雨は嫌いだ

雨は好きですか?嫌いですか?
それはなぜ?

見え方が変わることもあるかもしれません。

雨は嫌いだ。

何となくツイてない日の雨、いっそう恨めしい。
いつものファストフード店、いつもの窓際のカウンター。窓から見える景色もいつもと同じ。違うのは、僕の気分。そして、雨。
あたたかいコーヒーが唯一の救いに思えた。

雨が少し強くなった。

後ろをヒールの靴音が通り過ぎた。三つ離れた左の席、春物のベージュのコート。横の椅子にコートと傘をかけて座った。
いつもの僕なら女性は必ず、そして、さり気なくチェックする。でも、今日はそんな気分じゃない。
なぜこんな気分なんだろう。何かを思い返してみても、とりわけこれと言った理由は見つからない。些細な出来事がひとつふたつ。

雨はまた少し強くなった。

窓ガラスをつたう雨の雫を見ながら、両肘を付いてコーヒーを一口。自然と出たため息が僕のほかにもう一人。
全く同じタイミングだった。
三つ離れた左の席。さっきの女性が少し驚いたようにこっちを見ている。両肘をついてコーヒーカップを持ったまま。そう、僕と同じ格好で。
不意に目が合った。少し恥ずかしくなって目をそむけた僕に、クスクス笑い出した彼女。
思いのほか彼女の笑いは長く続いた。
そんなに笑わなくても・・・。
そう思って彼女を見ると、彼女はこっちを見ながら本当に楽しそうに笑っている。
そんな彼女を見ているうち、僕もつられて可笑しくなった。
「なんか、おかしい。」
彼女が笑いながら言った。

雨は少し弱くなっていた。

「雨も悪くないですね。」
彼女は両肘を付いてコーヒーカップを持ったまま、窓の外を眺めて、そう言って微笑んだ。

外はまだ雨。でも、さっきとは違う景色に見えた。
確かに雨も悪くない。そう思えた。

雨は嫌いだ

お読みいただいてありがとうございました。
普段好きではないものの見方が変わる。そんなキッカケになれば幸いです。

雨は嫌いだ

ちょっとしたこと。そんな日常のひとこま。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-04-11

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