少し贅沢をし過ぎたみたいだ
都内、某ホテルにて。
「コンパニオンは、まだ来ないのか!」
会場担当の佐渡谷は焦っていた。間もなく野見山文部科学大臣主催のパーティーが始まるのに、大臣付きのコンパニオンが来ていないのだ。野見山大臣は背が低いため、立食パーティーでは人波に埋もれてしまう。そこで、赤いバルーンを持たせたコンパニオンを同行させ、会場のどこからでも大臣の位置がわかるようにとのリクエストなのだ。
「すみません、佐渡谷キャプテン。いつも手配を頼んでいる会社で、たまたまインフルエンザが蔓延してしまい、コンパニオンが全滅状態らしくて」
汗だくになった予約係の説明を聞きながら、佐渡谷はあることを思い出した。
「その会社って、最近、ロボットを導入したところじゃないか?」
「えっ、そうですけど。ああ、だめですよ。いくらなんでも、大臣にアンドロイドのコンパニオンを付けるなんて」
「背に腹は変えられん。ロボットなら、まさかインフルエンザには罹らんだろう」
「それは、そうですが」
「それしかない。いや、逆に、いいかもしれんぞ。野見山大臣は『もっとロボットの働く場所を!』と演説して、厚生労働大臣と大ゲンカした人だ。よもや、文句は言うまい」
佐渡谷は、念の為大臣の秘書に連絡を取ったが、やむを得ないだろう、との返事だった。
コンパニオンが到着したのは、ギリギリの時間だった。胃の痛む思いで待っていた佐渡谷は、コンパニオンの姿を見て驚いた。
「き、きみは、本当にロボットなのか?」
目が覚めるような美人で、九等身ぐらいありそうなコンパニオンは、優雅に一礼した。
「はい。正確にはアンドロイドでございます」
「うーん、声もきれいだ。これなら文句ない。というか、人間よりいいじゃないか」
「ありがとうございます」
だが、予約係から発注明細を見せられて、目玉が飛び出しそうになった。ゼロが一つ多いのだ。始末書ものだが、今更どうしようもない。佐渡谷は急いでアンドロイドに業務内容を説明した。
「きみはこの赤いバルーンを持って、野見山大臣から離れずに同行するんだ。いいか、主役は大臣だぞ。きみはなるべく目立たずに、と言っても無理だろうが、とにかく、大臣を引き立てるんだ。いいね」
「かしこまりました」
本当に大丈夫なのか、不安が募るが、もはや時間がない。佐渡谷は、会場全体が見渡せる中二階のモニター室に移動した。スタッフへの指示は、すべてここからインカム(構内通信機)で行う。アンドロイドにも子機を渡そうとしたら、「周波数だけ教えてくだされば、大丈夫です」と言われた。
来賓の挨拶も終わり、パーティーは順調にスタートしたかに思われた。だが、アンドロイドが美人過ぎ、スタイルも良すぎるため、どうしても注目を集めてしまう。
《おい、あんまり目立つな》
《はい》
アンドロイドを叱ったものの、佐渡谷はやや安心していた。何より、野見山大臣が上機嫌だ。秘書からも、「ロボット労働者のいいPRになる」と言われた。
だが、悲劇は突然やってきた。バルーンが照明用のスポットライトに触れ、パーンという大きな音とともに破裂してしまったのだ。
一瞬、会場がシーンとなった。
《大臣を引き立ててさしあげます》
《あ、おい、ちょっと待て!》
佐渡谷の制止は間に合わず、アンドロイドは片手で大臣の襟首をつかんで、ネコの子のようにヒョイと持ち上げてしまった。
(おわり)
少し贅沢をし過ぎたみたいだ