~時の足跡~ 11章~15章

11章 ~血縁~


空には雲の合間から陽が差してきて、寒さも少しは和らいだように思えた、でも、身体を吹き抜けていく風がうちには冷たすぎて、
陽ざしの温もりはうちには届いてくれない、ポケットの中の温もりに、うちの両手はいまだポケットの中から出せないままだ・・。

今日はヒデさんとデートの日、ヒデさんの誘いでうちはどういう訳かデートする事になった、
電車で二時間程で辿りついた場所は、今まで来た事なかった大きな街、
街は行き交う人で溢れ、街の通りには立ち並ぶ店が幾つも連なって、色々な物が並べられてて、所々で人が寄り集まって賑わいを見せてた・・、
人の多さも街の広さにも見る物すべてが驚きだった、見惚れて立ち止ったら、ヒデさんがうちの顔を覗き込んで、

「どう?楽しめそうか~?」そう言って微笑んで見せた、
「はい、凄く嬉しいですありがとうヒデさん!」って言うと「そっか~良かった!」それだけ言ってうちの頭を撫でながら笑った。

小さい頃、お兄ちゃんに遊びに連れてって欲しくて、せがんだ事があった、けどお兄ちゃんは、うちを連れて歩くのが嫌いだった、
だからうちが泣いてもお手伝いしても聞いてくれなかった、無理を言ってせがんだりしたら、グウで殴られてた。
何時からかお兄ちゃんに、殴られるのが当たり前になってたなって思う、

建兄ちゃんも慎兄ちゃんには何も言えなくて逆らう事はしなかった、だから、うちのこと構ったりしなかったんだって思う、

ヒデさんの背中を追いかけてたら、いつの間にか思い出してた幼い頃の記憶に、つい足を止めてしまったらヒデさんに、
「亜紀ちゃん?どうした~!具合でも悪いのか?」って声をかけられた
「あっいえ、大丈夫です、ごめんなさい!」って言ったら、ヒデさんは、

「そっか、そんじゃ~行こうか?」そう言って、うちの手を取って歩き出した。
まるで小さな子供の手を引いて歩くかのように、ヒデさんの手は温かくて、心地よくてうちも握り締めた、
(ずっとこのままでいられたらいいな)

ヒデさんは色んな場所に案内してくれて、うちは時間の経つのも忘れて楽しんた、そんな時ヒデさんが、
「亜紀ちゃん?楽しめたか~?疲れたろう~?ちょっと連れまわし過ぎたかな、悪いな?」って頭をかいてた、

「あたしは全然大丈夫、凄く楽しいです、ありがとう、ヒデさん?でもヒデさんの方が疲れたんじゃないですか?」って言ったら

「そっか好かった、俺は平気だよ、だって今日は亜紀ちゃんとのデートだからな?・・」そう言って笑った。
何処までが冗談なのかヒデさんのお茶目っけに、うちは言葉に困って笑うしかなかったけど、でもヒデさんはうちの笑いに誘われたように
また笑い出してた。

いつの間にか空も薄っすらと暗くなり始めた・・、
それでも街の行きかう人の波は絶える事もなくて、なんだかこの街の時だけが止まってしまったかのようにいつまでも賑やかに華やいでた・・。

それから帰っり道をヒデさんと歩きだして、お土産屋さんの前に来た時、ヒデさんは
「亜紀ちゃん?ちょっと待ってて?」そう言って店の中へ入って行った、それからしばらくして、戻って来たヒデさんが、
うちに小さな小袋を手渡して、
「大したもんじゃないけどさ?受取ってくれ、お守りのお礼な?・・」って言われて貰った贈り物・・・、

それは小瓶に入った星の砂にきらきら光る星の形をしたマスコットがついたキーホルダー、また一つ増えたうちの宝物、
嬉しくてうちはその夜、床に就いても貰ったキーホルダを握り締めて眠った。


それから一週間が過ぎて・・、
お客も引けて店閉まいに追われてたそんな時、店の電話が鳴りだした、でも電話に出たヒデさんは深刻な顔をして電話を切ると

「亜紀ちゃん?ちょっと出かけてくるよ!悪いけど留守番頼むな?できたら店閉めて先寝てていいからさ?・・」そう言うと支度をはじめてた、
少し気になって
「何かあったんですか?」って聞くとヒデさん、
「お袋の容態が悪いって知らせがあったんだ、だから悪いけどちょっと病院に行って来るよ!」そう言うと早々に出て行ってしまった。

それから午前0時を回った頃、やっとヒデさんは帰ってきたするとヒデさん、うちの顔見て
「起きてたのか?心配させたみたいだな~?ごめん!お袋なんとか持ち直して、もう大丈夫そうだ!だから亜紀ちゃん、もう心配しなくていいよ
ありがとな?もう寝たほうがいい、な?」そう言うとヒデさんは自分の部屋へ入ってしまった。



こうして早くも三ヶ月が過ぎた頃・・、季節は、春の訪れに心地いい風を運んで、この町の草木も色をつけはじめてた、

お母さんの見舞いへ行くのに、忙しく支度を始めてたヒデさんが、突然うちの所へ来て、
「亜紀ちゃん~今日俺と一緒に、お袋に会ってやってくれないかな~?」って言い出した・・、

急に言われて驚くしかなくて困惑してたらヒデさんは、
「前に行った時さ~、お袋に亜紀ちゃんの事話したんだよ~、そしたら一度会わせてほしいってせがまれちゃってさ~?だから一度でいいからお袋に
会ってやってくれないかな~?」って言い出した、
(なんでうちのこと、話してるの~?)って叫びたくなった、でも言える訳も無くて、結局一緒に行く事になってしまった、
(あ~どうしてこうなっちゃうの~何を話したら・・)ってうちは自問してた、

ヒデさんに連れて来られた病院は、いくつもの診療ができる大きな病院だった、中へ入ると一人じゃ迷いそうなくらい通路があって、
診察を受ける人達でいっぱいだった。
うちはヒデさんの姿を見失わないように後ろについて病室へと入った、病室は六人部屋でお母さんは扉側のベットで横になってた、
ヒデさんはお母さんの顔を見ると、
「よう!お袋、どうだ調子は~?今日はお袋が会いたがってた亜紀ちゃん連れて来たよ!・・」そう言ってうちに手招きをした、
うちはまだ何も話す言葉も見つからなくて、しどろもどろに、

「あっあの~はっ初めまして、亜紀です、ヒデさんには色々お世話になってます、あっすみません、あの具合はいかがですか?」
って聞くとお母さんは
「ええ~今日は思ったより調子がいいみたいなの!亜紀さん?名前だけじゃなくて素敵な方ね、うちの息子、大変だと思うけど、仲良くしてあげてね?
よろしく頼みますね?今日はあたしの我がまま聞いてくれてありがと?」そう言って笑って見せてた、

「そんな、あたしは、あたし母を知らなくてヒデさんを見ていていいなって、だからあたし、お母さんみたいな、あっすみません・・」
って言葉に詰まってしまったら、お母さんは
「いいのよ~亜紀さん?あたしは嬉しいのよ?ありがとう?・・」そう言うとお母さんは眼を閉じた。
するとヒデさんは
「じゃ~お袋~?俺、そろそろ帰るよ!又来る、何か欲しいもんないか?」って言うとお母さんは、ゆっくり眼を開けて
「あたしの事は心配いらないよ!それより亜紀さんの手やかすんじゃないよ?それにお前もあまり無理して身体壊さないように店頼むね?
亜紀さんと仲良くね?」って言うとうちの顔を見て、

「亜紀さん?お店のこと頼みますね?来てくれてほんとありがと?・・」って言って笑顔を見せてた・・、
うちは返す言葉が見つからず頭を下げた、するとヒデさんは
「分かったよ!・・」そう言ってお母さんの手を握り締めて、お母さんに「また来る!」それだけ言うと手を振って病室を出た・・。

その後ヒデさんは黙ったまま歩き出した、そんなヒデさんにかける言葉が見つからなくてうちはヒデさんの後を歩いた。

空は途切れた雲が流れて心地いい春の風が吹いた、時折吹く穏やかな春の風が、今の沈んだヒデさんの心を少しでも癒してくれたらいいのに、
そしたら、きっと何時ものヒデさんの笑顔、見せてくれるかもしれないって思う・・・。

12章 ~再会~


空に広がる雲の隙間から覗いて見えた青い空が、雲のない青空に広がってくれたら、うちの心も少しは晴れるかもしれない、

ヒデさんのお母さんが入院している病院からの帰り道を歩き出した、でもヒデさんは病室を出てからずっと黙ったまま歩いてた、
そんなヒデさんに、かけられる言葉も見つからないうちは、言葉も無く歩いてるヒデさんの後ろ姿に、お母さんのことを思い出した、

初めは何を話していいのかさえ分からなかった、うまく言葉にできなくて、片言しか言えなかったうちに優しく気づかってくれた、
その優しさはヒデさんを見てたら、やっぱり親子なのかなって思えた、うちはお母さんを知らない、でもほんとのお母さんて、きっと
あんな風に温かいんだろうなって思う、今まで抱いた事無かったけど、今うちは自分を産んだお母さんに逢いたいって思った・・。

帰り道を歩きながらお母さんに思いを募らせてたそんな時、ふいに前から歩いて来る人に気づいた、
(お兄ちゃん?どうしてお兄ちゃんが・・、)うちはヒデさんと居る所を知られたくなくて、

「ヒデさん~先に帰っててください、すみません」って言ってうちは逆の方向へ早足で戻った。
(お兄ちゃんは気付いたかな・・・)って思いながら、(人違いであってほしい・・)って願った、でも、
うちが路地を曲がった時、うちは腕を掴まれて引き留められた、お兄ちゃんはうちの前に立つと何も言わずにうちを殴って

「お前は、こんなところで何をしてるんだよ?勝手に飛び出してどれだけ探したと思ってるんだ!」そう言ってまたうちは殴られた。
うちは悔しかった、殴られたからじゃない、自分に後悔したからでもない、ただ・・・、

「お兄ちゃんは、あたしがなぜあの家を出たか知ってるの?知っててあたしを連れ戻しに来たの?ねえ~お兄ちゃん?」って叫んだ
でもお兄ちゃんは何も答えてはくれなかった、うちは耐えきれなくて、

「あたしは物じゃないよ!お兄ちゃん達の品物じゃない!あたしが何されてもいいって言うの?あたしはもう嫌だ!あたしはもう
あの家には戻らない、絶対もどらないから!だからほっといて!お兄ちゃんもお父さんもお母さんも皆、大っきらい~!」

うちはお兄ちゃんの手を振り切って飛び出した、何も考えたくなかった、だから走った、生まれて来なければって思ったら、涙が溢れた
(お母さん?母さんはどうしてうちを産んだの?どうしてうちを産んで居なくなっちゃったの~教えてよ?どうしてよ~、分かんないよ)

思いが空回りしだした時、気づいたら此処がどこなのかわからなくなってうちは足を止めた、
辺りを見渡して見ると公園が見えて、仕方なくその公園にあったベンチに腰掛けて空を見上げて見た、いつの間にか空は、
雨雲が空を覆いだして今にも降り出してしまいそうに見えた、そんな公園には人の姿もまばらで、何処か寂しさを思わせるこの場所は、
心細さと不安でいっぱいにさせて空見上げながら、うちはまた泣いてた。

そんな時、見知らぬおじさんが、うちの隣に腰を下ろした、すると
「お嬢ちゃん、どうしたんだ~?嫌なことでもあったのか~?」そう言ってうちの手を握ってきて、
「どう?おじさんと遊ばないか?いいとこ知ってるんだよ、ね~?そうしよう?」そう言うとうちの顔に自分の顔を近づけた・・、

その光景はまるでお父さんを思い出させて(怖いっ、嫌だ!嫌~!・・)うちの中で悲鳴をあげた・・、
「あっあの、すみません、あたし、もう帰らないといけないので・・」そう言って立ち上がろうとしたら、おじさんはうちの手を硬く握って
立ち上がろうとしたうちをベンチへと引き戻した・・、

(えっ、どうして、怖い・・怖いよ・・嫌だよ・・もう嫌だよ・・)その恐怖はうちの目の前に居る人をお父さんの顔に変えた・・、
そしたら、うちはまた殴られるんだって身体が震えだしてた、するとおじさんは、

「どうした?なにも怖がることはないんだよ~おじさんがいいとこ連れてってあげようって言ってるんだから、ね?」
そう言ってうちから離れようとはしない、うちはもうダメだって思い始めたら、涙がぽろぽろ零れ落ちてた、おじさんは、にっこり笑って、
うちの手を引いて立たせると、
「さあ~行こうか?心配しなくていいんだよ?楽しもうよ、ね?さっ行こう!」って言った、でも、

「いっ嫌、嫌です、あたし・・」って言ってから、殴られるって思った、だから咄嗟に顔をしかめた、するとおじさんは、
「何言ってるんだ?でもそんなところも可愛いからいいけど、さあ行くよ?打打こねるんじゃないんだよ?さあ行こう?」って言った
うちは殴られなかった、でも逃げたい、その思いだけで握られた手を引き離すのにもがいた、

そんな時うちは誰かに呼ばれた気がして必死に声を探した、するとヒデさんはうちに手を振りながら駆け出してきて、
「亜紀ちゃん~?なんだ此処に居たんだ~好かった、探したよ~さ帰ろう?」って言って笑った、
そんなヒデさんの顔を見たらうちは涙が後から後から溢れて堪えきれず泣いてた、そんなうちにヒデさんは
「あ~好かった、遅くなってごめんな~帰ろうか?」って言うと、ずっとうちの手を握って離さずにいるおじさんの手を引き離してくれた、

慌てたおじさんはヒデさんを睨みつけて、
「なんだよお前は~、邪魔するんじゃないよ!」そう言って絡んでた、でもヒデさんは、

「おじさん~やめなよ、俺、うちのが心配で警察呼んでるんだよ、だから・・」って言い終わらない内におじさんはそっぽ向いて
さっさと何処かへ行ってしまった、やっと解放されたって思ったらうちは気が抜け落ちたようにその場に座り込んでた、
そんなうちにヒデさんが、
「大丈夫か~?少し落ち着いてから帰ろうか、な~?」そう言ってうちをベンチに座らせるとうちの隣に腰をおろした、
ヒデさんの優しさが嬉しかった、それだけに苦しくて、色んな事が入り混じった想いが溢れだしたら、またうちは泣いてた、

するとヒデさんがうちの肩を抱きしめて
「亜紀ちゃん?落ち着いたか~?もっと早く来れたらよかったな~ごめんな?」って言うとうちの頭を撫でた、そして

「亜紀ちゃん?こんな事今話す事じゃないのは分かってるんだけどさ~?でも今だから俺は、話せる気がするんだ、だから言うんだけど、亜紀ちゃん、
よく魘されてるんだけどさ~、あっでも誤解しないでくれよ?亜紀ちゃんの部屋覗いてる訳じゃないからな?ただ時々聞こえてくるんだよ?
今まで言えなかったんだけどさ~、最初に亜紀ちゃんに会ったあの日さ?亜紀ちゃん倒れたろ?あん時も亜紀ちゃん魘されてたんだ、あの時は俺、
なんか聞けなかったんだけど、なあ~亜紀ちゃん?何を脅えているのか話してくれないかな?俺、亜紀ちゃんの助けになりたい、駄目か?」
って言った、

「あたしはヒデさんに迷惑ばかりかけてて、何も聞かずに置いてくれて、あたし、ヒデさんには返せないくらい感謝してるの、ほんとありがと、ヒデさん?
まだあたしはヒデさんにお返しも十分できてないの分かってる、でもあたしはもうヒデさんにいつまでも甘えてたらいけないって、やっと気づいたの、
だからあたし、・・」って言いかけたらヒデさんが
「亜紀ちゃん?違うよそうじゃない!俺は、亜紀ちゃんの力になりたいだけだよ~俺は・・・、」って言いかけてヒデさんの話しが止まった、

ふとヒデさんを見ると、空を見上げて手を広げてたその時、空から雨粒が落ちてきてヒデさんは、
「亜紀ちゃん?雨、雨だ!雨だよ、まずい!帰ろう~な?亜紀ちゃん!」そう言ってヒデさんは慌てだした、

そんなヒデさんはまるで子供みたいでなんだか可笑しくなってつい笑いだしてしまったら、するとヒデさん、
「なにがそんなに可笑しんだよ~帰ろう~な?雨だよ雨?まずいよ~」
そう言って慌てだしてたヒデさんの慌てようが余計に可笑しくてうちは耐えきれずに笑いだしてた、
するとヒデさんは
「なんだよ~?俺そんなに可笑しなこと言ってるか~?傷つくな~?でもまっ亜紀ちゃんの笑顔、見れたからいいかな!」
そう言って頭をかきながら笑ってた、そんなヒデさんにうちは返す言葉を失ってしまった・・・

次第に雨は大粒の雨に変わりはじめて、二人急いで店まで走って帰った、でも店に辿り着いた時、
降りだした雨に、うちはびしょ濡れになりながら空を見上げたら足が止まった、雨は勢いを増して強くなって、雨音だけがうちの中に響いた、
もう立ち止っては居られないって警報が鳴りだしてるかのように聞こえてきたら、そしたら涙が零れた、
するとヒデさんに、
「亜紀ちゃん!」って呼ばれヒデさんに手を引かれて、うちは店の中へ入った、


その後はヒデさんに何も言えずにうちは部屋こもった。そんなうちの部屋へヒデさんがきて、
「亜紀ちゃん入るよ~?これ好かったら食べてくれ?身体が温まるからさ?」って手渡されたのは雑炊・・、あの時もこんなふうに作ってもらったなって
思い出したら何だか胸が詰まった、

うちが食べ終わるとヒデさんは、
「亜紀ちゃん?悪かったな~?亜紀ちゃんの気持も考えずにほんとごめん、でもさ?俺は亜紀ちゃんの支えになれるならって、上手く言えないけど、
俺は亜紀ちゃんの力になれたらって思っただけなんだよ、けど亜紀ちゃんがどうしても言いたくないならそれでいいよ、
でもあの時亜紀ちゃん、何か言いかけてたの中断しちゃって、聞けなかったけど、今さらだけど、亜紀ちゃんがもし出ていくって言いたかったのなら、
俺は亜紀ちゃんには、ずっと居てほしいと思ってる、だから迷惑とか思わなくていいんだ、俺の方が亜紀ちゃんに、助けられてるんだからさ?
居てくれよ、な?亜紀ちゃん?」って言って笑った、

うちは涙で何も言えなかった、そしたらヒデさんが「ごめんな・・、」ってそう言って頭をかいて苦笑いしてた、でももう、うちは居られない、
「ありがとう~でもあたしはもう居られないんです、だからごめんね?ごめんなさい・・」
って言ったらヒデさん、
「亜紀ちゃん?どうして駄目なんだ~?何が駄目なんだよ~?な~頼む話してくれないかな~な亜紀ちゃん?」
ってそう言ってうちの顔を覗き込むヒデさんの顔を見たら、言葉より先に泣いてた、
するとヒデさんが、
「な~亜紀ちゃん?もしかして今日、亜紀ちゃんの後を追っかけてた人に関係あるのかな?ごめん俺、あの時すれ違った人が亜紀ちゃん
追っかけてたように見えたから、振り返ったんだけど、遅かったみたいでさ~?見失ったんだ、その後から追っかけて、俺、亜紀ちゃん探したんだよ、
黙ってるつもりはなかったんだけど、ごめんな?けど亜紀ちゃん?その人と何か関係あるのか~?なあ~話してくれないか?俺じゃ駄目かな?」
って言われて、うちは返す言葉が見つからなかった、なんて言ったらいいのかさえ思いつかない、ただ居ちゃいけないって思った

でもヒデさんは、諦めてくれなくて、うちはヒデさんの根気に、話してしまってからでもいいのかなって思い直して、全てをうち明けた、
でも後悔と不安が入り混じったら、堪えきれなくてうちはまた泣いてた・・。

そしたらヒデさんが
「話してくれてありがとな?それなら尚更、此処に居てくれよ、なあ~亜紀ちゃん?俺はさ~ほんとに亜紀ちゃんが此処にいてくれて感謝してるんだよ?
だから迷惑どころか俺は居てほしいんだ?俺が守ってやる、だからさ?もう逃げることなんて無い此処に居ろよ、なあ~亜紀ちゃん?」って

そんなヒデさんに返す言葉も無くて、最後には頷くしかなかった、でもそれが本当に好かったのかなんて、今のうちは何も考えられない、
ただ時が延びただけだって、そう自分に言い聞かせた。

13章 ~巡り会い~


いつの間にか止んでた雨上がりの朝・・、晴れた外の風は心地よくて吹き抜ける風がうちの頬を撫でながら擦りぬけた・・、
お兄ちゃんに会ったあの日から二日が過ぎた今朝は夕べ一晩中降らせた雨もやんで、空には青空が広がってた、
何時もならこんな空に元気を貰ってたはずなのに、今朝のうちは、何処か遣り場のない想いで、乾いてた涙がまた溢れだした。


お兄ちゃんに、この町で会ったって事はいつか此処に来るかもしれないって思うと仕事にも身が入らなくて、つい手が止まってた、
そんなうちに気づいたのか、ヒデさんが
「亜紀ちゃん?今日はもう休みな?後は俺一人で大丈夫だからさ?無理はしなくていいよ、な?」って言ってくれた、

「すみません・・」だけ言って、言われるまま部屋へと戻った、このまま居てもヒデさんの邪魔になる気がしたから、それに少しだけ
考える時間がほしかったから、
それから部屋に戻って来て、窓枠に頬杖ついて外を眺めた、そして空を見上げたら雲の間から朝陽が見え隠れしながら顔を出してた、


あれからお兄ちゃん、まだうちを探しているかもしれない、もし此処へきたら、やっぱり迷惑かける気がする、
こんなうちでもヒデさんは居てもいいって言ってくれた、でもうちが頼っていい理由なんてなにもないのに、甘え過ぎてるのかもしれない、
そう気づいた時、やっぱり出て行こうって思った・・・、

そんな時、ヒデさんが、
「亜紀ちゃん、いいかな~?お昼、一緒に食べないか~?」って言っておにぎりを作って持ってきてくれた、

「あっありがとう、ヒデさん?あの~もうあたし大丈夫です、だから食べ終わったらお手伝いしますね?すみませんでした」
って言うとヒデさんは、
「そうか~、亜紀ちゃんがそう言ってくれるなら、頼むな、でもどうしたんだよ?急に~」って聞かれて、ちょっと焦った、

「ええそんなこと無いですよ?休ませてもらったらおかげで元気になれたし、それに何時までも休んでたらいけないって思っただけですよ?
それだけです」って言ったら、
「そっか、分かった、でも無理はしなくていいからさ」って言ってくれて、ほっとしたかも・・。


それから陽も落ち始めた頃に、うちはヒデさんのお使いで、十件ほど離れた店まで切らした食材の買いだしに出た、
とりあえずの買い物を済ませて足早に店の前まで行くと、店に入って行くお客の顔が見えた、
でもその中に、見間違えようもないアンちゃんの姿にうちは驚きでつい足が止まった(えっ?アンちゃん?どうしてこの街に?)嬉しいってお思った、
ずっと逢いたかった、でも戸惑ってた、うちの名前が違うことアンちゃんは知らない、もし店で呼ばれたら、どうしようって店の前迄できて動けずに居た、

そんな時店に入りかけてたお客さんに
「あれ~亜紀ちゃん、買い物かい?どうした?ヒデさんに叱られでもしたのか?」って聞かれて、慌てて
「あ~いえ、そんなんじゃ~・・・」って言い終わらないうちに、「あ~大丈夫!私が一緒に謝ってあげるから!さぁさぁ店に入ろう~な?」
って言われた(ええ~?違う!)って戸惑っている間に、お客さんに背中を押されてうちは店の中へと入ってしまった。

するとお客さんは・・・、
「ヒデちゃん~亜紀ちゃん許してやってくれよ~?なあ!さあ亜紀ちゃん、もう大丈夫だから・・・」
そう言ってうちの肩を軽く叩くと空いたテーブルについた、うちは焦って
「あの~違うんです、誤解・・」って言ってみたけど、聞いてなくて、うちは困惑してた、するとアンちゃんが声を掛けてきて(あああ~もうダメ・・)
って思って諦めかけたら、ヒデさんに
「亜紀ちゃん~何の事だ~?俺、亜紀ちゃんの事怒ったりしてないよな~?」って聞かれてうちは、

「あっあのすみません~!あたしの言葉が足りなくて~誤解なんですごめんなさい」って言うとそれを聞いたお客さんは、
「な~んだ!そうか~!てっきりヒデちゃんに虐められたのかと思ったよ~!」って苦笑いしてた、するとヒデさんは、
「そりゃ~ないでしょ~?」そう言いながらヒデさんまでが苦笑いすると、お客さんは一緒に笑い出したらそれだけで店の中が盛り上がってた、

その時、気になってたアンちゃんを見たら一緒になって笑ってるのが見えてどこかほっとした。

それからアンちゃんに「いらっしゃい!」って声を掛けたらアンちゃんは、
「久しぶり?驚いたよ此処で会うなんてさ?それに亜紀ちゃん・・?いい名前だね?元気そうで良かった!」って笑って見せた、

「ありがとう?アンちゃんも元気そうで良かった」そう言うといつもと変わらない笑顔を見せた。
その時ヒデさんが
「あれ?亜紀ちゃん、知り合いなのか~?」って聞かれた、するとアンちゃんが、「ああ~!幼馴染なんだ~!」って言った、
(ええ~?ヒデさんとアンちゃん知り合い?)返す言葉を失ってうちが困惑してらたら、ヒデさんは、

「ああ~そっか~幼馴染か~そりゃ機遇だな~?」って言うとアンちゃんは、
「そうなんだ~、俺も驚いたよ~あ亜紀が此処で働いてるなんてさ~!」そう言って笑ってた、

アンちゃんはうちの気持ちを分かってくれたのか、「カナ」の名前は言わずにいてくれた、
もうそれだけで今までの不安から一気に解放された気がして、今日一日の中でうちにとって一番の疲れが出たように思えた。

ヒデさんは
「あ~俺も亜紀ちゃんとは縁でさ~?けど、亜紀ちゃんが来てくれたお陰で、大助かりだよ~!」って言うとうちに、
「あ~亜紀ちゃんも驚いたろ~?こっちもちょっとした縁で仲良くなってさ~それからはたまに俺の店に顔出すようになって、たまに
食べに来てくれてるんだよ、たま~にな?」って言った、そんなヒデさんの意味ありげな言葉にアンちゃんは、

「そう~だけどさ~?こっちも色々忙しくて来れないんだよ~?そう虐めないでくれよヒデさん~」って苦笑いしてた・・、

うちはこの巡り会わせに言葉も無くて立ち尽くしてた、するとヒデさんに
「亜紀ちゃん?どうした大丈夫か^?」って言われて気づいたら、うちは盆を落としてた、そんなうちを見てたアンちゃんはクスクスと笑ってた、
そんなアンちゃん見てたら、だんだん自分の顔が赤くなるのが分かってきてアンちゃんに向かってつい
「笑わないで~!」って叫んでしまった、そしたら店の中が一斉に笑いの渦になった、

居たたまれなくてうちは店の奥へと入った・・、それから少し落ち着いてから考えたら恥ずかしくなった、でもこんな偶然も悪くないかもって
思えてきたら可笑しくなって一人、笑いだしてた。


お店を閉めた後、お互い、久しぶりの再会に話しは盛り上がった、アンちゃんは今工場に住み込みで働いてて、今日はお休みなんだって・・・。
しばらく会ってなかったけど、アンちゃんは変わってなかった、それにたくましくなったかなって思う、でも少し痩せた気もした。
アンちゃんがヒデさんに出会ったのは、妹の病気が思わしくなくて、病院を移った時、ヒデさんのお母さんと病室が一緒になったって言った、
(これも偶然だよね・・・)ってうちは思う、

アンちゃんはうちと出会った頃のことを話しだしてた・・、そんな時急にヒデさんが、
「亜紀ちゃんは木登り好きなのか?それじゃ小さい頃は案外お転婆さんだった~?」って言われて、そんなこと面と向かって言われたら、
返す言葉も無くてうつむくしかなかった、でもそんな話しに後押しするようにアンちゃんは

「そうかもな?亜紀は、木登り得意だったからな~」って言いだした、それ以上に言われたくなくてうちは焦って「やめて~!」って叫んだ、
(なんでそんな話しになるのよ、まったく~)って溜息が洩れてた、そんなうちを見てた二人は、驚きながら顔を見合わせて噴き出した。

そんな昔の話から始まって話しは絶える事はなかった。もう逢えないって諦めかけてたアンちゃんに会えた、それだけで今のうちは幸せだなって、
そんなこと考えてたら、突然アンちゃんが、
「そろそろ俺帰るよ、また来る!亜紀?又ね?」って言った、するとヒデさんが、
「えっ!何帰っちゃうのかよ~?泊まっていけよ~せっかく会えたんだしさ~空いた部屋あるぞ?」って言うと、アンちゃんは

「あぁいや~そうもいかないんだ!ごめん!」ってちょっと困った顔して苦笑いになってた、するとヒデさんは、
「そっか!残念だけどしょうがないか~、いいさ!んじゃまた、今度来る時は泊まりでな?」そう言って笑みを返した、アンちゃんは
「ありがと!又来ます!」って言うとその日のうちに帰ってしまった。

アンちゃんが帰った後、ヒデさんはアンちゃんとの出会いを話しだした・・・、
「あいつさ~?妹さんが亡くなった日、俺は病院の屋上に居たんだけどな~?あいつは俺に気ずかなかったみたいでさ~、そん時、
あいつ手すりから飛び降りようとしたんだよ、それを俺が止めたんだけど・・、あの時は驚いたな~?でもそれからかな、色んな事あいつと
話すようになってさ~そしたらなんかウマがあっちゃってな~?そん時からの付き合いなんだよな~あいつとは、色々あったけどな・・」
そう言ってヒデさんは頭をかいた。

驚いてたアンちゃんが自殺なんて、考えてもみなかった、あの頃会った時の、アンちゃんはまだ信じられないって言ってた・・、
けどうちは、自分のことばかりでアンちゃんの辛いこと何一つ気にしてあげられなかったように思う、

(アンちゃんごめんね?)アンちゃんはうちのこといつも考えてくれてた、なのに、そう思い巡らせてたらつい涙がでた

するとヒデさんは、
「いいな~幼馴染か~!あいついい奴だよな~けど驚いたな~?亜紀ちゃんと幼馴染だなんてさ~」って、ひとりで納得してた。

「あたしもびっくりですヒデさんとアンちゃんが知り合いだったなんて!あたしアンちゃんの妹さんに一度だけだったけど会わせて貰った事が
あって、その時は、妹さん元気そうだったんです、だからほんと言うとあたしはまだ信じられないなって・・・」って言ったらヒデさん、

「あいつの妹はまだ若いよな~これからだったんだ、色んな事経験していくはずだったのにさ~楽しいことも嬉しいこともさ?辛いよな・・」
そう話すヒデさんの、眼がしらをは赤くなってた・・・、

何だかうちまでが少し辛くなって、窓から差し込む月明かりに眼を逸らした・・。

14章 ~最愛~


アンちゃんに逢えた、もう逢うことは無いって諦めてた出会いも、ヒデさんとアンちゃんが知りあっていたことも
うちにとって驚きの連続だった・・。

アンちゃんが帰っていってから一夜明けた朝に、ヒデさんが、店を開ける準備を始めながら、話しはじめた・・、
「亜紀ちゃんは、あいつとは仲良かったみたいだな~?あいつ亜紀ちゃんの話ししかしなかったもんな~?亜紀ちゃんとは一番気が合った
って言ってただけあって亜紀ちゃんに逢えて嬉しかったんだろうな~今までより一番いい顔してた気がするよ」
ってヒデさんはアンちゃんのこと思い出したのか独り言のように話してた・・、

、でもうちはアンちゃんが話してくれた、「サチを見かけたんだ・・」って言ってたこと思い出してた、アンちゃんは「見かけただけだ」
って言ってただけで、話しは何も聞けなかったけど、でもその事が気になりだしたらつい考え込んでしまってた、
するとヒデさんに、
「亜紀ちゃん?どうかしたのか~?」って聞かれて、うちは何て応えていいのか、わからなかった、でもヒデさんにはサチの事は言えなくて
「あっいえ~別に何も・・、」って言うと、ヒデさん、

「あいつはまた来るよ?今度は亜紀ちゃんが居るんだからさ?心配するな、な~亜紀ちゃん?」ってうちの顔を見て笑ってた、
うなんだかヒデさんに凄い誤解をされてる気がして・・、顔が熱くなって堪えきれずに、
「あたしそんなんじゃありません~!」ってつい大声を張り上げてしまった、するとヒデさん、呆気にとられたような表情で、

「ああ、あれ?あっごめん、亜紀ちゃん?悪かった?」そう言って謝ってた、

「あ~あたしこそごめんなさい、あの~ごめんなさい怒鳴ったりして・・ほんとすみません」って謝った
でもその日、後あとまで、うちはまともにヒデさんの顔を見る事ができずに過ごしてた・・・。



それから二カ月が過ぎた頃・・・、
また店の電話が鳴りだしてヒデさんが出た、でも今日は何処か深刻な顔をして電話を切った、するとヒデさん、うちを見るなり
「亜紀ちゃん悪いけど店閉めてくれるかな?それで俺と一緒に来てくれないか?」って言った、
その言葉に、お母さんの容体が今深刻なんだって言われたような気がして急いで店を閉めてヒデさんと一緒に病院へと向かった。

病室へ着いて、病室へ行くと、お母さんは別の部屋に移されて、酸素マスクが施されてた、
入口には面会謝絶の札が掛けられて、うちは待合室で待つことになった、不安を抑えながら待って数時間後、医者らしき人と何人かの看護婦さんが
病室から出て行った、その後ろ姿にうちは理解したように思う、その後に病室からヒデさんが出てくると「亜紀ちゃん・・」ってうちを呼んだ、

その時ヒデさんの表情を見たら、うちは震え止まらなくなった、何故か重たい足を引いてやっと病室の中へ入ったら、お母さんの顔に白いものが・・、
この時うちは悪い夢でもみているようで息が詰まった・・、その時ヒデさんが、
「亜紀ちゃん?お袋にお別れを言ってやってくれないか?亜紀ちゃんに宜しく伝えてくれって言ってたんだ・・、だからさ頼む、なっ?」
って言われて、うちはただ頷くしかできなくてお母さんの前に座ってそっと白い布を取った・・、

まるで眠ったようなお母さんの顔は、初めて会った時、うちに優しく微笑んでくれてたお母さんそのままだった・・・、
眼を開けてまたあの時のように笑いかけてくれそうな、自分のお母さんの存在を思い出させてくれたそんな優しいお母さん・・・、

「お母さん?亜紀ですご無沙汰してすみません、あたし、お母さんに会えたこと忘れません・・こんなあたしに・・ありがとうございました」
って言ったらもう溢れた涙が零れ落ちた、拭っても拭っても溢れて、座り込んでしまった、そんなうちにヒデさんは、
「亜紀ちゃん?・・ありがと、ありがとな?」そう言ってうちを抱きあげて、涙を拭いてくれた・・・、

病院から戻るとヒデさんは休む事も無くて、お通夜から葬儀まで気丈にこなして、うちの前で涙を見せる事はしなかった・・、でも時折、
独り佇んで坐り込むヒデさんが、うちにはかける言葉も見つからなくて、ただ言葉の代わりにうちはヒデさんの肩を抱きしめた・・、
癒してあげられるなら癒してあげたいってそう思った・・、
ヒデさんの心が折れてしまわないでほしいって願ってた、ただうちには、見守る事しかできないから・・。

そして三日が過ぎた深夜、ヒデさんは誰もいなくなったお母さんの位牌の前で、堪えてきた想いが溢れだしたのだとわかった・・、
ヒデさんはお母さんの位牌を前に泣いてた・・・。
かすかに聞こえてきた、ヒデさんの声に、うちは何も言葉にはできなくて扉越しから一緒に泣いた・・・。



それから三カ月が過ぎて・・・、
ヒデさんは少しずつ元気を取り戻してきた、やっとヒデさんに、いつもの笑顔が戻ってきたなってヒデさん見てて、そう思えた
そんな時ヒデさんが、

「亜紀ちゃん、色々ありがとな?おかげでちゃんとお袋、送り出す事ができたよ、亜紀ちゃんのお陰だ?亜紀ちゃんが居なかったら俺、
一人じゃわかんなかった!だからほんと感謝してるんだ!ありがと・・」そう言ってうちに頭を下げた。

「ヒデさん~やめてください、あたしはヒデさんに感謝されるような事、何もしてないです、だからあたしなんかに頭下げたりなんて
しないでください、あたし困ります・・」って言うとヒデさんは、

「そんなことないよ、俺には十分支えになった、ほんとありがとう?お袋がさ~逝っちゃう前、会いに行った時に、亜紀ちゃんの事
いい子だねって言ってたよ、たくさん苦労して来たんだろうって、だからおまえが支えてやりなってな?そんでもって二人仲良く店頼むってさ、
きっとあの時はもう、お袋は自分がダメだってこと予期してたんだなってさ?俺、今になって気づいたんだ?ほんと今さらだけどな?」
そう話すヒデさんの眼は赤く潤んだように見えた。


それから店のお客もやっと減りだしてすっかり陽も落ちてきた頃・・、
ヒデさんが急に
「亜紀ちゃん?亜紀ちゃんさ~お俺の事どう思う?急にこんな事聞くの気が引けるけど俺、本気で好きなんだ亜紀ちゃんの事・・
亜紀ちゃんの過去に同情したからじゃないんだよ?うまく言えないんだけど、あの、お俺と、一緒になってほしいんだ!
けして思いつきで言ってる訳じゃないよ?前から思ってたんだよ?ただ、切っ掛けが掴めなかっただけで、けど俺に義理だてすることはないよ、
亜紀ちゃんの正直な気持ち聞かせてもらえないかな?」って言った、

でもうちは自分の気持ちさえ分からない、どうしよ、でも何か言わなきゃ・・、
「あの・・あたし、ヒデさんの事、尊敬してるし大好きです、でもヒデさんのいう好きとは違うかなって、ごめんなさい?
あたし未だよくわからないんです自分の気持ちが、それにこんなあたしじゃ~あの・・・ごめんなさい!」って言ったら、ヒデさんは

「わかった、ありがと!そうだよな~ごめんな?いいんだ!唐突に悪かったな?でも俺本気なんだ?だから、亜紀ちゃん?今すぐとは言わない、
本気で考えてみてくれないかな?俺待つからさ?」そう言ってヒデさんはうつむいてた。

「あの~ヒデさん?あたし真剣に考えます、だから~ほんとごめんなさい」って謝ったら、ヒデさんが、急に笑いだして、

「あ~ごめん亜紀ちゃん?優しいんだな~亜紀ちゃんは?わかったよ?ありがとな?」って頭をかいてまた笑ってた。


そして翌日、店のかたずけを終えたら、ヒデさんが、
「亜紀ちゃん?一度亜紀ちゃんがよく登ったあの大木がある山にさ~俺も連れてってくれないかな~?」って言いだした、

「えっどうして、そんなこと急に?あたし・・・」って言いかけたら、ヒデさん、

「悪い、俺、亜紀ちゃんが嫌がるの分かってた、けどさ?俺も行ってみたくなったんだよ、亜紀ちゃんが好きだっていう山に、ダメかな?」

ヒデさんの気持ちは嬉しいって思った、でもうちはどうしても頷けなくて
「すみません、少し考えさせてください、ごめんなさい!」って言うとヒデさんは

「そっかわかった、無理言ってごめんな?でも楽しみにしてるよ」そう言ってヒデさんはうちの肩を叩いた。

こうして過ぎてくうちの毎日に、変わっていく季節は、北風を運んで、この葉を散らした・・。

15章 ~回想~


突然、言われた、ヒデさんの山への誘いに、いまだ踏み切れず、返事も言えないまま、何時の間にか二か月が過ぎてた・・。

ふと思い出した故郷に居た頃、よく登ってたあの山のこと、何処に居ても恋しかったあの山は、何時でもうちの心のよりどころだった、
あの山にそびえ立つ大木の頂上から眺める景色が好きで、何時だってうちを勇気づけてくれる唯一の居場所、
でも逃げだしたあの日から遠退いてしまったあの山を、今はもう登る事は無いって何処か辞めてたように思う。

いつになく吹き荒れた北風は、暮れ出した街に、落ち葉をまき散らせて、お客も減った店のガラス窓をガタガタと震わせて静まりかえった
店の中を騒がせてた・・。

そんな夜に、店も終りの片づけに追われてた時、一人のお客が入って来た、そしていつものように
「いらっしゃいませ~」って声をかけて、顔を見合せたら、うちの眼の前にお兄ちゃんが立ってた・・
「お兄ちゃん・・」って声にした時、ヒデさんが出てきて、お兄ちゃんに頭を下げて「いらっしゃい!ご注文は?」って聞いた
するとお兄ちゃんは、
「あ~いや、私は妹に用があって来たんです・・」ってうちの顔を見て言った、

その言葉にヒデさんは何も言わず店を閉めて、お兄ちゃんを店の奥へと迎え入れて、居間に腰を下ろした、
何も言わずうちの顔を見てるお兄ちゃんに、ヒデさんが、
「今日は少し冷えますね~?」って言った、するとお兄ちゃんは「私は妹を迎えに来たんです・・・」って言ってまたうちの顔を見てた、
ヒデさんは
「それは困ります、突然に来られて迎えにきましたと言われても、はいそうですかって訳いかないでしょう?そうでしょう?」
って言うとお兄ちゃんは、
「妹は勝手に家を飛び出したんです、親も心配してますから連れて帰りたいんですよ・・」そう言って膝に両手を握り締めてた、
するとヒデさんは、
「でしたらお兄さんは、家出した理由はご存知なんですか?」って言われてお兄ちゃんは少し戸惑ったのか少し間を置いてから、

「妹のわがままからだと聞きました・・」って言った、その言葉にヒデさんの表情が険しくなってた、ヒデさんは、
「失礼ですが、確かめずにただ聞いただけでここまで迎えに来られたんですか?」って言った、
するとお兄ちゃんは、
「あなたは何が言いたいんですか?」って声を荒げた、ヒデさんは、

「お兄さんは突然に来られて、なぜ家を飛び出したのか理由も聞かず、ただ聞いただけの話で迎えに来たと言われて納得できますか?
妹さんは自分にとっては大事な人ですから、正直帰したくありません、お兄さんは妹さんがこうまでして逃げる理由、考えてみました?」
って聞かれるとお兄ちゃんは、
「そんなこと、あなたに何の関係があるんです、家のことであなたにどうこう言われたくはありませんね!」って少し開き直ったようにも見えた

でもヒデさんは顔色も変えずにお兄ちゃんの顔をじっと見て、声を荒げて話しだした、
「分かりました、それじゃはっきり言いますお兄さんが妹さんを、養女に出された家のご両親は、妹さんに何をしてたかそれを納得されて妹さんを
連れ戻しに来られたんですか?もしそうだと言うのでしたしら、妹さんは帰すことできません!」

ヒデさんは、ためらい無く言い切った、うちは、自分の胸の鼓動が鳴りだしたのがわかった、ヒデさんは、本気でうちの事思ってくれてる・・、
こんなにまじかに感じてしまったら、困惑するばかりでうちは考えるのを辞めた・・・、

お兄ちゃんは黙ったまま考え込んでた、するとヒデさんが、
「お兄さんが妹さんのこと、大切に思うなら妹さんと向き合って貰えないですか?それから判断されてもいいんじゃないですか?」
って言うとお兄ちゃんは、手を握り絞めたまま、何も応えてくれなくて、うつむいたまま考え込んでしまった、

うちにはお兄ちゃんの想いが何処に向いているのか分からない、でも教えてほしいお兄ちゃんの本心、こんなにも深刻な顔をするお兄ちゃんを
うちはみたこと無かったように思う、今までにないお兄ちゃんにうちは、何処かで期待してた、でも・・、
沈黙のままだったお兄ちゃんは、
「今日はこれで失礼しますよ、また改めてまた来ます!」そう言うと横目にうちを見ただけで何も言わず帰ってしまった。

ヒデさんはお兄ちゃんの後ろ姿を見送りながら、
「お兄さんは何か言いたくないことって言うか言えない事でも抱えていんのかな~・・」そう言ってうちの肩を叩いて、苦笑いしながら
「ま~心配ないよ、な?亜紀ちゃん?さて、店のかたずけすませるか?」そう言うとさっさと店へと戻って行った。



それから数日が過ぎた頃、ヒデさんは、いつになく落ち着かなくて、店の周りを往復しながら、何か考え事しているようだった、
うちは気になって、
「ヒデさんどうしたんですか~?なにか気になることでも?」って聞くと、ヒデさんは、

「あ~いや、なんでもないよ!気にしなくていいからさ!」って言った、でも(そんなこと言われても、そんなヒデさんは気になっちゃうよ!)
って思いながら、やっぱり気になって、
「あの~ヒデさん?なんだか可笑しいですよ~?何か心配ごとですか~?」って言うと、いきなりヒデさんは、

「ああそうだ亜紀ちゃん?だんだん寒さも厳しくなってくるしさ~?あまり先延ばしもできないし、だからさ~あの~どうかな?山へ行く話、
やっぱりまだ駄目かな~?」って言い出した

ヒデさんは未だ諦めていなかったって思った、うちはこれ以上待ってとは言えなくなって、
「分かりました、でも行く先は山だけですよね~?」って言うと嬉しそうにヒデさんは、

「あ~それでいいよ!好かった~ありがとう亜紀ちゃん!」そう言って、ヒデさんはまるで子供のようににこにこしてた、
そんなヒデさん見てたら(そんなに嬉しい事かな~?)って少し複雑な気持ちになった。



うちの歩く足をいつもより重く感じさせたこの日、もう帰る事は無いって決めてた自分の故郷にヒデさんと今歩きだしてる・・、
自分の故郷に幾つ年を重ねて逃避して来たんだろうって思う、それでも忘れる事もできずにきた、この街も、景色も・・・。

街へ着く頃には、曇り空だった空はいつの間にか晴れ間を覗かせて・・、辺りを見渡せば、街には灯りがちらほら見えてた。
何も変わらない、変わってなかった(変わったのはうちのほうなのかな・・)そんな時ヒデさんが、

「亜紀ちゃん~大丈夫か?来た事、後悔してるのかな?無理言ってごめんな?けど、亜紀ちゃんが好きで登ったあの大木がみたくてさ?」
って言って「ありがとな!」そう言って頭をかいてた、
でもうちはヒデさんの言葉に、なにも言えなくて、ただ暮れ出してく街を眺めてた、そんなうちにヒデさんは、
「行こうか?・・」そう言ってうちの肩を抱いて歩き出した・・。

翌朝、青空を覗かせてた空に、遠くに見える山を見上げて見たら、少し懐かしくも感じながら、変わらずにいた景色に、ついため息が漏れた・・。

何も変らない、未だ残ってた抜け道を通り抜けて、辿り着くのは唯一うちの居場所、ヒデさんと登り始めてから、辿りついた場所は、
ひんやり冷たい空気が流れて、吐く息も白く染まった。大木ばかりが生い茂ったこの場所は、時が止まっているかのように昔のままで、
何も変わらない・・。ヒデさんは
「凄く立派な大木ばかりだな~それにここはまるで地空間って感じかな・・」って言って辺りを見渡してた、

「ヒデさんは木には登ったことはある?」って聞いてみた、するとヒデさんはニコッと笑って「そりゃ~あるさ!」
って言って木の頂上を見上げた、「それじゃ~一緒に登ってみない?」って言うと、ヒデさんは、「そうだな?よし!登ってみるか?」
ってふたり木の頂上目指して登った、息を切らしながら、少し湿った木は、上に登るたびに枝が揺れ出して、音を立ててた・・
寒さが増してくると手は冷たくなって痛みだしてた、それでも懐かしさがこみあげてきたら、寒さも懐かしさと嬉しさに変わって
うちは登り切った・・、辿りつくとヒデさんは、
「結構、きついもんだな~?でも登って良かったよ~!此処から見える景色最高~だ~!」

そう言ってしばらく沈黙してたヒデさんが、
「なあ~亜紀ちゃん?こうして見渡して見てると自分の存在なんてちっぽけなもんだな~?俺は亜紀ちゃんがこの木の上から見渡す時は
きっと不安も苦しみも楽しみもみんな吐き出して来たんだろうなって思うよ?
亜紀ちゃんにとって此処は色んな思いが詰まってる場所だろうなってさ?こうして見渡していると苦しみなんてもんも、なんかちっぽけに
見えてくるもんな?そんなふうに見えてくると気持ちも楽になれるよな~だから苦しさも、笑顔に変えられるのかなって思うよ、
だからさ~俺、亜紀ちゃんに・・、
亜紀ちゃん?これからは俺が、亜紀ちゃんの器になってやる、この木のようにな~?まだまだ俺は力不足かもしれないけどさ~、けど俺を
信じてくれないか?何があっても守って行くからさ!な~亜紀ちゃん?」そう言ってうちの肩を抱きしめた。

うちはなにも応えられなかった、でもヒデさんの腕の温もりは、とても暖かくて嬉しくてうちはこの時だけ少しでも長く居られるようにって願ってた。

何時の日かアンちゃんが言ってた言葉がうちの中に流れてだしてきたら、あの時理解してなかった、あの言葉の意味を今少しだけうちにも
理解できたように思う・・・、

「木の頂上に登って眼を閉じたら大きく深呼吸するんだ、そしたら笑顔になれるよ・・」って・・、(ありがと、アンちゃん・・)。

~時の足跡~ 11章~15章

~時の足跡~ 11章~15章

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 11章 ~血縁~
  2. 12章 ~再会~
  3. 13章 ~巡り会い~
  4. 14章 ~最愛~
  5. 15章 ~回想~