愛の穴 第1回
小説というより脚本に近い感じで書きました。ただ、脚本の書式をよく分かっていないので、読みづらい個所も多々見受けられると思います。
だから、「脚本に近いが脚本ではない変な書式の読み物」、というような感じで読んでいただければ、純粋に物語を楽しんでもらえたら嬉しいです。
1.交番前
交番前
主人公と警官が揉めている。
主人公はパンツ一丁。
主人公(以下M)「違うんですよ!本当に違うんです!僕は何もやっていないし、この恰好も色々あってのこれなんでよ!聞いて下さいよ。」
警官(以下・警)「なにも違くない。うん。なにも違くはないぞ。色々理由があってのそれだから問題があるんだ。」
主「本当に僕なにもしていないんですよ!ただ喋ってただけなんですよ。どっちかと言ったらあっちの方が問題ありでしょ。」
警「ただ喋ってただけで何で女の子が助けを求めてくるんだ?え?」
主「いや、あれ女の子じゃないでしょ?オッサンでしょ。完全な完成されたご立派なオッサンでしょ。」
警「な、あんな可愛い娘をオッサンだなんて、私は今まで生きてきた中で5本の指に入る可愛さ・・・」
後方の木陰で物音。主人公達振り返ると話題の人物、女装したオッサンがこの物語のキーとなる「ドーナツ」を半分に割った状態で両手に一つずつ持っている。
主「あっ、あいつ!ふざけんな!畜生!こっちこい!あっ、ドーナツ勝手に割りやがって!」
女装オヤジ、ドーナツを持ったまま背を向けて猛ダッシュで逃走。
主「おい、待て!ほらお巡りさん!逃げてきますよ!っていうか速!」
警「私は結構タイプなんだよな。あーいうムキムキというかゴツゴツ、いや、ゴリゴリしたタイプ・・・う、うん?逃げる?私の天使がか?」
女装したオッサンが逞しい背中を向けて走り去っていく。
警「ああ、私の天使。走りっぷりも中々。ベンジョンソンみたいで可愛いじゃないか」
主「ベンジョンソン男じゃん。可愛いって、お巡りさんそっちの人?」
警「(咳払いして)とにかく中で話を聞こう。さっ中に入りなさい。」
主「いや、だから違うんですよ!話を聞いて下さいよ!」
警「だから中で話をちゃんと聞くから早く入りなさい。」
主「だから待ってって!何で分かってくれないんだよ!どうせ中で変な事すんだろ!」
警「な、そんなわけないじゃない!早く入りなさい!」
主「いや、口調に出ちゃってるじゃん」
警「おだまり!おだまりよ!早く入りな!」
主人公、警官に無理やり中に押し込まれる(放り込まれる)形になる。
ストップモーション。
主モノローグ(以下М)「人間は見たいものしか見ようとしないし聞こうともしない。もう少し具体的に言えばそれは、自身の意志による決定事項で、つまりは自身に都合のいいように解釈しているのだ。僕らはそうやって生きているし、そうやってでしか生きていけない。
また、全ての物事には事情がある。事情とは、そのようになった理由や「いきさつ」のことで、事情と少し意味が似ている「いきさつ」を熟語に変換すると「経緯」になる。「経緯」と変換するとそこに今までは見えてこなかった、距離と時間のニュアンスを帯びてくる。
その距離と時間を引き延ばして、個人に付属する距離と時間にその尺を合わせてみると、その尺の長さがそのままその個人の「歴史」になる。
この警官にだって警官になった経緯があるし、その経緯を順を追ってこの警官全人生にまで引き延ばせば歴史になる。
僕が何を言いたいかというと、僕にもパン一になった経緯があってそれを引きのばせば歴史になってしまうのだ。
いやだ。そんなアンポンタンな歴史は御免だ。人間は予期していない事柄が目の前で起こった時、冷静さを保つために百パーセント自分が正しいと思ってその事柄に対して判断、決断をする。その後、真の意味で冷静になってその事柄に対し正しい判断、決断ができればいいのだが、大人になるにつれて自分の殻をどんどん固くして頭も固くなり、自分を信じて疑わなくなり、もしその判断が間違えている場合、自力で考えを変える事は難しく、第三者でも現れない限り一生勘違いしたままという事も過言ではないと思う。
つきましては、僕のパン一変態疑惑を晴らしたい。この警官は自力で考えを改める頭はもはや持ち合わせていないと思う。僕はそんな大人にはなりたくないと切実に思う。この警官に誤解を解くためには、第三者の登場を願うしかないのだが、その望みはもはや皆無だと思う。何故って唯一のパン一事情的第三者である変態女装オヤジは僕らに背を向けてたった今、ベンジョンソンよろしく猛ダッシュで逃走したばかりだからだ。
だからせめてこの物語をご覧いただいている皆様方にだけでも僕が変態でない事を証明したいので、少しばかりお付き合い願いたい。物語は少し前から始まる。」
ストップモーション解除。
巻き戻し再生の形になり、主人公が後ろに吹っ飛ばされる形になる。
愛の穴 第1回