愛の穴 第4回
小説というより脚本に近い感じで書きました。ただ、脚本の書式をよく分かっていないので、読みづらい個所も多々見受けられると思います。
だから、「脚本に近いが脚本ではない変な書式の読み物」、というような感じで読んでいただければ、純粋に物語を楽しんでもらえたら嬉しいです。
⒛ 現在・土手
主人公、突っ立って満月を見上げている。
M「このダブルパンチは痛い」
主人公、足取り重く歩き出す。
M「僕には考えなければならないことがたくさんある」
21. 考えなければならない事(主人公の頭の中)
M「世界の起源」
宇宙の始まり、ビックバンの映像。
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M「生命の形態」
人間、動物(例えばライオン)、植物(例えばパンヂー)、爬虫類(例えばカエル)、深海
の特異な形をした生物などの映像。
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M「宇宙人はいるのか」or「偶然の発生」(どちらか好きな方でお楽しみください)
宇宙人がこちらに手を 若い男と女が深刻な面持ちで向かい合っている。そして
振っている。 二人同時に喋り出す。
「あのさ」、「あっ」二人共照れる。そして再び二人同時に
「そっちから話なよ」また同時に「いやそっちから」
また同時に「いや」「あの」「えっと」また同時に、
「あ」「い」「う」「え」「お」
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M「僕の未来」
主人公と、その友達4人位で居酒屋にいる。
友達A「お前就職決まったんだって?良かったな」
〃B「おう、なんとかギリギリセーフって感じだよ。お前も決まったんだろ?」
〃C「おう、オレは友達のコネでまあなんとか。おい、お前もちゃんと考えろよ」
主「あ、ああ」
M「考えている。死ぬほど考えている。きっとこいつらよりも考えているだろう。だから立ち止まっているんだ」
22.土手
主人公、立ち止まっている。
前方にスーツを着たお爺さんを見つける。お爺さんはよちよち歩き(赤ちゃんのハイハイ)をしており、なにかを探しながら進んでいる。そして、「カーセブン、カーセブン」と呟いている。
主人公、お爺さんの元に近づいて行く。
主「すみません。なにかお探しですか?」
お爺さん「カ~?(何処となく甘えた表情で主人公を見上げる)」
主「は?」
お爺さん「いやいや、失敬失敬。(と言って立ち上がる)。こういう探し方をするとつい「ゆうこりん」の真似をしてしまう癖があって」
主「よく分かりませんけど。なにを探されてるんです?」
お爺さん「出口じゃよ」
主「出口?」
お爺さん「そう、出口じゃ。わしらはいつの間にかこの世界に入っておる。だったら出口も当然あるはずじゃろ?」
M「最初この爺さんはボケているんじゃないかと思った。そしてこの爺さんが探し求めているものの答えがすぐに頭に浮かんだ」
主人公、俯いている。
お爺さん「勘違いするでないぞ。出口と死は違うぞ」
主「え?」
お爺さん「わしが言っておるのはそういうのではない。この世界、構造、枠組み、宇宙、いわゆる、そういう風に一般的に考えられておる概念からの出口じゃ。そうなってくると、「死」という考えはこの世界に既に収まってしまっておる考え方、概念なんじゃ。そういう概念からの脱出、あるいはシステムからの脱出と言ってもよいかもしれん。だがかなしいかな、この考え方も、もはやこの枠内、システム、世界での考え方なんじゃ。どんなに長く、速く走ったって、この世界から逃れることはできないんじゃ。この世界でわしらは生きていくしか・・・(悲しそうな表情になる)」
M「理解できたようで、きっと僕は全然この話を理解できていなかったと思う」
お爺さん「あ、あったあった。これじゃ」
お爺さんが叢からなにかを見つけ出す。
主「見つかったんですか?」
お爺さん、満足気な表情で主人公を見つめる。右手には小さく光るものが。その光るものを自分の右目の前に持っていく。
お爺さん「これじゃ」
主「・・・指輪?」
お爺さん「そうじゃ。指輪じゃ。正確にはわしとばあさんの指輪と言ったほうがよかろう。昨日、家に帰る途中でここで落っことしてしまっての。家に帰ったらばあさんに甚く怒られての。いや~見つかってよかったわい。これでばあさんの機嫌も直るわい」
主人公、唖然。
お爺さん「お前さん、まだ若いんじゃろ?じゃあ焦らんでゆっくり歩きゃあいい。ゆっくりとな。ただし」
お爺さん、またよちよち歩きのスタンバイ。
お爺さん「まずは歩き出さなきゃならんぞ」
お爺さん、また「カーセブン、カーセブン」と呟きながら歩き出す。主人公と逆方向に。
M「僕にはジェネレーションギャップのせいか、あのよちよち歩きのユーモアが全く理解できなかったけれど、お爺さんの最後の言葉はなんというか、そう、ガツンときた」
23、同・土手
主人公、再び歩き出す。
今度は前方に、座って川を眺めている少女がいる。主人公がそれに気付き、話しかける。
主「どうしたの?こんな時間に」
少女「・・・」
主「ねえ、お家に帰らないの?」
少女「・・・」
主「(困惑した表情で)うーん、えっと、(少女の傍にドーナツの入った箱を見つける)あ、ドーナツ。一個僕にくれないかな」
少女「ダメ!(と言ってドーナツを死守する)」
主「なんでだよ。ちょうだいよ」
少女「知らない人とは喋ったり、物をあげたりしたらダメだってお母さんが」
少女、「お母さん」と口に出した瞬間、黙り込み、下を向く。
主「どうしたの?」
少女「・・・嫌い」
主「え?」
少女「お母さんなんて大嫌い」
主「お母さんとケンカでもしたの?」
少女「約束したのに」
主「約束?」
少女「・・・(また黙り込む)」
主「でも君は偉いね。僕にドーナツをあげなかった。お母さんとの約束をちゃんと守った」
少女「でも喋っちゃってるよ」
主「それは君の独り言だ」
少女、嬉しそうに笑い、投げ出している足をぷらぷらさせる。
主「君はお母さんが大好きなんだね」
少女「(主人公の予期せぬ発言に驚きをあらわにして反射的に主人公を見るが、すぐに下を向き、恥ずかしそうに)・・・嫌い」
主「きっと、いいお母さんなんだろうね」
少女、返事をする代わりに傍にある箱からドーナツを一つ取り出し主人公に渡す。
主「ん?」
少女「いい人にはあげてもいいって・・・お母さんが言ってた」
主「ありがとう」
少女も自分の分のドーナツを一つ取り出す。
少女「(ドーナツの穴を不思議そうに覗きながら)なんでドーナツって真ん中に穴が空いてるの?」
M「僕はドーナツを作る工程を話そうと思ったが止めた」
主「その穴には愛と希望が詰まっているんだ」
M「我ながら気持ちが悪いと思った」
少女「なんか損した気分」
主「その方がおいしいんだよ」
M「実際、揚げる際、穴が空いていた方が生地に熱が良く通るためおいしく出来上がるの
だ」
主「ん?穴が空いていた方がおいしく・・・この世界も」
少女、急に立ち上がる。
少女「私、帰る」
主「あ、ああ」
少女「お母さんが心配するから」
主「そっか。お母さんもきっと反省してるよ。だからここは君が大人になってお母さんを許してあげなきゃな」
少女、にっこり笑い、走って帰っていく。主人公と逆方向に。
主人公の手にはドーナツ。
24、同・土手
主人公、また歩き出す。
M「僕は今までドーナツに穴が空いていることに対して、特に気にしたことはなかった。そういうものだと思って食べていた。僕はドーナツが嫌いだったが、それでも僕は母さんが機嫌がいいと入れるドーナツを、母さんが好きだったドーナツを、母さんを喜ばせたいがために、悲しませたくないために、絶対に残さず食べてきたのだ。僕にとってドーナツは母さんと言っても過言ではないと思う。そして今となってはこのドーナツ、そしてこの穴が、母さんと唯一繋がっていられる、僕と母さんを唯一繋げる、希望と、愛の、穴なのだ」
主人公、ドーナツの穴を見る。そして、その穴を通して見える、前方に座っている男性を見つける。
前方にいる男性に近づいて行くと、その男性はジャイアント馬場のお面を付けていて、女子高生の制服を着ている。その男性はみるからにオッサンである。
オッサン「あ、あ、どうも(不自然なくらい慌てている)」
主「・・・どうも」
オッサン「まあ、お座りになって」
主人公、男性の隣に座る。
オッサン「え、え~とあの~、あ、いい天気ですね」
主「なにやってんだよ」
オッサン「えっ?」
主「そんな恰好でなにやってんだよって聞いてんだよ」
オッサン「なにって・・・(KーⅠ風に立ち上がってパンチや蹴りを繰りだす)自主トレよ」
主「だから馬場はプロレスだよ。じゃなくて、そんな恰好して俺の前にのこのこ現れやがってなにをやってんだよって聞いてんだよ。このくそ親父」
親父「なんでばれた」
主「ばればれだよ」
親父「いや~参ったな~。アポー」
主「アポー?ってっもしかしてあんたか!この土手であのダッチワイフ野郎が勘違いしてたのは!あんたのせいで大変だったんだぞ!」
親父「父さんな、昔からプロレス好きだったんだ」
主「じゃあなんで女子高生の制服着てんだよ!」
親父「ほら(お面を指さして)馬場だろ?ばば、ばばあ、婆ば・・・」
主「そしたら婆さんのコスプレだろ!」
親父「だって好きなんだもん」
主「ただの変態じゃねえか!なにやってんだよもう」
親父「まあそれはさておき、お前こそこんな所でなにやってるんだ?ドーナツなんか持って」
主「別にいいだろ。あんたには関係ねえだろ」
親父「小比類巻もっと頑張れよー!(主人公を殴る)」
主「だからそいつはKーⅠだろ!っじゃなくてなにすんだいきなり!」
親父「関係おおありだ!父さんはお前の父さんなんだぞ!気にして当然じゃないか!だからこうして今もお前の前に現れてるんじゃないか」
主「遅いんだよいつも」
親父「今回は遅くないぞ。早すぎるくらいだ」
主「どいうことだよ」
親父「今に分かる。まあそれはいいとして、お前なにぐずぐず考えてるんだ」
主「俺の人生もう滅茶苦茶なんだよ」
親父「お前お寺に修行しに行ってまで根性焼きってなんだよ!それでもって同じように試合に負けてんじゃねえよ!なにも変わってねえじゃねえか!(と言ってまた主人公を殴る)」
主「だから小比類巻はいいっての!っていうかいちいち殴んなよ!」
親父「だまれ!」
主人公、頬に手を当て親父を見つめる。
親父「滅茶苦茶だあ?なにがあったか知らないけど」
主「なにがあったか知らないって・・・母さんが死んだんだよ!大体分かんだろ!」
親父「母さんが死んじまったくらいなんだ!」
主「おまけに彼女も出ていっちまったんだよ!」
親父「彼女が出て行ったくらいなんだ!父さんの母さんだって死んじまってるし、彼女だって出て行っちまってる。お前の母さんだって昔は父さんの彼女で、その後、父さんの妻だったんだぞ。苦しいのはお前だけじゃないんだ!甘ったれるな!現実を見ろ!父さんなんか先日ドンキでのバイトがクビになったんだぞ!」
M「母さんの言葉を思い出した」
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母「お父さんはあれでいいのよ」
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M「現実を見ろという父さんを母さんは好きになった。結果的に別れてしまったけど、母
さんは父さんのことを悪く言ったことは一度も・・・」
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母、酒に呑まれている。
母「お父さんはホントに使えない男よ!ほんとクズ!」
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M「・・・あまり言わなかった。どいうことなのか、もうわけがわからない」
親父「お前は甘ったれている!父さんが鍛え直してやる!さあ、服を脱ぎなさい!」
主「なんで服を脱がなきゃならないんだよ!」
親父「鍛えると言ったら普通脱ぐだろ!さあ脱ぎなさい!ちんたらするな!」
主「分かったよ。意味わかんねえよ(渋々上半身だけ脱ぐ)」
親父「下もだ!当然だろ!甘ったれるな!」
主「甘ったれるって意味わかんないけど、え、下も?」
親父「早く脱ぎなさい!ちんたらするな!忙しいんだ父さんは!」
主「嘘つけ!プータローだろあんた!」
主「お前だってそうだろ!さあ早く脱げ!」
主人公、下も渋々脱ぐ。
親父「お~そうだ。いいぞ。これで父さんはなんとか助かる」
主「助かる?」
親父「いや、なんでもない」
主「ん?ちょっと待て。怪しいな。そういやさっきドンキでバイトしてたって言ったな!その馬場のお面と女子高生の制服、両方ドンキで売ってる品物だよな!」
親父「それがどうした!」
主「あんた金なさすぎて着る服もなくて、それ盗んだじゃねえのか?それでバイトクビになったんだろ!」
親父「違う!クビになった理由はコンドーム買いにきた女の子に『俺のものはそんなのには収まりきらねえぜ。もっと大きなやつを持ってきな』って言ったらその女の子、店長に告げ口しやがって。その上、あることないこと言いやがって・・・別に父さん、そんなつもりで言ったんじゃないんだぞ!」
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ドンキでの事件・レジにて
親父「大体この店には、というかこの地球上にはオレのものを大人しくさせるものなんてないね。君、私をみくびるんじゃないぞ」
女の子「いや、別にあなたに買うんじゃないんですけど」
親父「あ、なるほど。うん。合点が言ったぞ。つまり、それは君の小さな、小さな、極々、器の小さい友達にあげるということだな。そうだよな。全く君はほんとに昔から人を驚かせる、楽しませることが好きな、エンターテイナーな子猫ちゃんだな」
女の子「いえ、初めましてですけど」
親父「まあ、私にはそんなちゃちなゴムなど必要ない。やっぱりありのままの私。私はなににも縛られない。だが君を亀の甲には縛るがな!ハッハッハッ!」
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主「いや、クビだよ。即クビ。あー申し訳ない。その女の子に謝罪したいよ」
親父「そんでもって変な理由でクビになったもんだから、父さん、頭にきてな。店出る時になんか盗んでやろうと思って盗めたのがこれだったというわけだ」
主「やっぱ盗品じゃねえか!最低だなあんた!」
親父「父さんはなあ、ほんとに生活が苦しくて苦しくて大変なんだよ!だからお前の衣服いただく!(衣服を奪い取る)」
主「あ!やっぱりそういうことだったのか!このクソ親父!」
親父「あと、食べる物があれば最高なんだが・・・」
父、主人公のドーナツを凝視。
親父「そのドーナツを渡しなさい!父さん、昨日からなにも食べていないんだ!」
主「あんたどんな生活してるんだよ!いやだ!これだけは、このドーナツだけは渡さねえ!絶対渡さねえ!」
父「父さんを飢え死にさす気か!クソ!うー、うー、きゃあああ~!痴漢よ!きゃあ!きゃあああ~!キエ~!きゃああ~!痴漢!痴漢よ!助けて!この人痴漢です!誰か助けてください!」
前方から警官が自転車に乗ってやってくる。
警「おい!なにやってるんだ!なに?痴漢!?」
主「違います違います!断じて違います!こんな奴に、こんなオッサンにやる馬鹿どこにもいませんよ!」
父、主人公が警官に弁解している隙にドーナツを奪い、主人公の衣服を持って逃走する。
主「あ、コラ!てめえ!」
警「ちょっと君、交番まで来てもらおうか。パン一だし」
25、交番・前
主「違うんですよ!本当に違うんです!僕はなにもやっていないし、この恰好も色々あっ
てのこれなんですよ!聞いて下さいよ」
警「なにも違くない。うん。なにも違くはないぞ。色々理由があってのそれだから問題があるんだ」
と、いうように最初のシーン1に戻る。
続く
愛の穴 第4回