遠隔操作かも?
「あれ。またパソコンの電源入ってるぞ」
月曜日、出勤早々に五十嵐はつぶやいた。
五十嵐の会社では、業務用のパソコンが各自のデスクに配備されているが、節電と機密保持のため、退勤時には必ず電源を切るようにと言われている。もちろん、人間のやることだから切り忘れもないことはないのだが、先週も月曜日の朝、電源が入っていたのだ。
「気味が悪いな。土日は誰もいないはずなのに。うーん、待てよ」
五十嵐は内線電話をかけた。
「大江か?ああ、おれだ、五十嵐だ。変なこと聞くけど、勝手にパソコンの電源を入れちゃうウイルスってあるのか?えっ、ある。何っ、悪質だって。どうしよう。うん、わかった。頼むよ」
すぐに大江がやって来た。
「朝早くに、すまん。上司が出社する前に、何とかならないか」
「どうかな。本当に遠隔操作のウイルスが入っているなら、もう手遅れかもしれないけど」
「そんなこと言わないでくれよ、パソコンの神様」
「おだてたって、ぼくだって専門家じゃないよ」
だが、大江のパソコン操作は堂に入っていた。五十嵐が未だかつて見たこともないような画面が、次々に現れる。五分ほど続けていたが、やがて手を止め、ゆっくりと首を振った。
「ないね。つまらないウイルスは二三個入ってたけど、遠隔操作のやつはなかった。と、なると」
「どういうことだ」
「物理的に電源を入れた、ってことだな」
「物理的?」
「うん。つまり、指で電源ボタンを押したってことさ」
「誰が?」
「それはぼくにもわからない。他に荒らされた形跡がないから、外部からの侵入者とは思えない。休日出勤した誰かか、お掃除の人か、あるいは、巡回してるガードマンさんか。まあ、あんまり人を疑いたくはないけどさ」
「ちくしょう。証拠がないもんなあ」
「かと言って、このまま放置するのは良くないよ。今のところ、変なことはされていないにしても、今後どうなるかわからない。まあ、五十嵐のパソコンじゃ、重要な機密なんかないだろうけど」
「そりゃそうだ、って、おい!」
「とりあえず、犯人を捕まえるしかないな。電源を入れたら、インカメラで撮影するように設定した。おまえ以外の人物が写っていたら、そいつが犯人だ」
次の月曜日。再び電源が入っていたため、五十嵐は、すぐに大江を呼んだ。
「さあ、ちゃんと写っててくれよ。えっ!何だこれ!」
大江が操作する画面には、野良ネコの顔がアップになっていた。
「ああ、そうか。大江、原因がわかったよ。しばらく操作せず、そのまま見ててくれ」
やがて、画面がスクリーンセーバーに切り替わると、五十嵐が集めた可愛いネコの写真が次々と…
(おわり)
遠隔操作かも?