うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(3)
三 おしっこ王子発見される
休憩時間になった。幸一君が席の側にやってきた。
「さっきはどうしたんだい。何か面白いことでもあったのかい」
クラスメイトには笑いの犯人はわかっていた。僕は次の授業の三数の準備をしながら
「ちょっと思い出し笑いだよ。昨日見たアニメの番組のことが急に頭に浮かんだんだ」
その会話に隣の席の京子ちゃんが突然割り込んで来た。
「山本君ったら、授業中、胸ポケットばかり見ていたわよ」
しまった。京子ちゃんには見られていたんだ。
「そんなことはないけどね」僕は平静を装う。
「ポケットに何か隠しているのかい」
幸一君が僕の胸ポケットを覗き込む。
「いや。何もないよ」僕は右手で胸ポケットを抑えようとした。それより先に幸一君が王子を見つけた。
「なんだい、それ」
見つかってしまったらしょうがない。僕はゆっくりとおしっこ王子をポケットから取り出した。掴んだ瞬間、ぶよぶよとした感触と生温かさを感じる。おしっこ王子を机の上に置く。おしっこ王子と目が合う。お願いだからじっとしていてくれよ。目で合図をする。おしっこ王子はウインクで返事をする。
「あら。ゆるキャラね」
京子ちゃんが手を伸ばしてきて、おしっこ王子を掴む。おしっこ王子の顔がゆがむ。
「なんだか、やわらくて、あったかい。それに顔がカワイイ」
京子ちゃんは自分の頬におしっこ王子をあてる。カワイイと言われたものだから、おしっこ王子の顔は黄色から少し赤く染まっている。京子ちゃんはまさか僕のおしっこだとは思っていないだろう。それは死んでも言えない。
「ねえ、なんて言う名前なの。このゆるキャラ?」
まさか。おしっこ王子とは言えない。
「いやあ、僕も知らないんだ」と首を傾ける。
「そう。どこで売っているのかしら。あたしも欲しいな」
京子ちゃんも毎日会っている?おしっこだとは絶対言えない。
「パパが会社で貰ったものだから、どこで売っているか知らないんだよ」また、また誤魔化す。
「そうなんだ。残念。このゆるキャラ一個しかないの。もう一個あったら、わたしも欲しいんだけど」
京子ちゃんはおしっこ王子のことがよっぽど気にいったみたいだ。王子の体を握って頬ずりしている。
「お肌にもいいみたい」
おしっこ王子は顔が真っ赤になり、今にも噴火しそうだ。
「パパに聞いてみるよ。もし、もう一個あったら、貰ってきてもらうよ」
「ありがとう」
本当は、京子ちゃんも持っているはずだけど、それは言えない。
授業開始のチャイムが鳴った。京子ちゃんは僕の机の上におしっこ王子を置くと自分の席に座った。幸一君も席に戻った。おしっこ王子を見る。女の子に触られるなんて初めてのことだからか、まだ固まったままだ。
「ゆっくりやすんで」おしっこ王子を胸のポケットに入れた。
「ふう」ため息が聞こえた。緊張の糸が切れたみたいだ。ポケットが少し膨らんだ。おしっこ王子は座りこんだようだ。
「王子はまだ戻っていないのか」
うんこ大王がリキッド班の隊長に確認する。
「はい。まだ戻られていません」
隊長は俯いたままだ。
「仕方がない奴だ。もうすぐ給食の時間だろう。早く戻らないと仕事に差し支えるじゃないか」
「仕事に関しては大丈夫です。私も隊員もおります」
「その点は安心しているが、組織の長たるものがいつまでも不在ではいかんだろう。よし、わしが呼び戻してきてやる」
大王がお腹から出て行こうとする。
「大王様。少しお待ちください」
隊長が慌てて大王の前に立ちふさがる。
「どうした?」
大王が首をひねる。隊長が進言する。
「今から王子様を探しに行っても、大王様も王子も給食までに戻って来られない恐れがあります。二人とも不在のまま、吸収活動に取り組まなければならなくなります。王子様を探しに行くのは、給食が終わってからでもよいのではないでしょうか。それに、王子様も給食の時間はわかっていると思います。戻って来られるかもしれません」
「そうだな。そうするか。もし、王子が給食の時間までに戻って来なくても、リキッド班、よろしく頼むぞ」
「アイアイサー」
うんこ大王とおしっこ王子(王子学校へ行く編)(3)