突撃!隣の幻想入り
…それって!!
「霊夢さん、それについて詳しく教えてください!」
まさかの一人目でいきなり情報が手に入りそうです!
霊夢さんには悪いですがノってきました!
「はぁ…?なんで?」
霊夢さんからなんだこいつっていう目を向けられてますが、ここで逃げては記者として失格です!
「私は今日幻想郷で起こっていると噂される、あらゆるものが幻想入りする異変について取材して回ってるとこなんですよ!まさか一人目から情報がいただけるとは…是非お話ください!」
いいから早く話しなさいよ
…おっといけません、つい素顔が出るとこでした。
霊夢さん、お願いします!
「あら、これ異変だったの!?でも言われてみればそうとしか考えられないわよね。まぁいいわ、異変だということを教えてくれたお礼に話してあげる。」
おおお!
霊夢さんがのってくれた!
「んー、そうねえ…最後に見たのは…いつだったかしら?去年の夏くらいかしらね。」
「去年の夏…そんな時期から行方が分からない、と。」
そんなに前から…
事態は私が考えているより深刻なのかもしれません
「ええ、それ以来全く影も形も見えないわ…一体誰だったのかしらね…。」
寂しげな笑みを湛えながら霊夢さんが話す
誰…
人が消えた、ということですか?
「い、一体消えたのは…?」
私のほうが抑えきれなくなってきましたので、質問の核心に迫りたいと思います!
この博霊神社近辺で去年の夏から姿を消した、その存在とは!!
「………………お賽銭よ。」
…へ?
「去年の夏くらいだと思うんだけどね…あれ以来毎日チェックしてるというのに、一円も入ってたことがないのよ。もう年の暮れだというのに…これは確かに貴女の言う異変に間違いないわね、迂闊だったわ。」
霊夢さん…
凛とした遠くを見つめる瞳を携えながらすごいまじめに語っていただいて申し訳ないのですが…
「私にはあれがないと駄目だったのに…どうして無くなっちゃったの?ねえ、文?貴女何か知ってること無いの?」
れ、霊夢さ…
「…プッ。アハハハハハハハハハ!!」
「な、何よ!?」
心外そうな面持ちでこちらを見る霊夢さん
もう我慢出来ません…。
「いやいやいや、何よじゃないですよ!私も霊夢さんとお知り合いになってから結構経ちますが、ここの賽銭箱にお賽銭が入ってたことなんて一度もなかったじゃないですか。むしろ去年の夏に一円でも入っていたことが驚きなくらいです…ププッ。」
それを異変のせいにするとか…
もう取材がどうでもよくなってくるくらい笑いがこみ上げてきます
アハハハハハ!!
お腹が痛いし涙が出てきました
「クスクス…ですので霊夢さん、そんなありふれた日常ではなくもっと幻想入りしてそうな何かの存在を…」
!?
急に背後から感じる寒気と…紛れもない殺意に私は思わず口を止めた。
おそるおそる振り返ると
「へ~~~~~~~~~え……………。あ、そうだわ!異変にはもう一つ心当たりがあるのよ…消え行くもの…それはね…。」
いつの間にか背後に移動していて、お札と陰陽球を大量に纏った霊夢さん…
そしてとても素敵な笑顔です…
それも私が知り合って以来始めてみるレベルの…ニッコリって表現がとても似合う感じの
ただ、目が全く笑ってないんですが…
って
…まずい!!
「す、すみません!別の取材予定があるのでこれにてしつれ」
「お前の命だよ!!!」
ひ、ひえええええええええ!!!
背後からすさまじい殺気とともにお賽銭と違ってよく蓄えられた陰陽玉と調伏札が私に向かって放たれるのを背後で感じ、なりふり構わず私は逃げ出したのでした。
▽
「あやややや…酷い目にあいました…。」
怒りの霊夢さんから命からがら逃げおおせたものの、あまりに勢いよく飛び出したものだから着地がうまく出来ず木に頭をぶつけてしまいました…。
ああ、たんこぶになってる…しばらく痛むんですよね、これ。
「あんなに怒ること無いじゃないですかぁ…。」
確かに私も少しは悪かったかもしれませんが…
誰でもあれは笑うと思いますよ!?
常識で考えろ?
何の話でしょうか。
ああ…ぶつけた頭どころか羽も痛いです…
いくら幻想郷最速の私でも全速力で飛び続けてたらさすがに疲れるんです。
たんこぶになったところを抑えながら、フラフラと飛んで次の取材場所へ
「気を取り直して…あら、ここはアリスさんの家ですね。」
森の中をフラフラしていたらどうやらアリスさんの家に到着したようです
面識等はないですが、せっかくなので取材していきますか。
玄関にたどり着きノックする。
今度はまともな情報が聞けるといいなあ…。
先ほどの取材とは呼べない惨事が脳裏をよぎってきますが、無理やり忘れることにします
「ごめんくださーい。」
ノックをし、呼びかけるもすぐには返事がない
留守ですかね…。
「はーい?あら、天狗が何の用かしら?」
留守ではありませんでした。
出迎えにきてくれたアリスさんは至っていつもどおり、な感じです。
うーん、ここには異変起きてないですかね…。
「あの、すみませんちょっとお伺いしたいことが…あがってもよろしいですか?」
「え?構わないわよ…なんか疲れるみたいだしね。さ、どうぞ。」
さすがに疲れましたし少し休みたいので、アリスさんにもてなしてもらうことに。
---
「ふぅ~、美味しかったです!ご馳走様でした。」
紅茶とクッキー、とてもおいしかったです
アリスさん…評判はとても怖かったのですが、いい人じゃないですか
これからは取材のたびにご馳走してもらえるように誘導するとしましょう。
「どういたしまして。それで天狗が私に何の用かしら?」
「ああ、それはですね…」
大分疲れもとれましたし、そろそろ本調子に戻りますか
「…アリスさん、ここ最近幻想郷で何かが知らず知らずのうちに消えていくという”幻想郷での幻想入り”という異変のようなものが起きているらしいのですが、何か心当たりなどはありますか?」
恩人にこんなこというのもあれですが
正直紅茶とクッキー以外は期待してません
先ほども言いましたが至って何もなさそうです
「うーん、無くなったものねえ…ちょっと心当たりはないかなぁ…。」
やっぱり…
「そうですか…。」
なら、とっとと別の場所で情報を集めるとしますか…。
そう思い席を立ったそのとき
「ああでも、あるはずって確信していたものが無かったことなら…。」
…!!
「そ、それでも構いません!詳し…」
「そうよ。私の中では、絶対にそうなる確信があったのに…どうして…?」
アリスさん…?
アリスさんが窓の外に景色を向けながら語りだしましたが、どうにも様子がおかしい
目が完全に空ろです
そして語りだしたタイミング的に私の追及する言葉がおそらく聞こえてません
「幾度と無く繰り返した頭の中でのシミュレーション、多くの異変でつながりあった心…。そして満月と星空達が迎える夜の空での二人でのデート。完璧だったはずなのに…。」
…気のせいでしょうか
アリスさんから暴走気味の魔力を感じます
ここは早めに離れるとしましょうか
なんかデジャブな予感がしますし
「す、すみませんが、別の取材予定があるのでこれにてしつれいしま…」
「ああ、魔理沙!!どうして!!どうしてなの!!どうして私の想いに気づいてくれなかったの!!!」
挨拶すらも遮られる始末
そう言うとアリスさんは急に私の方を向いて
「お前か!!お前が邪魔をしたんだな!!」
「ええっ!?」
完全に八つ当たりをはじめました
「私には見えなかったが、お前がきっとあの時ムードをぶち壊したんだ!!許さない…絶対に許さない!!!」
うわっ!!
完全に暴走を始めたアリスさんが私に向かってレーザーを照射してきた
あ、危ないですよ!あつい!!あついですって!!!
「死ね!恋の邪魔をするやつは誰であろうと死ね!!」
「し、失礼します!」
止めれる自信がとても無いので私は窓を破って最初のインタビューのように颯爽と逃げ出したのでした…。
▽
「あやややや…。」
本日二回目の逃走
なんなんですか、これは…。
いくら私でもあまりの厄日っぷりに泣きそうです
ああ…袖とかが一部焼け落ちてるし火傷になってます…
「何故私がこんな目にあわなければいけないのでしょうか…。」
今回は最初以上に私悪くないですよ!!
日ごろの行い?
何の話でしょうか。
「ここは…人里の近くですね…。」
随分な距離を飛んで逃げたようです。
ここでなら何か異変についての情報が得られるかもしれません
でも…
「今日はもう帰りますか…。」
いくら私でもここまでの目にあったらさすがに今日は手仕舞いにしたいです。
次こんな目にあったら生きて帰れる気がしませんし…
そう思い妖怪の山を目指して飛ぼうとしたそのとき…
「あら、どこかの新聞記者じゃない?この前はどうも。」
背後からどこかで聞いたような声
「あ、咲夜さん…でしたっけ?ご無沙汰しております、射命丸です。」
花の異変のとき出会った十六夜咲夜さんが立っていました
買い物袋を提げているところを見ると夕飯の材料を調達して帰るとこ、といった感じでしょうか。
「どうしたの?なんか随分ボロボロだけど。」
あ、やっぱり聞かれます?
「いやまあ…ちょっと取材先で酷い目にあいまして…。」
「あらら…普段から余計なことにちょっかいだすからじゃないの?」
咲夜さんはどうやら私が悪いと思ってる様子
「違いますよ!勝手にあの二人が…。」
「ところで、何についての取材をしにいったのかしら?」
弁解を遮るように出された新たな質問
清く正しい私もさすがにグレそうです
…あ、でも最後に聞いてみますか
「あ、そうだ咲夜さん。貴女の周りで最近何かが消える等、異変のようなものはおきてませんか?」
「んー、物が無くなるってこと?うちはしょっちゅう物が盗られるから異変かどうかはちょっと分からないわね、どっかの白黒の泥棒猫のせいで。」
そういう咲夜さんの表情には魔理沙さんへの殺意が明確に感じ取れる
あっちで想われ、こっちで狙われ…人気者ですね彼女は
今度彼女への独占取材でもしてみますか。
「そうですか…それでは何か気になることがあったら連絡ください。ご協力ありがとうございました!」
結局骨折り損のくたびれ損ですか…
「あ、でも一つだけ魔理沙が盗んだわけでもないのになくなってるものがあるわね…。」
「えっ?」
期待は出来ませんが…
こうなったら溺れる者なんとやらです!
「そ、それは…なんでしょうか?」
お願いします!異変の手がかりでありますように!!
しかし咲夜さんは急に顔を赤らめ、顔を背けてしまい
「ごめんなさい、それはちょっと言えないわ…。」
と一言
えええ…お願いしますよぉ…。
ここまできて収穫無しというわけにはいかないんです…。
私は決して軽くはないであろう買い物袋を両手に提げた咲夜さんの腕をつかんで懇願する
「お願いします!」
「だーめよ。さ、そろそろ帰らないとお嬢様に怒られてしまうわ。」
「で、でも!!」
相変わらず赤い彼女の顔
絶対何かを隠しているに違いない
「お願いします咲夜さん!」
私は咲夜さんの腕を掴む手を放すまいと力を込めた
「しっつこいわねえ。いい加減にしなさい!」
いい加減鬱陶しくなった咲夜さんが強引に私の手を振りほどこうとする
絶対放すものですか!
「っこの、いい加減に…!」
「うわっ!!」
咲夜さんがの力が予想より強くて、咲夜さんの腕を掴んだままバランスを崩してしまいました
勿論掴まれていた咲夜さんも一緒に
「ぶっ!な、なんですかこれ…!」
買い物袋の中身が大量に私の体の上で散乱し、視界が封じられる
予想と違い重さ的に食品ではなく、全く同じものを大量に買い込んだ様子
「ああもう邪魔くさい!なんですかこれ!!」
私は顔に被さっている何かを払いのけて確認をする
するとそれは…
「胸パッド?え?」
透明な袋に綺麗に包まれた胸パッドでした
それも予想通りに回りに散乱してるもの全部
サイズや色、形もおそらく全部同じでしょう…
…待てよ
そういえばこんなうわさを聞いたことがあります
-紅魔館のメイド長は会う度に胸の大きさが変わっている
あれはきっと大量のパッドを仕込んでいるパッド長に違いない、と…
もしかして咲夜さんの言う幻想入りしたものって…。
「…天狗さん?」
背後から浴びせられる冷たい視線とつめたい声
先ほど魔理沙さんに向けて発せられたそれと同じ…いや、それ以上です。
さすがに学んでいた私は咄嗟に飛んで逃げ…アレ?
今までのダメージのせいか、羽が全く動かない
「あ、あの…ごめんなさ」
観念して謝罪の言葉を添えて振り返るとそこにはやはりナイフを指の間に挟めるだけはさんだ咲夜さん
咲夜さんは私の謝罪に対してやさしく微笑んで…
「さようなら。」
と一言
その言葉の後には私の断末魔の悲鳴と惨劇だけが残されたのでした
▽
「あやややや…。」
同じニュアンスでこの台詞を言うのも三度目ですね…
ボコボコ…もといグサグサにされました
もうこれ以上は無理です…危うく私が幻想入りするとこでした
結局ロクな取材が出来てません…。
というか…様々な人や妖怪相手に取材をしてみましたが、皆さん幻想入りしたものというよりは”ただの願望”を答えてるだけじゃないですか
…そりゃあ見つからないに決まってます、はじめから存在しないんですから
咲夜さんに至ってはまるで昔は存在していたような言い方していましたが、胸の大きさなんてそうコンプレックスになるほどのスケールで縮むはずがないでしょう…。
幻想入りしてるのはむしろ彼女達の頭の中のようです。
結局これも記事にはならないかなぁ…。
得たものはたんこぶが1つ、火傷に裂傷が数箇所、ナイフでの刺し傷が数十、そして皆さんの欲望だけがこめられた取材記録…。
さすがに悲しくなってきますよ…
っ!あいたたた…刺された傷がまた痛くなってきました。
散々危険な目にあったというのに…。
結果がこの文頭に”無駄に”がつくだけになりそうで思わず溜息が出てしまいます…。
自業自得?
何の話でしょうか
というか…そもそも幻想入りってなんでしたっけ?
一般的には外界にいた人や妖怪が幻想郷の中に入り込むこととされていますが…
つまり幻想郷での幻想入りって物理的にありえないんじゃ…
はぁ…
気づかないほうが良かったです…
異変という大スクープで一面を飾り、新聞の購読者数を一挙に増やす計画もご破算ですかぁ…
▼
そう、幻想入りとは本来の意味では「特定の人や妖怪、物が外界から姿を消し、幻想郷に入ること」である。
-だが現代の外界の人々はそもそも妖怪を見たことがない
夜の暗闇の中自然の力によって草木が不気味に揺れ動き、音を立てる様子を恐怖に感じた人々が、元々持っていた想像力で畏怖の対象とされていたという存在を作り上げ、それを妖怪と名付けただけである
つまり、外の世界の人間にとっては妖怪とは元々存在しえないものだということだ
-しかし、彼女達は現にこうして存在している
ただ外界のそれを求める人たちが知りえないというだけなのだ
知らない、見たことがない
それだけで人々も妖怪も存在を否定してしまう
それを本当の意味で幻想入り、と言うのだろう
もしかしたら貴方の求める、幻想入りしてしまった何かも身近だけど見えないとこにあるだけかもしれない
…まあ、今日文が取材した者たちの回答はおそらくこれには該当しないだろうが。
「あ、でも…過去に閻魔から頂いた言葉によると”新聞は事実を変える力を持つ”らしいですね。…っ!つまり私の新聞の購読者も私の預かり知らぬところで存在している可能性があり、私の新聞でそれを事実に出来るということですね!…俄然やる気が出てきました!」
「そうですね…今日のインタビューを元に”事実を司る烏天狗が迫る、突撃!隣の幻想入り”なんてどうでしょうか?…これは明日の一番の見出しになりそうです!これで私の新聞の売れ行きも絶好調間違いなしですね!」
…そんなわけないだろう
と、どこからかツッコミが聞こえてきそうである
とはいっても購読者が現存してるかはともかく、これから読者を増やして事実とすることは決して不可能ではなさそうなのにそれを頭ごなしに否定するのも酷い話ではあるが…
が、様子を見るにそんなことは全く意に介しそうにないのが彼女らしいといえば彼女らしい
既に今日の惨事も頭からスッポリと抜けていて、不実を事実に変えるべく
伝統の捏造新聞記者は日も落ちかけ綺麗に紅く染まった空の中を翔け、山へと戻っていくのだった。
-完-
突撃!隣の幻想入り
センチメンタルくさい話が三つ続いた後にくだらない話をくだらない技術で書いてみました
いかがでしたでしょうか?
それはそうと、短編というよりは掌編の練習をしようかしら…と思います
丁寧に描写する能力もないけど綺麗に纏める力はもっと欠けているようで…
あ、でも話のジャンルのせいか昨日よりだいぶ書きやすかったです
テンポとかその辺はよく出来たかなと思います
というか昨日の話がグチャグチャすぎました…ショボーン
それではまた(不貞寝)