Amazing world

これは実際にあった誰かの話第2弾
エッセイではありますが、所々詩的表現がございますので、ご注意ください

タイトル意訳は『驚く(もしくは素敵)世界』

本当の愛の意味は何処にあると思う?


ふと夜空に溶けて行く煙草の煙を目で追っていく
既に肌寒いこの10月 時間は午後6時過ぎ。正直11月の昼間の様な寒さの中、ただ薄いYシャツ1枚と上に軽くカーディガンを羽織っただけでは正直寒い。家から近場の場所と言えど正直堪える物もあるだ
ろう。
しかし、今の自分にはそんな感覚など微塵もなかった。
甘ったるい匂いに対し、苦い味を口内で味わいながら、ただ煙をふぅ、と軽く吐く。
これは儀式のような物だ
非常に感情的な自分を落ちつかせる為の。そして何より、何事にも囚われない為のリセットボタン。
紫煙を曇らせ、視線を上に向ければ、煙は消えて行く。まるで人の感情の移ろいの様に
ゆらゆらと揺れてフッ、と消える
そんな儚さが更に何故か私の胸を締め付けた

思う事はただ1つ 愛しい人の存在に対して、だ。
これはそんな馬鹿な女の話

いつからだろうか?皮肉にも1人の存在を目に追っていたのは
つい最近までお遊びの恋愛に現を抜かし、現実に目を背けていたというのに。そんな遊び人である女を気に留めたとある人物。
振りかえれば最悪の出会いで けれどもその最悪な出会いであったからこそきっと自分は今もいれるのだろう
出会いは1カ月前の9月
「んな顔してんなよ」
「初めまして」と言う訳でもなく、ただただこちらに言葉をふっかけてきただけ故に半分無視していたというのにその人物は、女の内側にドカドカと土足で入ってくる。
正直ちゃらちゃらした様子に嫌な顔をしつつもまだその人物は女に声をかけてくる。
普段の彼女であれば、適当に流しただろう。だが今は違う。
つい数カ月前の7月辺りであろうか 男にこっぴどくフられ、挙句自分を救い上げてくれた人に対し好意を持つも、それさえ呆気なく消えたばかりなのだから。
所詮、この世に愛など存在しないと思い、割り切ればよかっただろう。だが、そんな事もできない馬鹿だからこそ、より一層人との繋がりを求めた。
たった一夜でもいい 「愛してる」と言ってくれるのならば
たった数時間でも構わない 凍えたその手を握ってくれるというならば
故に彼女の中での"恋愛ごっこ"は加速していった
所詮女――岬麻衣にとってはコレもそれに過ぎないはずだった
そんな中でコレ、だ。出会い方は最悪、第一印象もあまりいいとは言えないし、正に最悪と言った感じで、所詮一夜で別れを告げる程度の相手だと思っていた、のだが、何故か相手も相手で中々引き下がらなかった
時には「可愛くない」
時には「素直でいろよ」とか顔を背ければ「こっちを見ろよ」とか
けれども何故かどこかささくれ立つ
どれを取っても何故か他の人間がいるというのにその人物――藤井直樹はどこか麻衣を特別視しているのだ
確かに藤井は社交的なのか、誰とでも分け隔てなく話すが、何故かそんな暴言を吐くのは麻衣に対してだけ。言ってしまえば小学生の男子が好きな女の子に「好き」と言えないから苛めて気を引こうとし
ている行動に似て取れる部分も多々ある。
(そんな訳ない)
麻衣は自ら自身の想いと相手の気持ちから目を背けた
所詮愛など脆い物 そんな事は自分がよく知っているはずだ。
優しくされてほだされた挙句に結局は何もなく「友達でいよう」だとか、その場その場の関係だけで、結局儚い想いに恋をしているという幻想を抱くなどもう散々だと言うのに
だったら捨てればいい
辛いなら、一夜の関係だけでいいならば、こんな気持ちなど捨ててしまえばきっと楽になれる――そう考えては夜空を見上げ、甘ったるい紫煙を吐き出す。
一応、麻衣は煙草を吸うにはそれなりの好みと言う物を持っているのだが、今吸っているBlack Stone Cherryはある意味異例であった。
タールが重くないと嫌だとか、メンソールがいいとか言っていた癖に見かけて以降、何故かこれを愛煙としている。(しかし肺に入れると十分辛いのだが)
(きっとどうせ甘い夢だ)
この甘ったるいBlack Stone Cherryの匂いの様に
これもまた幻想 これもまた自分の思い違い

そうあって欲しかったのに、現実は脆い物だった。

甘くも口内に広がる味は苦いその味を相手の口内に混ぜながら息を吐く
「お前からこうしてくるなんて珍しいな」
時間は午後10時 そろそろ帰宅しなければならないと言う時に交わしたのは軽い口づけ
唇を離し、ニヤニヤとしている直樹に対して赤面を隠しながら麻衣は言う
「……最初にしたのはそっちから、でしょ?」
満足げな笑みを浮かべる直樹は再び麻衣に軽く口づけては呟く
「それじゃ、おやすみ。」
自身にひらひらと手を振る相手に背を向けては思う
(……どうしてこうなっちゃったんだろう?)
思い返せば3日前
もう散々「可愛くない」だとか「素直じゃねぇな」と言われまくっていた為、もう麻衣はそれは仕方ないのだろうと、どうせ自分は可愛くない女なのだから仕方ないと思いこんで、自ら納得していく面も
あった。
しかし、ささくれ立ったその想いは引き千切られる様にして、とうとう捲れてしまったのだ。
何故か会えないと調子が狂う
何故か最初は笑わなかった癖して何故か今は直樹の言葉に笑ってしまう
そこで得られたのは失くしたあの安心感
愛した人に愛されたいと願い、失くしては最低でも手に入れたかった唯一のガラスの欠片の様な物。

しかし、そのガラスの欠片は酷く鋭く触れるだけで指は切り裂かれる。
そのガラスの破片は自分の想いだ
それで指を裂かれるぐらいならばいっそ血塗れでもいいから、もう1度、その血で濡れた指をどうか握って欲しい。
もし叶わないと言うのであれば、そのまま血を止めずに引き摺って、自分の足跡にしようと、そう考えていた。
所詮自分に我慢などできないのだからきっと結末は同じだと思っていた時に、その指は温かい感触を得たのだった。
「ねぇ、ちょっといい?」
突然の呼び出しに対し呆気なく応じた直樹は「何?」と尋ねる。
――どくん、
心臓が痛いほどに跳ねる
呼吸がどことなく苦しい
でも
(言わなきゃ)
彼が誰かのモノになる前に 未だ自分を見ていて欲しい故に
「もう分かってると思うけど、私……さ、直樹の事が好き、なんだ。」
リズムよく跳ねる心臓の音しか聞こえない中で返された返信はこうだった
「ああ、そんな気がしてたし分かってるよ。でも俺もさ、お前の事は特別視してたし、好きだけど?」
「ッ……」
思わず来た返信に携帯を握り締める
(よかった……)
一時的な安堵 周りから見てみれば答えは一目瞭然だったのかもしれないけれども、ようやく胸を撫で下ろす。
(これで)
これでようやく自分も落ちつける

なんていう安堵もつかの間
既にその時には悪夢が迫っていた

「……何これ?」
恋仲になったからと言って早々会える訳ではない
今時期メールやインターネットなどのツールが使える以上、ネット上での待ち合わせの方が早く正確だった。
故に今日も直樹を待っていた時の事
いつもの様に挨拶を交わすが、暫くしてそこに麻衣の友人が入室してきたのだ。
しかしここはオープンチャット。誰が出入りしてもおかしくないし、久々の友人との再会に喜んでいる所で、悲劇は突然起こった。
「何で……」
そこに広がるのは、まるで恋人同士が交わす様な言葉の数々に、互いにしか分からない様な言葉のやりとり。
『今すぐ向こうに来れるか?』
『ん、構わないけど。』
言葉を失った
何故?
直樹がここに来たのはつい最近だと聞いていた。だというのに最近まで来ていなかった友人が何故こうも仲良く話込んでいられるのか?
(直樹)
心中で愛しい人の名を呼ぶ
けれども当然ながら誰も答えてくれない
零れそうな涙を押し殺し、ただただ耐える。
そして、暫くしてから2人は話が済んだのか戻ってくれば、直樹からこんな言葉が来た。
『そういや、お前も向こうで話さね……っと、でもまぁ今は話したい奴もいるだろうし、お前もそろそろ時間だからやめとくか。』
その一言に胸にナイフが突き刺さる
あの日、あの時、見てきたあの悪夢が再び蘇る。
「やめ、て……。」
これ以上は見ていられない 見てはいけない 見てしまえば確実に自分が壊れそうだったから
「――ッ!」
一気にPCの電源を落としてはそのまま布団へと包まり、泣いた。
(嘘だ)
あの時自分だけを見てくれていると信じていたのに
それでも尚、彼女と親しく話していた様子が蘇れば、言葉を、呼吸の仕方さえ全て失う。
(助け、て……)
呼吸が上手くできない中で絶え絶えと携帯を握るもどうする事もできない
何故なら、そこには今まで自身が身勝手に遊んできた人との番号しか並んでいないのだから。
時には恋人になりながらも裏では他に遊んでいた相手
もしかしたら、本当に麻衣に惚れこんでいた人もいるのかもしれない。だとしたらどうして、そんな事を言えるだろう?
"あなたじゃなく、他に惚れこんでしまった人がいる"――など
ある意味これは天罰なのかもしれない
自分が今までしてきた身勝手さから出た錆
苦く、冷たく、質感のないモノ。
その寒さを狂わす様に毛布に包み自身を守る。何せ今の自分にはそれしかできないのだから。

――そんな事が2日前
今日も突き刺す様な寒さが頬を撫でる中で甘ったるい紫煙を吐き出す。
前日の過呼吸の発作に久しく飲んでいなかった安定剤の投与
正直、身体面でも精神的にも参っていた。
しかし、ここで逃げ込んでいい物なのか?
逃げて解決する様な問題なのか?
逃げてばかりじゃ何も掴めないし、何も解決などしない。であればここは身を粉に呈してでも話をするべきであろう。
それと、気になった一言もある。
『俺さ、最近手酷く精神的にやられたんだよ。それがどうしても忘れられなくてさ』
これが真実だとしたら今の自分には一体何ができるだろう?
互いに好きだと言い、通じ合っていると言うのに、このまま彼を放置しておいてもいいのか?
「……」
ふぅ、と息を吐いてはジュッ、と煙草を灰皿に押しつける。

例え泣いてしまったとしても 例え怖くて逃げだそうとしようとしても向き合わなければならない
――と、心に決めた癖してまたもや繰り返される事に涙が止まらず、呼吸もまた苦しくて仕方がなかった。
馬鹿らしい、ふと心の隅でそう思う
これだけ苦しい思いをするのなら、これだけ苦しい目に遭うのならばやはり"好き"等と軽く言わなければよかったのだ。


そう、言わなければよかった。

「今日は何時ぐらいまでいれそう?」
暢気に尋ねる直樹の言葉に対し、麻衣はどうでもよさそうな声音で軽くこう返した。
「さぁ?後1時間ぐらいじゃない?」
「そう」
と言われれば腕を引っ張られ、相手の胸へとすっぽりと収まれば、規則的に動く心臓の音を聞きながら呟く。
「ねぇ。この間さ、手酷く失恋したって聞いたんだけど。」
「? それがどうかした?」
「それに関してなんだけど」
ぽつり、と重く呟く。
「直樹は私の事『好きだ』って言ってくれたけど、事実私もアンタに愛してる、って言ってる。もし、その事が忘れられないのだとしたら、私はその人の代わりになってでもいいよ。」
これ以上愛したら狂いそうだから、と。
するとクスッ、と小さな笑い声を洩らせば、2人の距離は縮まるが、ここでほだやかされては意味がない。
もし本当に愛の証があるのだと言うのならば、今ここで彼を受け入れてしまえばきっとズルズルとこの事を引き摺ってしまう。
だから口づけにはならないように、ただ冷えた頬を彼の首筋に埋める。
(……これでいいんだ)
求められ、求め、与えられ、与え続けてきた。
ならばいっそ今はこうして安堵を得たい――と言う中で「なぁ」と直樹はぽつりと呟いた
「お前さぁ、『愛してる』って言うけど、俺はお前が思うほどいい奴じゃないと思うからさ、んな『愛してる』だなんて軽々しく言うなよ?」
「……何それ」
思わず、ぷっ、と吹きだしては笑う。

(ああ、この男はこれ以上私に何を想わせるのか……)
愛か、安堵か、恐怖か、希望か。
冷えた自身の身体より温かい身体に抱きつきながら、脳裏で思う。
もし自分が噛みつく時がきたら、それはきっと素直になれない自分からの挑戦状。
(よっぽどの事がない限り13階段を昇って笑う事はないかもしれないけど)

落とせるのならば、落としてみろよ。

Amazing world

どうも常世誓です
実際ににあった誰かの話第2弾ですね 今回は如何でしたでしょうか?

今回はあまりにも節操のない話ですが、けれどもこれもまたありふれた恋の形の1つではないでしょうか?
人間寂しさ故にそれを埋めるのに人それぞれですからね
単にこのヒロインの場合『疑似恋愛』だというだけであって

しかしやっぱりエッセイって難しいですね(苦笑)
普段シナリオと小説のみしか書かない自分にとって辛いもんです
果たして第3弾はあるかわかりませんが、また会った時にはよろしくお願いします。

それではありがとうございました

15.10.22 常世誓

Amazing world

足元覚束無く歩いて辿った道の末路の話 恐怖か、希望か、それとも別の何かか 貴方にとって恋の形とはなんですか?

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-22

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND