希望少女。

これは少女と青年が話す不思議な夢のお話……。

 視界が狭まっていく。
 手を伸ばしても、あなたに届かない。
 あなたは消えていく。
 砂になって消えてく。
 私がどれだけ叫んでも。
 待って……。
 消えないで……。
 待ってよ……。
 お願い、私を一人ぼっちにしないで……。

「待って!!」
 少女は叫んだ。
 そこはさっきまでいた場所じゃない。
 少女はベットから体を起こし辺りを見回す。
 ここは見覚えがある、少女の部屋だった。
 少女の額には脂汗をべったりとついていた。
 さっきのは……夢?
 なんだか変な感じだったと少女は思う。
「……」
 少女は再び辺りを見渡した。
 誰もいない。少女だけの部屋。
 しんとしていて、物音一つしない。
 少女はなんとなく、自分の手で自分の体を抱く。
 夢の内容をはっきりと覚えているわけではないけれど、どうしてだろうか。
 少女はとても不安になる。
 もう一度寝るのは嫌だった。
 あの人はまだ起きているだろうか。
 少女はベットから下り、リビングへ行くとそこには一人の青年がいた。
 青年は少女の姿を見つけると優しく微笑む。
「どうしたの?」
「なんだか、変な夢見ちゃって……。あなたは?」
 少女が青年に尋ねると青年は机に置いてある自分用のマグカップを触りながら少し照れくさそうに言う。
「ぼくはあんまり寝付けなくて……。キミも暖かい飲み物いる?」
「ありがとう」
 少女は青年に頼み自分は青年が座っていたイスの向かい側の席に座る。
「はい」
 青年が少女の前に青年のマグカップと色違いのマグカップを置く。
 中には暖かそうな湯気がのぼる乳白色の液体が入っている。
「それで、どんな夢見たの?」
「え?」
 青年はイスに座りながら少女に尋ねる。
「だって変な夢を見て寝れなくなっちゃったんでしょ? ぼくも寝れないし、せっかくだから話してよ」
 そう言われて少女は少し考え込む。
「全部覚えてるわけじゃないの、断片的にしか……」
「それでもいいよ」
 青年は答える。
「……砂の世界にいたの」
「砂?」
「そう、それで私とあなたによく似た人がその世界を旅するの」
「他の人はいなかったの?」
「ううん、いなかった、と思う。……そう、誰もいなくて」
 少女の脳内で夢の内容がうっすらと蘇る。
 長いあいだ、旅をしていた。
 誰もいない世界で、旅をしていた。
 あなたは一人で、ずっとずっと旅をしていた。
 それで、私は……。
 少女の頬に涙が流れる。
「え、どうしたの?」
 青年は少女が突然泣き出し慌てた。
 少女はただ首をふる。
「違う……。違うの……」
 私は多くの人を消した。
 その方法はなんなのか。
 どうしてそんなことを今思ったのかはわからない。
 だが少女の中にある何かが必死に叫んでいた。
『消さないで、私の大切な思い出を、みんなの笑顔を壊さないで』
 悲しくて悲しくて。
 大声で泣いてしまいたいのに泣けなくて。
 一緒にいてくれたあなただって……。
 少女は思い出す。
 夢の最後で青年が自分の目の前で砂になってしまったことを。
 青年が消えてしまうことを。
 青年は少女の頭をなでる。
「え……?」
 少女が青年の顔を見ると青年は慌てた様子で手を頭から離す。
「あぁ、えっと。なんていうかさ。多分夢の中のキミは頑張ったんだろうなって思って……」
 青年の顔がだんだんと赤くなる。
「なんて、夢を見てないけど、なんとなく思ったんだ。不思議だよね」
 青年は自分用に入れた飲み物を勢いよく飲んで自分を落ち着ける。
「……でもその夢、本当に不思議だよね。砂なんて最近地下から見つかったばかりのものでしょう? なんでそんなものが夢に出てきたんだろう」
「さぁ? 私も実物の物は見たことがないし……。それにね、夢の中で出てきた私たちも少し変わってたのよ」
「え?」
「なんていうか……。肌が見たこともない色をしていて……。顔はね、本当にそっくりなのよ? でも服装も私たちが着ているものとはまったく違っていたし」
「へぇ、ますます不思議だね」
「本当」
 少女と青年は笑い合う。
「あ、ねぇ。その夢に出てきたぼくに似てる人ってどんな人だったの?」
「そうね……」
 少女は目を閉じ、青年の顔を思い出す。
 砂になってしまう前。
 あなたと話した最初で最後の会話。
 あなたは手を止めて、振り返って――。
「夢の中のあなたも、最後まであなたみたいに希望に溢れた顔で、笑っていたわ」
 少女がそう言うと、青年は少し照れくさそうににっこりと微笑んでみせた。

                                   the end

希望少女。

希望少女。

高3。終わり。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-28

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