来客

明転
灯りのついたリビング。上手裏に玄関(という設定)。下手にキッチンとダイニングテーブル。中央付近奥に階段。舞台中央に男が一人座り、まっすぐ客席側を見ている。

娘「(上手裏から声だけで)ただいまー」
娘、入ってくる
男「あ、お帰りなさい」
娘「(驚き、訝しむ)」
男「お邪魔してます」
娘「(客席に向かって、独白)居間には知らない男の人がいました。しかも母が見当たりません。……少しびっくりしましたが、よくあることです。両親が宴会好きな人で、よく友達やら後輩やらを連れてくるんです。今回もそれでしょう。私は気にしないことにしました。(男に向き直り)あのう……」
男「エリカさんなら、買い物に行ってます」
娘「ああ、なるほど。じゃあ、ごゆっくり」
娘、階段で二階へ上がる

母、帰る。両手に買物袋を提げている
母「ただいまー、カナコ早かったの……ね……?」
男「お帰りなさい。お邪魔してます」
母「(客席に向かって、独白)居間には知らない男の子がいました。」
娘、下りてくる
娘「あ、お母さんおかえりー」
母「(娘に)ああ、カナコ、ただいま。 (独白)少しびっくりしたけど、娘の友人のようです。あの子は同年代は勿論、後輩とか先輩とも仲が良くて、男の子を連れてくることもしょっちゅうですから。(キッチンへ向かい男の前を通りすがりに)ごゆっくり」
男、人の良さそうな笑みで会釈を返す

父、帰る
父「ただいまー」
娘「お父さんおかえりー」
母「お帰りなさい」
男「お邪魔してます」
父「ん。」
父、二階へ上がり着替える
娘「おかーさんゴハンまだー?」
母「もうすぐだから黙って待ってなさい」
娘「おなかすいたー!」
母「はいはい、もうすぐだから」
男「あ、じゃあ僕はそろそろ……(立ち上がる)」
母「あら、食べて行かないの?」
男「えっ……いいんですか?」
母「いいのよいいのよ、いっつも皆食べていくんだから。もうそのつもりで準備してるわよ」
男「あ……では、お言葉に甘えて」
母「はーい。すぐ出来ますからねー」
男、座りなおす。またまっすぐ前を見つめる
娘はスマホをいじり始める
母は夕飯の支度
父、下りてくる
父「……なんだ、お客さんが来てるのにテレビも点けちゃいないじゃないか。すいませんね、退屈でしょう」
父、テレビを点けソファ(または座椅子)に座る
男「ああ、いえ、すみません。お気遣いありがとうございます」
父「いやいや。母さん、夕飯まだか?」
母「だからもうすぐだって言ってるじゃないですか」
父「言ってたか?」
父、娘を見るがスマホに夢中で気付かない。そのまま目線を男に流す。男は曖昧に笑って宥める。
母「はい、どうぞ〜お待たせしました。(男に)君も、ホラ、どうぞ。座って?」
男「ありがとうございます。失礼します」
テーブルを囲む四人。手を合わせる。
四人「いただきます」

暗転

夕食を食べ終わった後の四人
娘はスマホに、父はテレビに夢中
男は母の洗い物を手伝っている
母「悪いわね〜手伝ってもらっちゃって!」
男「いえ。ご馳走になったのでお礼ですよ」
母「そんなのいいのに〜。でもありがとう助かるわ〜!(娘に)誰かさんにも見習って欲しいもんだわ〜!」
娘、無視
洗い物を終える
男「本当にご馳走様でした。今日はもう失礼します」
母「あらもう?なんかごめんなさいねえお構いもしませんで」
男「いえ、そんな。お邪魔したのはこちらなので。では、失礼します。おやすみなさい」
男が出ていき、母が見送る。
母、戻ってきて娘に
母が「ちょっとあんた。お客様ほったらかして携帯いじってんじゃないよ」
娘「携帯じゃなくてス、マ、ホ」
母「そういう話してんじゃないの。ちゃんとお相手しないと失礼でしょうが」
娘「はあ?なんで私が相手しなきゃならないわけ?お母さんのお客さんでしょ?」
母「は?あんたの友達でしょ?」
娘「え?」
母「……え?」
テレビを見ながら聞いていた父も振り返り、顔を見合わせる三人。次第に恐怖に染まる。
娘「え、じゃあ、あの人…………誰……?」

暗転

灯りのついたリビング。舞台中央に男が一人座り、まっすぐ客席側を見ている。

娘「(上手裏から声だけで)ただいまー」

暗転

来客

来客

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-26

CC BY-NC-ND
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