愛の穴 第2回
小説というより脚本に近い感じで書きました。ただ、脚本の書式をよく分かっていないので、読みづらい個所も多々見受けられると思います。
だから、「脚本に近いが脚本ではない変な書式の読み物」、というような感じで読んでいただければ、純粋に物語を楽しんでもらえたら嬉しいです。
2、土手「3時間前」
主人公なにかの圧力によって吹っ飛ばされる。
主「いて!」
目の前に厳つい、(ジャイアント馬場にそっくりな)ダッチワイフを抱えたオジサンが立っている。
かなり興奮している。
オジサン「お前、俺のガールフレンド(ダッチワイフの事)に手出したらしいな!」
主「いや出してないです!絶対に出してません!むしろ出したくないというか・・・」
オジサン「あぁ!?」
ストップモーション。オジサンのドアップ。
M「こいつも見たいものしか見ようとしない、とんだ勘違い野郎だ。僕はただ奴らと喋ってただけなのに・・・。あっ、もう少し前から始めた方がいいか。」
3、同土手「3時間30分前」
主人公とバンドマン風の恰好をした二人組の男達が談笑している。
バンドマン①(以下バン①)「えっ、じゃあ兄ちゃんよくここに来るんだ。」
主「はい。なんかここに来ると落ち着くというか。」
バン①「なんかあったのか?」
主「ま、まあ色々とありまして・・・」
ストップモーション。
М「そうだ。もう少しだけ前から始めよう。」
ストップモーションの中、バン①の声だけが聞こえる。
バン①「いや、いいだろ振り返らなくて。」
ストップモーション解除。
主「えっ?」
バン①「いや、思いださなくていいだろっての。人間生きてりゃそりゃあ色々あるよ。」
なっ、チー坊!」
バンドマン②(以下チー坊)「そうっス。色々あるっス。俺なんか・・・」
ストップモーション。そして再びバン①の声だけが聞こえる。
バン①「だから振り返らなくていいっての!」
ストップモーション解除。
チー坊「へへっ、そうっすね。スイヤセン。」
主「お二人は普段なにされてるんですか。(二人の恰好を見やってから)バンドかなにかやられてるんですか?」
バン①「(フリーターやニートにありがちな夢とか就職の話になると急に小難しい表情や口調、態度になるそれの雰囲気で)うーん、バンドマンってカテゴライズされるとちょっとあれなんだけど、うーん、なんていうんだろ?スー、スー(閉じた歯の間から吸うなんとなく厳かな息、スースーをこの話の途中途中にやたら入れてくる)敢えて一言でいうなら、敢えてよ?敢えて言うならドリームハンターマン?(無茶苦茶)そう、夢追い人よ!そう、冒険者?そう、旅人!」
主「一言じゃなくなってますけど・・・」
バン①「そう俺達は広大無辺な大海原を旅する航海士。そう、航海士だ!なっ、チー坊!」
チー坊「そうっス。アルバイターっす」
主「アルバイター?アルバイトって事?えっ、フリーター?」
バン①・チー坊「へへへ。(照れ笑い)」
主「あー・・・そうなんですか。」
バン①「でも、あれよ、俺ら二人でメジャーデビューっていう壮大な夢もあるわけよ!今日もその夢のために必至で猛特訓よ!なっ、チー坊!」
チー坊「そうっス!あ、先輩の今日のあれカッコ良かったっス!あのギターの押さえ方、あれはハンパじゃなかったッスよ!」
バン①「お前こそあのスティックの握り方ったらなかったぜ!」
チー坊「いや、先輩のあの押さえ方に右に出る者は・・・いや、ケツを出せる者はいないっス。先輩ちょっとやって見てくださいよ!」
バン①「そうか?(笑)やって見ちゃう?(笑)」
バン①が持っていたギターケースからギターを取り出して地面に置く。
チー坊が今か今かと期待の面持でいる。
バン①「行くぞ!」
バン①が思いっきりジャンプしてお尻でギターの上に乗っかる。
チー坊「出たー!すっげー!カッチョイー!いやーそのケツハンパないっス!やっぱ違うなー。先輩のケツはやっぱ違うわー。」
主「あー・・・すごい斬新な押さえ方ですね。パンクっていうのかな。う、うん。すごい。お尻の方は痛くないんですか?」
バン①「(すごい痛そうに)う、うん。大丈夫だぜ。こんぐらい。パ、パンツは痛みを伴ってこそだからな。」
主「いや、パンツじゃなくてパンクでしょ?えっ、初めて聞く言葉?バンドマンでしょ?」
バン①「おい、チー坊!お前もあのハンパねえスティックの握り方やってみろよ。こいつにお前のパンツを見せてやれ!」
主「いや、パンツだったら見たくないけど」
チー坊「え、いいんですか?(照れくさそうに)先輩のあとだからなー。どうかなー。ちょっと恥ずかしいなー。」
バン①「いいよ。やってみろよ。」
チー坊「わかりました。やらせていただきます。」
チー坊がスティックを2本取り出してスタンバイする。
チー坊「では行きます。・・・ポチョムキン!」
スティックを両脇に1本ずつはさむ(できるだけ面白いポーズで)
バン①「・・・」
主「・・・」
バン①「・・・地味だな」
主「いや、地味とかそういう問題じゃないでしょ」
チー坊「えっ!?」
バン①「なんか勢いがないな。もっと気合い入れろよ!」
チー坊「わ、わかりました!(咳払いなどして仕切りなおして)では・・・行きます。ポチョムキン!!」
バン①「もっと大きな声で!」
チー坊「ポチョムキン!!」
バン①「もっと!」
チー坊「ポチョムキン!!」
バン①「違う!ポチョモキン!」
チー坊「え、ポチョモキン?」
バン①「そうだ、ポチョモキン!」
チー坊「ポチョモキン!」
バン①「違う!ハゲチャビン!」
チー坊「ハ、ハゲ?ハゲチャビン?」
バン①「そうだ、ハゲチャビン!」
チー坊「ハゲチャビン!」
バン①「違う!ケチャップかけたい!」
チー坊「ケチャップかけたい!」
バン①「マヨネーズもかけたい!」
チー坊「マヨネーズもかけたい!」
バン①「意外性で醤油も!」
チー坊「意外性で醤油も!」
バン①「ショウユ!」
チー坊「ショウユ!」
バン①「ショウユ!」
チー坊「ショウユ!」
バン①「ショウユ!」
チー坊「ショウユ!」
バン①「うるさい!!!」
チー坊「えー!!?」
バン①「うるさいぞお前。」
チー坊「いや、え、えー!?」
バン①「なんだよ、意外性で醤油もって。なににかけてんだよ。目玉焼きにか?目玉焼にだったら普通じゃねえか。意外でもなんでもねえじゃねえか。まあ俺はソース派だけど。なっ、そうだろ?ソース派だよな?」
チー坊「え、は、はい」
バン①「生言ってんじゃねえ!(チー坊にヒップアタックする)」
チー坊、ヒップアタックのしょぼさに困惑。
バン①「な、ちょっと調子に乗っちゃったな。気をつけろよ。」
チー坊「・・・はい、すいません(納得いかず渋々)」
バン①「うん。分かればいいよ。うん。分かれば。」
主「あ、あの・・・」
バン①「うん?あ、すいませんね。なんかみっともない所をお見せしてしまって」
主「いや、いいんですけど、なんか口調が若干変わってる気が・・・」
バン①「では、チー坊、そろそろ帰りましょうか」
チー坊「は、はい」
バン①「(主に向かって)では、ごきげんよう。」
チー坊「さよならッス」
そして二人、歩き出す。
チー坊「先輩、俺最近思うんス。」
バン①「ん?どうしました?」
チー坊「なんかこのままでいいのかなって。そろそろ現実見た方がいいのかなって。」
バン①「そうですね。チー坊、あなた、今度35(歳)になりますからね。そろそろ考えた方がいいかもしれませんね。」
チー坊「先輩、俺より5コ上ッスよね?」
バン①「そうですが、それがどうかしましたか?」
チー坊「(なにかを諦めたように)いや、なんでもないっス。っていうかその口調、そろそろ止めてもらっていいスか?」
そしてバン①が「まあまあ」とチー坊の肩を優しく叩いて何故か慰めながら歩き去っていく。
主人公その二人の背中をじっと見つめている。
そして遠くの方から怒鳴り声と共にダッシュで近づいてくるオジサンがいる。
M「そして先程の男が登場する。」
男「アポー!アポー!アポー!」
主「?」
男「おいコラ!見つけたぞ!テメーだろ!アポー!」
男が主人公を押し倒す
主「いて!な、なんですか?!え、アポー?」
男「お前、俺のガールフレンドに手出したらしいな!」
主「いや、出してないです!絶対に出してません!むしろ出したくないっていうか」
男「あぁ!?」
主「いや、ホントなんのことかさっぱり分からなくて・・・」
男「お前、今バンドマンといたろ!俺は奴らのファンなんだよ。そんで聞いてんだぜ!
しらばっくれても無駄なんだよ!」
主「えっ?」
× × × × × × × × × × ×
男М「奴らが言ってたんだよ。最近ジャイアンと馬場に似た女の子とこの土手で話をしてるいけすかねぇ男がいるって」
路上でバンドマン二人とダッチワイフ男が話をしている。
バン①「いや~この前さ、信じられない位ジャイアント馬場に似た女がいてさ~」
チー坊「え!?マジっすか!?それやばいッスね?」
バン①「でもさらに信じられないのが、その女と話をしている男がいてさ、多分彼氏だと思うんだけど」
チー坊「え!?マジっすか!?ヤバいっスね!いよいよやばいッスね!馬場に彼氏が!?マジヒートアップじゃないっスか!」
男「(照れながら)い、いや~その彼氏実は俺なんだよな~」
バン①「ちげーよ!あれはお前じゃなかったな!お前だったらすぐヒップアタックしてるからよ!」
チー坊、「ヒップアタック」と聞いて「出たーケツ!先輩のケツ炸裂すっぞ!」など叫んだりして異常にテンションが上がっている。
バン①「調子に乗るんじゃないチー坊!」
チー坊「え?」
バン①「(口調が変わり)殺しますよ。次(調子に)乗ったら即殺しますよ」
チー坊「・・・はい」
バン①「わかりましたか?」
チー坊「・・・はい」
男「あ、あの・・・」
バン①「あ、すいませんね。お見苦しいところをお見せしてしまって」
男「いや、大丈夫です」
チー坊、完全沈没。
男「あの、それで、ジャイアント馬場子さんとその男はその後どうなったんでしょうか」バン①「あ、そうそう、んでその後そっからゴングがなって試合が始まんだよ!もうあっつ~い試合でよ!」
チー坊、バン①の口調が元に戻ったのを確認して、また調子に乗り始めようとしている
チー坊「え!?試合!?試合ってあっちのっすか?!あっちの意味での試合っすか!?」
男「なに!?」そう言って男、猛ダッシュで何処ぞに走り出す
バン①「(地面を見ながら)チー坊!」
チー坊「は、はい!」
バン①「殺すと言いましたよね」
チー坊「え?」
そしてバン①、チー坊に向かって何故かズボンとパンツを半分まで降ろしてしゃがむ
チー坊「先輩、な、なにやってるんですか?」
バン①「ハンケツヲクダス(判決を下す)・・・死刑じゃ!」
チー坊「・・・」
バン①「(ハンケツを力強く突き出しながら)死刑じゃ!死刑じゃ!死刑・・・じゃ」
チー坊「先輩、ズボンとパンツ早急に上げてもらっていいですか」
バン①、ハンケツを出したままフリーズ。
バン①「お、おう分かった。早急にしまうよ。早急にな。(ズボン、パンツを上げる)な、なんか悪かったな。変なケツ(結)末になっちまって」
チー坊「お疲れ様でした(足早に立ち去る)」
それを足早に追うバン①。
バン①「おい、待てよ!チー坊!悪かったって!なっ!」
そしてチー坊に追いつき肩に手をあて宥めながら帰っていく。
× × × × × × × × ×
男「テメーなに俺の女と白熱の試合、繰り広げてくれてんだよ!」
主「いや、完全なる誤解なんですけど・・・」
男「まだ言い訳する気か!クソ!マジガッテム!マジガッテムだぜ」
主「いや、そこ「アポー」じゃないの?キャラ設定ちゃんとしてよ」
男「う、うるせー!ア、アパー!(男、上着からナイフを取り出し主人公に襲いかかる)」
主「いや、間違えてるし、ってちょ、ちょ、待て待ってナイフはやばいって!」
男「問答無用!アジャー!」
主「もう突っ込むの面倒ってか待てって!」
ちょっとした攻防の末、男がナイフを主人公の脇腹に刺す。
主「マ、マジかよ。マジ・・・ん、ん?」
ナイフは運よく主人公の肘と脇腹の間を通っているだけになっている
主「お、ラッキー」
男「えっ、なに?え?」
男、ナイフを思わず落としてしまう。
主人公しめたと思い、男の額に頭突きを喰らわす。
男「うっ!」
男、倒れこみそのまま気絶してしまう。
主「(額をさすりながら)チョーパンってあんまり痛くないんだな」
× × × × × × × × × × ×
主人公、土手に座ってジャイアント馬場そっくりなダッチワイフを抱えて目の前の川を見ている。
主「マジでそっくりだな。ってか顔ジャイアント馬場じゃん。馬場にそのまま女装させたって感じだな」
馬場ダッチワイフの背中になにか書かれているのに気が付く。
主「なんだこれ」
取扱説明書「『アポー』と喘ぎます。とっても興奮すると思われます。よろしくお願い致
します。勃起必至!」
主「取説、ってか自己紹介に近いな」
主人公、隣で伸びている男を見る。そして溜息。
主「よし」
主人公、意を決したように、「アポー!」と言って馬場ダッチワイフを川に投げようとするが寸前で止める。そして男の隣にそっと置く。
M「この男にだって歴史はある」
主人公、夜空に浮かぶ満月を見上げる。
M「僕は満月を見ると思い出す」
馬場ダッチワイフ(以下・馬場)「なにを?」
主人公、急に喋りだした馬場に動揺するが気のせいだと思い再びモノローグを語りだす
M「僕は満月を見ると思い出す」
馬場「せやからなにをやねん!」
主「なんで関西弁やねん!あっ、俺もなってもうた。いや、そうじゃくて・・・ん?」
主人公、馬場の背中の例の取扱説明書の下にスイッチを見つける。
主「あ、オン(ON)になってる」
そしてオフろうとスイッチに手を触れようとすると馬場が急に喘ぎだす。
馬場「アポー!アポー!アポー!」
主「えっ、感じてんの?まだ触ってないんだけど」
馬場「アポー!ア、ア、アポー!ア、ア、ア、東洋の巨人とも呼ばれたんだよー!ア、ア、そこ、ア、いい、ア、プロ野球選手時代もあったんだよー!」
主「随分変な喘ぎ方ってか、いや、俺リアルタイムで見てないし、そこら辺詳しく知らないんですけど」
馬場「あ~久々猪木と闘いてーな~。猪木こねえかな~。猪木~」
主「いや、あんた猪木と闘ってないでしょ。当時のファンが一番実現を望んでた試合じゃないの?」
馬場「なに言ってんだ!顔合わせりゃ試合よ!あっつーい試合だったな~。あ~試合してーなー。あー猪木ー。ダッチ・猪木~」
主「ダッチ・猪木?まさかダッチワイフ界のアントニオ猪木ってこと?あーそういうことかって納得できるか!」
馬場「あ~こねえかな~。都合よくこねーかなー。試合してーよ~」
主「都合よくって、いや~来ないと思いますけど・・・」
馬場「あ、猪木だ」
猪木が目の前の川をクロールで泳いでる。
馬場「おーい、猪木~。元気か~」
猪木、馬場に気づき土手に上がってくる。
猪木「おぉ~馬場~。元気かよ~」
主「なんで?!なんで猪木まで登場してくんの?」
馬場「お~、元気だよ。お前は元気か?」
猪木「いや~馬場~久しぶりだな~。え~おい~。おい!はっ、はっ、は(例の独特の笑い)いや~元気してたか~?」
馬場「俺はお前、元気だよ~。お前の方は元気なのかよ」
猪木「(全体的にちょっとよそよそしく)はっ、はっ、は。いや~驚いたな~。ホント久しぶりだな~え~おい!はっ、はっ、は。ん?馬場~、お前顔色悪いな~。元気なのかよ~?」
主「なんで自分の体調は答えないんだよ!んでどんだけ馬場の健康状態気にしてんだよ!あと、猪木と言ったら『元気ですかー!』だろ。なに普通に『元気なのかよ~』って聞いちゃってんだよ!んであんたちょっと緊張してんじゃねえよ!なんか喋り方がサラリーマンが久々同窓会の友人と会って最初の方探り探りで『こいつとどんな風に会話してたっけな?』みたいな感じの喋りになってんだよ!であんたはダッチワイフなのか?それとも本物の猪木さんなの?っていうか俺もバカみたいな質問しちゃってるけど・・・て、おい!」
主人公が色々突っ込んでいる間に勝手に試合を始めてしまう元プロレスラー達。
主「なに試合始めてんだよ!やっぱりあれか。プロレスラーだから昔の思い出に花咲かせるよりも闘いで火花散らせる方が性に合ってるって・・・やかましいわ!」
遠くの方からゆったりと、そしてたっぷりに、まるで棒高跳び選手の助走のような足取りで走ってくる男がいる。
主「ん?なんだ?誰だ?」
馬場・猪木「おっ、レフェリー!」
主「レフェリー?って渡辺いっけい!」
いっけい「ファイ!」
主「いや、いっけいは『Kー1』でしょ!」
いっけい「角田じゃなくてごめんね」
主「いや、角田も『Kー1』!」
角田「角田、いるよ」
いつの間にか角田もいる。
主「えっ?なに!?なにこの展開!読めねえ!全然読めねえ!全く展開が読めやしねえ!」
突然、馬場、猪木、いっけい、角田が主人公の方に振り返る。
馬場・猪木・いっけい・角田「お前の未来もな!」
終了のゴングが鳴る。
主人公、目を覚ます。
主「夢!?」
主人公、辺りを見回す。
男と馬場ダッチワイフの姿が消えている。
主「俺が死んでると思って慌てて逃げたのかな。ま、ラッキーだな」
主人公、先程の夢でのラストの「お前の未来もな」を反芻する。
主「俺の未来・・・」
主人公、満月を見上げる。
M「そう、僕は満月を見ると思い出すんだ。それは本能、奥の奥の源泉、オオカミの血が流れているのを思い出すとかではもちろんなく、僕の母親を思い出す。そしてあの言葉を」
続く
愛の穴 第2回