ドールパニック

※注意※
この作品はど素人の私が書いたものです。
これから読まれる方は「その程度の作品だ」と思いながら読んでください。
面白いかどうかは別として、かなり短くまとめたので、読みやすいとは思います。
皆様の広大な宇宙のように広い心で、下手くそでつたない文章でも、最後まで読んでいただければと思います。

糸はいらない

「私の名前はマリー。とってもとってもキュートなお人形さんよ。今日はお城で舞踏会があるのよ。やあ、僕はジョン。そのドレス、すごく似合っているね。もし良かったら、一緒に踊らないかい?」
古ぼけて、蔦が生い茂る西洋風の館の一角からは、まだ6歳になったばかりのエリザベスの声が聞こえる。
私は2年前に事故で妻を亡くし、それ以来娘を一人で育てている。
仕事の帰りが遅くなることもしばしばあった。精神的に辛い時や、仕事で参ってしまっているときにはエリザベスの存在を思い出す。
その笑顔と美しい瞳にどれだけ救われたことか。
「ただいま。」
と、軋む扉を開けてエリザベスの元へ向かう。
するとドタドタと階段を駆け下りる音とともに、彼女の声が聞こえる。
「お帰りなさいパパ!」
この歳で一人で留守番をするのはストレスだろうに、エリザベスは仕事で疲れた私を気遣うように気丈に振舞っていた。
「今日はプレゼントを買ってきたぞ~!」
私は、仕事の帰りに、ボロボロの雑貨屋さんで買ってきたものを紙袋から取り出した。
エリザベスは目を輝かせて喜んでいる。
「やったー!ありがとうパパ!これでマリーとジョンにお友達ができた!」
私が買ったのは、小奇麗なドレスを身に纏ったフランス人形だ。
時刻は21時をまわっている。エリザベスも腹を空かせているはずだし、何より自分も腹ペコで、お腹の虫が鳴り止まない。
妻が亡くなってからは、ずっと家事をしてきたので、今では料理の腕は一級品だ。
食事をしているときに、エリザベスが不思議な話を始めた。
「あのね、パパ。お人形さんたちにも心があるって知ってた?」
トマトのクリームパスタを頬張りながらモゴモゴと話す。
「お人形さんたちを大切にしてあげないと、怒っちゃうんだよ。」
私はふむふむと相槌を打ちながら、さらにはパスタを食べながら、話を聞いた。
「ねえ、パパ?今日はエリザベスと一緒に寝ようよ!」
彼女は人形遊びが好きだから、とても大切に遊んでるのだな、なんて思いながら聞いていたものだから、いきなり一緒に寝ようと言われ、少し驚いた。
今まで彼女がそんなことを言ったことは、一度だってなかったからだ。
しかし思い返してみると、毎日一人で留守番をして、休みの日だってロクに相手をしてあげられなかったのだ。寂しいのだろう。
それに、あのつぶらな瞳で見つめられると、どうにも心配になる。そのくらいのお願いは聞いてやるべきだろう。
「そうだな、そうしようか。ところで今日買ってきたお人形さんの名前は決めたのかい?」
食器を片付けながら尋ねると、アンジーにする!と元気よく答えてくれた。

夜も更け、6歳の女の子には少し大きめのベッドに並んで寝た。
かわいい寝顔を見ていると、明日も仕事を頑張れる。

・・・・・・・・・・・・・・・重い。

夜中の2時頃だろうか。寝ぼけているせいか、正確な時間は定かではない。
仰向けで寝ている私の上に、重たいものが乗っかっている。
「どうした?エリザベス?」
重たい瞼を擦りながら、暗闇に問いかける。
「私はエリザベスじゃないよ。」
そう答えが返ってきて、一気に目が覚めた。私の上に乗っかっていたのは、買ったばかりの人形、アンジーだった。
身体は金縛りのように固まっていて、動きそうにもない。
首だけは何とか動かせたので、両側を見ると、そこにエリザベスの姿はなく、代わりにマリーとジョンがそれぞれ私の両腕を押さえつけている。
「おい!なんだ!離せ!」
すると、部屋の扉が開き、エリザベスの姿が見えた。手には包丁が握られている。
「エリザベス!どういうことだ!?エリザベス!」
私の声は届いていないようだ。エリザベスはゆっくりと近づいてきて、そっと話し始めた。
「言ったでしょ?お人形さんは大切にしてあげないと怒っちゃうって。パパはいつも仕事のことと、いなくなったママのことばっかり考えてるよね。」
エリザベスは私の喉に包丁を突き立てた。
私は血を吐きながら、エリザベスを見つめる。あぁ、愛しの娘よ。その綺麗な瞳には何が映っているんだい?そうか、寂しかったんだね。
本当に綺麗な硝子の瞳だ。私は娘だと言いながら人形の心を縛っていたんだね。
あの時亡くなったのは妻だけではないはず。
毎日仕事に行き、娘の幻聴を聞き、二人分の食事を作って一人で会話をする。
妻と娘の存在は、私にとってそれほど大切なものだった。だからこそ二人の死を受け入れられなかった。
本来人形であるはずのものに名前をつけ、心を映して寂しさを感じさせていた。
私はこの命を捧げて自由になろう。これでお前も、アンジーも、マリーも、ジョンも、縛られた生活から解放されるだろう。
寂しくはない。己の愛した人形たちに囲まれて死ねるのだ。
心臓の鼓動が止まる瞬間、私は一滴の涙を流した。

ドールパニック

どうも。奇術道化師JIGSAWです。
小説を書こうと思い立ち、いくつか案はあったのですが、この作品が私の処女作品となりました。
舞台は西洋の館です。
あまり背景や情景を書くのが得意ではないものですから、舞台を限定し、読者の想像力に任せるような形になりました。
さて、物語の解説ですが、そこまで複雑な内容ではないのに、あまり長々と書くのも申し訳ないので簡潔に!非常に簡潔に書きます。
主人公の男が娘だと思っていたのは、実は人形だったのです。
妻を亡くした時、同時に娘の命も失われていたということになります。二人の死を受け入れることができなかった男は、せめて娘だけでもと、人形に娘の姿を重ね合わせて生きてきたのです。
しかし、人形にも心があり、娘の感情が移入してしまった結果、人形=娘を寂しがらせた、大切にしなかったとして、彼女ら人形たちに惨殺されてしまうと言う物語です。
さて、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
次の作品を書くのはいつになるのか分かりませんが、首を長くしてお待ちいただければと思います。
また、次回作でお会いしましょう。

ドールパニック

西洋風の館に、事故によって妻を失い、娘と二人で暮らす男がいた。 娘との暮らしで彼は、何を捨て、何を見つけるのか。 2年前の事故に隠された事実とは何か。 思わずゾッとしてしまうような雰囲気もありながら、どこか感動できるホラーファンタジー短編小説。 お楽しみください。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-21

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