手紙憑依

「あなたがこの手紙を読んでいる頃、私はもうこの世にいないでしょう。この手紙は、私の遺書です。気持ち悪いとお思いになるかと存じますが、是非とも最後までお読みください。」

妙な書き出しで始まった手紙を、読んでいた。
これは数日前、家のポストに入れられていたものだ。

「まず、あなたは誰なのか、どこに住んでいるのか分かりません。と、いうのも、この手紙は、私が死んだ後で、誰か適当な家のポストに投函してくれと、知り合いに頼んだものだからです。」

奇妙すぎて警察に届けたほうがいいのかとも思ったが、続きを読んでからでも遅くはないだろう。
狭くてボロボロのアパートで、ひっそりとそれを読みふける。

「この手紙を書こうと思ったのは、先日わたしは自分の身に危険を感じたからです。以前にお付き合いをさせて頂いていた方に、ストーカー紛いのことをされているのです。何度も何度も一緒に死のうと脅されました。もちろん警察にも届け出ましたが、耳を貸してくれませんでした。」

なるほどな、手遅れになる前に遺書を残そうってことか。
しかし、この手紙を読んでいる頃、この筆者は死んでいるならば、既に手遅れってことだ。

「家族ですら真剣に話を聞いてはくれませんでした。もはや、私に味方はいないのだと思い知らされました。もう限界です。」

随分と可哀相な人だな。
身内にすら相手にされないとは、自分も一人暮らしだから、心細さは共感できなくもないがね。

「いつ殺されるのか、その恐怖に怯えて生活をするのは容易ではありません。しかもストーカーの手によって殺されるのは、非常に遺憾です。」

本当に悩んでいたんだな。
しかし、冗談じゃない。人の遺書がポストに入ってるなんて縁起でもない。まぁ、とにかく最後まで読んでみよう。

「私は今日、太めのロープと子供用の椅子を購入してきました。ストーカーに拷問されて殺されるぐらいなら、自ら命を絶って、苦しみから解放されようと考えたのです。自分の命、その結末くらいは自分で締めくくります。」

おい、この人は頭がおかしいのか?
拷問て、被害妄想も激しいうえに、こんな奇妙な手紙を残して何がしたいんだ?

「さようなら、お父さん、お母さん。私と関わった全ての人たち。あの世で会いましょう。」

手紙はここで終わっていたが、封筒の中に御札が入っていた。その表側には、見たことない文字で、お経のようなものが書かれている。
しかし、それが何を意味するのか、何と書いてあるのかは分からない。
そして裏にはドス黒く赤みを帯びた色で、こう書かれていた。

「コンニチハ、テガミヲヨンデイルアナタ。」

その文字を読んだ瞬間、背筋に寒気が走った。
冷や汗が噴き出し、恐怖を感じる。
確実に自分の後ろに誰かいる。
「テガミヲヨンデクレテアリガトウ。」
突き刺さるような声が、耳元で囁かれた。
恐る恐る振り返ると、そこには首にロープの痣がある女性が立っていた。
恐怖に苛まれ、動くことができない。
しかし、暫く続いた静寂を彼女は打ち破った。








「コンニチハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

手紙憑依

どうも奇術道化師JIGSAWです。
先日はハロウィンでしたね。
私は仮装する趣味はないものですから、いつもどおりの日常を送っていましたが、皆さんは楽しく、ハッピーハロウィンを過ごしましたでしょうか?
ということで、怖い話を掲載します。(普段から怖い話ばっかり載せているのに、今更何を言っているのだろうね)
実は今回の話は、自信作でもあるのです。
より短い文で、より強烈な恐怖を残すことのできる、傑作なのです。
とても秀逸にできたと自負しておりますが、皆さんの評価はいかがなものか、あまりにも酷い評価であれば、私の自負と、皆さんの評価とのギャップが、私を傷つけるでしょう。
最後に、ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございました。
また次回作でお会いしましょう。

手紙憑依

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-11-01

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