復讐の御札

「本当に怖いものは人間かもしれない。」
私が思うに人間という生き物は本当に恐ろしく、気味の悪いものだ。
死というものは恐怖の対象であり、日々人間はそれに怯えている。
しかし、世の中で死んで行く人々を見てみると、大概が人間が原因で死に至っている。
自殺、他殺、事故、戦争。
結局一番恐ろしい[死]を引き寄せているのは人間だと気づかされる。

沸点

この家に越してきたのは、今からちょうどひと月ほど前になる。
日当たりはよく、純和風な雰囲気の部屋はとても気に入って、居心地がいい。
3歳の息子と、同い年の妻と、順風満帆に暮らしていて、幸せと言うものを絵に描いたような家庭だ。もちろん仕事は忙しく、あまり妻と息子にかまってやれないのが難点だ。都内中心部から少し離れた土地とはいえ、これだけ綺麗で、駅近という環境にあれば、当然家賃も高い。
それでもいい物件だし、家庭も上手く言っていて、私は幸せだった。
夜遅くに帰宅すると、スヤスヤと眠りこける二人の顔に癒される。テーブルには冷めたご飯と、妻からの手紙が置いてある。
「お疲れ様。冷蔵庫にサラダが入ってるから、それも食べてね。」
妻の、こういう気配りができるところが実に愛おしい。
妻が妙なことを言い出したのは、引越ししてから1週間経ったころだ。
「ねえ、ここの家何かいるわ。」
実を言うと妻は昔から霊感があり、よくそういった類のものを視えるという。
以前住んでいた家も、それが原因で引っ越すことになったのだ。以前の場合は住んで2年ほど経っていたし、ちょうど更新のこともあったので引越しができたが、今回はまだ1週間しか経っていない。経済的にも、時間的にも、新しい住まいに移るのは難しい。
「そんなことを言ったって、まだ越してきたばかりじゃないか。そう簡単にあちこち移動はできないよ。」
そう諭すと、妻は見たこともないような怯えた顔で、私に強く説明した。
「あなたは仕事でほとんど家にいないから分からないかもしれないけど、私はずっと家にいて家事をしてるのよ!この家は本当におかしいわ!どんなにお金がかかってもすぐに引っ越すべきだわ!!」
ものすごい形相である。
しかし、そう簡単には引き下がらない。なぜなら私自身は、その霊感というやつが全くなく、何も視えないし何も聴こえない。私に言わせれば、霊など存在しないに等しいのだ。いつもは妻のわがままも聞いてやるとこだが、今回はさすがに聞き入れることはできない。
そのうち、言い合いは白熱し、怒鳴り合いへと変わった。
「だったら、君が働いて引越しの資金を稼げばいいじゃないか!それだけのお金を貯めるのがどれだけ大変かわかるだろう!」
隣近所にも聞こえるくらいの大声だ。
その時のことは、カッとなり過ぎたせいか、あまり覚えていない。しかし、妻は家事育児の、私は仕事のストレスをぶつけ合うように、酷く罵るようなことも平気で口にしていた気がする。

あの喧嘩から4日が経った。
私たちは息子を挟むようにして、和室で並んで寝ている。
あれから妻は口を利かなくなった。そのうえ、家事もまったくやらないので、生活はかなり苦しくなった。
私のせいといえばそれまでなのだが、働きながら息子の世話をして、家事までやるとなるとさすがに骨が折れる。
「なぁ、まだ怒ってるのか?」
夜に目を瞑りながら、息子の向こう側にいる妻に問いかけたが、ものの見事に無視されてしまった。
ふと、ため息をつきながら、天井に目をやると、天井の隅っこに小さな御札が張ってあることに気がついた。
よく目を凝らさないと見えないほどの大きさだ。
腕時計くらいの大きさだったから、今まで気がつかなかったのだろう。
私は霊に対して興味もないし、どうでもいいとさえ思うような人間だが、さすがにこれは薄気味悪かった。
その御札をどう処理するか、妻と相談したくても、耳を貸してはくれないと思う。
今にも「だから言ったのに。」と聞こえてきそうだ。
しかしもう時間も遅い。御札は明日何とかしよう。
寝返りをうって妻のほうを向くと、妻が大きく目を見開いて、こちらを凝視している。
私の身体に鳥肌が広がった。
いや、なにも驚くことはない。妻はもう一生動かないのだから。
正直、霊だのお化けだのうんざりだった。毎日働いて、この身を犠牲にすることで幸せを感じていたのに、偉そうに引越しをするべきだなんて聞きたくもなかった。
私は幼い子供から母親を奪った罪人だ。
遺体は腐敗が始まり、悪臭を放っている。そろそろ遺体のほうも処理しないと。
目を瞑って遺体の隠し場所を考える。
樹海はどうだろうか?いや、海に沈めたほうがいいだろうか。それとも、バラバラにして、少しづつゴミと一緒に処理したほうが確実なのか。
いずれにしても、妻の顔をもう一度くらい見ておこう。かつて、私のことを愛し、私に愛されたものの顔は忘れたくない。
そう思い、再び妻のほうを見る。
・・・・・・・・・・・・いない。
そんなはずはない。確かに数秒前までは息子の向こう側にいたはずなのに。それに、遺体は動くことはできないはずだ。
呆気にとられて固まっていると、息子の顔がグリンとこっちを向いた。
「パパは復讐されるよ。いけないことをしたんだからね。」
息子は私にそれだけ伝えると、目を閉じ、顔も元の位置に戻った。
冷や汗が止まらない。
恐る恐る御札のほうを見ると、そこには死んだはずの妻がいた。天井に蜘蛛のように張り付いてこちらを睨んでいる。
「ダカラ言ッタノニ・・・・・・」

復讐の御札

どうも、奇術道化師JIGSAWです。
一作目の「ドールパニック」は読んでいただけましたでしょうか?
今作は、前作に比べ、ホラー要素の強い作品になっています。
小説のように、文字だけで読んでいる人に、その場面を想像させるのは容易ではありません。
私は作品を書くにあたって、読んでくれた方が、ふとした時に思い出してしまい、背筋がゾッとするような体験をしていただければという考えを念頭に置いています。
ただでさえ、刺激の少ないマンネリ化した日常に、良くも悪くも多少の刺激が与えられたら嬉しいです。
さて、今回の作品は幸せな家庭を作って暮らす、旦那さんの狂気と、僅かな心霊現象がミックスされたものです。
まえがきにあるように、本当に怖いのは人間かもしれないと、そう思わせるような内容になっています。
大喧嘩をしたとき、主人は奥さんを殺してしまうんですね。しかもその後も何日か遺体とともに過ごしています。
その殺された奥さんが御札の力、つまり心霊的な、オカルト的な力によって主人に復讐するという物語です。
この作品を読んで、あなたは人間と霊、どちらが怖いと感じましたか?
次回は、またいつになるか分かりませんが、是非楽しみにお待ちください。
最後になりますが、「まえがき」、「あとがき」、「概要」の3項目に関して、あまりどう書いていいか分からないので、気合が入ってません。ごめんなさい。
それと、読んでくださった方々、ありがとうございました。
またお会いしましょう。

復讐の御札

幸せな家庭をもつ男。 霊感の強い妻。 謎の御札。 真の恐怖とは何か。 戦慄が走る奇術道化師JIGSAWの第二作目。 つい思い出し、恐怖に駆られてしまうようなホラーファンタジー短編小説。 お楽しみください。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-23

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