ちょっと怖い小咄

ちょっと怖い小咄

ベリー・ショートショートホラー。
瞬く間に終わっちゃいます。ブラックジョークですけどたまにホントに怖いのもあるかも?w
以前書いていたものに新作も混ぜてアップしていきたいと思います。

小咄其の壱 『エレベーター』

 どうもタイミングが悪くて、いつもえらい目にあう。

深田半平太は、点滅する階数のボタンを見つめながらひとりごちた。バスや電車もよく乗り越したり、遅れたりするし。
「御利用階数をお知らせ下さい。当エレベータは間もなく最上階に到着致しま~す」
デパガのよく通る声が聞こえる。
「屋上でございます。お降りのかたはいらっしゃいませんか? …では、上に参りま~す」
眩いばかりの優しい笑顔で言った。ああ、降りなきゃ、と思う間もなく扉は閉まり、また開いた。霞がかってはいるが、明るく静かなところに着いた。遠くに花畑や河が見える。何故だろうと考えたが、川岸に懐かしい顔が見えた気がしたので、降りようとした、が。
「お降りのかたはいらっしゃいませんか? では下に参りま~す」
降りるのに、と言うより前に扉は閉まり、下降しはじめた。客は自分ひとりになった。エレベータは最下階を突き抜け、どんどん下へ。デパガは邪悪な笑みを浮かべている。

 タイミングが悪くて、いつもえらい目にあう。半平太はひとりごちた…。


…おしまい。

小咄其の弐 『桜の木の下で会いましょう』

小咄其の弐 『桜の木の下で会いましょう』

「どう、この桜? でかくて古くて、ちょっと神秘的だよね」
「うん、きれいだけど…なんだかちょっと怖いかな」

 大学のよくあるサークル歓迎コンパ。3年生になった花輪半平太君は早くもお目当ての子に声をかけ、本来の目的である美女の勧誘に成功していた。長い黒髪に白い肌、桜色の頬の美人である。彼女を連れていったのは少し離れた桜の名所、ただしいわく付き。

「この桜の下で死んだやつがいるらしいんだ」
ささやくように、半平太君が言う。
「え?」
「誰かが恋人に捨てられて、この木の下で自殺したんだって。で、カップルでここに来ると、どちらかが確実に死ぬと…」
「……」
「な~んて、嘘うそ。ただの男女じゃきっとダメなんだよ。ちゃんと恋人同士にならないと呪われちゃうんだ。だから」
男の手が女性の肩にまわる。心霊スポット情報をネタにしたナンパ術だ。当然震えていると思ったが、彼女の身体はまったく動かない。
「――怖くないの?」
「大丈夫よ。だって…あなたが、いるんでしょ?」
彼女が手を組み、指を絡ませる。氷のように冷たい。
「そ、そうだけど」
半平太君は動けない。ざあっ、と、桜の花びらが舞い散る。
「そう、桜の木の下には、恋人が一緒にいなければならないの。ずっと、ずっと」

白く美しい顔が、息がかかるほどに近づく。

 彼女は息をしていなかった。


…おしまい。

小咄其の参 『怪奇電送人間』

「…そんな次第で、我がインフェルノ・エクスプローラ社がこの度発売する次元転位装置『リアル=ブラウザ』は過去のどんな機種より格段と優れており、まあ最早ライバルはないと自負しておる訳です」

 ひととおりの説明と概念を述べた後、隣にあるいかつい箱をぽんぽんと叩きながら、開発担当のビル・ドアーズ博士は会見に集まった記者たちに余裕の笑顔を見せた。
「最初の転位装置が発表されてから随分かかりましたね。エクスプローラ社は3番手ですよ」
意地の悪い記者が言った。
「はん、最初の名誉を得んがために愚行を重ねたグールグール社製のがらくたのことですか? ハエと合体したり、機械と合体したりでそりゃもう散々な結果でしたな。あれのせいでこの業界は信用回復に時間がかかったと言ってもよいでしょう」
博士はひるまない。
「だいたいファイヤーボックス社のまがいものも似たりよったりだ。個体を識別し、電子レベルの分解・再形成? ハエは混じらなくても体内の微生物と合体して目も当てられない化け物を作っただけじゃあないか。水虫と合体したのもいたっけ」
さすがに記者も気色ばんだ。

「で、では貴社のリアルなんとかはそういうことは」
「リアル=ブラウザ、です。絶対ありません。空間そのものを次元的に切り離し時間のベクトル乗算し…失礼、その説明はもうしましたな。論より証拠です」
ビル博士がキーを操作する。
「まもなく電送人間第1号がこのリアルブラウザの中から現れます。これから新しい産業革命が始まりますよ。乗り物は観光の手段としてしか意味をなさなくなるのですから」

 はたしていかつい箱から閃光がもれた。扉の前のパネルには地球の裏側のエクスプローラ社の7.5バージョン機から最新の10.0バージョンの機種へ社員をひとり送った、と表示されている。博士は自信満々に扉を開けた。
 
 出て来た男は一部が女だった。髪の一部は金髪で、皮膚の一部は黒人だった。ある部分は金属でまたある部分は木で、そして大半は裏返っていた。

「しまった。バグった…文字化けだ」



…おしまい。

小咄其の四 『宇宙からの帰還』

小咄其の四 『宇宙からの帰還』

「…地球か。なにもかも皆懐かしい…」
亡き家族の写真を胸に、老兵は静かに呟いた。

 十四万八千光年を旅し、ようやく地球へ戻って来た、宇宙戦艦ヤマトンチュ。しかし、その代償はあまりに大きかった。ぼろぼろの戦艦、多くの戦死者…。艦長代理コダイ・モドルは最後の戦いで犠牲になったフィアンセのアワモリ・ユキを抱き上げ、眼前を覆う大スクリーンを見た。
「ユキ、帰ってきたよ」
紅く干上がった、だが紛れもなく我々を産み育んだ母なる惑星がそこには映し出された。敵星一つを滅ぼしさんざ虐殺をしてきたことはどこかにほっぽり出し、
「俺たちに必要だったのは、愛し合うことだった!」
…と、似非ヒューマニズムなたわ言を吐き、コダイはその場に立ちつくした。
(もうすぐ帰れる、そしたら結婚だ…。結婚するはずだったのに!) 
一年間禁欲生活を送ってきた遠洋漁業の船員のごとく蓄積したフラストレーションのぶつけ先を見失い、お若い艦長代理さんはおいおい泣いた。

 第一艦橋から肉眼で地球が見えるころ、偉大なる老兵…ヤマトンチュの艦長オキタは、むっくり起きた。だが悲劇は悲劇を呼ぶ。冒頭のお決まりの文句をたれ、彼はまた永い眠りに就いたのであった。
「?」
 その時奇跡が起こった。ユキのネグリジェ越しに押し付けられた胸から、微かな鼓動が響く。たった今英雄の死を見届けた船医が驚きの表情を浮かべた。コダイは、ようやく最愛の女性がお伽話のお姫様のように目蓋を開けたのに気がついた。
「ユキ…。ユキ! 生き返ったんだな?」
コダイの問いかけに、うっとりとした表情で彼女は応えた。

「わしじゃよ、コダイ」



…おしまい。

小咄其の伍 『義理チョコ』

 とある会社のオフィス。2月14日の休憩時のこと。

赤城 「やったー! 庶務課の桃井さんから、チョコもらったぜッ」

青山 「へん、俺だってもらったぞ、しかも本命チョコ!」

黄島 「あれ? 俺もだ。本命ですよ〜って。あの甘ったるい声で」

緑川 「ぼ、ぼく…『義理チョコ』だって、小さいの、もらった…」

黒田 「私ももらったが、本命チョコ。どういうことだ?」

赤城 「うーん、俺も本命だぜ。ほらこれ。ラッピングに書いてある」

青山 「あの子もてるし八方美人だから、なあ」

黄島 「オレのが本命。お前らのは全部義理チョコなんだ」

赤城 「どれどれ、あ、青山のやつ、義理って文字を修正して本命って書いてあるじゃん」

青山 「黄島のチョコ、お手製って書いてあるけど、どう見ても明○マーブルチョコだよな」

黒田 「赤城のそれ、ベルギー産ってあるけど、多分沖縄黒糖入りのだ」

黄島 「ひょいパク。黒田さん、これチョコ味の豆腐だ…」

全員 「賞味期限切れだ」
   「恵方巻きが入ってた」
   「…なんか薬くさく、ないか?」

 * * *

赤城 「…結局全員もらったのは義理…じゃなくて、偽装かよ〜本命なんていないのか〜」

青木 「緑川、お前のチョコも義理なんだろ? やけに美味そうなんだけど」

緑川 「う、うん。『はい、これ。仕方ないからあげるんだから。絶対 義理なんだからね!』って言ってた。『別に半平太なんか好きじゃないんだから』って。顔、赤くして怒ってた…なんで怒ら れるんだろう」
 ・
 ・
 ・
全員 「……それだ〜〜〜!!」


…おしまい。

小咄其の六 『呪いのスマホ』

 タチの悪い噂だと思っていたのに・・・。

手にしたスマートフォンが嫌な汗でしめり、生暖かく感じる。
不可思議な生物でも握りしめているかのようだ。片山龍次は、おぞましさに身震いを禁じ得なかった。

その画面を見た者は1週間後に死ぬという都市伝説。『ダサ子の呪いのサイト』を開いてしまった彼は、あれこれ解決策を試みた…だが、いずれも水泡に帰す結果となった。自室に閉じこもり、日に日にやつれる片山。そうして、とうとう期限の1週間めを迎えた。
ピコピコと、深夜に着メロが響く。
「ひいいいいっっっっっ!!」
手にしたくないのに、見たくもないのにスマホの画面を開く片山。拡大した画像に古い井戸が浮かび上がった。黒髪をざんばらに垂らし、ずるり、と女が井戸からはい出してきた。そのままぎごちない動きで画面のこちら側ににじり寄ってくる。
「ダサ子だ! ダサ子は本当にいたんだ!!!」
前髪の隙間から狂気の目が光る。震える手をなんとか動かし、片山はなんとかスマホを部屋の中央に投げ出した。画面を上にし、カタカタと動いている。彼はムンクがアッチョンプリケをするようにそれ見守るだけだった。ダサ子の爪のない指が、ずるりと画面からのびる。
「ぴぎゃああ〜〜っっ!!!!!!」

 しばらく恐怖で動けずにいた片山だったが、どーもまだ生きているようだ。
「?」
恐る恐るスマホを見てみると、画面から指だけ出して、あとはつっかえているダサ子さんがいた。彼女はなんとか外へ出ようと指だけをピコピコ動かし、もがいていた。ピコピコ、ピコピコと・・・。

「画面大きい新型にしなくてよかった…かな?」


…おしまい。

ちょっと怖い小咄

ちょっと怖い小咄

ブラックジョーク系の掌編を章ごとに一話ずつアップしていきます。 どこから読んでもかまいません。作風としては基本投げっぱなしなので 根を詰めずにお読みいただければ、と。

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-20

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 小咄其の壱 『エレベーター』
  2. 小咄其の弐 『桜の木の下で会いましょう』
  3. 小咄其の参 『怪奇電送人間』
  4. 小咄其の四 『宇宙からの帰還』
  5. 小咄其の伍 『義理チョコ』
  6. 小咄其の六 『呪いのスマホ』