うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(4)
四 おしっこ王子の給食談義
午前中の授業がようやく終わった。待ちに待った給食の時間だ。今日のおかずはなんだろう。机を向かい合わせて、四人がひとつの班となる。京子ちゃんは向かい側。幸一君は僕の右隣。幸一君の向かい側は優子ちゃんだ。パン。牛乳。バナナ。コンソメスープ。そしてメインディシュは若鳥のから揚げだ。僕の大好物だ。
「うん。いい匂いだな」おしっこ王子がポケットから顔を覗かす。さっきまで、ポケットの中で折りたたむように眠っていたはずなのに、匂いにつられて目が覚めたのか。
「牛乳とコンソメスープか。僕の担当だな」
「僕の担当?」
「そう。僕はおしっこ王子だから、水分を吸収するのが仕事なんだ」
「じゃあ、ここにいてもいいの?お腹の中に戻らないといけないんじゃないの?」
「本当なら、現場に戻らないといけないんだけど、今日は部下に任せているんだ」
「部下?そんなに若いのに部下がいるの?」
僕はびっくりした。僕なんかまだ子供だから、組織のことはわからない。スポーツ少年団で野球をやっているから、チームメイトのことならわかる。でも、僕はキャップテンじゃない。
「僕は王子だよ。当然だよ」
胸を張るおしっこ王子。
「誰と話をしているの?」
京子ちゃんはもう席についている。
「いや。今日は僕の大好物のから揚げだから、喜んでいるんだ」
「ふーん。ハヤテ君はから揚げが好きなんだ。じゃあ、ひとつあげようか」
京子ちゃんのお皿の上には三個のから揚げがのっている。
「から揚げなら僕だって好きだよ」
横から幸一君が身をのりだしてきた。
「マクドナルドのチキンナゲットやケンタッキーのチキン、香川県名産の鳥の足や、それに田中屋のから揚げも好きだよ」
「なんだい、その田中屋って?」
「家の近所の肉屋さんだよ」
「家の近所に肉屋さんって、あったっけ」
「あったよ。から揚げだけでなく、コロッケも美味しいんだ」
「じゃあ、今度一緒に行こうよ」
「行く。行く」
僕と幸一君はから揚げの話題で盛り上がった。
「そんなことより、今は給食の時間よ。給食を食べましょうよ」
京子ちゃんが僕たちをうながす。
「いただきます」
給食係の号令で食事が始まった。
「さあ、みんな。準備はいいか。もうすぐ昼食がやってくるぞ」
大王が周囲を見渡す。部下たちは全員、持ち場についている。ツルハシを持っている者、スコップを持っている者など、様々だ。
「アイアイサー」気合を込めて返事をする。
一人浮かない顔はリキッド班の隊長。
「隊長、どうしたんですか」
部下が心配そうに声を掛ける。
「ううん。まだ、王子が帰って来ないんだ」
「そうですか。でも、もうすぐ、牛乳やスープが運ばれてきます。急いで、消化活動に取り掛からないといけません」
「そうだな。王子を待っていても仕方がない。我々だけで乗りきろう。さあ、仕事だ」
「アイアイサー」
リキッド班の全員がホースを握りしめ、持ち場所に着いた。
僕はパンをほおばり、コンソメスープを飲み、唐揚げをかじり、野菜を放り込む。口の中は休む暇がない。それに、隙間もない。
「ちょっと忙しすぎるんじゃない。もう少し、ゆっくりと噛みしめながら食べたほうがいいよ」
胸ポケットから首を出したおしっこ王子は、僕が給食を食べているのを覗いている。
「昼休みにドッジボールをするから、急いで食べているんだ」
周りのみんなに聞こえないように小声でつぶやく。そう答える間にも、バナナの皮をむいている僕。
「急ぐ気持ちはわかるけれど、お腹の中では、一度に、大量に食べ物が入ってきたら、消化活動が大変なんだ。 大王や僕たち、部下たちはてんてこまいさ。消化活動が十分にできなくなる。君だって、一度に、算数や国語、社会や理科の宿題が出されたら困るだろう」
うーん。おしっこ王子の言うことはもっともだ。僕は食べる速度を少し遅くした。隣の幸一君が
「ハヤテ君、どうしたんだい。急にゆっくり食べだして。早く食べないと、ドッジボールに遅れるぞ」
幸一君はデザートのバナナを食べ終わっている。後は口の中に残っているバナナを飲み込むだけだ。
「急いで食べるとお腹の中の人たちが困るんだ」
「なんだい?そのお腹の人たちって?」
しまった。つい、おしっこ王子たちのことを口にした。
「いやあ。食べ物の消化がしづらいってことだよ」
「そうよ。早く食べることはよくないわ。じっくりと味を噛みしめながら食べないといけないわ。急いで食べたら、ハヤテ君の言う通り、お腹がびっくりするわ」
「そうよ。京子ちゃんの言う通りよ。男子は、遊ぶことばかり考えて、体のことは何も考えていないんだから」優子ちゃんも続く。
京子ちゃんや優子ちゃんが話の間に入ってくれたおかげで、おしっこ王子やうんこ大王のことは話さなくてもすんだ。
「わかったよ。ゆっくり食べるよ。女子はいつも母親みたいなことを言うんだから」
幸一君は半ばあきらめながら、口の中のバナナを噛みしめている。
「そりゃそうよ。あたしたち女子はいつか母親になるんですもの。今から母親の準備をしているのよ。何も考えていない男の子を育てるために。ねえ、優子ちゃん」
「そうよ、京子ちゃん」
女子は強い。女子に母親の顔を見ると、僕たち男の子はつい黙ってしまう。なぜなら、家でもそうだからだ。
「ほら、僕の言った通りだろ。女の子たちはよくわかっているよ」
おしっこ王子が胸を張りながら囁く。
僕と幸一君は俯いたまま、母親になる予定の京子ちゃんと優子ちゃんの言う通り、残った食事は味を噛みしめながら食べた。
うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(4)