶつぶつ言いながら、宗太はやっと一つだけ意見を出した。
「なぁ、死んでるってのがデマなら、奴がいるってのもデマじゃあないのか?」
そうかも。と思ってしまった。
が、ここで引き下がんのもどうかと思った。
「だから、俺らが証明しに行くんだろ。」
「・・・なるほどなぁ」
ここは宗太の家。
ここで宗太と一緒に、あの計画を練っていた。
すべてが謎に包まれたあの廃墟へと足を踏み入れる。
その第一歩を踏み出していたのだ。
そして今日は『10月の11日』。
そう、明日である。
どんなに恐怖があったって、どんなに覚悟があったって、明日はやってくる。
容赦の一つもなく――――
「じゃあさ健二、廃墟の中で化け物に会ったとする。どうする?」
今度は真剣な顔で質問を仕掛けた。
「どうするって・・・逃げるじゃあダメか?」
「ダメなんてない、逃げるんならそれでいい。」
「そうかよ。」
「・・・」
そのとき、5時のチャイムが鳴った。
二人が住んでる町では、季節によって、チャイムが鳴る時間が変わる。
春と夏だと6時に。
秋から冬にかけては、5時になる。
それぞれ日の長さによって、時間を変えているということだ。
そこら辺の家族は、このチャイムで家に帰るよう指導することが多い。
島田家も、その一つだ。
「んじゃ、オレ、そろそろ帰る。」
「お、おう。じゃ、明日な。」
「物とか・・・その、忘れんなよ。」
「うん。」
そんじゃ。と言って家を出た。
もう暗い空をぼーっと見ながら、ぶらぶらと歩いていた。
(勇太・・・)
帰る途中でそんなことを何度も考えてしまった。
あんなことがあった直後だ、それもそのはずだろう。
家に帰ると、母がいなく、置手紙があった。
『仕事が長引き、6時までになりました。夕飯は帰ってから作るから、待っててね』
わざわざ置手紙までするのだが、こんなことはしょっちゅうあり、父も帰りが遅いので、一人には慣れている。
次の日の準備をしている途中、電話が鳴った。
番号を見ると・・・
(勇・・・太?)
なぜか清水の家から電話がかかってきた。
親が何か話を持ち掛けてきたか。と思い、出てみた。
「はい、島田です。」
{あ、もしもし、健二?}
(!?)
その声は紛れもない。
勇太の声だった。
「え・・・?勇太か?」
{健二、死ぬぞ。}
「・・・は?」
『プツッ』
「・・・?」
そのまま電話は切れてしまった。
(死ぬ?何のことだ??)
「っっ!?」
頭の中に、一つだけ、あれが過った。
『西堂館。』
勇太の事件もあり、電話での忠告もあった。
これは、相当の覚悟が必要になるか。
そして、母が帰宅した。
「あら、やっぱり帰ってたのね。お帰り!明日は、予定、あるの?」
「・・・」
黙ってしまった。
なんだろう、すごい意味に残る。
『死ぬ』って言葉が。
「あるよ、ちょっと、宮木君と出かけてくる。」
「そうなの、昼、そっちで食べる?なら、お金、渡すけど。」
「あの・・・夜、なんだ。それ。」
「夜?遅くまではいないでね。お金はいらない?」
「うん、大丈夫。」
「あ、そう。じゃ、夕飯作るわね。」
そして夜は、ちゃんと寝れなかった。
理由は、言うまでもない、気になって仕方がないのだ。
相当な覚悟がいる、けど、行くのをやめない。
なんなんだよ、これ。


寝れない自分と闘いながら、やっとのこと夜が明け、『10月の12日』が来た。
午前中と昼間は、のんびりとしたかったところだが、学生としての義務を果たさなければならない。
塾の補修があり、それに4時間も持っていかれた。
弁当まで持たされて。
そして帰ってきて、準備の確認をし、身支度と夕飯を済ませた。
もちろんこの時も、冷静且つ落ち着いてはいられなかった。
そして、予定表に書かれている、8:30の文字をもとに、8時に家を出た。
自転車のカギをさし、漕ぎ始める。
スピードは出ているが、足が震える。
そして、待ち合わせのコンビニに、目を通した。
そこにもう宗太はいた。
健二がそこについたことに気付いた宗太は、近くに来てから、普段は聞いたこともないような、震えた声でこう言った。
「おぉ、来たか。まずあれだ、気をつけろよ、でないと・・」
「?」
「死ぬぞ。」
秋の夜。
この日はいつも以上に、寒い気がする。

4.どこだ

「よしっ、行くか。」
「おう。」
そういって、自転車をこぎ始めた。
そして、20分もかけずに、西堂館に着いてしまった。
そびえたつぼろぼろの廃墟が、いつも以上に謎めき、そして恐怖を感じる。
自転車を建物の横に置き、いざ、入口へと向かった。
「懐中電灯。」
「ん。」
宗太がバッグから懐中電灯を出す。
普通のよりも一段階大きいもので、まだ光るようだ。
「ありがとう。」
「おう、行くぞ。」
夜だし、周りには、誰もいない。
何の動物の鳴き声も聞こえない。
もちろん人の声も。
そして健二は、ドアノブへと手を伸ばす。
鉄のもので、かなりさびている。
細かいところがボロボロでも、建物自体はしっかりしていた。
(これで廃墟っていう扱いになんのか。厳しいな。)
そう考えながら、ノブを掴み、開いた。
ギィィィィ…、と古い建物の音がする、そのまま、古いのだけれど。
中はもちろん真っ暗だった。
すぐに懐中電灯をつける。
目の前には階段があった。
二階へと続き、その二階は、暗くて、懐中電灯を使ってでも見えない程遠かった。
とりあえずその辺を見渡し、建物の大まかな構造を想像する。
そのときだった。
『ギィッ、バタン!』
「はっ!?」
すぐ後ろを見る。
ドアが閉まったのだった。
「ちっ、ビビらしてくれるじゃんか。」
宗太はニヤッとしながら言った。
まだまだ始まったばかりだ。
これから、いろいろと探していかなくては。
そう思い、まずは一階から探索をすることにした。
右と左、対照的にあるドアの、どちらから行こうか迷っていたら、さっと宗太が右のドアに向かって歩き出した。
「そっち、行くのか。」
「どっち行ったって、同じ。」
「どういう意味だよ。」
「結局いろいろ調べなきゃなんねぇんだ、どっから行ったって。」
「そうかよ。」
そして、ドアを開けた。
特にカギがかかっているとか、そういうのはない。
すんなりと開く。
ドアの先は、食堂のようだった。
10個ほどテーブルがあり、それに合わせた数のいすが置いてある。
特にこれといった廃墟といえるものは、見当たらなかった。
「なるほどな、ここは食堂で、こっちが調理室・・・」
と言いながら宗太は、食堂の奥、すなわち調理室に向かて勝手に歩き始めた。
「おい、待てよ、誰かいたらどうすんだよ。」
「いねぇだろ、こんな廃墟。万が一取材班だったとしても、カメラマンのフラッシュでわかるわ、声もしない、音もしない、誰もいねぇよ。」
「それだって・・・」
「いいから、行こぜ。」
「・・・うん。」
自分たちの足音だけした聞こえない、確かに。
そして調理室も同様に、ドアに鍵はかかっていなかった。
「お、開いたぞ、健二、ここ、調理室らしい。」
「知ってる。」
「ん?包丁が出しっぱなし・・・」
『パリン。』
「なっ!?」
「おい、健二、脅かすなよ。」
「なんもしてねぇぞ。」
「皿、割れたぞ。ぶつかって落としたんじゃねぇのか?」
「いや、オレ、ぶつかってなんか・・・」
確かに音はした!
でも、近くじゃない、少し遠く、そう。
(食堂!?)
「健二!なんだよこれ!!」
「知らねぇって!」
「食堂、行ってみようぜ!」
宗太は走り始めた。
おそらく、頭に一つ浮かんだんだろう。
(逃ゲヨウ、外二出ヨウ)
「待て、宗太!」
「は?」
「今の音、多分、食堂からじゃ・・・」
「でもここ、行き止まりじゃんか!」
「・・・そうだけどっ!」
けどおかしい。
足音はないのだ。
というかさっき、食堂に皿なんてあったか?
(何カガイルヨ)
「っ・・・!そうだっ、包丁っ!」
そういって宗太は包丁を手に、走り始めた。
「まだ入って10分もたってねぇぞ!こんなんで死んでたまるかよ!!」
食堂に向かって。
「ついてこいよ、健二!お前も、そうだろ!?」
「・・・!」
きずいたら走ってた。
『バゴン!』
ドアを開け、食堂に戻ってきた。
「ど・・・どこにいる!?」
震えた声で、宗太がそう言う。
「こっ・・・答えろ、さっさと出てこい!」
あたりはシーンとしている。
「とりあえずはダイジョブだな、いったん、出口に行ってみよう。」
「お、うん。」
そしてまた、出口に向かって歩き出した。
出口の大きなドア。
ガチャガチャと引っ張り、押し、開いたりした。
「開かねぇ。」
「なんだこれ、まさか!」
「閉じ込められた。」
「こうなっちまったら逃げるよりも、てががり見つけて脱出すんのが先だな。宗太、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。」
俺たちが練った計画。
敵を見つけたら、まず逃げろ、全ては、それからだ。と。
だがこれはまだ素人の意見であり、何の役にも立たずに・・・
「こうなったら、あえて見つかったほうが楽かもな。」
「バカ、おれ、走れねぇよ。」
「奴のスピードによる。」
『ドスン、ドスン、ドスン。』
「おい、足音か?」
「いや、聞こえねぇぞ、そんなの。」
『ドスン、ドスン、ドスンドスン』
「聞こえるじゃんか、ほら。」
「マジだ、こんどこそ・・・か?」
『ドスドスドスドス。』
(死ヌカモヨ)
ギィィィィ・・・
「っ!」
左側のドアが、今、開いた。

5.近い

「なにか・・・出てくる?」
ギィィィィ・・・・
そして、開いたドアから、俺たちが今まで心の中に持っていた希望というものを失いぐらいのものが、目に飛び込んできた。

「うわぁぁぁぁぁっっ!!」
「宗太、逃げっぞ!」
「ったりめぇ!それ以外に何がある!」
すぐに走り出す。
「うしろ、追っかけて来てっか?」
「バカ、そんなン見れるかよ!」
でも、確かにわかる。
奴の、足音が。
ダッ、ダッ、ダッ。
明らかにいる。
すぐ後ろに。すぐそこに。
(本気デ走レ、デナイト死ヌ)
「ッハァ、ハァ、疲れた・・・宗太っ・・・?」
居ない。
宗太がいなくなったのだ。
そしてあの化け物も。
またあの、入った時のように。
「おい、いるんだろ、宗太、宗太!」
『バンッ、バンバンバンバババババ・・・』
左側のドアが、少しずつしまっていく。
(あそこか!)
すぐに走り出す。
どこにいる、宗太、あいつ、まさか化け物の・・・
ギィ…
「おい、宗太、いんのか?」
・・・
返事はない。
もちろん、宗太の影一つ見当たらない。
さっきまで、一緒に走っていたはずなのに。
「ったく、どこにいっ・・・」
『ガランゴロン』
「宗太!?」
音のするほうへ走り出した。
下手したら奴かもしれない、そんな考えなど、頭の隅にも無く。
「そっ・・・宗太!!」
そこには宗太がいた。
倒れて、震えながらこっちを見ている。
「バッ・・・化け物はどこに!?」
「あいつ、いなくなったんだよ。」
この顔を見ると、冷静さを失っている。
何があったかは知らないが。
「なにがあった、宗太、説明してくれ。」
「奴は!どこだ!ここに来る前に見えなかったか?」
「いなかったよ。」
「今はっ!細かいことなんて話してる暇ない!逃げよう!出口を見つけて・・・」
「わかった、とりあえずそうしよう。どっか隠れる場所を見つけなくちゃ。」
「なんなんだよ、さっきの、すげぇ顔してて、足はぇぇの。」
「だな。」
けど、健二の眼には、今の言葉とは明らかに反対のものが見えた。
「でも、さ、宗太。」
「?なんだよ。」
「あいつ、足、無かったぞ。」
「!!・・・あ、足が?」
「うん、無かったぞって・・・」
「どうやって走ってんだよ。」
「何でここにいんだろな。」
『ドンドンドンドン!』
「っ!」
「来たか!」
入り口から入ってすぐの、ホールから、こちらの部屋に向かってノックの音。
確実に奴だ。
「どうする、いずれドア、開けられんぞ。」
「だな、けど・・・」
「どっかにほかの通り道、無いか?」
「どこだろう。」
「もう無理だよ、どこにもない、出口が。終わりだ。」
この部屋は、なんて言ったらいいんだろう。
職場――――――――――
そんな感じがする。
仕事机が一つと・・・本棚がある。
この建物は会社だったのかもしれない。
懐中電灯をそちらにまともに向けている暇はない、非常事態だから。
「じゃあ!そこの机の下に!」
思い切って言ってみた。
「なっ、机の下!?見つかるよ!健二!!」
「ダイジョブだ、息殺して、音立てなければ!」
「そういう問題じゃ・・」
「今は考えてる暇ねぇって!!」
「・・・」
『ダンダンダン!!』
ノックの音は大きくなっていく。そろそろだ。
「大丈夫か?健二。」
「ああ、音、ぜってーたてんなよ。」
「おう。」
『ダダダダダダダ!!』
「・・・・っ!」
『ダダダンダダダン』
(頼む!)
『ダァァァン!!』
開いた、壊れた。
とうとう来た。
このまま見つかれば、なんて言うか・・・
死ぬ確率は大だ。
(きづかないでくれっ!)
『・・・・・』
この時間は、今までの怖かった経験を吹き飛ばすほどの恐怖だった。
けど、奴の足音は、さっきはあったはずだ。
なら、今はなぜ?
宗太が動いた。
そのとき。
そのときだった。
『ピリリリリリリリリリリリリリリリ』
「っっ!!!?」
宗太の携帯の、着信音だった。
母が宗太の帰りが遅いので、心配で電話を掛けたのだ。
『リリリリリリリリリリリリリリリ』
(早くッ、止めろ!!)
そう願っても無駄だ。
奴の耳には、その音が鳴ってる場所、音量、近くのもの、いる名が人間かどうかなどの音が入り、確実にこちらに向かってくるだろう。
(死ヌ!コノママジャ、見ツカッチャウヨ)
願ったって。
どんなに祈ったって。
このことはしょうがない。
逃げるなんて、不可能・・・か?
どうなんだ?
死なないで済む方法は…無いのか?
何も残せなかった!
何の成果もなかった!
(クッソォォォォォォ!!!)
ギィ…
机の・・・。
椅子が動いた。

西堂館廃墟化捜索計画

西堂館廃墟化捜索計画

この作品は、少しホラーな作品になってます。 化け物から宗太と健二は逃げ切ることができるのか!?

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 0.プロローグ
  2. 1.軽はずみ
  3. 2.行方不明
  4. 3.覚悟
  5. 4.どこだ
  6. 5.近い