トランスフォーム自販機

 街並みがオフイスビルから住宅地へ移行する辺りの道路。その曲がり角に、清涼飲料水の自動販売機がポツンと一台あった。
 平日の昼間、そこに軽トラックが横付けし、作業服を着た三人の男が降りた。なぜか作業服には何のロゴもなく、微妙に服のサイズも合っていない。男たちは鋭い眼つきで周囲の様子を窺った。
「兄貴、やっぱり日中はヤバくないすか。最近の自販機は、盗難対策がハンパないらしいすよ」
 一番若い男が、背の高いリーダー格の男に不安をもらした。
「昼間だからいいんだ。今の時間なら人通りも少ない。万が一、誰かに見られたって、『ああ、自販機の移設作業だな』って思うさ」
 もう一人のマッチョな髭面の男もうなずいた。
「兄貴の言うとおりだ。サッサと終わらせようぜ」
「わかりました、猪熊先輩」
 若い男は軽トラの荷台からバールのようなものを取り出し、自動販売機の下に差し込んだ。すると、突然機械の上部にオモチャのように小さなロボットの頭が出現し、警告を発した。
《自動販売機に対する破壊行為は犯罪です》
「わっ!何だこりゃ!」
 驚いて作業を中断した若い男の後頭部を、髭面がパンと叩いた。
「バカヤロウ。これぐらいでビビるんじゃねえ。人が来ねえうちに、手早くやっちまうんだ」
「へい、すいません、先輩」
 怯えたことを恥じたらしく、下唇を噛みしめた若い男は、腹いせのようにロボットの頭をバールのようなもので横殴りにした。カンという乾いた音とともにロボットの頭は吹き飛んだが、すぐにもう一回り大きなロボットの頭が出現した。
《これより捕獲モードに入ります。抵抗は無駄です》
 自動販売機本体の横からアームが一本出現し、若い男の腕をつかんだ。
「わあ、放せ、この野郎!」
 横で見ていたリーダーは、舌打ちすると、髭面に指示を出した。
「イノ、荷台に杭打ち用のハンマーがある。このブリキの腕をやっちまえ」
「ガッテンだ!」
 髭面は力任せに大きなハンマーをアームに打ち下ろした。ボキッという鈍い音ともに、アームは根元から折れた。だが、尚も自分の腕をつかんでいるアームを、若い男は必死の形相でもぎとった。
「チキショー、痣ができたじゃねえか」
 ロボットの頭が一旦引っ込み、さらに一回り大きな赤い頭が出現した。
《これより、戦闘モードに入ります》
 本体の商品見本の部分が左右に開き、丸い筒状のものがせり出してきた。
《ターゲット、ロックオン》
 三人はさすがに危険を感じたのか、一斉に後ずさった。
《発射!》
 シュパッ、シュパッ、シュパッ!
 連続音とともに、丸い筒から次々に缶ジュースが飛び出してきた。
「わーっ、わーっ、危ねえ。兄貴、先輩、逃げましょう」
「くそっ、やむを得ねえな。みんな車に乗れ!」
「ガッテンだ!」
 だが、三人が車に逃げ込むより早く、次の攻撃が始まった。
《ペットボトル魚雷、発射!》
 バスッ、ジュボジュボボーッ!
 バスッ、ジュボジュボボーッ!
 バスッ、ジュボジュボボーッ!
 炭酸の泡を吹き出しながら、大きなペットボトルが続々と飛んでくる。
「ヤバい、逃げろ!」
「へい!」
「ガッテンだ!」
 だが、一旦攻撃をやめた自動販売機は、本体の下からキャタピラーを出し、猛然と三人を追跡し始めた。
《止まりなさい。止まらなければ、攻撃を続行します》
 シュパッ、シュパッ、シュパッ!
 バスッ、ジュボジュボボーッ!
 三人は必死に逃げ回ったが、徐々に距離が縮まっていく。
 その時、騒ぎに気付いた住民が呼んだらしく、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 やがて到着したパトカーから警官が降りてくると、三人は口々に叫んだ。
「助けてーっ!」
「あいつをなんとかしてくれ!」
「自販機に殺されちまう!」
(おわり)

トランスフォーム自販機

トランスフォーム自販機

街並みがオフイスビルから住宅地へ移行する辺りの道路。その曲がり角に、清涼飲料水の自動販売機がポツンと一台あった。平日の昼間、そこに軽トラックが横付けし、作業服を着た三人の男が降りた。なぜか作業服には何のロゴもなく、微妙に服のサイズも合っていない...

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-28

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