ザ・クライシス

これは2004年に観た作品ですが、最初の方にUPできなくて
遅くから・・・。

2004/12/15・16  『ザ・クライシス』  文学座アトリエ

原作=ジョン・サマヴィル

訳=酒井洋子

構成=瀬戸口郁

演出=望月純

出演

大統領=原康義

国家安全保障問題担当補佐官=鈴木弘秋

国務長官=富沢亜古

国防長官=関輝雄

国連大使=川辺久造

司法長官=浅野雅博

ソ連問題担当補佐官=寺田路恵

CIA長官=瀬戸口郁

将軍=早坂直家

空軍参謀総長=林秀樹

元国務長官=坂部文昭

駐米ソ連大使=清水昭彦

ロイス=山田里奈

スティーヴ=粟野史浩

今年2度目の文学座アトリエ公演はとても見応えのある舞台だった!

出演者をご覧になれば判る通り文学座の中心になるベテランがずら?と揃っている。演出は今回も新人さんらしいが、これだけの出演者が揃えば演出家は口出し無用かもしれないね(笑)

これは所謂「キューバ危機」と言われている事実を基にしたお芝居なので実在の人物が多く登場するが、舞台では当時の役職名で呼ばれていて固有名詞が出て来る人は少ない。

しかし実名で登場するより、役職によってその立場の違いが鮮明にわかるのでこの方が良かったかなぁ、と思う。

舞台は大統領執務室、そこへ大統領と実習生スティーヴが話しながら登場する。しかしアメリカでは実習生が大統領とこんなにも親しく話が出来る国なのか??チョッと驚き!

2人が居なくなった執務室へ秘書ロイスが登場し書類を揃え終わると椅子に腰掛け化粧度を始め香水を振りまく・・・(笑)、実習生と秘書・・・、私はこの時クリントン元大統領の「不適切な関係」という言葉を突如思い浮かべてしまった?!(^^ゞ  だが再び大統領が登場し秘書から「CIA長官がお待ちです」と言う言葉からこの危機の舞台は始まる。時に1962年10月16日の事だった。

CIA長官が示した数枚の写真を見て驚いた大統領はすぐ本日の予定は全て取り消し、主要閣僚に集まるように命じた。

この会議を国家安全保障会議の緊急執行委員会「EX・COM」(エクス・コム)と命名し国務長官、国防長官をはじめとするアメリカの安全保証を担う要人達が、一同に会しこの重要課題を討議する「13日間」が始まる。その会議で示された写真はキューバにソ連がミサイル基地を建設している証拠、とされるものだったが大統領はまだ信じられない様子、だがCIA長官は疑いの余地はないという。

この時期のミサイルとは核弾頭が搭載可能となっている為、それはアメリカ本土が核の標的になる事を意味する。その核爆弾の威力はヒロシマの150倍の規模にもなるという・・・。

大統領は会議に出席している閣僚達に思いのままの意見を求めると軍部の人達はすぐに空爆を主張しそれに賛成する者、いやそれはまずいと反対する者、喧々諤々の議論になる。正に喧嘩腰!

キューバのミサイル基地の設置はトルコにあるアメリカのミサイル基地に対抗したものだろうという事、以前にキューバ侵攻が失敗している事など・・・、この会議の間に閣僚達も攻撃か?封鎖か?とその意見は揺れ動く。西側諸国の賛同も得られたので、大統領はこれ以上の建設資材を持ち込ませない為に、だがソ連を刺激しないように臨検と言う言葉使って海上封鎖という手段を選択し、アメリカ国民に向かってそのメッセージを伝える。だが刻々と情勢は変化する。クレムリンとのやり取りに意見がくるくると変わる閣僚達、だが資材の殆どはもう既にキューバに入っているらしい、との情報もありピンポイント空爆に皆の意見が傾きかけた、そんな折アメリカの偵察機U2が撃墜されたと報告が入りついに大統領は空爆を決意する。だが月曜日の朝まで待て!と将軍に命じる。それまでに準備を完了せよ、と・・・。だが軍部の閣僚が退場した後ソ連問題担当補佐官がソ連駐米大使ドブルイニンを呼んで最後の勧告をするように提案する。フルシチョフもけっして核戦争を望んでいないはず・・・。そしてその重大任務は司法長官で大統領の弟であるロバートケネディに命じられた。

やがて2人だけの会談が始まるがドブルイニンはミサイル建設はあくまでもキューバの自衛の為だと言って譲らない。だがボブ・ケネディはこちらは確証を掴んでいる、空爆までの時間の余裕はない、24時間以内に返答を・・・、と迫り、「原爆には勝者も敗者もないのです」 と静かに語る。心を動かされたドブルイニンはその見返りは、と尋ねたが見返りはありません・・・、が、NATOの承諾を得た後にトルコのミサイル基地を撤去する用意がある、と伝え2人の会談は終わるがその結果はどう出るか・・・?

秘書ロイスとスティーヴは核戦争になると予想し、絶望して教会へ祈りに来ていたが最後にニュースを聞きたいとロイスがスイッチを入れたラジオからフルシチョフからキューバのミサイル撤去のメールが届いた、と言うニュースが流れ、この舞台は終わる。

世界で最初に核爆弾を手にしたアメリカだったが、やがてソビエトも核を持つようになる。アメリカや西側諸国がトルコにミサイル基地を設置したのは孤立したベルリンを共産圏から守る為だったと言われているが、当然ソ連も対抗措置を考えたのがアメリカの向い側に位置しアメリカ全土を射程距離に収められるキューバにミサイル基地を建設する事だった。核実験を繰り返していた両国は核の恐ろしさは当然認識していたにもかかわらず、一触即発、不測の事態が起きれば核のボタンは押されるかもしれない!このキューバ危機では自らが開発したその核にアメリカ自身が怯えたのだ。

舞台でも軍部の二人は只々強引に空爆を主張するが、彼らは戦争する事でしかその存在を示す機会は無いから、何かと言えば戦争をしたがるが実際は彼らが活躍しない事を皆が望んでいることを理解すべきだね。今のブッシュ政権では軍部が強すぎたし大統領はそれを抑えなかった。ベトナム・アフガニスタン、そしてイラクと泥沼戦争になったが、それを指導したものは決して被害者にはならない。CIA長官は情報をもたらした当事者として攻撃する事に賛成、一番大統領に近い補佐官は皆の意見にぐらりぐらりと判断が変る(笑)

この人達が攻撃賛成派だ。これに対して司法長官であり大統領の弟でもあるロバートケネディは絶対に空爆はすべきではないと強く主張する。

国連大使の川辺久造さんが必死になって空爆を阻止しようと声を震わせながら説得する姿に心を打たれた。ソ連担当の寺田路恵さんも台詞は少ないもののソ連駐在で得た知識で適切な助言や判断をする姿はとても存在感があった。そして女性国務長官、これは外交担当のような存在らしいが、彼女も反対、こうしてそれぞれが自分の立場からの発言で台詞の飛び交う会議の場面が続くのだが・・・、スゴイね! 台詞は綺麗だし話している内容が頭にスーッと入って来る。議論ばかりのシーンが多いのにだれる事もなく2時間半の舞台に観客を最後まで引き込む力は、さす文学座?!と感心した。

ソビエト駐米大使ドブルイニンの清水さんとボブ・ケネディの浅野さんの緊迫したシーンが大変良かった。どちらも大声を上げることなく冷静にお互いの意見を述べ合うのだが清水さんは客席に向いているのでその表情は良く見えていて、これがホントにロシア人に見えたのだ! どこがどうとは言えないのだが確かにロシア人だった(笑) 終演後ロビーで清水さんにお逢いしたのでその事を言うと、見えましたかぁ?!と、嬉しそうに笑われ有難うございます、とお礼を言われてしまった(^^ゞ  これに反してお目当ての浅野さんは残念ながら終始後姿なんだ・・・、顔が観たかったなぁ?! ご本人いわく「良い顔をしているんですよ?」 だそうだ(笑) 浅野さんは大健闘だったが欲を言えば声にもう少し力強さが有れば良かったなぁと思う。大きな声というのではなく響き、と言えばいいのかな? これが訓練で出来るのかどうかは判らないが・・・。

若い二人、ロイスとスティーヴはこの舞台のアクセントのような存在であり、ロイスが持ち出した機密書類を読んで核の恐怖に怯える姿は国民の声の代弁者のような役割かな?だがベテラン俳優達の濃いお芝居の後では些か退屈な感じがした。

こうして危機を乗り切ったケネディ大統領だったが、この翌年、ダラスで凶弾に倒れ、ロバートケネディも暗殺される。一方のフルシチョフは、この危機が1つの複線となって、やがて、クレムリンを追われる事になる。

そして私にはアメリカがヒロシマ・ナガサキに落とした原子爆弾は日本が降伏寸前だと知っていて急いで行った核実験であり、人体実験である事に対して、心の底にどうしても拭えない怒りがある。

戦争は悲劇しか残さない。

ザ・クライシス

ザ・クライシス

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-09

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