流されて忍者
震災から一年。また何も変わらない日常を過ごす大学生4人に、400年前から忍者がタイムスリップしてくる。
どこか抜けてるその忍者は、仙台藩が被った慶長津波の被害を家康公に伝えるという特命を帯びていた。
ナレーション
何事もなかったかのような日常が続いている。
今日も僕たちはその「日常」というやつを過ごしていて、
明日も明後日もきっとそうなんだろう、と思っていた。
その日常は突然思いもしない形で破られる。
僕たちは、忍者に出会った。
(宗太の家に四人が向かっている)
駿「あーあ、春休みも今日で終わりかぁ」
苑子「終わってみるとあっという間だよねー」
宗太「2ヶ月もあったんだから文句言えないけどな、正直」
北杜「小学生って今思うと頑張ってたんだな…」
駿「そうだよな、空きコマないし毎日授業行ってたし休みも短いし、
小学生頑張りすぎだろ!」
宗太「大学生が頑張らなすぎなんだと思うけどな、はいここがうちね」
苑子「おー、ちょっと立派そうじゃん!」
駿「春休みお疲れ様鍋パ、盛大に開催できそうだな!」
宗太「だな、うちのアパートさ高台にあるからけっこう見晴らしもいいんだよ、ほら、こっから広瀬川も綺麗に見えるし…、あれ北杜どうしたの」
北杜「いや、あそこ…だれか溺れてるように見えない?」
苑子「どこどこ?」
北杜「あれ、あのでかい岩の脇…」
宗太「真っ黒だな…ゴミ袋とかじゃないの?」
駿「いや!今ちょっと手みたいなの見えたよ!あれ人だよ!」
苑子「え、どうしよう、溺れてるのかな…」
北杜「のんびり川遊びしてるようには見えない…よね…」
宗太「とりあえず行ってみよう、あそこの階段から川に降りられる」
一同、階段を降りて川岸へ
苑子「あ、ちょうどすぐそばまで流れてきてるよ!」
北杜「このままこの岸につきそう…だね」
駿「俺川入ってこっちに連れてくるわ!」
宗太「ま、マジか気をつけろよ」
駿、溺れてる人を川に引き寄せる
駿「(せきこみながら)大丈夫すか?」
宗太「気絶してるみたいだな」
北杜「じゃあここは苑子の人工呼吸で」
苑子「えーちょっと…てか、この人の格好…だいぶ変わってるよね」
宗太「変わってるっていうか、忍者だな」
駿「俺も思った!やっぱ忍者だよねこの格好」
北杜「いや…この平成の時代に忍者っておかしくないすか…」
忍者「ごほっごほっごほ(せきこみながら水を吐き出す)」
苑子「あ、忍者生き返った!」
北杜「いや忍者で決定っすか…」
駿「忍者さん大丈夫ですか?」
忍者「…拙者はどこへ…お主らは何者でござるか…」
宗太「拙者って…あ、ぼくたちは通りすがりの大学生です、あのー、あなたはどちらからいらしたんですか?」
忍者「仙台藩主伊達政宗公に仕える忍のタビと申す、ハッついつい名乗りをあげてしまった」
駿「ほら、やっぱり忍者だよ!」
北杜「でも名乗っちゃってるけど…」
宗太「そんなに忍んでないよな」
苑子「忍者さんは、江戸時代から来たんですか?」
忍者「江戸時代?…たしかに江戸の家康公が将軍の座にある故、江戸の天下であるのかもしれぬが…」
宗太「年号は何ですか?今は平成の世なのですが」
忍者「平成…聞きなれぬな…今は慶長16年であるはずだが」
北杜「慶長というと…関ヶ原があった時代っすね…」
駿「検索かけたら1611年だって。今から400年前だ!」
忍者「400年前…とな?つまり、拙者は、400年も先の未来におると申すのか!」
宗太「そういうことになりますね…ここは、2012年の仙台です」
忍者「おお…なんたる……」
苑子「忍者さんは、何をされるところだったんですか?」
忍者「拙者は政宗公の命を受け、江戸の家康公に仙台藩を襲った津波のむごすぎる被害を伝えに向かうところでござる…一刻も早く伝えなくてはならぬ!」
駿「津波…」
忍者「そうだ、道中考えておったのだが、この仙台平野には数百年に一度必ず津波が襲うぞ!お主らも早く備えたほうがよい!」
沈黙
駿「あ…」
北杜「それが…」
苑子「実は、もう、津波、来ちゃったんです。ちょうど去年」
忍者「…それは…なんたること…おお…(うなだれる)」
駿「忍者さん…」
宗太「とにかく、一度うちに連れていって休んでもらおう。このままじゃ風邪引いちゃうし、
落ち着いて話聞けば、何か元の時代に戻るヒントもあるかもしれないしな。」
苑子「そうだね」
宗太宅に付く。忍者は疲れて寝ている
宗太「まさかうちの来客用ふとんを忍者が使うことになるとはな…」
北杜「さすがに予想外っすね…」
苑子「忍者さん、疲れきってたんだね、寝てるみたい」
駿「忍者さん津波って言ってたよね?伊達政宗の時代にも津波ってあったの?」
宗太「うん、僕もこの前の大震災があってから知ったんだけど、慶長16年にね、
慶長津波っていう仙台平野まで届く大津波があったんだよ。伊達政宗はやっと各地で戦争を収めたと思ったところ
で、この津波に遭ってる。」
北杜「伊達政宗の仙台藩のまちづくりは、災害復興から始まってるんすよね」
苑子「そうだったんだ…知らなかった…」
忍者「ここは…」
駿「目覚ましたみたいだよ」
宗太「僕の家です。安心して休んでください」
忍者「家…か…この強固な壁といい、城のようでござるな…これは巻物か?巻物の類がかくのごとく積み上がっている…
お主はさぞや高貴な身分の者なのでござるな…」
宗太「ふつうのサラリーマンの息子ですよ。全然偉くないです」
忍者「さらりぃまんというのは…?」
駿「そうだなー、足軽みたいなもんですよ」
苑子「そう?」
北杜「俺今足軽目指して就活してるんすか…なんか…淋しいわ」
忍者「足軽の息子がこのような城を持っているとは、仙台藩はさぞかし栄えておるのだな」
宗太「うーん城というかアパートっていうんですけどね。最近はみんなこんなところに住んでますよ」
忍者「それは大層な…時代になったものでござるな…」
苑子「言われてみればそうかも」
忍者「お主らが召している着物もずいぶん奇っ怪だが…」
駿「あぁこれは洋服って言って、今はみんなこういう服着てるんですよ。もともと西洋の人たちが着てたのをマネしてるから洋服っていうんです」
忍者「西洋…というと欧州の国々のことか?では、この時代には西洋との商いが行われておるのでござるか?」
宗太「そうですね、使ってるものの7割くらいは外国のものになってるかもしれないです」
忍者「おぉ…左様でござるか…となると、支倉常長公の渡航はきっと大成功に終わったのでござるな!」
駿「支倉常長って教科書でみたな…」
北杜「支倉常長は1613年には無事ローマに着いて、ローマ教皇と謁見を果たしましたよ」
忍者「それは喜ばしい!政宗公は、この災害から立ち直るには海の向こうの国々の協力が不可欠と、
そのためには常長を欧州へ送らねばならぬと常常申しておられた…やはり政宗公は正しかったのだな!」
北杜「そうっすね、実際今の仙台の繁栄は政宗公のおかげなところありますよ」
忍者「そうかそうか!しかしな、現在の仙台藩はかような考えが露ほども浮かばぬ惨状、一刻も早くそのことを伝えねばならんのだが…」
苑子「忍者さんがどういう状況でこっちに来たのかが分かれば、同じことをすれば帰れるかもしれないんじゃない?」
宗太「確かにそうかもな、忍者さん、この時代に来る直前のことって覚えてます?」
忍者「直前か、拙者は忍といっても実はなりたてでござるのだが、旅に出て数分、非常に心細くなったのでな、江戸までの遠い道のりの安泰を思って一度地蔵様のもとへお参りに向かったのだ。」
駿「あ、けっこう小心者なんだ」
苑子「そういうこといわない」
忍者「そこの地蔵に手を合わせたところ、拙者の隠しから結び飯が転がり落ちてしまってな、その結び飯を追っていったところあの川のほとりで足を滑らしてしまい、
それ以降の記憶はないのでござる」
北杜「忍者さん、たぶんこのお仕事向いてないかもしれないですね…」
宗太「うん、ちょっとな…とにかく、お地蔵さんに手を合わせたあと、川に滑り落ちてここにきちゃったんですね?」
忍者「左様でござる」
宗太「そのお地蔵さんの名前とか覚えてますか?」
忍者「たしか、萩月(しゅうげつ)神社というところのふもとの…」
駿「あぁ、そこならこの近くにまだ残ってるよ!」
北杜「じゃあその近くに行ってみれば何かわかるかもな!」
忍者「左様か!ではさっそくその場所へ」
宗太「忍者さんその格好で行くのはダメです、それパジャマって言って寝るときしか着ないんです」
忍者「そうであったか、かたじけない、だがこの着物非常にまたぐらのあたりの風通しがよくてなグフッ(苑子にみぞうちを殴られる)」
苑子「女性の前で股ぐらとかはしたないこと言わないでください」
忍者「か、かたじけない…最近のおなごは威勢がいいのでござるな…」
宗太「そうですよ、女性が強すぎるので男性はみんな草食なんです」
忍者「この時代の男は草しか食えぬのか…それはやはりこたびの津波の影響か?」
宗太「生真面目なボケですね…草食系男子と津波は関係ないので安心してください」
苑子「まだ忍者さんの服ちょっと乾いてないみたい…ドライヤーで乾かすね(ドライヤーのスイッチを入れる)」
忍者「一体どうしたというのだこの音は…あのカラクリはなんだ、恐ろしい」
北杜「あれはドライヤーっていってスイッチを入れると熱い風を送ってくれるんですよ」
忍者「どらいやぁ?すいっち?ほお…未来というのは、ずいぶん手間のかからない時代になったのでござるなぁ…」
駿「そっか、俺らが当たり前に使ってるものって、江戸のひとたちからしたら信じられないもんなんだよな」
苑子「はい、だいたい乾きましたよー!忍者さんどうぞ。」
忍者「かたじけない。しかしこれほど生きやすい世の中がくるのかと思うと、拙者も少し力が湧いてくるよ。」
苑子「それはよかったです」
忍者「ただ、お主らはこのそれほど満足そうではないな。それだけが気がかりだ」
宗太「……そうですね。」
駿「じゃあ着替えも済んだし、忍者さんが行ってた神社向かおっか。」
萩月神社前
忍者「しかしこの土地に一年前に地震があったというのは本当なのでござるか?みなまるで平気に生活しておるように見受けられるが」
苑子「そうですねー、土木工事の技術がずいぶん発展したから、壊れた道路とかヒビが入った建物とかはあっという間に直してもらえたんですよ」
駿「もともとみんな建物が鉄筋で揺れに強かったから、家がそんなに壊れなかったってのもでかいですね」
忍者「ほう、鉄筋というのは…?」
北杜「鉄で建物の柱を作るんです。そうするとちょっと揺れたり火がついたりしてもなかなか壊れない丈夫な建物ができるんですよ」
忍者「ほう、鉄でな。なるほど、国に戻る際にはぜひ政宗公にお伝えしよう」
宗太「それと…今の世の中って情報が回るのがすごく早いんですよ。仙台から東京は一時間くらいで行けるようになったし、情報を伝えるだけなら、5秒くらいでできるんです。」
忍者「それは…飛脚の足腰がものすごい発達を遂げた、ということでござるか?」
苑子「馬のかわりをする鉄の乗り物が出てきたり、電波というのであっという間に手紙を運んでくれる道具が出来たりしたんです。これがそうですよー(Iphoneを出す)」
忍者「となると…これが拙者の子孫ということになるのであろうか…無粋な顔をしている…」
宗太「そうかもしれないですね。(愉快そうに)でも、情報が早く回るようになったぶん、忘れられるのもきっと早くなったんです。
だからまだ一年しかたってないのにみんな忘れ始めてる。だからこんなに平気なのかもしれないです。」
忍者「それもまた淋しい話でござるな…少くとも拙者は、この津波のことは一生忘れぬよ。お主たちのことも決して忘れぬ!」
駿「俺も忍者さんのこと絶対忘れないですよ!つうか忘れようがないです!」
忍者「左様か。それは有難いでござる。」
北杜「忍者さんのお祈りしたお地蔵さんってあれですか?」
忍者「おお、まさにこの地蔵でござる!」
苑子「ここにお祈りすれば、何か起きるんじゃないかな?」
宗太「うーん…あ、忍者さん。よかったらこれ持っていってください。」
忍者「この平たい石のようなものはなんでござるか?」
宗太「方位磁石です。Nって書いてあるとこが北で、常に北を指してくれるんです。江戸に行くときに役にたつかもしれないので」
忍者「これは優れ物だな!かたじけない!ありがたく頂戴する。」
宗太「じゃあ忍者さん、しばらく僕たち離れてますね、その方が帰れる可能性高い気がするし」
忍者「承知した!もう会うことはないかもしれぬが、お主らのことは決して忘れぬからな!」
苑子「うん、忍者さんもお元気でね!」
駿「じゃあまた!」
北杜「遠くから見てようか」
苑子「心配だしね」
駿「見て、お祈りしてる…あ、何か落とした!
北杜「方位磁石だ!」
苑子「なんかデジャブ…忍者さん転がってる磁石追って川入っちゃうよ!」
ザバーン
駿「やっぱり…助けにいこうか?」
宗太「いや、あの橋くぐるまで見てよう」
北杜「いや、やばくないっすか…」
駿「あ、でも忍者さん」
苑子「消えちゃった…」
宗太「このあたりって昔から変な言い伝えあってさ、神かくしの話とか多いんだよ。もしかしたら、あの橋が時空のひずみなのかもしれない」
駿「もしかして宗太わざと落として転がりそうな方位磁針渡したのか?」
宗太「ノーコメント」
北杜「こいつ悪人だわー」
苑子「無事帰れてればいいけどねー…」
苑子「あれ、見て、あんなところに石碑なんてあったっけ?」
宗太「いや、見たことないぞ…」
駿「記念碑 此の土地に津波と人の温もりがあったことを忘れぬ為に 慶長16年 忍者 タビ」
北杜「名乗っちゃってるよ…」
宗太「やっぱり忍んでないな」
苑子「でも…よかったね」
宗太「だな」
駿「よしじゃあ宗太んちで鍋パだ!もう日ぃ暮れるぞ!」
北杜「待ってました!」
苑子「最後に着いた人買出し2往復ねー」
宗太「はいはいはしゃいで川に流されねーよーに」
また日常が始まる。
流されて忍者
ラジオドラマの脚本をイメージして作成したので、だいぶ短いです。
まだまだ修業中…