TIME LAG I LOVE YOU〜時空を超えた愛〜【第一章〜夜中の邂逅〜Part3】
谷山は真理と幸せに暮らしていた、しかしそれが唐突に終わりを告げる事にまだ気づいていない、
鏡を見てなんか最近太ったように感じる。いや、絶対太った。朝昼夕、三食、カップ麺なんだから当たり前か、
俺と真理さんが一緒に暮らし始めてもう三週間目。今日は2月6日だ。
後四日したらいよいよ、カレンダーの丸印の日だ。
「ドラゴンクエストⅢ」発売。
いや、楽しみだ全く。早く10日になれ!
真理さんは今お風呂に入っている。もちろんたぬき荘に風呂は無い、今は近くの銭湯に来ている。前までは4日に一度来ていたが今は毎日だ。まぁお金は真理さんが出してくれるから助かる。(いつか必ずまとめて返すつもりだ)
俺は西暦1988年の2月のカレンダーを見ている。今は1988年だ。しかし真理さんは2008年から来たと言った。
あの日、俺が真理さんと暮らし始めた日、真理さんは少しだけ説明してくれた。自分が作ったタイムマシンのせいで、歴史を変えようとする悪い輩が出てきて、まぁそれに困っていると。それが謎の組織だという。何だっけ?タイムストップなんとか、って名前らしい。全然緊迫感が感じられなかったのは何でだ?彼女って真面目に話しているつもりみたいだが、その、あの、高井麻巳子ちゃん似のあの可愛らしい顔で話されると緊迫感なんて全く伝わってこないのだ。
彼女が未来からやってきたという証拠は無い。よって彼女自身も「別に信じなくてもいいんです。」と言うくらいだ。彼女が証拠らしきものを見せるそぶりは一向に無い。俺も証拠を出せなんては言わない。そんな事言って出て行かれたら困るからだ。
誰が困るかって?もちろん俺だ。
彼女は俺の汚い六畳間をわずか数時間で見違えるように奇麗にしてくれた。書架の本もあいうえお順に並べてくれて、ゴミ出しには行ってくれる。家賃は払ってくれる。お茶をいれてくれる。そんな雑用を小間使いのようにやってくれる。文句一つこぼさずにだ。不満はごはんが三食カップ麺という事だけくらい(もう飽き飽きしているがそんな事は口には出せない)。
そんな彼女を今失うと俺の精神はめちゃくちゃに破壊されてしまうだろう。彼女の笑顔が今、俺の生きる糧なのだ。
ゴクゴク、そんな感じの効果音とともにコーヒー牛乳を飲む。
やはり、風呂上がりのコーヒー牛乳は最高だ。聞けば彼女は銭湯には一度も行った事が無いという。よって、風呂上がりのコーヒー牛乳を一度も飲んだ事が無いという。俺は初めて真理さんと銭湯に来た時、彼女が風呂から上がってきた時コーヒー牛乳をすすめてみた。彼女は興味深そうに俺からコーヒー牛乳を受け取りコクコクと飲み一言、「美味しいですよ!谷山さんも飲んでみたらどうですか!?」と言った。いや、俺は飲んだ事あるから、だから美味しいと知っていて君に勧めたんだよ。
そう言うと「?」といった顔になった。数秒後に急に顔を赤らめて「あ、そ、そう言う事か、す、すみません。」と言い、「私、よく周りから天然って言われるんです。」と言った、
意味が分からなかった。
このままでいいのかもしれない。彼女は少し変わっているがその辺は可愛いから許す。未来からやってきたって言うのは苦し紛れについた嘘だろう。謎の組織との関係も多分作り話だ。如何なる理由で俺の部屋に留まるのかは分からない。しかし無理に聞き出そうとしなくてもいい。俺はこの生活を気に入っている。彼女も見た感じ不満がありそうでもないし、俺は現状維持という項目を選択しようとしている。
彼女と別れる時がいずれ来ようがその時はその時、また前の生活に戻るだけだ。多少悲しいかもしれないが、彼女を元居た場所に返すのは彼女の為だ。きっと学校の友達も心配している。
ここだけの話、俺は一回だけ近所の交番に立ち寄った事がある。この辺で家出少女が出ていませんかと、人の良さそうな中年の警官に聞いたのだ。しかし、「そんな情報は無いですね」と言われた、一応彼女の身体的特徴を述べた、セミロングの黒髪、どこかの学校の制服、背丈、高井麻巳子ちゃんに似ていると、しかし、「そんな子の失踪事件の情報は知らないですね。もしかしたらまだ情報が届いていないだけかもしれませんが、一応本部と連絡を取ってみますか?」と、逆に聞かれ、そこまでしなくてもいいですと言って俺はたぬき荘に戻ったのだ。
どこから来たのだろう?真理さんは、都内なのかそうじゃないのか、それくらい聞いてもいいかなぁ?そんな事を思いコーヒー牛乳を飲み干した。
とんとん、そう肩を誰かに叩かれた、おもわずビクッとしてしまう。
「す、すみません、ビックリしちゃったですか?」
振り返ると可愛い悪戯っ子の様な笑顔を浮かべた山本真理がいた。
「あぁ、心臓が止まるかと思ったよ。」
にやけながら、アホみたいな事言う俺に、真理さんはホッとしたように微笑み。
「よかったですよ、谷山さんの心臓さんが止まらなくて。」と言った。
コーヒー牛乳を飲み干していてよかった、もし飲んでいたら絶対に吹き出していたからな。この子は底抜けに可愛い。大ボケにも程がある。
谷山さんの心臓さんって、真理さんは本気でこんな事言っているのか?ただのボケか?ってかタイムマシンを作った人の言う台詞?これ?
俺はコーヒー牛乳の瓶を回収のプラスチックの箱に入れて、
「帰るか。」と言った。
「はい。」真理さんがこくりと頷いた。
2月の東京は真理さんの笑顔くらい底抜けに寒かった。せっかく暖まった体が冷えない様に俺たちは足早にたぬき荘に帰った。
「寒いですよね。」
「あぁ、寒い。凍えて死んでしまうこれじゃ。」
「うふ、その台詞、初めて会った時の私みたいですね。」
「そうだっけ、そんな事言ってたっけ?真理さん。」
「忘れちゃったんですか?」
忘れる訳が無い。初めて会ったあの夜を。俺たちが邂逅したあの日を。
バタン、そんな感じの効果音とともに俺の部屋、たぬき荘001の扉が閉まる。
俺は真理さんと暮らし始めた次の日、そこそこいい値段の布団を二組購入した。
真理さんはセンベイ布団を決して嫌がったりしなかった。むしろなぜか興味津々と見ていた。「これが布団?」と首を傾げ。別に私は畳の上で寝るので気を使わなくても良いと言った。いや、気を使わせてくださいとはっきりと俺は言った、
彼女を畳の上で寝かせるわけにはいかない。絶対に。
畳の上は彼女が掃除してくれたから奇麗になったが、暖房を消した夜はめちゃくちゃ寒かった。そして俺は決心した。布団を二組買うと。早速俺は布団を二組買ってきた。センベイ布団とは比べ物にならないくらい寝心地がよかった。
俺はその布団にごろんと横になった時、あぁもうセンベイ布団には戻れないと悟った。
本当は彼女の分だけを買うつもりだったが、せっかくの機会だから俺の分も買ってしまった。多分この背景には三ヶ月分の家賃を払う必要がなくなったという、経済的な安心感が俺の背を押したのだと思う。
後、ついでに女性用の赤いパジャマを二組買った。
真理さんは高校の制服だけで他の衣類品は全く持っていなかったのだ。さすがに制服だとシワシワになっては困る。(いつでも真理さんんが学校へ行けるように)なので買った。なんせ女物のパジャマなんて初めてだから、女子は赤が好きだという勝手に抱いていた俺の固定観念で赤いパジャマを買った。
「さてと寝るか、」
「はい」
俺たちは六畳間にふかふかの布団を二組並べ電気を消して眠る。
彼女のおかげで俺は夜寝て朝起きるという生活に戻っていた。そしてふかふか布団も一役かっていた。
パチン。電気が消えて真っ暗になる。
彼女は俺を信頼しきっているようだ。俺はというと全く変な気は起きなかった。
じゃぁそれで良いじゃんって言われればそれまでだが。少し気味が悪いのだ。
彼女は何者なんだろう?その答えを探している。
何の為に俺の部屋へ来たんだろう?彼女の説明は未来から来たってことだけど。本当のところどうなんだ?
そういえば美人局って疑った時もあったな。でも彼女が俺を騙そうとしているとは到底思えないのだ。これは当たり前と言えば当たり前だ、騙される人は騙す人の事を信頼している場合が多い。だから俺はほんの数パーセントだけ彼女を疑う。彼女は出来れば普通の女子高生であって欲しい。
俺がそう考えだしてもいつも答えは見つからない。
気がつけばいつの間にやら眠っている。
こうして俺の一日は過ぎていった。
TIME LAG I LOVE YOU〜時空を超えた愛〜【第一章〜夜中の邂逅〜Part3】