御波中学3年生!

はじめに

さよならシャンソン様よりお題をお借りしたSSです(予定)。

一日一本あげられたらいいな!

1:ずっきゅーん

その少女は亜麻色の髪をふわりと揺らし、長い睫毛を上下させて言った。
「はじめまして、友達になってねっ」


4月、春爛漫とはまさにこのことで、俺は御波中学の1年生になった。
仏頂面をごしごしと擦るのは花粉症気味なせいで、ほんとはマスクをするべきなんだろうけれど、心地よい春の陽気がそうさせたのか、忘れっぽくなったのはここ最近ぼーっとしてるからだ。
姉の広は花粉症なんて露ほども考えずに今日一番で俺を叩き起こしてから元気いっぱいに家を飛び出して行った。
これだからモテないんだ、まったく。
女の子は優しくてちょっと儚いくらいがちょうどいいんだ。
張り出されたクラス表を見ると俺は1年B組。
中学受験を経たからには周りは知らないやつばかりだ。
上履き入れを握りしめて下駄箱に向かうと、俺の出席番号より一つ後ろの生徒が下足を入れ終わった直後だった。
その生徒と入れ違いに俺は下駄箱を開けて下足を入れ、上履きに履き替えて1年B組を目指した。
明るい春の日和に照らされた校舎内は浮足立つ新入生を優しく受け入れ、緊張と興奮で赤らめた頬をさらに赤くした。
教室のドアをくぐり、出席番号を辿って席に座る。
瞬間、つんつんと背中をつつく感触に、俺は怪訝そうに振り向いた。

「はじめまして、本臣結姫です。友達になってねっ」

ずっきゅーん。

なんだこの可愛らしい少女は!
ふんわりとした亜麻色の猫毛に、大きなアーモンド型の瞳。
薄ピンクの唇は凛と引き結ばれ、口角がやや上がっている。

「あ、おぅ…」

気の利いた返事一つ出来ずに、俺はくるりと正面に向き直る。
一目ぼれってこんななんだ。
すごい、すごい。
だって、こんな可愛い子みたことない。


「…と、思っていた時代が俺にもありました」
「いやいや、刻が勝手に僕のこと女の子に間違えただけでしょ」

結姫は頬をひくつかせながら自作の弁当を頬張った。

「へーそんなこともあったのか。1年の頃俺C組だったから知らなかった」

檀は檀で純情少年だった俺の過去を1へーだけで終わらそうとしやがる。
死刑だ、極刑だ。

「俺の純情を返してくれ!」
「人聞きの悪い!僕の方が被害者だよ!」
「どっちもどっちだろ。結姫の可愛さは罪」
「何を言い出すの!?」

と、そんな昼時の俺たちは宇宙の中心にいることに気付かない。

2:学園の王子様の彼

僕の友人、清水檀(しみずまゆみ)はリア充だ。
何をもってリア充とするかはちょっと不明なところだけど、人生楽しそうなくらいイージーモードな彼は間違いなくリア充だろう。
うちの学校は中高一貫校で、中学と高校の生徒会は高校生徒会が兼任しているのだけれど、その彼らは驚くほど顔面偏差値が高い。
校内でもファンクラブや親衛隊がちらほらレベルじゃ片づけられないほどいる。
歴代生徒会も同じく、美男子美少女から選ばれている。何の因果だろうか。
そして未来の生徒会役員と名高いのが、美男子美少女揃いの清水三つ子組なのである。
清水三つ子組の一人、清水檀は御波中学の王子様だ。
容姿端麗、学業優秀、運動神経抜群、おまけにオカン気質なギャップ萌えときている。
容姿も学業も運動も平均、もしくはそれ以下の、僕のもう一人の友人、見明刻(みあけとき)が恨むのも無理はない。
僕だって運動こそ負けないものの、それ以外は負けているといえる。
そんなスーパー少年檀は、よくスーパー常人刻とぶつかる。

「きっさま覚えとけよ!」
「はっ、もう忘れましたけどー」
「てめえ!!」

口喧嘩なんて茶飯事、取っ組み合いもそこそこだ。

「二人とも仲良くして!ほら、カントリーマアムだよ食べる?」
「「いらんわ!!」」

こんなに息ぴったりで断られたら、むしろ仲良いんじゃないかと思えてしまう。
ほら、喧嘩するほどなんとやらだ。
しかしそんな風にとらえない輩も中にはいる。
――高校2年生特進クラス、山科文華先輩。
彼女は学校一の恋愛事情サーチャーだと噂されるほど、この手の話に目がない。
しかも困ったことに、彼女は婦女子・・・変換ミス、腐女子である。

「ねえねえショタくん、今日の喧嘩ップルの様子をくわーしく教えてほしいんだけど!」
「ショタとか呼ばないでくれます!?」

本当に、キャラの濃い人だ…。
で、なんだっけ。そうそう檀の話。
文華先輩に目をつけられている檀と刻は、いわゆる喧嘩ップルに見えなくない。
いや、そりゃカップルって言ったら普通男女なんだろうけど、常識外れの文華先輩にはそんな言い訳通じない。

「いい加減にしてくださいっ!檀も刻もただの友達ですよっ?恋愛とか、そんなのあるわけないじゃないですか!!」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
「はい!?」
「もうやめて!文華のライフはゼロよ!」
「い、言ってる意味が…」
「これ以上ネタ増やしてくれるなショタくんよおおおおおお!薄い本が厚くなるぜ!?」

…この話、やめよっか。
文華先輩うるさ過ぎ。
とりあえず、僕が今日話したかったのは、檀が王子様だってことと…僕ら結構仲良しだってこと。

「もうやめなってば二人とも!」
「「こいつが謝るならな!!」」

そんな喧嘩の最中に、僕たちは宇宙の中心にいることに気づかない。

御波中学3年生!

御波中学3年生!

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-10-18

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  1. はじめに
  2. 1:ずっきゅーん
  3. 2:学園の王子様の彼