TIME LAG I LOVE YOU〜時空を超えた愛〜【第一章〜夜中の邂逅〜Part1】

近日発売のゲームに心を奪われている谷山隆、荒んだ生活の中突如として現れた謎の美少女、泊まる場所がないというので部屋へと謎の美少女を招き入れるが、それが全ての始まりだった、

 「バカっかじゃねーの?」
 俺は、そう言って本を投げ捨てた。何なんだこの展開は?読んでいてはがゆくてしょうがない。大体こんなアイディア、ありきたりじゃね?作家だったらこんな展開にしないでしょ。ダメダメの駄作。読む人いるのかよ?まぁ俺がその読む人なんだが、そんな読む人を代表して一つ言わせてくれ。
 
 はっきり言って
 「面白くない。リスペクトは駄作だ」
 そう思わず口に出してしまう。だって本当の事なんだからしょうがない、まぁ受け取り方は人それぞれ、感性の違い?要するにセンス?まぁいい、この本を面白いと感じる人間は果たしているのか?こんなエロ小説まがいの作品、俺はさっぱり面白いと感じられない。うん、断言するよ。
 「金、無駄遣いしちまった。」
 
 俺は高校卒業して、田舎から上京、今は無職。実家の親には大手企業に就職って嘘ついている。まぁかなりデタラメで親も何故疑わないのかが不思議なくらいだ。
 しかし、参ったな、貯金も底が見てきてアパート追い出される日も近づくこの毎日。
 ヒヤヒヤもんだぜ、全く、スーパーマンがもしいたらまず一番に俺を助けろって言ってやりたいね。そしたら俺がその後、暇の時にでも人類を救う為に何かしら手伝ってやるよ。時給千円で。
 でも本当にどうにかしねぇといけねぇな。何でも良いから俺に金をくれ、くれた奴を俺がスーパーマンと呼んでやる。面倒くさいから一回だけだけどな。
 
 ふと、時計を見る。長い方の針は1を、短い方の針は1を指していた。ちなみに今はカーテンを引いている。特別な事情がなければカーテンは昼間には引かない。俺の場合は。だってせっかく太陽と言う名の電気代無料のライトが照っているのだから、曇り以外は。
 てな訳で今は夜一時五分。
 こんな夜中にスーパーマンは来るのか?
 答えは簡単。いたってシンプル。
 
 答え>NO.

 しょうがない、スーパーのレジ打ちのバイトでもするか。確か「スーパー大木」ってまだレジ打ち募集中って張り紙はってあったはず、入り口のところに。
 最後に行ったのはいつだっけ?そうだ、冷蔵庫見れば分かるか。残りものの量を見れば大体分かるはず。レシートはもらったら速攻で道に投げ捨てるからな、多少の罪悪感があるが、そんなの気にしていたら生きてられん。
 
 今じゃすっかり昼夜逆転しちまって、太陽が出ると眠くなっちまう。おかしいな俺。
 
 いつからこうなっちまったんだろう?俺の人生、つまらん事に金無駄遣いして、それでも懲りずに金使って。大学に通っている友達(元)を恨めしく勝手に思って実家飛び出して、六畳間なのに暖房使ってもちっとも暖まらないこんなぼろアパートに居住して早1年、上京後、初めてむかえたこの異国の地の冬の寒さに凍えて、暮らす日々。
 俺の住んでいる部屋は六畳間の一部屋。風呂なんて無い。近くの銭湯通いだ。
 俺の実家はまぁ、そんな豪勢な家じゃない、普通の、どっちかといえば、中の下ってとこだ、子供の頃は俺の家は汚くて狭い、貧乏臭い家だと思っていた、もっと良い家に建て替えてくれればいいと、そう両親に対し密かに思っていた。
 もちろん、そんな事は心に思うだけで口には出さないさ、子供ながらに分かっていたんだよ。家を建て替えるなんてそんな事無理だってな。大体良い家って何だ?どんな家だ?
 広けりゃそれで良いのか?奇麗ならそれで良いのか?どんなに良い家をもったって大切にしなきゃならないのは家族だろ。違うか?
 
 不等号で表すなら、家族>家、だ。

 でもなぁ世の中は違う、世の中を支配しているのはいいか?金をたんまり持っている奴らだ、俺が徹底的に憎んでいる奴ら。年が明けて16日たつが、プロレタリアートとブルジョアの溝はいっこうに埋まらん。ソ連なんて国、わざわざ建国する必要あったのか?俺には分からん。平等なんてあらゆる面で不可能なんだよ。
 俺がこの国の選挙で一票を投じても、何も変わらんだろ、変える為には、そりゃ血のにじむような努力と不屈の精神が必要なんだ。いつの時代も、時代を変えた立役者はそんな要素を持っている人間なんだ。
 俺はそんな人間になれるのか?
 
 答え>無理。

 ダメダメ人間の俺にゃ、そんな事出来ません。今の総理大臣でも無理だな。
 でも、安泰なもんだね、土地を持っている人は、売っちまえば一気に大金持ちだ。
 
 一方俺はというと、
 
 「当面の目標はとりあえず新作ゲーム購入の所持金確保だな、うん、決定。」

 ときている。自分でも分かっているさ、でも、分かっているが、どこをどうすればこんな生活から抜け出せないのかが分からない。人生に取り扱い説明書がついていればいいと何度も思った。なんて付いていないんだろう?神様は意地悪だな。一分一秒大切に生きる事は俺には出来ない、ってか逆に早く過ぎて欲しい!早くゲームの発売日になってほしい!
 悲しいと思う、うん、自分でも自分の事が。今頭の中を支配しているのは新作ゲーム。あとは、三ヶ月滞納しているアパートの家賃の返済方法、いや、正確に言うと、滞納を四ヶ月まで引き延ばす為の言い訳ってところだ。もう言い残した台詞は無いと思うが、一生懸命に考える。その辺のところは頑張るさ、だって自分の事だからな、誰だって自分の事が一番だろ、違うか?違わないだろ。
 
 保身の為に国政を混乱させている政治家レベルだ、俺は、だが大家さんにしか迷惑をかけていない分、馬鹿政治家よりマシってところかな?まぁ俺と比べられている政治家もかわいそうな気がするが、それは置いて、
 
 さてと、
 俺はごろんとセンベイ布団に横になる。不思議と腹は減らない。もともと小食だからな。その辺に関しては恵まれているよ、食パン二枚くらいで6時間くらいは持つ。もし俺が大食いだったらもう貯金なんてとっくになくなっているし、アパート追い出されているから。
 だが感謝するばかりで恩恵は一度も受けた事は無いぞ、信じるだけ無駄ってところか
 俺が読んでいる小説にも神様的なモノが出てくるが、そいつはこの時沢真理とやらに恩恵を与えたのか?なんか読んでいると真理を殺人者に仕立て上げちゃったみたいだけど?それは彼女が望んだ事なのか?
 まぁ、小説なんざ受け取りかた次第でどうとでもなる。芥川賞の選考員が「これは良い」って言えばはれて芥川賞受賞決定、その後は名作として世の中に出て、そこそこ売れて作者が経済的に助かるだけ。作者にとってはその選考員が神様になる。

 じゃぁ、俺にとっての神様ってのは誰だ?
 
 答え>不明。
 焦る事は無い、これから自分にあった神様を探すまでだ。
 でも、自分で探し出す神様って一体......?

 
 「寒い。」
 六畳間の中は外並みに寒かった。何で冬ってこんなに寒いんだろう?で、夏になれば何で夏ってこんなに熱いんだろうって思うんだろうなきっと。
 人肌より暖かいものは無いって言うが、俺には相手がいない。一緒に居てくれる人募集中ですが、その前にその募集の張り紙を貼る場所を探しています。どこにも無いだろうがな。
 そんな事は分かっている、ただ言ってみたかっただけだ。
 
 
 1月の寒さはこれはもう堪え難い、南国の海へ旅行へ行きたい。そして泳ぎたい、でもなぁ俺は南国って感じの国へ行った事が無い。

 俺には夢があった。ただの夢じゃない、それはそれは壮大な夢だ。

 実は俺は株を始てみるかと真剣に悩んでいたのだ。間違わないでほしいのはそれは過去形という事だ。
 今はもうすっかりやる気ゼロ。むしろ憎んでいる。
 「ちくしょう。」
 株は儲かる。それはもはや定説だ。学歴がたいした事とない俺にゃ一流企業へ入社するのは無理だ。このボロアパートから抜け出す為には株をやって、金を稼ぐしかない。目指せ大金持ち!!
 ってな訳で、俺は色々株に詳しくなろうと勉強したのだ、人生に説明書がなくても株の儲け方が載っている本はいくらでもある。
 儲けるならデカイ方が良い。そう考えた俺は本屋へ突っ走り参考書を何十冊も購入。カルチャースクールにも通ってテキスト代に莫大な金を投資した。
 本を購入するたびに、「これで俺は大金持ちだ!」と大きく弾む心を抑えながらレジへと向かい。レクチャーも受ければ受けるだけ、「おぉ、俺はこの先生の話を聞いてどんどん株に詳しくなるぞ!」って馬鹿げた妄想で支配されていた。
 
 しかし!俺は馬鹿だった。

 株、意味分からん。

 それが俺が出した答えだ。ふん、悔しいから自信満々に言ってやる。
 あぁ、そうさ、田舎の三流大学に四流して諦めた人間が株で儲けられますか?あぁ?出来るだと?そんな奴がいたらぶっ飛ばしてやる。何でって、

 悔しいからだよ。
 株なんて馬鹿な谷山隆には出来ません。

 リターンが全くなかった俺の投資は失敗。よって俺には全く金がない。実家へ戻る時の為に用に通帳に入っている金を使わない為に生きている。
 
 同級生はみんな一流大学現役合格、一流銀行、一流証券会社に就職。小学校時代からの幼なじみの顔を思い出すだけで嫌気がさす、随分と引き離された人生と言う名のマラソンの途中経過の順番。明確に分けられた人生勝ち組と人生負け組って肩書き。
 もちろん俺は負け組だよ。
 あいつらってあんなに頭良かったっけ?何か、俺って三流大学とは言え一応入試の答えには自信があった、だから落ちた時はショックだった。何故だ!何故落ちた!?
 沸々とわき上がる大学側への不信感、俺をわざと落としたんじゃないのか?
 まぁ大学で落ちたときの人間はみんなそう思うか。そうだよな、当たり前だよな。
 でも、大学入試で、この試験簡単すぎねぇか?って何度も思った事があるが、それでも落ちちゃうんだよな。
 逃げ出すように地元を離れても、不幸の電話はかかってくる。
  
 「山田君が昇進して今部長さんよ。」
 「高橋君が、新しい会社はじめるんですって!」
 たまに親からかかってくる電話はみんなそういった内容ばかりだ。飽き飽きするよ。
 一番腹立ったのは、「村山君、株で一山当てたそうよ」って電話だ、で、
 「隆、あなたも株やってみたら?なんかみんなの話聞くと簡単みたいよ。村山君なんて、猿でも出来るって。」
 思わずそこまで聞いて電話切ったね。後で停電で切れたって言っておいた。

 この狭いボロアパートはたぬき荘という、たぬき荘の001室の六畳間は書架でスペースが埋め尽くされている。俺の部屋だ。
 書架は本でびっしり。
 お気に入りの作家は「高見信明」。
 まだ無名だがこれが、面白いったらありゃしない。しかし今回の本は面白くない。本当に全く面白くない。金の無駄だったな。
 最近の子供は本を読むのか?ゲーム三昧なんじゃねぇ?まぁもうすぐ俺もそういう生活に突入するけど。
 一応俺が子供の頃は本はめちゃくちゃ読んでいた。それはもう、俺の学校出に指定席は図書室って言っても過言ではないくらいだ。何か本に囲まれていると安心する。書痴なのかねぇ俺は、そんな事考えてきたら背中が痛くなってきた、センベイ布団があまりにも薄いので畳の上で寝ている時とさほど変わらない。まぁないよりマシか。

 本なんて今はどうだっていい、こんな駄作に出会ってしまい俺は今最悪だ、気分転換に楽しい事を考えよう。
 
 そう思いカレンダーへ目をやる。1月から12月まで一覧で載っているカレンダーだ、月ごとに捲るのは面倒くさい、日捲りなんてもっとだ。
 そのカレンダーの2月10日のところに丸く印を付けている。
 なぜ2月10日なのかは、新作ゲームの発売日だからだ。早く欲しいね。たぬき荘を追い出される前に手に入れて、クリアしたい。クリアしたらこのアパートを出て行こうか?いや、そういった短絡的な行動はよそう。大家さんが無理矢理俺の荷物を001室から運び出したら出て行こう。滞納家賃は払えるかどうかは分からんがな。

 しかし、人に迷惑かけるのは気が引けるな、まぁ既に大家さんに迷惑かけているのだが、それは家賃を払えばいい事だし。あてはないが。
 実は俺はちょっとした商売を始めようかと思っている。しかしその商売はハイリスクハイリターンの商売で、株で失敗した俺に出来るのかどうかは分からない。ただの憧れかもしれない。ってかその商売を始めるために必要な物と始め方は未だに分からない。だって調べていないからな。調べたら出来るって訳じゃないが、
 
 
 俺は憎んでいる。何をってそりゃ株だよ株。俺をどん底へ閉めた憎き奴、株。しかしなぁ、時々思うんだ、また株の勉強でもはじめようかって。
 一山当てて大もうけして、高級マンションにでも住もうかと。そうしたら、俺の欲しい車買って、欲しいゲームソフト大量に買って、一万円札で扇作って扇ぎながら馬鹿笑いする。と、まぁこんなシチュエーションだ。
 金で買えない物はない、俺は大金持ちだ、株なんて猿でも出来る。

 そこまで妄想して、我にかえる。

 ダメダダメダ。思わずにやけてしまう自分に喝を入れて、この妄想を振り払う。
 始てみるかとおい俺、何回も買った参考書読んだだろ、六回参加したスクールのテキストも読んだだろ、どっちも書いている内容ほぼ言い方変えただけで同じだったじゃないか。
 能無しの谷山隆には出来ません。



 ところで気になる事がある、ラジオの電波の入り具合がおかしいのだ。ザーザーザー言ってばっか、番組の音が全く聞こえないのだ。俺があの出来損ない小説を読んでいる時は気にならなかったが、本を投げ出した今、気になっている。いい感じのメロディーが流れていたはずなのに、今じゃ不快な音ばっか流れている。壊れたのか?おいおい、困るぜおい、新しいラジオを買う金なんて俺には残ってはいない。しかし、本当に壊れたのなら俺はどうやって日常を過ごせばいい?本だけじゃ飽きちまう。せめて音楽は聴いていたいね、あぁ実家にレコード置いてくるんじゃなかった。
 それとも

 「またビルが生えたのか?このままじゃ日本がデコボコになっちまう。」

 最近よくビルが生える。ニョキニョキとじゃなくてガンガンと鉄筋どうしがぶつかりあう音でだ。景気がいいみたいだ、日本の。だからってビルを生やす事はない。何故ビルが必要なんだ?都心のオフィスビルが足りないっていうが、俺にはそうは思えないな。日本の首都の見かけを外国に自慢しただけじゃないのか?
 どれ、ラジオが故障(多分)した今、俺はセンベイ布団で寝る事にしよう。現実世界がこれだから、せめて夢はいい夢見たいぜ。大金持ちになった夢とか、株で一山当てた夢とか、宝くじで一等当てたときの夢とか、
 要するに金持ちになった夢を見たい訳だ。俺は。

 誰も邪魔する事が出来ない、究極の自分だけのテリトリー、それが俺の夢だ、不思議な事に俺は悪夢を見た事がないの。悪夢って嫌な夢だろ?でもなぁ、俺の夢は毎回、現実と入れ替わってくれと願うほどいい夢なのだ。
 心地よい、安心する夢。

 「どれ寝るか、」
 そういって目を閉じた瞬間。



 コンコン、そう音がした。コンコンまただ、何だ何の音だ。
 このぼろアパートはインターフォンなんてついていない。多分この音は誰かがドアをノックしているんだ。
 「面倒くさいな」
 そう呟き俺は無視した。大体誰ってんだ?こんな夜中に、常識を持った人間がこんな時簡に人の家に来ますか?
 山田か高橋か村山か?どいつにしたって今は会いたくない、ごめんだね。たく、これだから現実世界は嫌だ。寝ようとしても起こされる、儲けようとして貧乏になる。勉強しても入試で落ちる。
 俺は今このドアをノックしている人間が誰だか考えている。山田、高橋、村山は無いな。こんな時間にこんなボロアパートに来るわけない。もし来たらビックリする。何故来たのかその理由が聞きたい。
 
 ふと思いついたことを言ってみる、さっまで俺が助けをこいていた人物だ。
 
 「スーパーマンか?」
 
 あぁアホらし、んな訳無いだろ。ここは何処だ?アメリカか?いいえ違います日本です。どこに自分の母国を忘れる奴がいる。本当にいるかもしれないがそれは例外ってことで片付けて、 日本でスーパーマンが空飛んでたら新聞載るぞ、ましてや俺の部屋に来るなんて、もし来たら一緒に写真とりたい、
 
 さて、そろそろ現実へ戻ろう。こんな妄想はもっと暇な時にでもしよう。
 まぁいつも暇だがな。
 多分だが大家さんだと思う。俺が昼間寝ていて対応出来ないから起きている夜に三ヶ月分の家賃を奪おうと、まぁ大方当たりだろ。しかし大家さんも俺の生活パターンを把握するとは、なかなか賢しいな。
 さてと、今度はなんて言い訳しようかな。来月に払うって台詞はもう七回ぐらい使ったし、う〜んどうしよう、とりあえず有り金全部渡そうか?
 しばらく飲まず食わずでいれる覚悟があるならの話だが。
 まぁ無理だがな、せめて最低限の生活費は手元に残したい。だが絶対に大家さんは金をむしり取ろうとする、ここの大家さんは金の亡者だ。
 悩みに悩んだあげく、俺は決心して有り金全部渡す事にした。
 といっても、三千円だけ手元に残して。俺は合計四千五百円を握りしめドアへと向かう。つまり、合計で俺の手元に七千五百円しかなかった事になる。おいおい、ゲーム代はどうなるんだ?銀行からおろすか?それしか道がねぇな。そんな生活いつまで続くんだろう?
 その間もずっとノックされている。これはちょっと長すぎだぞ。大家さんの執念がうかがえる。
 追い出されるかもな、まぁいいさ、そんときはそんとき、実家にでも帰るさ。新幹線代くらいなら通帳に残っているはずだ。あ、でもゲーム代もかかるな。全部包み隠さず親に話してお金送ってもらうか。

 コンコン
 はいはい、分かっていますよ、今開けますから、俺はドアノブを握って


 ガチャ、そんな感じの効果音とともにドアが開いた。

 最初俺の目に飛び込んできた人を見て「あれ?」って思った。ここの大家さんは六十代前半の小柄な老人だ。ちなみに女だ。しかし目の前に立っている人間は、まぁ多分女だろう。そこは合っている、小柄だ、うん、これも合っている。でもなぁそれ以外が違うんだよ。大分。

 白髪一本無いストレートの黒髪のセミロング、大家さんは白髪でパーマをかけている。
 背丈は160cmあるかないかくらいで、まぁそこは大家さんと合っている。
 しかしなぁ、見た目が、どう見ても、
 
 60代前半には見えん。
 誰がどう見ても10代後半だろ。絶対。こんな若作り出来る訳が無い。こんなのに時間を費やしてるのか大家さんは?そうしたら馬鹿って言葉以外に出てこないぞ、俺の口からは。まぁこの目の前に立っている少女は(少女で良いよな?)大家さんではないと分かっているが。
 着ている服は、うん?何だ?どっかの学校の制服か、まてよ、って事はこの少女は中学生か高校生ってことか?(多分後者)一体何者なんだ?
 ただ玄関先で立ったままその少女は俺を見上げている。奇麗な顔立ちだ、色白って訳でもないが、黒いって訳でもない、健康的な肌の色だ、瞳はとても純朴で、街を歩いていて芸能プロダクションからアイドルとしてスカウトされるんじゃないかってくらい可愛い子だ。
 うん?何かボンヤリしている、無表情に近い感じ?夢うつつ?何か、信じられない光景を見ている様だ。
 うわ、気まずい。この少女は何だ?なんでこんな時間に俺の部屋に訪ねてきた?
 美人局ってやつか?何も俺のところに来る必要は無いぞ。俺はな、ゲームソフト買う為に貯金してるんだぞ貯金。うわ、小学生レベルか、俺、言葉に出さずともちょっと恥ずかしい。
 
 で、この事態にどのように対処すれば良いのか俺には全く見当もつかない。
 人生の説明書があってもこんな事態は載ってないだろう。
 考えろ、考えろ俺、この少女に見当は無いのか?
 
 答え>うん、全く無い。

 それじゃ困るんだよ!
 あぁ、クエッションマークが俺の脳を駆け巡る!
 誰かに見られたら誤解さねかねないぞ、もちろん俺はこの少女に対し何もしない。ただ少し驚いているだけだ。
 少女は何か言いたげな感じに口元を動かしていた、ただ単に呼吸していただけかもしれないが、俺には何かを伝えたがっている様に思えた。
 
 バタン、そんな感じの効果音とともにドアが閉じた。

 はぁ、溜息一つこぼれる。何だこりゃ、俺は玄関から離れ六畳間に戻った。
 センベイ布団に横になる。
 何だったんだろう?俺の頭がおかしくなったのか?いいやそんな訳が無い、確固たる証拠が無い限り俺は激しく否定する。少女にはいきなりドアを閉めて悪い事しちゃったな、でも、仕方ないだろ、本当に心当たりないんだから。俺の親戚が家出して俺の部屋に来たとか?いいや違う。俺は彼女のような親戚にも心当たりは無いぞ。大体、俺の地元と東京とではめちゃくちゃ距離がある。一介の学生(多分)が来れるようなところじゃない。
 もしそうだとしても何でまた俺のところになんてくるんだ?悪いが他を当たってくれないか?俺は自分が食う為に必死なんだよ。この少女が俺の部屋に上がって、親と仲直りするまで帰らないなんて言われたって、俺にはこの少女に何も食べ物を与える事は出来ないぞ。
 何か疲れた。もう寝よう。家賃未払いの催促じゃなくて良かった、今夜は良い夢見られそう。
 今夜?今夜って一体どれくらい振りだろう、いつもこの時間帯にはラジオ聞いているかな、いつも寝るのは朝方だ。
 俺はセンベイ布団に横になり毛布にくるまる。

 突然音声が部屋に響いた。
 「ん?」
 ラジオから音楽が流れ出したのだ。
 スイッチは入れたままだった、ザーザー現象はどうやら止んだようだ。
 「何だ、故障じゃなくてほっとしたよ。」
 そう言ってスイッチを切った。
 
 パチン、そんな感じの効果音とともに部屋が静かになった。
 
 と思ったら、それは大間違いだった。
 ドンドンドン、俺の部屋のドアがノックされている、っていうか激しく何かで叩かれている。
 「はぁ!?何?今度は?俺なんか悪い事しましたか?」
 近所迷惑にも程があるってんだ。
 俺は急いで起き上がり玄関へ向かう、扉を開くと先ほどとは打って変わり何かめちゃくちゃ嬉しそうな少女の笑みがあった。うわ本当に可愛い。何なんだのこ謎の美少女は、俺の親戚にこんな可愛い子がいるわけない。この子をアイドルで例えるなら。
 
 「高井麻巳子ちゃん!!」
 「はいっ!?」
 はぁ!思わず口に出してしまった。
 そう、俺はおニャン子クラブ会員番号16番、高井麻巳子ちゃんの大ファンなのだ!
 うしろゆびさされ組のレコードも、その後に続く「シンデレラたちへの伝言」等等、
 高井麻巳子ちゃんが大好きなのだ。レコードは実家に置いてきた、だから歌は聴けないが、常に口ずさんでいる。
 
 で、だ、目の前にいる少女は高井麻巳子ちゃんにそっくりなのだ。

 数秒のうちに俺は我にかえった。
 目の前の少女はポカンとしている。まるで高井麻巳子ちゃんの事なんてまるで知らないよな顔をしている。あの大人気アイドルを知らない顔。
 残念ながらおニャン子クラブは昨年解散してしまったけど、高井麻巳子ちゃんの事は応援し続けるぞ!!
 そんな俺の気持ちは置いておいて、
 おい!目の前の少女が一人置いてけぼりになっているぞ!気付け!俺!
 
 「あ、ご、ごめん、変な事言っちゃって、その、き、気にしないで!」
 思いっきり俺の事変だと思ったよな、この子。
 「あ、い、いえぜんぜん、大丈夫っていうか、その、すみませんこんな夜中に押しかけて」
 少女はそう言ってぺこりと頭を下げた。髪が揺れるところがたまらなく可愛い!!
 どうやら、この子は俺の親戚ではないみたいだ。だがその事によって謎が生まれる。
 
 この少女は一体こんな時間帯に、そしてこんな俺に何の用があるだろうか?
 どうせたいした用件じゃないよな、電話しなきゃいけないけど公衆電話ってこの辺り少ないからたまたま俺の部屋に来たとか、アパートの窓のカーテンの隙間から漏れた光をたどって、
 あと、単に家出。
 それか、何だ?謎の組織に追われてるとか?
 アハハ、笑えるよ。それは無いな。うん。
 「あの、すいません、」
 少女が恐る恐る聞いてきた。完全にさっきの言動で俺、信用無くしているな。
 まぁ、大体そんなもんさ、世間の目ってものは、いい歳して高井麻巳子大好き!ゲーム大好き!人間のこの俺はな。
 「変な事聞きますけど、今何時ですか?」
 「はい?」
 何だろう?今は確か夜中の一時五分のはず、でも多少誤差が生じているから、
 「ちょっと待っていて下さい」
 そう言って六畳間に一旦戻り時計を見る。
 一時十分。そう針は指していた。
 玄関へ戻り、少女に時間を教える。すると少女は少し考え込むような表情をして腕を組む。
 何か小声で呟いている。聞き取ろうと思っても聞きとれない。
 少女は俺に向き直り、恐る恐るとんでもないことを言った。
 
 「あの、大変申し訳ないんですが、今晩ここへ泊まらせてください。他に行く当てがないのです。」
 
 俺は絶句するしか無かった。

 否定も肯定も出来ずただ立っている俺に少女は、
 「詳しい事は後で話します。あ、その、私、自分で言うのもなんなのですが、変な人じゃありません。一般人です。はい、普通の。」
 いや、普通の一般人の少女が初めて会った男(おそらく)の家に泊めてくださいっ言いますか?そう思いませんか?詳しい事は後で話すって言うけど、そういう問題じゃないだろ。
 「いや、汚いし、狭いし、何も無いしこんな部屋にあなたみたいな奇麗な人泊める訳にはいきませんよ。」
 たとえ一般人でも愛しの高井麻巳子ちゃんの面影がこんなにもある少女を俺の部屋なんに、と、泊めるわけにはいかん!
 そう言うと少女は神社に参拝するときの様に手を合わせ、
 「お願いします、本当に他に頼るところが無いんです。泊めてください、お金なら払います。」
 いや、お金あるんだったらホテルとかに泊まれば良いじゃん、
 「だって、私、高校生ですよ、警察呼ばれるのに決まっているじゃありませんか、」
 なる程。そう言う事か。
 「それに制服じゃ寒いですよ。いくら冬用でも一月の寒さは完全には防げませんよ、野宿したら凍えて死んじゃいますよ。都心で女子高校生凍死!なんて記事新聞載っちゃったらとりかえしがつきませんよ。」
 今気づいたが「よ」がやけに多いな。まぁそんな事は今は置いといて、
 「お願いしますよ」
 頬と鼻先がさっきより赤くなっている。確かに一月にいくら東京でも外にこんな少女を放り出すのは気が引ける。凍死なんてされちゃ少女の言った通りとりかえしがつかない。
 「仕方ないか」
 俺は手を腰にあて、ハァと溜息一つ。
 少女のこの純朴な瞳と可愛い高井麻巳子ちゃんに似た顔に頼まれたら、断れ切れん。
 少女は嬉しそうな表情から一転し、泣き出しそうに俺を見上げる。鼻と頬が赤みを増している。決断の時は今。
 「上がれよ」
 「え?」
 少女は一瞬戸惑った表情になり、また恐る恐る
 「いいんですか?」
 「あぁ、いい、泊めてやるよ」
 少女の顔に一輪の花が咲いた。様に見えた。
 
 来客なんて初めてなんじゃないか?俺の部屋に訪ねてくのは新聞屋と大家さんくらいだ、こんな美少女が来るなんて初めてだ。
 「それじゃ、お、お邪魔します。」
 靴を奇麗に並べて彼女は俺の部屋に上がった。とても几帳面そう。そう感じた。俺の部屋に上がって六畳間へ来ての第一声が、
 「うわぁー凄い本がいっぱいある。」
 部屋へ感想がまずそれだった。
 彼女は六畳間の狭い空間をまるで博物館を見るように見ていた。そんなに変かね、俺の部屋は。何も無いぞ自分で言うのもなんだが。
 「うわぁ、これってラジオですよね、凄い、こんなんで放送聞いているんだ。へぇ〜」
 何もラジオでそんなに驚かなくてもいいんじゃないのか?この子の家にはラジオが無いのか?テレビばっかってことか?贅沢だな、まぁ俺と一緒に比べられないがな。
 大体こんなかわいい子はいいところのお嬢様に決まっている。年下だが俺はさん付けしても良い。だって高井麻巳子ちゃんに似ているから。
 というか、お互い自己紹介がまだだった。
 
 いや、やめておこうか、どうせ多分明日になればさよならだ(もちろんその間は何もしないさ!)こんなに高井麻巳子ちゃんに似ている子は始めてみたけれど、名前聞いたら何か家に押しかけていってしまいそう、(うわ、そんな事を本気で考えている自分が怖い。)

 彼女は一人でぶつぶつ良いながら楽しそうに六畳一間をゆっくり一周している。いまは書架のところだ。
 「同じ名前の作家さんの本がいっぱいあるけれど、どうしてだろう?もしかしてファンなんですか?」
 高見信明の事らしい。
 「あぁ、そうさ、まだ無名だがいずれきっと売れるだろう。だって面白いからな、なぜみんなこの面白さが分からないのだろう。」
 へぇーと頷きながら少女は本を手にとる。そしてパラパラとページを捲る。そして表紙を見たとき、「あ、」と声を漏らした。
 「この本の作者って、」そう言い欠けて慌てたように本棚に戻す。そして、書架のところを通り過ぎる。
 「すいません、もうちょっとお部屋を見せてもらって良いですか?」
 「いいけど、俺の部屋のどこが君の興味を差そるのか俺には分からないよ。」
 そう言うと彼女はクスッと微笑み、それはもう天使のごとき微笑みの表情で、
 「全部です。」

 と言った。
 高井麻巳子ちゃんにそっくりな笑顔でそんな事言われると俺、死んでしまいますよ。

 自称高校生(謎)の少女(しかも美少女)が、人生負け組の(俺)部屋に興味があるなんて、世の中にも色々な人がいるもんだな。
 
 



 しかしここで一つ重要な事を思い出す。
 「俺、布団一組しか持っていないよな?」
 まさに自問自答。少女の方を向くと俺のこの発言に(多分、問題発言)気づいていなようだ。
 まさか2人で一組の布団に、
 いや、良心がとがめる。ってか社会的に問題だろ。それって。
 今日初めて会った女子高校生と25歳の俺とじゃ、一緒の布団に入るなんて出来るわけない。
 センベイ布団でもないよりマシか、俺は転がって寝るか。しかし相手は年頃の女の子、俺のセンベイ布団なんていやがるか、じゃぁどうする?
 聞いてみるかぁ、俺は、俺の部屋鑑賞中の少女にこの問題について聞いてみた、 
 「ねぇ、君?ん?」
 彼女は俺の部屋の壁をじっと見つめていた。文字通り壁をだ。じっと見てる。そこには書架は無い。何も無い。唯一あるのは、壁に貼付けたカレンダーだけだ。
 1月から12月までの365日が一覧としてのっているカレンダー、まぁ厳密に言えば今年は西暦1988年、閏年だから366日か。
 でもそこのどこが彼女の興味を引いているのかが全く分からない。まぁ分からないと言えば、全部分からないが、その、なんて言うか彼女は釘いるように見ているのだ、カレンダーを。本当に、凝視していると言っても良い。うわ!今度は指で数えだした。
 彼女は今、俺の部屋のカレンダーの日数を指で数えている。こちらの視線にも気づかずただ一心不乱に数えている。 
 傍目から見ればそれはとてつもなく変な行為だろう。しかし彼女の表情は真剣そのもの。思わず、オーイ!って声をかけてこっちに振り向かせたいくらいだ。
 でもそれが出来ない、だって出来るような空気じゃないもん。彼女のこの行動を邪魔してはいけない、ってか邪魔するなってオーラが出ている。
 気がする。多分。

 随分時間が経ったんじゃないのか、そう思えるくらい長い時間彼女はただひたすらカレンダーの日にちを数えている。そして、
 「ふぅー」と彼女が息を吐き出し畳に崩れ落ちる。思わず駆け寄る俺。そして抱える。
 「どうしたんですか?」
 彼女は、嬉しさと驚きと可愛さをもった、一体どうやって作るんだ?というような表情を作り、
 「凄い、本当だった、やっぱ私本物作っちゃったんだ。」
 「どうしたんですか?」
 「あの、すいません、今年って西暦何年ですか?」
 「はい?」
 今年は何年って、カレンダー見れば分かるんじゃないのか?数十秒前にしていた自分の行動を忘れたのかい?
 「今年って、今年は1988年ですよ、西暦1988年、昭和63年ですよ。」
 「そっか、そうなんですかぁ、じゃ、やっぱり......」
 
 彼女の目が閉じて首がカクンと落ちる。まるでドラマのワンシーンみたいに。
 俺はドラマだとしたら何役なんだ?どのような立ち位置で、台詞は何って言えば良い?
 
 教えてくれ。
 
 今俺がすべき事と、今俺が発しなければいけない台詞を。

 誰にって、

 愛しの高井麻巳子ちゃんに似ているこの美少女にだ。

 おとっと、俺も眠くなってきた。しかし、このまま眠ったらこの美少女を抱えたまま眠る事になる。まぁいいか、たまにはそういう展開になってもいいだろう?
 
 という訳で、俺も寝ます。




 「私はここにいてもいいのかなぁ、」
 
 そう彼女が呟いたみたいだ。俺は彼女を抱えてカレンダーが貼ってある壁に背中をつけて、眠りに落ちた。

TIME LAG I LOVE YOU〜時空を超えた愛〜【第一章〜夜中の邂逅〜Part1】

TIME LAG I LOVE YOU〜時空を超えた愛〜【第一章〜夜中の邂逅〜Part1】

貧乏ゲーム好きというほぼ廃人化している谷山隆、謎の美少女との邂逅で人生が大きく変わるなんて、その時は思っていなかった、しかし徐々に彼は元の生活には引き返せなくなって行く事をまだ知る由もなかった、

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-16

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