サンフラワー・ジャイアニズム
私は向日葵を愛している
花を咲かせる能力があるから花を愛するのは当然だけど、その中でも特に向日葵に対する愛情は別格だ
何故かというとね…。
太陽の畑に着いた私は、太陽の昇る方角とは逆の方角に立ち、太陽を正面に見据え堂々と手を掲げ指を鳴らす
すると、先ほどまで雲ひとつない快晴の空に浮かぶ太陽を見つめていた向日葵たちは、一斉に太陽に背を向けはじめる。
代わりに彼らが見つめるのは当然、花の女王である私。
その眼差しに込められているのは私に対する羨望と…嫉妬。
向日葵の学名は"Halianthus annuus"
直訳すると「太陽」と「花」の意
黄色い環状の花びらをつけ、明朗や活力の象徴とされている。
「ふふ、全く馬鹿な話だわ…。」
明朗なんてとんでもない
向日葵が太陽を向いて育つのは、太陽が形は似ているのに自分達とはまるで違う、神のような存在であることに嫉妬しているから。
どれだけ見つめても決して届くことはなく、いずれ枯れゆくだけだというのに…。
そしてその太陽すらも、花に対して私の能力の前には及ばない
太陽をも凌駕して集める向日葵達の眼差し
私はそれを愛しているの。
私は自分を見つめる向日葵達の間をゆっくりと歩いていく
勿論向日葵達は持続的に向きを変え、私を見続けている。
彼らのすぐ横を通る時、花を咲かせる能力を持つ私には彼らの「声」が聞こえてくる
-妬ましい…妬ましい
-あいつをこれだけ背を伸ばして見続けているのに
-何故届かない…
そんな彼らの「声」も私の愉悦となる要素の一つ…
そんないつもの太陽の畑だが、今日は一つだけ違う何かがあった
「あれは…。」
私は"それ"の前で足を止めた
それは何の変哲もない一本の向日葵
ただ、見ている方向がおかしいのだ。
茎がまるで人が項垂れているかのように垂れ下がっている
まるで向日葵が自分を見ているかのように…
おそらく、ただ向日葵が自分の生命力に衰えを感じ枯れかけているだけだろう
だが、私がいる太陽の畑で私を崇めない向日葵の存在など、当然許されるはずがない
「…。」
私はそれに向け霊力を注入する
花を一時的にでも活性化させ、なんとしても私の方を向かせるのだ。
しかし、私の能力をもってしても…その花は私を向かなかった
まるでその花が私に反抗しているかのように…。
-俺はお前や太陽を見るだけの存在ではない
枯れかけてなお、そう主張しているように見えた。
「…不愉快ね。」
あなたたち向日葵は私を見つめて初めて存在意義があるの
他に選択肢等ない
それを蔑ろにしたあなたはもう、花ではない
私はすぐにそこに生えていたものを引きちぎり、植物としての機能をなくした残骸を踏み潰す
その光景を、他の向日葵達はさも当然のように黙って見据えていた
他に私を見ていない花は…ないわね…
これでいい
いつも通りの光景に戻った太陽の畑を見て満足し、私は別の場所へと出かけることにした
後にはただ、変わらず私へ羨望と嫉妬とがこめられた眼差しを向ける沢山の向日葵が残されているばかり
向日葵自身の意志など、もはやそこには残っていなかった
-完-
サンフラワー・ジャイアニズム