頑固者は損をする

語彙からなんから誰にでも読みやすく、かつ重みの文章が書けるようになりたいです

「先生、笑わないで聞いてくれる…?私、好きな人がいるんだけど…。」


寺子屋でのその日の授業が終わり、少しずつ生徒が教室から出て行く様子を見届けた後、私一人だけの職員室で帰る支度をしていたところへ現れた生徒からの相談


「ほー、素敵じゃないか。それでどうした?」


「この気持ちが本当に落ち着かなくて…どうしたらいいの?」

年をとっても、そうでなくても恋愛は雅なものである
これほどまでに素直に人間としての…いや、生物としての感情が出る事柄もないだろう
何故大多数の人は恋愛を醜悪だというのか、理解できない
生徒が恥ずかしそうに話すのをみて改めてそう思う


「そうだな…方法は二つある。一つは思い切って告白してしまうこと。」



「ええっ!そ、そんな…もう一つは?」



「もう一つは…その恋を、忘れてしまうことだ。勿論しばらくは苦しいかもしれないが、きっと人生勉強には…」


私は途中でしゃべる口が止まってしまった

こっそりとほほえましい相談をしにきた、よく見なれた可愛い生徒が急にその子が作り出したものとは思えないほど冷たい笑いを浮かべていた

というより、完全に輪郭も別人のそれになっていた

どこかで見たことのある顔だが…思い出せない



さっきまで生徒だった"それ"は見下すような表情のまま、私にこう言った。


「そうだな、自分はずっとそうやって無かったことにしてきたんだよな。でもお前はただ、逃げているだけだよ。」



なっ…



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―いつの間にこんなとこへ…一体どこだ?



こうとしかいいようがない
気付いたら私、上白沢慧音は未知の空間にいた


そこは完全なる暗闇…とかではなく、むしろ逆

辺り一面がまるで雪化粧を施された平地のように真っ白で、上を見上げても、前を見てもそれは同じ
ある意味闇よりもタチが悪い
思考やら感性さえこの白さに呑まれてしまいそうである



もちろん何故自分がこんなとこにいるのか皆目検討がつかない


強いていうなら…昨日は珍しく博霊の巫女やら、白黒やら、そしていつも通りな妹紅やらが遊びに…もとい夕飯をたかりにきたせいでしこたま飲んだものだから、そのせいで幻覚を見ているのかもしれない


にしても何かが変である


原因なんて考えても仕方がない
そんなことは分かってるが、アテのない出口を目指しても徒労に終わるのが見た目通り明白なので、ならばせめて体力を使わずに済む原因を模索という選択をしようと思う




……


………


…………


……………


………………分からん



ただの時間の無駄であった
原因も何も心辺りがないとさっき自分で言っていたではないか
とても寺子屋で教鞭を執る知識人の行動ではないな、と自分を戒める



妹紅や魔理沙なら辺り構わず弾幕を豪快に放ちそうだが、あいにく私は月もなく、歴史を知らない未知の場所で使える力などあまりに貧弱でたかが知れてるし、そんな野蛮な人種ではない
ならば体力を………


いかん、思考がループをはじめた



途方にくれ、感触すらない地面に寝そべり目を閉じる


おなかすいたな…



―ああ…自分はこんなつまらないところで死ぬのだろうか


数千年の歴史を蓄えた自分の脳が歴史ではなく、悲惨な未来について考えはじめた頃………


「ガサガサッ」

「!?」



突然頭上の方から聞こえる草木をかきわけたような物音がして、思わず瞼を開けると―


そこは、さっきまで自分がいたはずの場所とは全く違う場所であった
相変わらず何故自分がそこにいるのかは分からない


唯一違うのはそこが見慣れた景色であったということ


「迷いの竹林…」



目に映るのは生い茂る草、そびえ立つ竹の群、そして迷いの竹林に唯一存在する通り道…人里同士を繋ぐ道である


時間は…詳しくは分からないが日が落ちきっているから早くはないだろう


そして、視界の外れには物音の原因も映し出されていた。


道を挟んだ向かい側で、草木の陰にしゃがんで隠れている一人の少女である。
着古してそうな着物に頂点に赤い羽のついた変わった形の帽子を被っていて、滑稽なアンバランスさが非常に目立つ

そして本人は隠れているつもりかもしれないが、その帽子が草木の陰より頭一つ分ほど飛び出ていて丸わかりである。


ってアレ…



「私じゃないか…?」


思わずその奇抜さに見間違いであれば、等と失礼なことを考えてしまったが
あれはまごうことなく自分であった
それも過去の、多分十歳くらいの自分だ。
あの帽子は子供の時から愛用していた



昔きもけーねだの何だのと悪口を言われ、いじめられていたのを思い出した。
過去の自分とはいえ失礼が過ぎる気もするが、アレでは言われても仕方がないような気がするな…
例えるならスーツを着て下駄を履いてるようなものである。

一応大人になって少しは身嗜みにも気を遣ってるんだぞ、これでも。



…ってそんなこと考えている場合ではない
過去の自分相手でも何か掴めるかもしれない
とりあえず赤の他人を装って…


「ねぇ君、ちょっといいかな?」

道を横切って近づき話かける
返事はなかった。

…聞こえなかったかな


「ねぇ君?」
すぐ隣に寄って声をかけるもやはり返事はない
私は難聴ではなかったはずだが…。



肩を叩いてみようか



…!!



手を伸ばしかけたところで気がついた


道と、草木を抜けて通ったにも関わらず自分が全く音を立てていない…?

そういえば草木をかきわけもせず自然にすり抜けた気がする

ということは…

案の定私は過去の自分に向かって手を伸ばしてみたものの、なんの手応えもなく突き抜けてしまうし、目の前に立ってもノーリアクション
まるで幻である。


…なんなんだ、全く
不可解が極まってるのは今さらだったのでもはや驚くには値しないが…


コンタクトがとれないので私は大人しく過去の自分の成り行きを見てることにした
さっき動く物音がしてたし、このまま待っていれば何かアクションが起きるはずである


―にしても、この光景見覚えが…



他の歴史の勉強ばかりしてたせいか、肝心の自分の記憶が上手く出て来ない



「まあ見てればわかるか…途中で思い出すかもしれないしな」


早々に思い出すのを諦めて成り行きを見守ることにした



―十分後―


…十分くらいは経ったか?


何もすることがないと十分ですら中々に退屈だったな

…ようやく事が起こりそうな気配を感じながら呑気に感想を漏らす



ザッザッザッと誰かがこちらに近付いてくる音がする
足音から察するにどうやら一人らしい



…どうせ私の姿は見えないのだし、近付いてくるのが誰なのかみてみよう


そう思って道に出て、足音のする方に目を向けると…



近付いてきたのは男の子だった

物腰柔らかそうな柔和な表情
顔の線は細く、なかなか美形
人間顔が全てではないが、表情から性格くらいは読み取れる



男の子は草木の陰に隠れている少女を隠れきれていない帽子を目印に見つけ出した


「ごめん、待った?」



何も突っ込みを入れないあたりに表情同様の優しさを感じる


「ううん、全然。」
「さ、いこうか。」

「うん!」



微妙に赤面して話す二人と会話内容でおおよそは分かった
どこかへ行く為の待ち合わせだったらしい
二人は並んでゆっくりとどこかへと歩き出す


というか過去の私がいるから全く人のこと言えないが、夜に子供二人で竹林は危険すぎるぞ…

子供の好奇心程危険なものはない、ということに当の本人たちだけは気づいていないのだろう


――!!

幻想郷の夜の危険さを思い出した途端、私の身体に戦慄が走った
この場面がなんだったのかハッキリと思い出したのだ。


こんな体験を何故今まで思い出せなかったのだろうか


―この子は私の初恋の男の子
いじめられっ子の私に唯一優しくしてくれた子だ。
そしていつだったか…竹林で綺麗な花が沢山咲いてる場所を見つけた。昼間明るい時も綺麗だったけど、夜みた方が絶対綺麗だと思うから、親が寝てから二人だけでこっそり行こうって誘われて…
私はこの誘いが本当に嬉しくて、絶対にその場所で彼に想いを告げようと思ってた


そして………!


私は無意識にこの歴史をなかったことにしようとしていた
が、最初この空間に来た時の予感は当たっていた―まるで力が出せない。



くそっ…このままじゃ…



二人が歩き出してすぐ、私が消したがっていた歴史は再現された



視界の悪い竹林の陰から突然化け物が現れ、男の子を捕らえたのである
男の子は早くに化け物に気付いていたが、過去の私を咄嗟に突き飛ばし、化け物から遠ざけたが故に逃げられなかったのだ


「おやおや、迷いの竹林に夜近づくなと教わらなかったかね?」

美味しそうな獲物を手に入れて、満足そうに化け物が喋る

迷いの竹林とは、頻繁に立ち込める霧や見分けのつかない景色で迷子になることが名前の由来ではない
夜の妖怪を恐れず、または知らずに竹林に入る"血迷った"人々が何故か絶えなかったのが本来の意味である


おそらくは、夜優美に咲き乱れる花も妖怪の巧妙な罠であろう

妖怪にも姿形が人間に近い者は大勢いるが、この妖怪は人間とは掛け離れた、花等お世話にも似合わない正真正銘の化け物であった


「まあ、君はそこで腰を抜かしてなさい。まずは一人目…」



「やめろおお!!」



妖怪の言う通り、昔の私は腰を抜かしていて立つことが出来ない


私は、無駄だと分かっているのに妖怪が今からしようとしていることを止めようと叫び、殴りつける腕は虚しく宙を切っていた





そして妖怪は男の子の抵抗も意に介さず、彼を―




「うわああああああああああ!!!!」



思わず叫び声をあげた、その瞬間に目が覚めた

周りには過去の自分も、怪物の姿もなく、ただ布団の中で汗だくになって飛び起きた自分だけが残されていた。



「夢…か。」


…夢というものは本当に性質が悪い

なんの根拠もないくせに妙な説得力で自分の心の内側を抉り取る

昨日みた過去の自分がいきなり現れる恋愛相談の夢といい、なんなんだ…。



昨日みた夢はさっきまで忘れてしまっていたが

記憶の残滓にあったこともあって、今日の夢はハッキリと覚えている


あれは確かに私の過去だ



―あの後目覚めた時には既に妖怪の姿はなく、妹紅の家で介抱されていた
どうやら間一髪で妹紅に助けられたらしい
私はその妹紅との出会いからしか覚えていない



私は当時ショックでこの時のも、男の子の存在の記憶すらも失っていた
だから、さっきもぎりぎりまで思い出せなかったのだろう




-いや、違う

本当は目覚めた時にはまだ覚えていた

でも、想いを伝えることが叶わなかった恋だから、無かったことにしただけ



言われてみれば私はこう見えても片思いくらいなら人並みにしているが、想いを告げたことは一度もない

想いを告げようと思ったのもあの日だけだ。



過去の自分は、本当に私に何かを伝えようとしていたのか?

言われてみれば、今だって好きな人はいるのに…





―っ…やめろ!

私はこれまで自分なりに正しいと思う道を歩んで、真っ当に生きてきたつもりだ!

夢だか過去の自分だか知らないが、存在すらあやふやなものなんかに今さら諭される筋合いなどない!


私はすぐに、今日見た夢をなかったことにした

…これでいい、さあ早く支度しよう。寝汗がひどいし、お風呂に入りなおさないとな…急がないと遅刻してしまう。


―でも消えたはずの歴史に紡がれていた言葉は…未だに私の胸の内で燻るのをやめなかった




「お前はただ、逃げているだけ。」



‐完‐

頑固者は損をする

夢って自分の脳によって見せられてるものだから、勉強しろって怒られる夢を見たとしたら多分本当は勉強しなきゃいけないって分かってるんだと思います
その場で思い付いたネタを書くのは楽しいですね

でも元からほとんどないはずの文章力がどんどん下がってる気がする



それと星空さんだとアップしたとき何故か空白が異常にせまくなっちゃいますね これどうしたもんか…

では、また

頑固者は損をする

東方プロジェクト2次創作 今回はけーね先生です いつもその場で思いついたネタを書いてます

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-12

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